เข้าสู่ระบบ「香月、俺は違う部屋に行くけど近くに居るから。それに香月の傍にはご両親が居る。大丈夫だからな」 「うん、奏斗。……奏斗も嫌な事を思い出すでしょう?無理しないでね」 「俺は大丈夫。また後でな、香月」 奏斗は私に軽く手を振り、私の両親に向かって軽く頭を下げると男性刑事と一緒に部屋を出て行った。 部屋に残った私たちに、女性刑事さんが話しかける。 「では、移動しましょう。こちらへどうぞ」 「分かりました」 お父さんが女性刑事さんに返事をし、前を歩いてくれる。 私の隣はお母さんが居てくれて。 私を気遣いながら一緒に別室に移動した。 ある部屋の前で止まった女性刑事さんは、私たちに振り返ると説明してくれた。 「この部屋の中に入ると、犯人がガラスの向こうに居ます。机に座り、背中を向けているのは別の刑事です。正面を向いていて、こちら側に顔が見えているのが犯人です。見覚えがありましたら教えてください」 「分かりました」 女性刑事さんの説明に、私が頷くと扉を開けて部屋の中が見えた。 説明通り、部屋の奥にはガラスの壁があって。 向こう側には3人が居た。 向こう側からはマジックミラーになっていて私たちが見えていないのは本当のよう。 私たちが部屋に入ってきても、正面を向いている犯人の様子に、変わった所は無かった。 反応も、何もない。 痩せこけた、貧相な男性──。 犯人の第一印象は、それだった。 前に居たお父さんも私と同じような感想を持ったのかもしれない。 「あんなやつが」と呟いているのが分かる。 「四ノ宮さん、お辛いとは思いますが……犯人に見覚えはありますか?」 女性刑事さんに言われて、私は犯人の顔をじっと見つめる。 無精髭が生えて、髪の毛は艶がなくてボサボサ。 目も窪んでいて──。 失礼な話だけど、もし外でこんな外見の男性を見ていたら、悪い意味で印象に残るはず。 だけど、やっぱりどれだけ考えても私の頭の中にはこの男性に見覚えはなかった。 だから、私は女性刑事さんに顔を向けて首を横に振る。 「ごめんなさい、やっぱり面識のない人です。こんな人とどこかで出会っていたら、覚えていると思います……」 私の言いたい事を察してくれたのだろう。 女性刑事さんは苦笑いを浮かべつつ「そうですよね……」と言葉を濁した。 「ご協力ありがとうござい
「あの……別件ではあるんですが。私は先日被害届を提出しています。恐らく、今回の事件と関連性があるんじゃないかって思っています。……私が提出した被害届を確認いただけますか?」 「──え?」 「名前は瀬見 奏斗です。身分証が必要でしたら、提出します」 奏斗の言葉に驚いた女性刑事さんは、慌てて立ち上がると「ちょっとお待ちください!」と言い、バタバタと部屋を出て行った。 部屋に残された私たち、お父さんとお母さんはぎょっとした顔で奏斗に目を向ける。 「奏斗くん、君も何か危ない目に遭っていたのか!?」 「どうして早く言ってくれなかったの!?被害届って……実際被害を受けたんでしょう!?」 私の両親が心配そうに奏斗に言う。 私のお父さんとお母さんは、奏斗のご両親に奏斗を頼まれているのだ。 私たちはもう既に成人している。 だけど、警察沙汰になっているなら教えて欲しかった──。 両親の心配そうな顔を見て、奏斗は申し訳なさそうに頭を下げた。 「事後報告になってすみません。今、事務所と話し合いをしていて……。加害者も芸能人なので、すぐにご報告するのが難しかったんです」 そこで一旦言葉を切った奏斗は、悔しそうに俯いた。 「だけど、俺のせいで香月が巻き込まれた可能性が高いです……。こんな事になる前に、ご両親に報告していれば良かったです。香月を守れず、本当に申し訳ございません」 深々と頭を下げる奏斗に、お父さんもお母さんも目を白黒させている。 確かに、急にこんな風に謝罪されて混乱するだろう。 「奏斗が謝る必要は無いよ。奏斗は1人で出歩いちゃ駄目ってあれだけ言ってくれていたのに……。油断した私が勝手に外に出たんだもの……。お父さんもお母さんも奏斗を責めないで……」 「ちょ、ちょっと待ってくれ……一体、何がなに
犯人が目を覚ました──。 その言葉に、私の体はびくりと震えてしまった。 その瞬間、隣に座っていた奏斗がすかさず私の手を力強く握ってくれる。 「香月、大丈夫か……?」 「う、うん──」 震える私を気遣うように女性刑事が私に近付いて来て、膝を床に着き、目線を合わせてくれると優しく話しかけてくれた。 「四ノ宮さん。犯人は現行犯逮捕されているので、面通しの必要はあまりないのですが……。もう1度落ち着いた状態で犯人の顔を確認していただきたいのです。どうして四ノ宮さんを狙ったのか……動悸を知りたいんです」 「動、悸……ですか?」 「ええ。誰でもいいから女性を狙った犯人なのか……。それとも、四ノ宮さんに何かしらの目的があって……四ノ宮さんを襲ったのか……捜査する上で、その確認が必要なんです」 申し訳なさそうに説明してくれる女性刑事さん。 その言葉に、お父さんが苦々しい顔をした。 「娘に……自分を襲ったやつの顔をまた確認させなきゃならないんですか……」 「お父様の仰る事は、尤もです。……もしお辛いようでしたら、必ずではないので……」 お父さんの言葉に、女性刑事さんが両手を胸の前に掲げ、そう言ってくれる。 だけど、私は犯人が口走っていた事が気になっていて。 「──いえ、大丈夫です。顔、見ます……。何故か犯人は、私の就活の事を口にしてたんです……」 「え、就活、ですか?」 私の言葉に、女性刑事さんは驚いたように目を見開いた。 「と、言う事はもしかしたら犯人は四ノ宮さんの事を一方的にストーカーしていたかもしれませんね。犯人は勤め人なので、四ノ宮さんの大学に在学している人物ではありません」 「そう、なんですか……?その……何か襲って来る時に私の就活なんてどうとでも出来る、って……。それに、その……」 私はちらり、と奏斗を見る。 犯人が口走っていたのは私の就活の事だけではない。 RikOの事も、口走っていたのだ。 その事を私は奏斗に伝えていた。 そして、奏斗からは話しても良い、と言われていたのだ。 私が奏斗を見ると、奏斗も私を真っ直ぐ見返してくれて。 頷いた。 話しても良い、大丈夫、と言う合図だ。 私は女性刑事さんを見て、口を開いた。 「──犯人は、芸能人のRikOの名前を口にしていました。……それに、私を捕まえてどこかに連れて行
◇ 「香月!」 「無事か……!?」 あれから、時間が経った。 奏斗は私のお父さんとお母さんに連絡をしてくれて。 電話連絡を受けたお父さんとお母さんは慌てて私の所に駆け付けてくれた。 「奏斗が駆け付けてくれたお陰で、私は大丈夫だよ」 「だが、まだ顔色が悪い」 「警察とは話が済んだの?」 お父さんとお母さんが私の顔を見て、苦しそうに表情を歪めた。 私の隣には奏斗が一緒に着いてくれていて。 震える私の手を、ずっと奏斗が握ってくれていた。 お父さんとお母さんの質問に、奏斗が答える。 「おじさん、おばさん。犯人はまだ気絶したままで……。詳しい事情はまだ……。俺や香月の調書は終わっています」 淀みなくしっかりと答えてくれる奏斗。 奏斗に向き直ったお父さんは、奏斗の目の前に移動して両手で奏斗の肩を掴んだ。 「ありがとう、奏斗くん。君が香月を助けてくれなかったら……香月は……。本当に感謝している」 「ありがとうね、奏斗くん。いつも香月を心配してくれて、気を配ってくれているから香月もこうやって無事だったわ」 お父さんとお母さんにお礼を言われた奏斗は、気まずそうに。悔しそうに唇を噛み締めた。 「いえ、俺は感謝されるような事なんて──。香月に怖い思いをさせた事は確かです。本当にすみませんでした」 奏斗は、私の両親に向かって頭を下げる。 そんな奏斗を見て、私は慌てて口を開いた。 「奏斗が謝る必要なんて無いよ!奏斗は私にちゃんと忠告してくれてたじゃない……!それなのに、私が甘かったの。すぐ近くのコンビニだからって油断して……」 「だが、俺が常に香月の傍についていればこんな事にはならなかった。そもそも、俺がRikOに騙されなければこんな事に香月を巻き込まないで済んだんだ。俺の対応の甘さが、香月を危険に晒した──」 奏斗の悔やむような言葉。 その言葉を聞いたお父さんとお母さんが、眉を寄せて怪訝そうに顔を見合わせた。 「──RikOって……。奏斗くんが少し前に記事にされていた?」 「確か、同じ事務所のアイドルの子なのよね……?」 こんな風に、大事になってしまった以上。 お父さんとお母さんにも事情を説明しないといけないかもしれない。 いくら私や奏斗が成人しているとは言え、私はまだ実家に暮らしている。 親の庇護下である事には変わりないの
◇ 「ふざけるな!香月に何してるんだ、お前!!」 私の目の前から男性が消えた次の瞬間、聞き慣れた奏斗の怒声が響く。 「香月、大丈夫か!?」 「か、奏斗……?」 「ああ、俺だよ。どこも怪我していない?無事?」 「うん、大丈夫──」 奏斗は私に駆け寄ると、膝をついて私を助け起こしてくれる。 奏斗の顔を見た瞬間、私は一気に恐怖が襲ってきて。 ガタガタ、と体が震え始めてしまった。 「──香月、大丈夫。俺がいるからもう大丈夫だ」 「ご、ごめん奏斗……っ、私っ、奏斗が外に出たら駄目って言ってたのにっ」 「香月が悪いんじゃない。こんな事をする奴が悪いんだ」 奏斗は、震える私をぎゅっと抱きしめてくれると、安心させるように背中を何度も優しく叩いてくれる。 私は、安心できる奏斗の腕の中でガタガタと震えながら必死に奏斗の胸元にしがみついていた。 「あ、あの人……大丈夫?逃げたり、してない……?」 「ああ。気を失ってるみたいだから大丈夫。……香月、警察に連絡するよ?いいね?」 はっきりとした口調で、私にそう言う奏斗。 こんな事になった以上、警察に通報するのは当然の事だ。 私は、奏斗の言葉に深く頷いた。 ◇ 奏斗が警察に通報して、まもなく。 10分足らずで到着した警察は、気を失っている男性を現行犯逮捕した。 人通りの少ない路地とは言え、ここは住宅街だ。 警察やパトカーが到着すると、近所に住んでいる人達は何だ、と家を出て来たけど。 私や奏斗の顔を見ると、事情を察してくれて。 写真を撮ったりする人は居なかった。 私も、奏斗も。 子供の頃からこの付近に住んでいるから。 だから、ここに住んでいる人達の中では奏斗がアイドルをやっている事も周知の事実。 事件が起きたから、と言って。 子供の頃から顔馴染みのある私たちの姿を写真に納めようなんて人は居なかった。 むしろ、私が被害者だと知り、心配して声をかけてくれる近所の人もいる。 私たち2人を、近所の人が心配して話しかけてくれている中。 犯人をパトカーに乗せ終えた警察が、私たちの所に歩いて来た。 「婦女暴行未遂事件として、現行犯逮捕しました。事情をお伺いしたいので、署までご同行願えますか?」 「分かりました……。その、両親に連絡を入れてもいいですか?仕事で、まだ帰宅していないんです」
掴まれた腕を辿り、私が背後を振り向くと。 私の腕を掴んでいた人物が視界に入る。 見た事も無い、見知らぬ男性──。 細くて、ひょろりとしていて。眼鏡をしている男性──。 その男性は、にちゃりと笑うと意味の分からない言葉を呟き始めた。 「──やった、やったぞ……。この子を捕まえた……。これで僕はRikOと……っ!それに、この子も好きにしていいってRikOは言ったんだ!ほ、本当は連れていかなきゃいけないけど、だ、だけどっ、少しくらいっ!」 「ひっ、嫌っ、近付いて来ないでっ!!」 気持ち悪くて気持ち悪くて、男性に掴まれている腕をめちゃくちゃに振り回す。 細くてひょろりとしているけど、いくら私が腕をめちゃくちゃに振っても男性は手を離してくれない。 がむしゃらに腕を動かしていたからか。 私の手が、男性がかけている眼鏡に当たり、男性の顔から眼鏡が吹き飛んだ。 「──いっ」 「ぁっ」 ガシャン、と地面に眼鏡が落ちて割れる音が響く。 それまで意味の分からない事を呟いていた男性は、途端に静かになり眼鏡が落ちた地面を数秒見つめていた。 だけど、がばり、と勢い良く私に振り向いた男性の目は血走っていて。 怒りを覚えているのか、顔を真っ赤にして詰め寄ってきた。 「おっ、おおおお前!僕が優しくしてたら調子に乗りやがって!お、お前の就活なんて、僕がいくらでもどうとでも出来るんだぞ──っ!!」 「なっ、何を──」 就活!? どうしていきなりこんな事を──。 男性の意味の分からない言葉に動揺してしまった私は、一瞬反応に遅れてしまった。 男性は私に向かって両手を突き出し、突進してきたのだ。 その突進から逃げる事が一瞬遅れてしまい、私は男性によってそのまま地面に押し倒されてしまった。 「──いっ!」 「ぼ、ぼ僕がRikOとスる前にっ、お、お前で練習を──っ」 「──ひっ」 意味が分からないながらも、身の危険を感じて。 男性の顔を思いっきり殴ってしまおう、と思った瞬間。 私の上に乗っていた男性が、一瞬で姿を消した──。 ◇ 「今日はお疲れ様、Kanato。ゆっくり休んでくれ」 「うん、分かった」 歌番組の収録が終わり、マネージャーに家まで送ってもらった俺は、車から降りて自分の家を見上げる。 俺を送り届けたマネージャーの車が視界から消える







