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第2話

Penulis: ちょうどいい
「待ってください」

母が扉に手をかけたらしい。その直後、水野悠馬(みずの ゆうま)が制止する声と、母が小さく息をのむ音が聞こえた。

悠馬は、幼いころから一緒に育った私の幼なじみだった。大きくなったら同じ大学へ進もうと、2人で約束していた。

冷凍室の前から、悠馬の低く険しい声が聞こえた。

「麗奈は昔から負けず嫌いなんです。今は何を言っても、聞く耳を持たないと思います」

悠馬はそう言うと、冷凍室へ向かって呼びかけた。

「麗奈、悔しいのは分かる。でも、安奈は何も悪くない。安奈をお前の人生の犠牲にしていいわけがないだろ。今回だけは我慢しよう」

返事をしたくても、もう声は出なかった。指1本、動かすこともできない。

私は扉をたたこうと片手を上げた姿勢のまま、凍りついていた。

額から流れた血がまぶたにこびりついていた。さっきまで温かかった血も、頬の上ですでに凍っていた。

それでも、扉の隙間から差し込む細い光を見つめ続けた。

朦朧とする意識の中で、私は自分にしか聞こえない声で願い続けた。

お母さん、お願い。扉を開けて。

あと少し……

あと少しだけ開けば、助かる。

けれど、光は消え、扉が再び閉じられた。

外で、悠馬が息をつくのが聞こえた。

「麗奈、安心して。安奈の受験が無事に終わったら、俺からも麗奈のご両親に話すよ。1年浪人して、来年また受験すればいい。そうすれば、俺と同じ大学を目指せる」

足音が遠ざかっていった。

みんな、行ってしまった。

冷凍室には、何の音も残らなかった。

扉をたたこうとした姿勢のまま、私の呼吸はそこで止まった。

お母さん。

本当に、あと少しだったのに。

もう少しだけ扉を開けてくれていたら、私がもう動けなくなっていることに気づいてくれたのに。

……

気づけば、私は凍りついた体を離れ、宙を漂う魂になっていた。

両親と悠馬が安奈を囲み、車へ乗り込んでいく姿が見えた。

冷凍室には、扉をたたこうと手を上げたまま凍りついた私の体だけが、取り残されていた。

母は安奈の髪を整え、父はカーナビで受験会場までのルートを確認していた。悠馬は、安奈の受験票に不備がないか確かめている。

みんな、どこかほっとしたように笑っていた。

冷凍室には、凍りついた私の体だけが取り残されていた。

お父さん、お母さん。

安奈が死ぬという予言は、あれほど恐れていたのに。

私は?

冷凍室に閉じ込められた私は、死なないとでも思っていたの?

私の魂は安奈たちのあとを追い、受験会場へ向かった。

受験生たちが黙々と解答用紙に向かうなか、安奈だけは落ち着かない様子で、何度も時計を見ていた。

初日の日程を終え、宿泊先の都内のホテルへ戻るなり、安奈は家へ帰ろうと両親に訴えた。

「やっぱり麗奈が心配なの。昨日の夜もほとんど食べていなかったし、今朝は何も食べてない。一度家に戻って、様子を見ようよ!」

母は眉をひそめた。

「様子を見るって、何を?1日くらい食べなくたって平気よ。それより、今はあなたの受験のほうが大事でしょう」

安奈は母の服をつかみ、必死に訴えた。だが、母はその頬を平手で打った。

母自身も目を赤くし、声を詰まらせていた。

「安奈、今は受験のことだけ考えなさい。麗奈だって、あなたのために受験を諦めているのよ。その気持ちを無駄にするつもり?」

安奈は唇を強くかみしめた。

すると母は、少しだけ口調を和らげた。

「あなたはここで休んでいなさい。お母さんが家へ戻って、あなたがいつも使っている枕を取ってくるから。そのついでに、麗奈の様子も見てくるわ」

安奈はようやく、ほっと息をついた。

母はすぐに家へ戻った。

安奈の部屋から枕を取ると、庭にある冷凍室の前まで来た。

「麗奈、怒っているのは分かってる。でも、こうするしかなかったの。安奈を、占い師の言ったような目に遭わせないためなのよ。

もう少しだけ我慢して。安奈の受験が終わったら、家族みんなで旅行でも行こう。麗奈がずっと欲しがっていたフィギュアも買ってあげる。ね?」

中から返事はなかった。

母の表情が険しくなった。

「麗奈」

母は声を低くして続けた。

「麗奈、いつまで意地を張るつもり?自分の受験のことばかり考えて、安奈が死んでもいいっていうの?どうしてそんなひどいことができるの!」

そう言いながら、母は返事を促すように扉を何度も強くたたいた。

やがて、その手が止まった。

母は眉をひそめ、独り言のようにつぶやいた。

「どうして、こんなに冷たいの?」

そのままハンドルに手をかけ、ゆっくりと回した。

扉が再びわずかに開き、その隙間から制服の裾がのぞいた。

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