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大学受験の日、冷凍室に閉じ込められた私は死んだ

大学受験の日、冷凍室に閉じ込められた私は死んだ

By:  ちょうどいいCompleted
Language: Japanese
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双子の姉、高梨安奈(たかなし あんな)と、妹の私、高梨麗奈(たかなし れいな)が生まれたとき、両親はわざわざ占い師を呼び、私たちの運勢を見てもらった。 占い師は、私が安奈より優秀な子に育てば、安奈が重度のうつ病を患うと告げた。さらには、私が安奈を上回る成績で大学受験を終え、その結果が出たあと、安奈は学校の屋上から飛び降りて命を絶つと占った。 その占いを信じ込んだ両親は、「安奈を守るため」という名目で、18年間、何かにつけて私を押さえつけ、我慢を強いてきた。 私たちは、郊外にある庭付きの一戸建てで暮らしていた。 両親は以前レストランを営んでおり、店を畳んだあと、数人が入れるほどの業務用冷凍室を庭の一角へ移設していた。道路に面した門扉から敷地へ入れば、すぐ目に入る場所だった。 その冷凍室は、私が幼い頃からそこにあった。両親は私が言うことを聞かなかったり、安奈より目立つようなことをしたりするたび、罰として私を中へ閉じ込めた。 そして大学受験当日、両親はとうとう私の受験票まで取り上げた。 私はその場にひざまずき、受験票を返してほしいと、額をタイルの床へ打ちつけるほど必死に頭を下げた。 それでも父は私を冷凍室まで引きずっていき、中へ蹴り込むと、外から扉を固く閉ざした。 「お前が受験すれば安奈が死ぬと分かっていて、それでも受験するつもりなのか。安奈を死なせたいのか!」 冷凍室の中は、マイナス30度まで冷え込んでいた。 私は制服のシャツ1枚しか着ていなかった。 扉を必死にたたき、叫んだ。 「お母さん、中は寒い。お願い、ここから出して!」 「いちいち騒がないで!」 母の甲高い声が返ってきた。 「冷凍室なんて動いてないわ!安奈は、大学受験さえ無事に終えれば、あなたのせいで命を絶つという予言から逃れられるの。あと少しなのに、まだ自分のことしか考えられないの?」 足音が遠ざかっていった。 床に打ちつけた額の傷から、血が流れ続けていた。制服に滴った血は、たちまち冷たく固まっていった。 私は冷凍室の扉のすぐ近い隅にうずくまった。 冷気が体の奥まで染み込み、全身が少しずつこわばっていった。 手足の感覚は薄れ、動かそうとしても思うように力が入らなかった。

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Chapter 1

第1話

双子の姉、高梨安奈(たかなし あんな)と、妹の私、高梨麗奈(たかなし れいな)が生まれたとき、両親はわざわざ占い師を呼び、私たちの運勢を見てもらった。

占い師は、私が安奈より優秀な子に育てば、安奈が重度のうつ病を患うと告げた。さらには、私が安奈を上回る成績で大学受験を終え、その結果が出たあと、安奈は学校の屋上から飛び降りて命を絶つと占った。

その占いを信じ込んだ両親は、「安奈を守るため」という名目で、18年間、何かにつけて私を押さえつけ、我慢を強いてきた。

私たちは、郊外にある庭付きの一戸建てで暮らしていた。

両親は以前レストランを営んでおり、店を畳んだあと、数人が入れるほどの業務用冷凍室を庭の一角へ移設していた。道路に面した門扉から敷地へ入れば、すぐ目に入る場所だった。

その冷凍室は、私が幼い頃からそこにあった。両親は私が言うことを聞かなかったり、安奈より目立つようなことをしたりするたび、罰として私を中へ閉じ込めた。

そして大学受験当日、両親はとうとう私の受験票まで取り上げた。

私はその場にひざまずき、受験票を返してほしいと、額をタイルの床へ打ちつけるほど必死に頭を下げた。

それでも父は私を冷凍室まで引きずっていき、中へ蹴り込むと、外から扉を固く閉ざした。

「お前が受験すれば安奈が死ぬと分かっていて、それでも受験するつもりなのか。安奈を死なせたいのか!」

冷凍室の中は、マイナス30度まで冷え込んでいた。

私は制服のシャツ1枚しか着ていなかった。

扉を必死にたたき、叫んだ。

「お母さん、中は寒い。お願い、ここから出して!」

「いちいち騒がないで!」

母の甲高い声が返ってきた。

「冷凍室なんて動いてないわ!安奈は、大学受験さえ無事に終えれば、あなたのせいで命を絶つという予言から逃れられるの。あと少しなのに、まだ自分のことしか考えられないの?」

足音が遠ざかっていった。

床に打ちつけた額の傷から、血が流れ続けていた。制服に滴った血は、たちまち冷たく固まっていった。

私は冷凍室の扉のすぐ近い隅にうずくまった。

冷気が体の奥まで染み込み、全身が少しずつこわばっていった。

手足の感覚は薄れ、動かそうとしても思うように力が入らなかった。

扉の外から、安奈の声がした。

「お父さん、お母さん、麗奈をここから出してあげて!あんなに成績がいいのに、受験しないなんてもったいない……」

「黙りなさい!」

母は焦りと怒りの入り混じった声で続けた。

「こんなときまで麗奈をかばうの?あの子がテストで満点を取って、あなたに見せつけるように自慢したことを忘れたの?」

母が何のことを言っているのか、すぐに分かった。

あれは、私が10歳のときのことだった。

算数のテストで100点を取り、安奈より20点も高かった。

学校から帰るなり、私はランドセルからテスト用紙を取り出し、両親のもとへ駆け寄った。

うれしくて、早く褒めてもらいたかった。

「安奈より、私のほうがすごいでしょ!」

それを聞いた安奈の目に、涙がにじんだ。

母はその場で安奈を抱き寄せ、責めるような目で私をにらんだ。

父は駆け寄るなり私の頬を打ち、床へ倒した。

鼻血が流れ、100点のテスト用紙に赤い染みをつくった。

その晩、私は罰として電源を切った冷凍室に閉じ込められた。

けれど、冷凍室の中は冷気が残っていた。

翌朝、外へ出されたときには、手足が冷え切ってしびれ、まともに立つこともできなかった。

「麗奈は昔からそうなの。あの占いのことを知ってるくせに、わざわざ安奈の前で点数を自慢して。あのときだって、安奈を傷つけるために決まってるわ!」

母の声は、冷えきっていた。

私は冷凍室の扉にもたれたまま、首を振る力さえ残っていなかった。

違うよ、お母さん。

あのときの私は、まだ10歳だった。

ただ、お父さんとお母さんに褒めてほしかっただけ。

安奈を失うのが怖い。その気持ちは、私にも分かる。

それなのに、どうして私を敵みたいに扱うの?

私だって、お父さんとお母さんの娘なのに……

私は何度も中から冷凍室の扉をたたいた。

冷凍室の電源を切り忘れていると、みんなに伝えたかった。

「お母さん、私だってもう18歳だよ。麗奈のほうが、成績がいいからって、それだけで自分を見失ったりしないよ」

安奈が本気で私を心配していることが、その声から伝わってきた。

「あの星野という占い師が適当なことを言っただけかもしれないでしょ?そんな理由で麗奈を閉じ込めるなんて……」

父がすぐに遮った。

「もういい、安奈!お前をそんな危険にさらすわけにはいかない!」

父は冷凍室の扉へ向き直ると、今度は言い聞かせるような口調になった。

「麗奈、父さんたちは、この家族のためを思ってこうしているんだ。お前だって、自分のせいで安奈が屋上から飛び降りることになったら嫌だろう?

安奈の受験が終わるまで、おとなしく中で待っていなさい。そうすれば、すべて終わるから。な?」

もう声が出なかった。

息を吸うたび、凍るような空気が胸の奥へ入り込み、切り裂かれるように痛んだ。

残った力を振り絞り、最後に一度、冷凍室の扉を強くたたいた。

母が駆け寄ってくる足音がした。次の瞬間、扉が外から強く蹴られた。

「麗奈!いい加減にしなさい!これ以上騒いだら、ただじゃ済まないわよ!」

カチリと鍵の開く音がし、ハンドルが回った。

扉がわずかに開き、細い光が差し込んだ。

その瞬間、心臓が大きく跳ねた。

やっと、助けてもらえるの……?

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松坂 美枝
松坂 美枝
詐欺師にまんまと騙される両親ーーーー 珍しく片割れの子は良い子だった 彼氏もどきはもういい 番外編のままでいられれば良かったのに(泣)
2026-08-07 10:11:29
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第1話
双子の姉、高梨安奈(たかなし あんな)と、妹の私、高梨麗奈(たかなし れいな)が生まれたとき、両親はわざわざ占い師を呼び、私たちの運勢を見てもらった。占い師は、私が安奈より優秀な子に育てば、安奈が重度のうつ病を患うと告げた。さらには、私が安奈を上回る成績で大学受験を終え、その結果が出たあと、安奈は学校の屋上から飛び降りて命を絶つと占った。その占いを信じ込んだ両親は、「安奈を守るため」という名目で、18年間、何かにつけて私を押さえつけ、我慢を強いてきた。私たちは、郊外にある庭付きの一戸建てで暮らしていた。両親は以前レストランを営んでおり、店を畳んだあと、数人が入れるほどの業務用冷凍室を庭の一角へ移設していた。道路に面した門扉から敷地へ入れば、すぐ目に入る場所だった。その冷凍室は、私が幼い頃からそこにあった。両親は私が言うことを聞かなかったり、安奈より目立つようなことをしたりするたび、罰として私を中へ閉じ込めた。そして大学受験当日、両親はとうとう私の受験票まで取り上げた。私はその場にひざまずき、受験票を返してほしいと、額をタイルの床へ打ちつけるほど必死に頭を下げた。それでも父は私を冷凍室まで引きずっていき、中へ蹴り込むと、外から扉を固く閉ざした。「お前が受験すれば安奈が死ぬと分かっていて、それでも受験するつもりなのか。安奈を死なせたいのか!」冷凍室の中は、マイナス30度まで冷え込んでいた。私は制服のシャツ1枚しか着ていなかった。扉を必死にたたき、叫んだ。「お母さん、中は寒い。お願い、ここから出して!」「いちいち騒がないで!」母の甲高い声が返ってきた。「冷凍室なんて動いてないわ!安奈は、大学受験さえ無事に終えれば、あなたのせいで命を絶つという予言から逃れられるの。あと少しなのに、まだ自分のことしか考えられないの?」足音が遠ざかっていった。床に打ちつけた額の傷から、血が流れ続けていた。制服に滴った血は、たちまち冷たく固まっていった。私は冷凍室の扉のすぐ近い隅にうずくまった。冷気が体の奥まで染み込み、全身が少しずつこわばっていった。手足の感覚は薄れ、動かそうとしても思うように力が入らなかった。扉の外から、安奈の声がした。「お父さん、お母さん、麗奈をここから出してあげて!あんなに成績がい
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第2話
「待ってください」母が扉に手をかけたらしい。その直後、水野悠馬(みずの ゆうま)が制止する声と、母が小さく息をのむ音が聞こえた。悠馬は、幼いころから一緒に育った私の幼なじみだった。大きくなったら同じ大学へ進もうと、2人で約束していた。冷凍室の前から、悠馬の低く険しい声が聞こえた。「麗奈は昔から負けず嫌いなんです。今は何を言っても、聞く耳を持たないと思います」悠馬はそう言うと、冷凍室へ向かって呼びかけた。「麗奈、悔しいのは分かる。でも、安奈は何も悪くない。安奈をお前の人生の犠牲にしていいわけがないだろ。今回だけは我慢しよう」返事をしたくても、もう声は出なかった。指1本、動かすこともできない。私は扉をたたこうと片手を上げた姿勢のまま、凍りついていた。額から流れた血がまぶたにこびりついていた。さっきまで温かかった血も、頬の上ですでに凍っていた。それでも、扉の隙間から差し込む細い光を見つめ続けた。朦朧とする意識の中で、私は自分にしか聞こえない声で願い続けた。お母さん、お願い。扉を開けて。あと少し……あと少しだけ開けば、助かる。けれど、光は消え、扉が再び閉じられた。外で、悠馬が息をつくのが聞こえた。「麗奈、安心して。安奈の受験が無事に終わったら、俺からも麗奈のご両親に話すよ。1年浪人して、来年また受験すればいい。そうすれば、俺と同じ大学を目指せる」足音が遠ざかっていった。みんな、行ってしまった。冷凍室には、何の音も残らなかった。扉をたたこうとした姿勢のまま、私の呼吸はそこで止まった。お母さん。本当に、あと少しだったのに。もう少しだけ扉を開けてくれていたら、私がもう動けなくなっていることに気づいてくれたのに。……気づけば、私は凍りついた体を離れ、宙を漂う魂になっていた。両親と悠馬が安奈を囲み、車へ乗り込んでいく姿が見えた。冷凍室には、扉をたたこうと手を上げたまま凍りついた私の体だけが、取り残されていた。母は安奈の髪を整え、父はカーナビで受験会場までのルートを確認していた。悠馬は、安奈の受験票に不備がないか確かめている。みんな、どこかほっとしたように笑っていた。冷凍室には、凍りついた私の体だけが取り残されていた。お父さん、お母さん。安奈が死ぬという予
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第3話
そのとき、父から母のスマホに電話がかかってきた。「まだ戻らないのか?安奈が待ってるぞ」母は一瞬ためらい、冷凍室の扉のハンドルから手を離した。「麗奈のことは、安奈の受験が終わってからでいいわ」そうつぶやくと、母は冷凍室に背を向け、そのまま庭をあとにした。扉の内側では、息絶えた私の体が扉にもたれ、片手を上げて扉をたたこうとした姿勢のまま凍りついていた。魂となった私は、遠ざかっていく母の背中を見つめていた。お母さん。あと一度だけ扉を開けて、中を確かめてくれていたら……私がもう動けなくなっていたことに、気づいてくれたのに。その日の夜。私がまだ冷凍室に閉じ込められたままだと知った安奈は、すぐにメッセージを送ってきた。【麗奈、扉の内側に非常用のレバーがあるって、お母さんが言ってた。それを押せば開くから、早く出てきて!】【電源は入ってなくても、ずっと冷凍室の中にいたら具合が悪くなるよ。冷蔵庫にごはんを残してあるから、温めて食べてね】安奈は、私が冷凍室に閉じ込められるたび、体調を崩さないか気にかけてくれていた。両親に隠れて、何度も食べ物を届けてくれた。そのため安奈は、冷凍室の片隅にクマのぬいぐるみを置き、その丸いおなかの中へ、食べ物を隠してくれていた。宙に浮いたまま、私はそのクマのぬいぐるみへ目を向けた。丸いおなかが、ふっくらと膨らんでいる。また閉じ込められたときのために、安奈があらかじめ食べ物を補充してくれていたのだ。でも、ごめんね、安奈。私はもう二度と、それを口にすることができない。翌朝。目を覚ました安奈は、すぐにスマホを確認した。私から返事がないことに気づくと、慌てて母のもとへ駆け寄った。「麗奈に非常用のレバーのことを教えたのに、ずっと返事がないの。スマホを持っていないのかな?お母さん、冷凍室のカメラをスマホで見られるよね?お願い。麗奈の様子を見せて」母は眉をひそめた。「あの子のことだから、わざと返事をしないで、またあなたを心配させようとしているのよ」そういいながらも、母はスマホを取り出して、冷凍室の監視カメラのアプリを開いた。カメラには通話機能があり、スマホから冷凍室の中へ声をかけることもできた。画面に、冷凍室の中が映し出された。私はカメラに背を向けた
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第4話
お母さん。あとほんの数秒画面を見続け、映像をもう少し拡大していたら、私の胸が少しも上下していないことに、気づけたはずだったのに。本当に、あと少しだった。それだけで、私がもう死んでいると分かったのに。受験の全日程が終わった。安奈は誰よりも早く会場を飛び出した。「お父さん、お母さん、うまくできたよ。もう大丈夫。早く家に帰って、麗奈にも伝えよう!」父はうなずき、目を潤ませながら車のエンジンをかけた。「ああ、全部終わった。すぐに帰ろう。麗奈も家で2日過ごして、少しは考え直しただろう。あの子も連れて、家族みんなでお寺へお参りに行こう」助手席の母は、涙をこぼしていた。「これまでは、麗奈に少し厳しくしすぎたわ。あの子が態度を改めるなら、これからは安奈と同じように接するつもりよ」誰にも見えない魂となった私は、泣き出しそうな顔で笑った。お父さん、お母さん。私は、その言葉を18年も待っていた。でも、もう遅いよ。ほどなくして、車は自宅に着いた。安奈は車を降りるなり、門扉を抜けて母屋の玄関を開けた。キッチンの冷蔵庫を確認すると、私のために残しておいた料理が、手つかずのまま残っていた。安奈の声が震えた。「麗奈……あれから一度も出てきてないみたい」母は一瞬、言葉を失った。だが、すぐに顔を険しくすると、玄関を飛び出した。母は庭の冷凍室まで駆け寄り、扉を力任せに蹴った。「麗奈!いつまでこんなことを続けるつもり?この2日間、安奈がどんな思いでいたか分かってるの?ろくに食べられず、夜も眠れないまま、受験中だってずっとあなたのことを心配していたのよ!それなのに、今度は返事もしないで閉じこもって……いったいどこまでみんなを困らせれば気が済むの!」父も黙っていられなくなり、冷凍室の前まで来ると、怒りを抑えた声で言った。「麗奈、お父さんは本当に失望したよ。この2日間、ずっとお前を心配していた。それなのに、少しも反省していないのか?」安奈が両親を制した。その声は震えていた。「お父さん、お母さん……麗奈が理由もなく、こんなことするはずないよ。きっと何かあったんだよ!」両親の表情が、わずかにこわばった。そこへ、悠馬がやって来た。スマホを手にしたまま、冷凍室の前まで来る。「さっき、麗
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第5話
「非常用のレバーがあるって、もう教えたでしょう!それでも出てこないんだから、私たちが折れるまで意地を張るつもりなのよ!」母はそう言うと、安奈をハンドルの前から引き離した。安奈は泣き叫び、声を裏返らせた。「お母さん、麗奈はまだ中にいるんだよ!帰ったら、一緒にお参りへ行こうって言ったでしょう」だが、母は抵抗する安奈を強引に引っ張っていった。「麗奈がそこにいたいなら、好きなだけいればいいわ。いつまで意地を張れるか、見ていましょう。行くわよ!」玄関の扉が、激しい音を立てて閉まり、鍵のかかる音がした。あたりから、人の気配が消えた。私は誰にも見えないまま、宙に浮かんでいた。頬は、いつの間にか涙でぬれていた。お母さん。お母さんと真実を隔てていたのは、冷凍室の扉だけだった。本当に、あと少しだった。あと少しだけ扉を開けてくれていたら、私がもう死んでいることに気づいてくれたのに。……両親は安奈を連れ、3日間、家を空けた。向かったのは、山あいにある寺だった。安奈が18歳まで無事に成長したことへのお礼参りをし、志望大学にも合格できるよう祈願するためだった。本堂の前に立つと、父と母は賽銭を納め、安奈の無事と合格を願って、長いあいだ手を合わせていた。安奈も目を閉じ、静かに手を合わせた。けれど、安奈が願っていたのは、自分の合格ではなかった。「あの占いのせいで、麗奈は今までずっと苦しんできました。私は志望大学に合格できなくてもかまいません。これからは麗奈が何にも縛られず、穏やかに幸せに暮らせますように」安奈は、誰にも聞こえないほどの小さな声でそう祈った。お参りを終えると、安奈は麗奈のために授かったお守りを、大切そうに両手で包んだ。その瞬間、赤いひもがぷつりと切れ、お守りが足元へ落ちた。安奈は息をのみ、慌ててお守りを拾い上げた。みるみる顔から血の気が引いていく。「お父さん、お母さん、早く帰ろう。胸騒ぎがして仕方ないの。麗奈に、本当に何か起きてる気がする!」しかし、同じことを何度も聞かされた母は、いら立ちを隠そうともしなかった。「何があるっていうのよ。まだ分からないの?麗奈は、あなたに心配させて、罪悪感を抱かせたいだけなのよ。あなたが気にすればするほど、あの子の思うつぼでしょう!」そ
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第6話
冷凍室の扉が、完全に開いた。私の体は、身を丸めたまま、その場に凍りついていた。顔の半分は凍りついた血に覆われ、もう半分は細かな霜に覆われていた。右手だけは、扉をたたこうと上げたままだった。母は、その場にへたり込んだ。何度立とうとしても足に力が入らず、最後は膝をつき、床をはうようにして私の体のそばへにじり寄ってきた。私の手を取ろうと伸ばした母の指先が触れたのは、凍りついて硬くなった皮膚だった。「麗奈……どうして、こんな……」母の声は、聞いたことがないほど震えていた。「電源は入れてなかったはずなのに……麗奈……」そのとき、母の視線がゆっくりと壁の温度表示へ移った。マイナス30度。赤く光る数字は、血の色のようだった。母は息を詰まらせ、何も言えなくなった。ただ、その場にひざまずき、全身を震わせていた。父も取り乱して駆け寄り、私を助け出そうと脇に両腕を差し入れた。力任せに抱き上げようとしたが、凍りついた体はびくともしなかった。長時間冷気にさらされ、床に座り込んだ体は、制服ごと固められていた。父がさらに力を込めると、凍りついた制服がかすかに裂ける音を立てた。父は反射的に手を離した。絶望に顔をゆがめ、母を振り返る。「電源は入っていないと言っただろう?受験の日、家に戻って、麗奈の様子を見たんじゃなかったのか?監視カメラも確認したんだろう?」父の声は、問いを重ねるたびに大きくなった。「それなのに、どうして麗奈がこんな姿になってるんだ!」母は床にひざまずいたまま、唇を震わせていた。何も答えられず、必死に首を横へ振るだけだった。そのとき、母はようやく思い出した。安奈の枕を取りに帰った日、扉の隙間から流れ出していた冷気。ハンドルを回したとき、隙間からのぞいていた制服の裾。監視カメラに映っていた、冷凍室の隅で体を丸め、少しも動かなかった私。安奈が「扉が冷たい」と訴えたとき、安奈の腕をつかみ、ハンドルの前から引き離したこと。これまで見過ごしてきた場面が、母の脳裏に次々とよみがえった。どの場面でも、あと少しで気づけたのだ。「知らなかったの……」母の声は、途切れ途切れだった。「麗奈が意地を張っているだけだと思ってたの……苦しそうにしているのも、具合が悪いふりをしているだけだっ
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第7話
冷凍室から私の遺体が見つかったことは、たちまち近所に広まった。騒ぎを知った近所の誰かが、警察へ通報した。30分ほどで警察官が到着し、自宅の周囲には規制線が張られた。現場の確認が終わると、私の遺体は担架で運び出された。その後、詳しい死因を調べるため、警察による検視と医師による検案が行われた。後日、警察署で事情を聴かれていた両親に、検案の結果が示された。2人は、書面に記された内容を何度も読み返した。【氏名・高梨麗奈。死因・低体温症。死亡推定時刻・約5日前】「5日前……大学受験の初日だ」父の声は、かすれていた。その一文を見つめたまま、しばらく動かなかった。やがて、父の肩が大きく震え始めた。「あの日の朝、麗奈は俺の前にひざまずいた。額を床に打ちつけて、血を流しながら、受験票を返してくれって頼んだ。俺だ。俺が麗奈を蹴って、冷凍室へ押し込んだ。中で反省しろと言って……」隣では、母が取り乱して叫んだ。「麗奈は扉をたたいてた!寒いって叫んでいたのに、私はまた大げさに騒いでるだけだと思った!聞こえていたのに、信じなかった!」母は両手で頭を抱え、激しく首を横に振った。「ずっと扉をたたいていた!あんなに長いあいだ……あれは怒って暴れてたんじゃない。助けてって叫んでいたのよ!」警察官が母の肩に手を置き、「落ち着いてください」と声をかけた。母は激しく首を横に振り、泣き声とも笑い声ともつかない声を漏らした。「私の娘は、5日間もあの中にいたの!助けられたはずなのに、凍え死んだのよ!」叫び続けた母の声は、すっかりかれていた。最後には、息を詰まらせ、まともに声を出すことさえできなくなった。そのとき、父が突然立ち上がった。その勢いで椅子が倒れ、大きな音を立てた。「どうしてだ?あの星野って占い師は、麗奈が死ぬなんて一言も言ってなかった!」父は目を血走らせ、すっかり取り乱していた。「あの占い師は、麗奈を抑えて目立たせなければ、安奈は無事に生きられると言ったんだ。だから俺たちは、言われたとおり安奈を守ってきた。それなのに、どうして麗奈が死ぬんだ?こんなはずじゃなかった!」取調室にいた警察官は、眉をひそめて父を見た。数秒黙ったあと、資料の束から1枚の写真を取り出し、机の上へ置いた。「あなた方が話
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第8話
母は、スマホのメモに残された私の日記を上から順に読み始めた。母が最初に開いた日記には、こう書かれていた。【今日、テストの結果が出た。でも、少しもうれしくない。私のほうが安奈より点数がよかったから。家に帰るのが怖い。お母さんに成績を聞かれたら、何て答えればいいんだろう。また冷凍室に閉じ込められるかもしれない】母は震える指で画面を送り、次の日記を開いた。【やっぱり、冷凍室に閉じ込められた。お母さんに平手で何度も頬を打たれた。どうして安奈を苦しめるのって、何度も責められた。悲しい。安奈を苦しめようとしたわけじゃないのに。冷凍室は寒いし、おなかも空いた。でも、安奈がクマのぬいぐるみの中にチョコレートを入れてくれていた。甘いものを食べれば、このつらい気持ちも少しはましになるのかな】さらに読み進めると、新学期初日の記録が現れた。【新学期の初日。先生に学級委員をやらないかと言われたけれど、断った。怖くて引き受けられなかった。前にクラスの係を任されたとき、お母さんは3日間、一言も口をきいてくれなかった。私は、安奈より優秀であってはいけない。でも、どうしてだろう。ずっと言われたとおりにしてきたのに、どうしてお父さんとお母さんは、私のことも安奈と同じように愛してくれないんだろう】学年成績について書いた日記も残されていた。【安奈は学年3位で、私は1位だった。先生は、私たち2人を褒めてくれた。でも、家に帰るのが怖くて、暗くなるまで校門の近くに座っていた。家へ帰ると、お父さんにリビングで一晩中ひざまずかされた。朝には膝が腫れて、歩けなくなっていた。安奈は私を支えて学校へ連れていき、泣きながら私に「ごめんね」と謝った。でも、安奈のせいじゃないよ。次からは、私がもっと気をつけるね】そして、さらに先には、私が進学の機会を手放した日の記録があった。【学力コンテストの成績がよかったから、難関大学の特別選抜に推薦したいと言われた。でも、断った。理由は言えなかった。この機会を諦めることで、安奈が無事に生きられるなら、私はそれでいい。安奈、これからもずっと元気でいてね。いつか、お父さんとお母さんが私のことも愛してくれる日が来ますように】日記は、そのあとも続いていた。母は震える指で画面を送り、残された日記を読み続けた。震え
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第9話
私の死が分かった日から、悠馬は現実を受け入れられなくなった。しばらくして、大学受験の結果が発表された。悠馬は、第一志望の大学に合格していた。けれど、届いた合格通知を破り捨てた。毎日、私の家へ来ては、固く閉ざされた冷凍室の扉を何度もたたいた。「麗奈、開けてくれ。そこにいるんだろ?お願いだから、もう出てきてくれ。同じ大学へ行こうって約束しただろ?」彼の母親が、その背中へ泣きながら呼びかけた。「麗奈ちゃんは、もう亡くなったのよ」それでも悠馬には、聞こえていないようだった。翌日も、私の家へやって来た。今度は冷凍室の前にしゃがみ込み、スマホを取り出した。「麗奈、今すぐ麗奈のお父さんに電話して、ここから出してもらうから。怖がらなくていい。すぐに電話する。だから、待ってて」悠馬はその場で何度も電話をかけた。けれど、誰も出なかった。それでもスマホを握りしめたまま、日が暮れるまで冷凍室の前に座っていた。やがて、悠馬の両親が迎えに来て、彼を連れて帰った。悠馬は大学への進学を辞退した。その後の1年間は、ほとんど自室から出ず、私と交わした昔のメッセージを何度も読み返していた。やがて両親とともに、遠くの街へ引っ越していった。それから先、私は悠馬の姿を見ることはなかった。……私の葬儀の間、安奈は棺のそばを片時も離れなかった。誰が声をかけても動こうとせず、棺の中の私へ何度も話しかけた。「麗奈。私、ずっと考えてた。どうして、もっと優秀になれなかったんだろうって。私がもっと強くて、誰にも負けないくらい優秀だったら、あの占い師の言葉なんて誰も信じなかったのかな。お父さんとお母さんも、あんなに怖がらずに済んだのかな。私がもっといい成績を取っていたら、麗奈は死なずに済んだの?」安奈は棺に両手を置き、指が白くなるほど縁を握りしめた。「ごめんね、麗奈。私が、守れなかった……」私の魂も安奈のそばを片時も離れずにいた。涙にぬれた安奈の顔を見つめながら、その涙を拭おうと手を伸ばした。けれど、指先は安奈の体をすり抜けた。私は何度も首を横に振った。違うよ、安奈。私、ちゃんと知ってるよ。安奈が、夜遅くまで、ずっと教科書に向かってたこと。眠くて目も開けていられないのに、古文を何度も小さな声で読
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第10話
その夜、安奈は自宅の仏壇の前に座り、私の骨壺を抱いたまま、いつしか眠り込んでいた。私は、安奈の夢の中へ入った。死んでから初めて、安奈に私の姿が見えた。夢の中の私は、汚れひとつない制服を着ていた。額に傷はなく、頬に霜もついていない。生きていたころと同じ姿で、まばゆい光の中に立っていた。安奈は私を見るなり、息をのんだ。でも、次の瞬間、私に駆け寄り、確かめるように強く抱きしめた。「麗奈……」震える指で、そっと私の頬に触れる。「麗奈、ごめんね。何度も助ける機会はあったのに、私はお父さんとお母さんを止められなかった。寒かったよね。ずっと、寒かったよね」私は笑って、首を横へ振った。「安奈、もう寒くないよ。だから、もう自分を責めないで」安奈は私を抱きしめたまま、声も出せずに泣いた。「ずっと、おかしいと思ってた。それなのに、もっと強く言えなかった。お父さんとお母さんに逆らってでも、無理に扉を開ければよかった」私は、安奈の手を握った。「安奈は、十分すぎるくらい頑張ったよ。本当に。この18年間、安奈の妹に生まれたことを後悔した日は、一度もないよ。もし生まれ変わっても、また私の双子の姉になってくれる?」安奈は答える代わりに、私をいっそう強く抱きしめた。その腕の中で、夢の中の私は、ちゃんと温かかった。朝になって目を覚ました安奈の頬は、涙でぬれていた。腕の中には、私の骨壺が抱かれたままだった。窓の外には、朝の光が差していた。それからしばらくして、安奈は緑の多い霊園の、日当たりのよい場所へ私の遺骨を納めた。春になると、墓の周りには小さな花が咲いた。風が吹くたび、近くの木から花びらが墓石の上へ舞い落ちた。安奈は、墓石に刻まれた私の名前を指先でなぞった。「麗奈。私、これからはちゃんと生きるね。もし次の人生があるなら、また麗奈の双子の姉になりたい。もう一度だけ、私にやり直すチャンスをくれる?」花の間を風が通り抜けた。1枚の花びらが、安奈の手の甲へそっと舞い降りた。まるで、私からの返事のようだった。その光景を見届けると、私の魂は少しずつ軽くなっていった。……やがて、何もない空間に、一つの扉が現れた。扉の向こうには、黒い服を着た人物が立っていた。何も言わず、ただ静か
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