LOGIN〜 アイラ 〜
「おはようございます、エリス先生」ライリーがすぐに背筋を伸ばして挨拶し、私も恭しく首を傾げた。 サイモン・エリス医師は、ここノースゲート・マンハッタン病院の主任執刀医であり、病院長でもある人物だ。彼が医療関連企業を多数手掛けるエリス家の末息子であることはニューヨーク中で知られており、私たちが勤務するこの病院もその事業の一つだった。 けれど、この若き天才医師は常に目立たぬよう振る舞い、私たちにとってはまさに謎に包まれた存在だった。彼の心を読み解くことなど、誰にも不可能なのだ。女性研修医や同僚の女医たちの多くが彼に憧れを抱いていたけれど、あいにく彼は、誰の想像をも絶するほどに冷徹で恐ろしい男でもあった。 「ベネット医師」低く平坦な声が響いた。そこには何の温もりもなかったけれど、どういうわけか常に周囲を服従させる威厳に満ちていた。「院長室へ来なさい」 周囲の外科医たちが、互いに顔を見合わせた。エリス先生が雑談のために人を個室へ呼びつけることなど絶対にない。そして、彼が誰かをこれほど直接指名することも滅多になかった。彼に呼び出されたということは、何らかの違反か、極めて重大な事態が発生したことを意味している。 「はい、エリス先生」お腹の奥にかすかな緊張が走るのを感じながら、私はプロとして応答した。 返事を聞くと、彼はすぐに背を向けた——静かな威厳を漂わせたその足取りは、私が直ちに従うことを当然のように要求していた。 ライリーがさらに身を寄せ、耳元で囁いた。「緊張しなくて大丈夫よ。ナンバーツーのチャーミング王子は、あなたに対してだけは昔から甘いんだから」 彼女は悪戯っぽくウィンクしてみせた。 「やめて!」私は再び彼女を睨みつけた。 「はいはい、分かったわよ。リラックスして」彼女は両手を挙げて降参してみせた。「私は回診に行ってくるわ。幸運をね」そう囁くと、彼女は去っていった。 深く息を吸い込んで心を落ち着かせ、私は院長室へと向かった。ドアを二度叩くと、中からあの低い声が響いた。 「入れ」 足を踏み入れ、背後で静かに扉を閉めた。エリス先生はすでにデスクの奥に座り、いつもの集中した表情で薄い患者ファイルに目を通していた——一度仕事の領域に入れば、世界中の何ものも彼の気を散らすことなどできないと言わんばかりに。 「掛けなさい、ベネット医師」視線を上げずに彼は言った。 私は膝の上に手を置き、静かに腰掛けた。 彼はついに視線を上げると、私の方へファイルを押し滑らせた。「15分後に手術を行う。緊急症例だ。患者の名はアントニオ・ヴィターレ——50代半ばのイタリア人だ。20分前に心臓付近への銃傷で担ぎ込まれた。弾丸が心筋の極めて危険な位置に残留している。現在は安定しているが、猶予はない」 私は1ページ目に目を通した。バイタル、画像診断データ、ERからの簡潔な申し送り。目を通すだけで、私の脳内には必要な手術工程が瞬時に組み上げられていった。 「君に私の第一助手に入ってもらいたい」彼は一切の躊躇もなく、淡々と言い放った。「君はこの病院で最高の腕を持つ医師の一人だ。この手術には、寸分の狂いもない精密さが必要だ」 彼がこのような言葉を口にするのは珍しいことだった。エリス先生は——いかなる時も、決して人を褒めたりしないのだから。胸が深く高鳴り、光栄に思った。 「承知いたしました」私はプロのトーンを保って答えた。 「よろしい。準備に入りなさい。第3手術室を使用する。すでにセットアップは始まっている」彼は立ち上がり、ファイルを脇に抱えた。 私も立ち上がり、彼の後に続こうとした。けれどその時——胸の奥で、唐突で奇妙な胸騒ぎが渦を巻いた。 これまで何十件もの重篤な手術を執刀してきた——銃傷、心臓修復、数分の遅れが生死を分ける危機的な症例の数々を。それなのに、こんな風にお腹の奥がざわつくような、不気味な動悸を感じたことなど一度もなかった。 おかしい……。 ただのコーヒーのカフェインのせいかもしれない。 アントニオ・ヴィターレ——その名前が、なぜか理由も分からず重く頭の中に残り続けていた。それでも私は背筋を伸ばし、エリス先生の後に続いて部屋を出た。 エリス先生と私が並んで第3手術室へと向かう中、病院の廊下に響く空調の低音は、不気味なほど静かだった。 白いタイルの床を踏みしめる私たちの足音は消音されていたけれど、私の脈拍は決して穏やかではなかった。 私たちはすでにスクラブキャップ、マスク、滅菌ガウン、手袋という完全な手術用PPEを身に纏っていた。うなじのあたりに汗の粒が滲むのを感じる。近づくにつれ、空気は一層重く沈み込んでいった——まるでこの症例の裏に、何か決定的な違いが存在するかのように。 目の前に広がった光景に驚愕し、私は思わず足を緩めた——手術室のドアの前が、大柄な男たちによって厳重に警備されていたのだ。全員で5人——背が高く、ガッチリとした体格で、まるで岩石のように頑丈な男たち。全員がインカムを装着した黒いスーツに身を包み、鋭く警戒された瞳で周囲のあらゆる動きを監視していた。その異様な佇まいからして、一般的な病院の警備員でもなければ、ただの雇われボディガードでないことは一目で分かった。 一体……この患者は何者なの? 喉を鳴らして唾を飲み込むのを抑えられなかった。視線が、厳めしい男たちの顔を次々と移動する。彼らはサイモンが軽く頷くまで、身じろぎひとつせず道を空けようとはしなかった。 室内に足を踏み入れむと、すでに準備は佳境に入っていた。術野を覆われた患者が手術台の上に横たわり、無影灯の強い光が、青白く動かないその体を容赦なく照らし出していた。 酸素マスクと滅菌ドレープの隙間から顔の一部しか覗えなかったけれど、空気に混じるかすかな鉄の匂いがすべてを物語っていた——大量の出血があったのだと。 今回のオペは極めてクリティカルなため、執刀にあたる医師は私たちを含めて3人。さらに器具の受け渡しやバイタルの監視を行う看護師が3人控えていた。 サイモン先生が手台の頭側に位置につき、私もその隣へと移動して術野を見つめた。創部は胸部の左側——心臓のすぐ目と鼻の先だ。弾丸は深く潜り込んでおり、一秒の遅れも許されない状況だった。 「始めるぞ」サイモンが静かに、けれど引き締まった声で言った。 規則的な心電図の電子音が背景で響き渡る。患者の命を繋ぎとめる、儚いメトロノームのように。 「ベネット医師」サイモン先生の落ち着いた、けれど毅然とした声が私を現実に引き戻した。「準備が整い次第、弾丸の摘出は君に任せる」 私は頷き、所定の位置についた。手袋に包まれた指先が、すでにメスを求めて疼いていた。瞬時に、私の意識はいつものゾーンへと没入していった——どんなハイリスクな手術の前にも訪れる、静寂に満ちた極限の集中空間へ。 指導医の指揮のもと、私たちは熟練したリズムで器具を交換し、完璧な連携で執刀を進めた。最初の数分間は、すべてがスムーズだった——コントロールされ、集中し、整然と。 ——モニターが突如として悲鳴を上げるまでは。 電子音が急速で不規則な音へと変わった。私の視線がモニターへ走る——患者の心拍数が跳ね上がり、酸素飽和度が急降下していた。 「心室心拍(V-Tach)です!」看護師の一人が叫んだ。 部屋全体に張りつめた静寂が広がった。けれどそれは決して静けさなどではなく——私の耳奥で打ち鳴らされる鼓動であり、全身の血管を駆け巡るアドレナリンの激流だった。 サイモンの視線が私へ飛んだ。「アイラ、交代しろ」 息が止まった。この局面で、私に任せるというの? 今、この瞬間に? けれど、躊躇している暇などなかった。私はすばやく位置を交代し、手袋をはめた手で傷口をさらに開いた。全身の全筋肉が、ただ一つの目的のために研ぎ澄まされる——この男の心臓を自分の手の中で止めさせることなく、弾丸を摘出すること。 「開胸器を」 光の下で金属が鈍く光り、術野が押し広げられた。私は身を乗り出し、深く埋もれた弾頭に視線を固定した。心筋のあまりにも近くに位置しているため、わずか手元が狂うだけで心筋を切り裂いてしまう。 鉗子を握る力は強固でありながら、羽のように軽やかだった。 額に汗が滲み出たけれど、まばたきすらできなかった。耳に届くのは、不規則なモニターの電子音だけ……ピッ……ピッ……ピッ……。 ——あと少し。 組織からミリ単位で引き剥がすように、弾丸を慎重に回転させた。一人の看護師が溜まった血液を素早く拭き取り、もう一人が吸引管を固定する。正確な角度を維持し続ける肩が悲鳴を上げていたけれど、少しでも姿勢を崩すわけにはいかなかった。 そしてついに、ごくわずかな引き手とともに、弾丸がすっと抜け出た。 私はそれを一瞬だけ掲げてみせた——小さく、けれど命を奪う殺傷力を持った金属片を。そしてそれを標本カップへと収めた。モニターの音が落ち着きを取り戻し、安心感を与える規則的なリズムへと戻っていく。 「脈拍、安定してきています」麻酔科医が確認した。 そこで初めて、私は今まで止めていた息を吐き出すことができた。 その後の処置はまさに教科書通りだった——修復、洗浄、そして綺麗な層状縫合。私たちが一歩下がった時には、患者のバイタルはすでに力強く安定した数値を刻んでいた。 「見事だ、ベネット医師」サイモン先生が鋭い瞳を私に向け、満足げに頷いた。 「ありがとうございます、先生」私は礼儀正しく返した。 他のスタッフからも次々と祝福の言葉が囁かれた……ただ一人、エリス・ヘイズ医師を除いては。~ アイラ ~柔らかく温かな朝日が重厚なベルベットのカーテンをすり抜け、私を目覚めさせた。巨大な邸宅が刻む、聞き慣れない規則正しい低音の響きに耳を澄ませながら、私はしばらくの間、ベッドの上で微動だにせずに横たわっていた。ゆっくりと目を開け、凝り固まった手足を伸ばした時、昨夜は驚くほどぐっすりと眠れていたことに気づいて小さな衝撃を受けた。そして現実が押し寄せてくると同時に、急激な熱が私の頬を赤らめさせた。最後に覚えているのは、車のエンジンの低い唸り声、窓の外でぼやけていく夜のニューヨークのスカイライン、そして病院からの帰路で私を襲った圧倒的な疲労感だった。私はアリスティアの隣で眠りこけてしまったのだ。まさか、ここまでずっと彼が私を抱き運んでくれたの……?頬が勝手に熱を帯びる。あの冷酷な男が私をその胸に抱き締めている姿の妄想が頭をよぎり、心臓が奇妙で不規則な高鳴りを見せた。私はその奇妙な思考を振り払うように、急に上体を起こした。彼のそばにいるたびに、こんな風に妙に無防備で乱れた反応をしていては困る。これは取引なのだ。冷淡な契約。それ以上でも以下でもない。キングサイズのベッドの反対側を向くと、そこはもぬけの殻だった。マットレスに残るわずかな凹みと、高級コロンの爽やかな残り香が、彼が確かにそこで眠っていたことを証明していたが、それにしてもこんな朝早くから、彼はすでに起き出しているらしかった。ほっと胸を撫で下ろす自分がいる一方で、胸の奥にどこか奇妙で説明のつかない虚しさが広がるのを感じた。『だから何よ?』と私は心の中で自分を叱りつけた。『彼がどこに行こうと、私の知ったことじゃないわ』鋭く息を吐き出すと、病院のスケジュールを確認しようとナイトテーブルの上のスマートフォンに手を伸ばした。だがその時、すぐ隣に置かれていた重厚なクリーム色の便箋に視線が釘付けになった。優美で幾何学的な端正さで折り畳まれたその紙の表には、力強く正確な筆跡で私の名前が書かれており、一目でそれが誰のものか分かった。注意深く指先でそれを摘み上げ、広げる。「3日間の出張で国外に出る。 ――アリスティア」書かれていたのはそれだけだった。挨拶も、説明も、別れの言葉もない。いかにもアリスティアらしい、事務的で冷徹なスタイルだった。3日間。丸3日もの間、あの威圧的な黒い影に怯えることなく、この
~ アリスティア ~帰りの車中、彼女は私の肩にもたれかかるようにして眠っていた。その頭の重みが心地よく、規則正しい寝息を聞いていると、なぜか胸の奥がざわついた。こんなことは初めてだった——理由もなく鼓動が早鐘を打ち、胸が締め付けられる。まるで、恋を知ったばかりの少年のように。彼女と出会い、目覚めたその日から、私の中にはいくつもの疑問があった。自分自身についての疑問。なぜ、自分が「変わってしまった」のかについての。女性とこんなに近くで接したことがないわけではない。だが、戸惑う彼女の姿を見るたびに、私はそこに妙な楽しさを覚えていた。頬を赤らめ、声を微かに震わせ、恥ずかしさを隠しきれずにいるその様子は——本来なら、私の神経を逆撫でするはずのものだった。だが、そうはならなかった。むしろ引き寄せられた。彼女の無垢さは、あまりにも無防備で、どうしようもなく心を奪われた。気づけば私は、彼女がより楽に眠れるよう、そっと自分の膝の上へと頭を移動させていた。車の中でこうして眠りこけてしまうほど、彼女は疲労困憊していたに違いなかった。彼女はいつも、これほどまでに懸命に働いているのだろうか?飾り気のない、それでいて美しいその顔立ちをじっと見つめながら、私は思わず頬にかかった一筋の髪を耳へとかけてやった。彼女の寝顔はあまりにも穏やかで——どこか神々しいほどだった。だが、彼女から伝わってくる温もりが、私たちの間の空間を狭め、予期していなかったほどに親密なものに感じさせた。ふと、リアナのことを思い出した。5年という歳月をかけて築き上げた彼女との関係を。甘美だった——確かに、あの頃はそれなりに。私はすべてを捧げたが、彼女は最終的に「自分自身」を選んだ。あそこまで利己的だとは思っていなかった。今でもかすかに、けれど生々しくあの痛みが蘇る。——もっとも、最初から本当に彼女を愛していなかったのかもしれないと気づくまでは。古い記憶にしがみつき、自分は彼女を愛しているのだと無理やり思い込ませていただけなのだと。そして、私を最も傷つけたのは、恋心を砕かれたことではなく、私のプライドだった。愛とは……愚かなものだ。二度と足を踏み入れまいと誓った弱さに他ならない。なのに今、アイラを見つめていると、それとは全く違う感情が湧き上がってくる——言葉で説明のつかない何かが。彼女と過ご
~ アイラ ~「でさ……」ライリーは肩にバッグを引っ掛けながら、すべてを察したようなニヤニヤ笑いを浮かべて切り出した。「誕生日の夜は何処に行くの?お酒?ディナー?カラオケ?まさか、おばあちゃんみたいにまっすぐ帰って寝るなんて言わないでよね!」ちょうどシフトが終わったところだった。時刻はすでに夜の6時半——いつものように体は疲れ果てていたが、ライリーは相変わらず有り余るエネルギーを発散させていた。私は苦笑いを漏らす。「誕生日にこだわりがないのは知ってるでしょ」「だからこそ出掛けるのよ!今日はあなたのための日なんだから、アイラ。いつも仕事ばかりじゃない。たまには自分を甘やかしてあげてよ——もう25歳でしょ、まったく!」彼女はわざとらしく目を白黒させた。その言葉が胸の奥の古い傷に触れ、私の笑みがわずかに歪んだ。家族のほとんどが誕生日を何とも思っていなかった頃から、私にとってこの日は大した意味を持たなかった。唯一、おばあ様だけが小さなケーキを焼いてお祝いしてくれた——二人きりのささやかなものだったとしても。この日はいつも、冷ややかな空気と距離感、そして冷たさを運んできた。お祝いをすること自体が、自分が持っていないものをまざまざと思い出させるだけだったのだ。「ライリー……」バッグのストラップを持ち上げながら、私は小さく息を吐いた。「今日はそんな気分じゃないの。また今度ね」彼女は眉をひそめ、何か言い返そうとしたその時、私のスマートフォンが震えた。画面を一瞥した瞬間、私の動きがピタリと止まった。おばあ様だ。電話に出ると、唇に温かな笑みが自然と広がった。「もしもし、おばあ様」「お誕生日おめでとう、愛しい人」優しい声が耳朶を打つ。それだけの短い言葉なのに、心臓がふんわりと温かなものに包み込まれるようだった。急に喉の奥が詰まり、私はそれを飲み込んだ。「ありがとう、おばあ様。すぐ会いに行くわね。サプライズがあるの」おばあ様は軽やかに、嬉しそうに笑った。「まあ、楽しみにしてるわ」いくつかの言葉を交わしてから電話を切った。すぐにおばあ様へメッセージを送り、時間を必ず作ると約束する。スマホをポケットにしまい、ライリーとともに病院の出口へと向かいながら、私たちは他愛のないお喋りを続けた。だが次の瞬間、私はその場で足をとめ、大きく目を見開いた。病院の正面入口のす
~ アリスティア ~モンゴメリー・タワーの最上階にある役員会議室は、プロジェクターの低音と微かに書類が擦れる音を除いて、静寂に包まれていた。ガラス張りの壁の向こうには摩天楼のパノラマ——私が全権を握り、支配する鋼鉄とガラスの帝国が広がっている。私は片腕を肘掛けに置き、もう片方の指先でトントンと軽やかにテーブルを叩きながら、ゆったりと背もたれに体を預けた。「始めろ」短く命じる。私の向かいで、モンゴメリー・グループが誇る優秀なチーフデザイナー、ララ・クラインが立ち上がった。仕立ての良い黒のドレスに身を包んだ彼女は、無駄のない洗練された佇まいでその場の空気を統率していた。彼女こそが、この緊急会議を招集した張本人だ。モンゴメリー・グループが近々、傘下の最高級ラグジュアリーブランド『メゾン・ド・ヴィーヴル』の新作サマーコレクションをお披露目する大型ファッションショーを開催するからである。「皆様ご存じの通り」彼女はドイツ語訛りの混ざった鋭い口調で切り出した。「メゾン・ド・ヴィーヴルは2ヶ月後、サマーコレクションを発表いたします。開催地はここニューヨーク、ファッションウィーク期間中です。私たちはシーズン全体のトレンドを決定づける意気込みで臨んでおります」ララがリモコンをクリックすると、大型スライドにデッサンが映し出された——洗練されたシルエット、上質なファブリック、そしてミニマルなラインと対比をなす大胆な色彩。「今年のコレクションのテーマは『L’Été Éternel(永遠の夏)』です」とララは続けた。「溢れる生命感とラグジュアリーを表現しつつも、時代を超越したタイムレスなデザインを目指します。エネルギッシュでありながら、シーズンが過ぎても色褪せないエレガンスを兼ね備えた作品群です」彼女の視線が自信に満ち溢れた面持ちで室内を巡る。「これを実現すべく、クリエイティブチームを拡充いたしました。独自の感性と確かな実績を買われ、厳選された新進気鋭のデザイナーたちが新たに加わっています。彼らの力が合わさることで、メゾン・ド・ヴィーヴルは今後もオートクチュールの頂点に立ち続けることをお約束いたします」私は両手を組み、感情を一切表に出さずに言い放った。「続けろ」ミラノ、パリ、ニューヨークから呼び寄せられた著名なデザイナーたちが、次々と紹介されていった。スクリーンには
~ アイラ ~私は動きを止め、抱えていた毛布を握りしめた。視線を恐る恐るベッドへと向けると、彼はすでにシーツの中に潜り込み、片腕を頭の後ろに回してくつろいでいた。彼はいま……私をベッドに誘ったの?アリスティアが、私と同じベッドで寝ようとしている?これもまた、これまで私が彼から引き出してきた数々の「予期せぬ変化」の一つだった。ニューヨーク市を牛耳る、あの強大で絶大な知名度を誇る最高経営責任者(CEO)と同じベッドで寝ることになるなんて、一体誰が想像しただろう!?多くの女性にとって、それはまさに夢のようなシチュエーションかもしれない。けれど私にとっては、恐ろしい悪夢以外の何物でもなかった。彼の声のトーンはどこまでも威厳に満ちていたが、私の耳にはあまりにも気まずく響いたのだ。私は一歩も動けなかった。数千年間も氷漬けにされたかのように、全身が固まっていた。「いつまでそこに立ち尽くしているつもりだ?」私を捉えたまま、彼の低い声が響く。「私……あの……そ、ソファで寝ますから」手に持った毛布を落ち着きなく弄りながら、私は狼狽えて辞退した。何と言えばいいのか分からなかった!それに、この溢れ出る緊張感を押し殺すことなんて、到底できそうになかった。彼は不機嫌そうに眉をひそめた。明らかに忍耐が限界に達しつつある。「一晩中そこに立ち尽くすつもりか?」私は恥ずかしさで頬を焼きながら視線を逸らした。けれど、返すべき言葉が出てこない。「安心しろ」彼はだるそうに言葉を紡ぎ、衣服に包まれた私の体を上から下まで退屈そうになぞった。「修道女のような格好をしているな。これなら誘惑に負けずに生き延びられそうだ」胸の中で、怒りと恥ずかしさが複雑に絡み合う。だが正直なところ、彼の提案に惹かれている自分もいた。ベッドの心地よさは、ソファの比ではなかったからだ。彼の冷たく、揺るぎない眼光に射抜かれ、私はついに屈した。その視線だけで、「拒否」という選択肢が存在しないことを物語っていた。私は警戒しながら、不承不承足を進めてベッドの端に腰掛けた。彼はすでにスマホの画面に没頭しており、それ以上何も口にしなかった。その沈黙に乗じて、私は静かに掛け布団を持ち上げ、彼から物理的にできる限り離れた位置へと潜り込んだ。このベッドは呆れるほど広かった。5つの枕と、贅沢すぎるほど広い空間が二人を隔てて
~ アイラ ~電話の向こうで、わずかな沈黙があった。それから——低く、深く、気負いのない自信に満ちた声が響き渡り、私の心臓は許可もなく跳ね上がった。「勤務は終わったか?」息が詰まる。相手が偽りの夫だと、分かっていたはずなのに。「ア……アリスティア?」思考が追いつくよりも先に、どもりながら名前を呼ぶ。信じてほしい、彼の名前を口にすることは、どんな大手術を執刀するよりも緊張した。「どうやって——私の番号なんてどこで手に入れたの?」とっさにそう問い返す。「知る必要があることは、すべて把握しているまでだ」彼は私の質問など取るに足りないと言わんばかりに、滑らかに言い捨てる。「外で待っている」心臓が喉まで飛び上がりそうになる。「ちょっと——」返事をする間もなく、電話はプツリと切られた。彼は電話を切ったのだ。私は信じられない思いでスマートフォンを見つめ、激しく脈打つ胸を押さえた。なぜ彼がここに?おばあ様がすでに私専用の車を手配してくれていたはずなのに。思考を振り払い、私は荷物をまとめて執務室を出た。ちょうど隣の部屋からエリス先生も姿を現す。長いシフトのせいで彼の髪はわずかに乱れていたが、私を見つめるその表情には柔らかな光が宿っていた。ライリーがエリス先生の私に対する態度をよく誤解するのは、まさにこれが理由だった。普段、彼は厳格で冷徹に見える。だが、私たちがすれ違う時、彼はいつも例外的な優しさを見せてくれた。私だってもちろん変な意味で捉えてはいない——一緒に働く機会が多いのだから、他の同僚より親しいのは自然なことだ。先輩として深く尊敬している。だが、一部の同僚たちは悪意ある憶測を囁きたがるものだ。「お疲れ様、ベネット先生」いつものように丁寧でありながら、どこか静かな温もりのこもった声。「はい」私は小さく微笑んで返す。「ようやく解放されました」彼の視線が、必要以上に長く私に留まった気がしたが、当時の私は気づく余裕すらなかった。頭の中は、階下で待ち構えているあの息の詰まるような人物のことで一杯だったのだ。丁寧にお辞儀をして彼の前を通り過ぎ、私は足早に歩を進めた。病院の入口に、アリスティアの車がすぐに目に入った。胃の底がズシリと重くなる。患者、看護師、研修医——多くの人々が慌ただしく行き交う場所だ。何人かのスタッフが、その車に気づいてヒソヒソと







