ログイン小さな頃から大好きだったお隣さんの【瀬見 奏斗(せみ かなと)】 彼は、幼い頃から可愛らしく、成長するにつれて精悍な顔つきに変わり、格好よくなった。 そんな奏斗が芸能界に見出され、アイドルとしてデビューする。 私が、奏斗に何度好きだと告白しても、笑って本気にしてくれない。 だけど、奏斗を嫌いにもなれない。 他の人を好きになろう、とした事もあるけど、やっぱり奏斗の事が大好きで、私は諦める事を諦めた。 私──【四ノ宮 香月(しのみや かつき)】は、奏斗、いえ、アイドルのKanatoの1番のファンであり続け、一生応援する! 芸能界は、様々な誘惑があって、奏斗が様々なスキャンダルに巻き込まれたとしても。 誰かと熱愛報道が流れたとしても。 私は、奏斗のファンでい続けるんだ。
もっと見る煌びやかな世界の向こう。
沢山のフラッシュに囲まれて【彼】はそこにいる。 見慣れた、嬉しそうな笑顔。 笑うと少しだけ見える八重歯。 まるで黒曜石のように光に反射するさらさらの黒髪。 ふ、と視線を上げた【彼】と目が合う。 「今日は、このような素晴らしい賞をいただき、夢のようです」 重低音の、バリトンボイスが鼓膜を震わせる。 色気を含んだ、心地良い声。 その声が、スピーカーを介して紡がれた。 「応援して下さっているファンの皆様に感謝を。そして、これからもよろしくお願いします」 はにかむような笑みが《画面》いっぱいに映し出される。 そう──。 私、四ノ宮香月(しのみや かつき)は家のリビングのテレビに齧り付き、モニター越しに笑う、今国内で1番人気のアイドルグループの授賞式を見ていた。 私が大好きな奏斗(かなと)──Kanatoは、画面の向こうにいる自分達のファンに向かって、にこやかに手を振っていた。 「奏斗くん、帰ってくるの明日だって?」 背後で、お母さんの声が聞こえた。 私は振り返らずに「うん」と頷く。 「色んなインタビュー受けて忙しいでしょうに…体壊しちゃわないかしらね」 「最近はマネージャーさんにしっかり健康管理をしてもらってるから、大丈夫みたい」 「あら。敏腕マネージャーね。美人だし、仕事もできるし、いい人にマネージャーをしてもらっているのね。良かったわ」 「……うん」 敏腕マネージャー。 いつも奏斗の近くにいる、とても美人な人。 何度か、奏斗とそのマネージャーの間に何かあるのでは、とネットで噂になった事がある。 奏斗も、マネージャーも、ただの仕事仲間だと発表していたし、事務所も2人の関係を否定していた。 だけど、私は1度見てしまった事がある。 深夜、奏斗がマネージャーの運転する車で送ってもらった時。 車を降りた奏斗を追って、マネージャーが奏斗の腕を掴んだ。 そして、マネージャーが奏斗にキスしている姿を。 「……私の告白なんて、いつも流すくせに」 「え?香月、何か言った?」 「ううん。何でもないよ」 私は、お母さんに笑って答える。 奏斗──国民的アイドルグループに所属するKanatoは、私の幼馴染だ。 お隣さんで、引っ越してきた時期も同時期。 最初は引っ込み思案で、人見知りが激しかった奏斗と一緒に遊ぶようになったのは。 奏斗が私に笑ってくれるようになったのは、いったいどれくらいからだろうか。 小学校も、中学校も、高校も。 全部一緒だった。 何をするのも、どこに行くのも私と奏斗は一緒だった。 だけど、高校卒業間近。 奏斗は芸能界にスカウトされた。 最初は読者モデルから。 そして、人気が出て、タレントとして歌番組に出た時。 奏斗の歌の上手さが知れ渡った。 それから、あれよあれよとあっという間に奏斗はアイドルとしてデビューする事が決まってしまった。 元々、知名度も人気もあった奏斗がアイドルとして成功するのも、当たり前のようだった。 瞬く間に人気が出て、グループの実質的なリーダー、センターになった奏斗は、私の幼馴染から、遠い存在に変わってしまった。 「こんなに近いのに、手が届かない」 私が伸ばした手は、カツン、と無機質な液晶に当たってしまう。 冷たい感触。 寂しくて、恋しくて。 私は自分の膝に顔を伏せて、テレビから流れる奏斗の歌声をずっと聞いていた。「──ん、んん?」 奏斗の眉が、不快そうにぴくりと跳ねる。 寝ていた奏斗が、着信音で起きてしまいそうで。 可哀想だけど、事務所からの連絡かもしれない。 私は奏斗を起こす事にした。 「奏斗、奏斗。起きて?電話鳴ってるよ」 「ああ……香月、スマホ取って……」 「それなら腕の力抜いてくれないと、テーブルの上に奏斗のスマホがあるから取れないよ?」 「んん、分かった……」 まだ寝惚けているんだろう。 奏斗はふにゃりとした口調で答えた後、私を抱きしめていた腕の力を緩めてくれた。 私がその隙にソファから起き上がり、テーブルにある奏斗のスマホを取る。 すると、そこには「社長」の文字が。 「奏斗、社長さんからみたい。早く出た方がいいよ」 「ん、分かった……スマホちょうだい、香月」 まだ完全に覚醒しきっていないのだろう。 奏斗はソファに横になったまま、私に手を差し出している。 「はい、スマホ落とさないでね」 「ん、ありがと」 私は奏斗の手のひらにスマホを乗せ、このまま朝食の準備でも、とその場を離れようとしたのだけど──。 ソファに横になっていた奏斗が、私の腕を掴んで強い力で引き寄せる。 「──うっ、わ!」 「はい、もしもし」 奏斗に引き寄せられるのと、奏斗が電話に出るのは同時で。 私は慌てて自分の口を手のひらで覆い、声が出ないように気を付ける。 奏斗は私を自分の体の上に乗せたまま、なんて事ないように電話対応を始めてしまった。 最初は普通に話していた奏斗の声が、冷たく、低くなる。 「──それ、本気で行っているんですか、社長?」 ぐっ、と奏斗の声が冷たくなり、私はびくりと体を震わせた。 そんな私を気遣うように、奏斗が「ごめん」と言うようにジェスチャーをして、優しく私の頭を撫でてくれる。 「こっちは日常生活にも支障をきたしているんです。今、俺がどこで寝ているか分かりますか?ソファです。ベッドでなんか、気持ち悪くて眠れない」 その後も、奏斗は社長と話を続けていて。 「──分かりました。家で待ってます」 最後にそう告げるなり、不機嫌な様子を隠す事なく、電話を切った。 奏斗が怒っているような気がして。 私は奏斗の頬をそっと撫でた。 「どうしたの、奏斗……?何か、良くない事が……?」 ぐっと眉を寄せた奏斗が、私に答える。
「犯罪……っ」 奏斗の言葉に、私は体が強ばってしまう。 だけど、確かに奏斗の言う通りだ。 他人に薬を盛り、既成事実を作ろうとしたのかもしれない。 今回は運良く未遂で済んだけど、奏斗が薬を盛られた事は事実。 大事には至らなかったけど、もし取り返しのつかない事になっていたら。 「──絶対に、許せないよ……っ、こんな酷い事は、許されちゃならないよ、奏斗」 何とか声を振り絞る。 怒りで、体が震えてくるなんて経験、初めてだ。 握りしめた拳が、ぶるぶると震える。 すると、私の手に大きな奏斗の手が優しく重なった。 「ああ。俺も許せないし、許しちゃいけない。だからこそ、病院で検査をしてもらって、警察にも被害届を出した。……明日、事務所に報告するつもりだ」 「うん、うん……その方が良いよ」 私がこくこくと頷くと、奏斗は少し迷ったような素振りをしたけど、私としっかり目を合わせたまま、続けた。 「──それで、その話の流れで……俺が今香月と付き合っている事も、事務所に報告する事になる」 「──えっ!?」 「RikOが、ストーカーに写真を撮られたって言ってた。その時に見せられたのが、この間香月と遠出した時の写真で……。香月の写真も、撮られてた」 「わ、私も……!?」 まさか、私まで写真に撮られていたなんて知らず、ぎょっとしてしまう。 一体、どんな理由で写真を撮られたのか──。 だけど、以前奏斗にRikOとの熱愛が出た時の経緯を聞いた感じだと、あまり良い理由で写真を撮られていないような気がする。 私が不安そうにしたのが奏斗にも伝わったのだろう。 奏斗は少しだけ気まずそうに、だけどはっきりと告げた。
話を聞き終えた私たちは、その日は奏斗の部屋に行かずにリビングのソファで眠る事にした。 奏斗がベッドで眠る事を拒否したのだ。 嫌な事を思い出すから、と辛い表情で気持ちを吐露した奏斗に、私は苦しくなってしまった。 奏斗にトラウマを植え付けたRikOが許せない。 本当に相手の事が好きだったら、こんな酷い事は出来ないはず。 薬という卑怯な手を使って、無理矢理体だけでも手に入れようとする人の気持ちが分からない。 「香月、狭いし体しんどいよな?ごめん……」 奏斗に話しかけられてはっとする。 そうだ、今は2人で狭いソファに横になっている。 薄暗い部屋の中、奏斗が申し訳なさそうに眉を下げているのが見えて、私はすぐに首を横に振って答えた。 「ううん、大丈夫だよ。むしろ奏斗こそ狭くない?大丈夫?」 「俺は平気」 「ちゃんと毛布かかってる?寒くない?」 「ははっ、平気だよ。香月温かいから、こうして抱きしめていれば風邪なんかひかなさそう」 「も、もう……!寒かったらちゃんと言ってよ?上から掛布団持ってくるから」 私がそう言うと、奏斗は縋るように私の背中に腕を回して体を擦り寄せて来た。 「大丈夫だから、俺から離れないで欲しい……」 ぽつり、と落ちた奏斗の苦しそうな声。 「──分かった。どこにも行かないよ」 「うん、ありがとう香月」 そう呟いた奏斗が、目を瞑るのが見えた。 私はゆっくりと奏斗の頭を撫でる。 奏斗が安心して眠れるように、嫌な事を思い出さないように、そう願って何度も何度も奏斗の頭を撫でていると、奏斗が気持ちよさそうに表情を緩めた。 そして、暫くして奏斗の規則正しい寝
ことん、とリビングのテーブルにカップを置いた奏斗が、私に顔を向ける。 奏斗の表情は、とても真剣で。 私も奏斗に倣い、カップをテーブルに置いて話を聞く体勢になった。 「香月、話しておかなきゃいけない事があって」 「──うん」 私が返事をすると、奏斗はどこから説明しようか、と苦笑い混じりに笑った。 「RikOの電話を受けて、俺がRikOの所に行っただろう?」 「うん。RikOは大丈夫だったの?」 私がそう聞くと、途端に奏斗の表情が険しくなった。 不快感を顕にした、奏斗の顔。 どうしてそんな顔をするのか──。私がそう疑問に思った瞬間、奏斗がとんでもない事を口にした。 「RikOに、嵌められた。あんな電話……、全くの嘘だった」 「えっ!?ちょ、ちょっと待って?一体どう言う事!?」 嵌められたって? それに、嘘だったって──。 私が戸惑っていると、奏斗はポケットからある物を取り出した。 それは、紙のように見えて。 「これ、病院で出た検査結果」 「あ、確か奏斗病院に行くって言ってたよね。何の検査結果?」 私がその紙を奏斗と一緒に覗き込むと、奏斗がある数値にトン、と指を置いた。 「ここ、数値が上がってるだろ?……これ、睡眠薬の成分だって。俺の体から、過剰摂取した時のような数値が検出された」 「──は……?」 奏斗の言葉を聞いた私は、頭の中が一瞬真っ白になってしまう。 待って……。 睡眠薬って──。 奏斗は、忌々しいと言う表情を隠しもせずに、続けた。 「多分、RikOの話を聞く時に出された飲み物に一服盛られた。突然意識がなくなって……」 奏斗は、そう説明しつつ自分の腕をぎゅっと抑えた。 「次に目が覚めたら、下着だけ履いている状態で、RikOのベッドに居た」 「──っ」 「目が覚めた時、異常な頭痛を感じて。だから、すぐに何か薬を盛られたんだって分かった。意識が飛んで、いきなり下着姿でベッドに入っているなんて……いくら何でも不自然だ」 「だ、大丈夫なの……?今はもう、頭痛は大丈夫なの奏斗?それに、そんなに薬を飲まされてたら、体調だって……」 私は泣きそうになりながら、奏斗の手を握る。 酷い──。 無理やり奏斗に薬を飲ませて、そんな事をするなんて。 もし、薬の量が多かったらもっと大変な事になっていたかもしれないのに