LOGIN〜 アイラ 〜
病院へ向かう途中のことだった。屋敷から一本の電話が入ったのは。家政婦の切迫した声には、無視できない緊迫感が籠もっていた。 「アイラ様、至急お屋敷にお戻りください。お姉様がお見えです」 その言葉が、私の胸を鋭い痛みで刺し穿った。 彼女が去ってから、もう5年が経つ。連絡を寄せてくることなど滅多になく、たまにあったとしても、自分の輝かしい成功を自慢するためだけだった。確かに私たちは双子だった——けれどそれは、生まれた時だけの話だ。現実に、私が彼女の妹になれたことなど一度もなく、ベネット家の一員になれたことすらなかった。 そして今、彼女が戻ってきた。理由は痛いほど分かっていた。アリスティアのことに違いない。 足元が崩れ去るような重い憂鬱が胸を覆ったけれど、私は自分に鞭打って屋敷へと向かった。 玄関のドアをくぐった瞬間、リビングルームから彼女の高圧的な声が甲高く響き渡った。 「なんですって!?」信じられないという拒絶と、激怒に満ちた響き。 廊下で私の足がピタリと止まり、バッグのストラップを握る指にきつく力が入った。本当に、帰ってきたのだ。 「お父さん! どうして私に相談もなく、勝手にアイラをアリスティアと結婚させたの!? 私が帰ってくるまで待ってって言ったじゃない!」彼女は再び叫んだ。 「会社が倒産寸前だと言っただろう! お前が帰ってくるのを待っていたら、お前には帰る家すらなくなっていたんだぞ!」父が怒声で言い返した。「昏睡状態の男に嫁ぐことなど無意味だと、お前にもはっきり伝えたはずだ!」 「でも、アリスティアは目を覚ましたのよ! それなのに今、彼はアイラの夫だなんて……! ねえ、私がどうやってこんな事態を受け入れろっていうのよ!?」 私はその場に縫い付けられたように立ち尽くした。私の勘は正しかったのだ。彼女が戻ってきたのは、自分がモンゴメリー家に嫁ぎたかったから。 なんて身勝手な嘘つきなのだろう。5年前、アリスティアには価値がないと判断し、ただの非嫡出子として一生を終えるのだと見捨てたのは彼女自身だったのに。今さら彼が頂点に返り咲いた途端、必死になって彼の手を握り返そうとしているなんて。 「リアナ、落ち着きなさい——」母が優しく宥めようとした。 「落ち着けですって!?」リアナの声がさらに甲高く耳を刺した。「そんな決断をする前に、少しは考えなさいよ! 私は二人の娘じゃないの!?」 「分かった、分かったから……」父の苦渋に満ちた声が屈服した。「私がどうにか方法を探す」 それを聞いた瞬間、胸の奥がきつく絞めつけられた。昨日、私が政略結婚を免除してほしいと必死で乞うた時、父は一歩も引かず——それどころかおばあちゃんを盾にして私を脅したのだ。 それなのに今、リアナが激怒して叫んだだけで、父はあっさりと引き下がった。 時々、疑問に思う……私は本当に、この人たちの娘なのだろうか? どうしてこの人たちから、ほんの僅かな温もりすら感じることができないのだろう? 二人の目に映る唯一の娘は、いつだってリアナだけだった。 口の中に広がる苦みを飲み込み、私はゆっくりとリビングルームへ歩を進めた。入り口に立った瞬間、リアナの燃えるような視線が私を捉えた。部屋の中央に立つ彼女は、5年前に見た時と変わらず、光り輝くほど華やかだった。綺麗にカールされた長い髪が整った顔立ちを彩り、デザイナーズブランドのヒールが艶やかな床の上で光を反射している。 けれど、私に向けられた視線は温かくもなければ、歓迎するものでもなかった。まるで私が歴史上最大の裏切りでも犯したかのように、私を睨みつけていた。 二人の間に、重く息苦しい空気があふれ出す。強いられた新しい現実にどう息をついていいのかすら分からないうちに、こんな風に彼女と対峙することになるとは思ってもいなかった。 リアナはバッグをひったくるように持ち上げ、部屋を出て行こうとした。けれど、わざと私の隣でピタリと足を止めた。 「あなたに、彼は不釣り合いよ」彼女は吐き捨てた。「彼の隣に立つ資格なんて、あなたにはサラサラないわ」 鋭いヒールの音が床を鳴らし、彼女は怒りに任せて去っていった。残された高価な香水の香りが、火災のあとの煙のように空気に残り続けていた。 私は凍りついたまま立ち尽くし、彼女が投げつけてきた一言一言を頭の中で反芻していた。この光景は私に悟らせた——私が投げ込まれた戦いは、アリスティアとのものだけではない。かつて家族と呼んでいた人間たちとの戦いでもあるのだと。 「何をぼうっと立ち止まっているんだ!」父が不機嫌そうに私を睨みつけた。 こうした扱いには慣れていた。そしてもう、傷つくことすらなかった——彼らの手によって、私の心はすでに粉々に砕け散っていたから。彼らは今日知ることになるのだ、壊れたアイラが、ひとつひとつ自分自身を拾い集めていく姿を。もう、この人たちに礼儀正しく接する必要なんてない。返す恩なんてないのだから——最初から、何ひとつ。 「私はあなたの召使いではありません。今の私はモンゴメリー家の人間です、もうお忘れですか? 気軽に呼び出して命令できる立場ではないはずです」私は淡々と反論した。 その言葉が、父が辛うじて抑えていた怒りに油を注いだ。 「この恩知らずが! たった一晩モンゴメリーの屋敷に泊まっただけで、急に一人前の口を利くようになったつもりか!?」父の指が私を激しく指さした。 私は身じろぎひとつしなかった。声に冷ややかな嘲りを込めて言い返す。「私をこんな風に変えたのは、あなたたちでしょう? 誇らしく思ったらどうです?」 父の顔が真っ赤に染まり、口をパクパクと開閉させたけれど、言葉は出てこなかった。これ以上、説教を聞くつもりはなかった。背を向けて去ろうとすると、背後から父親の怒声が飛んできた。 「待て!」 足を止めたけれど、振り返りはしなかった。 「お前はレディ・マーゴットに話すんだ。この不条理な結婚を終わらせろと。アリスティアの隣には、リアナが立つべきなのだからな」 肩越しに視線を送りながら、自嘲気味な笑いがこぼれた。「あなたが始めたことです。ご自分で解決なさってください」 それ以上の言葉を待つことなく、後ろで響く罵声も無視して、私は屋敷をあとにした。 この瞬間から、彼らはもう私の家族ではない。 病院に到着した時には、すでに朝の8時40分になっていた。5時間の大遅刻だった。 午後の手術の準備を整える前にいくつか片付けなければならない仕事があったため、私はオフィスへ向かって足を早めた。けれど、デスクに荷物を置く間もなく、明るい声が静寂を破った。 「アイラ!」 振り返ると、そこにいたのはライリー・ヘイズ——医学部時代からの親友だった。彼女も医師で、明るく機転が利き、茶目っ気たっぷりな性格だった。 彼女は大股で近づいてくると、密閉されたコーヒーカップを私に手渡した。 「一番好きなラテを買ってきたわよ」 「ありがとう」私はかすかに微笑んだ。 彼女の品定めするような瞳が私を頭からつま先までスキャンし、顔に心配の色を浮かべた。 「ものすごく疲れ切った顔をしているわね」彼女は距離を詰めながら言った。「昨日の夜、まともに眠れなかったでしょう?」 あのアリスティア・モンゴメリーと同じ部屋を共有していて、一体誰が熟睡できるというのだろう? 一晩中、彼の圧倒的な存在感に押し潰されそうになっていたのだから。 逆立った神経を隠すように、私は小さな笑みを浮かべた。「少しは休めたわ」 ライリーは納得がいかない様子で眉をひそめた。「少し? ふうん……私には、嵐の中を徹夜で走り抜けてきた顔に見えるけどね」 彼女の小言を無視して、私はデスクの上のファイルに目を通し続けた。次に彼女が口を開いた時、そのトーンは一変していた——軽やかで、どこか興奮を帯びた響きに。 「ところで、例のニュースはもう聞いた? アリスティア・モンゴメリーが目を覚ましたのよ! 丸一ヶ月の昏睡状態を経て、私の王子様がついに王座へ帰還されたの!」 私の手がピタリと止まったけれど、素気なく返した。「……そうなの?」 「そうよ!」 彼女はスマートフォンを取り出すと、素早く画面をスワイプし、私の鼻先に突きつけてきた。ニュース記事の見出しには、街で最も魅力的な独身男性が意識を取り戻したと大々的に報じられていた。 そこに写っていたのは、完璧なライティングの下で撮影されたアリスティア・モンゴメリーの写真だった——雑誌を何千部も売り上げるであろう、漆黒の髪、彫りの深いアゴのライン、そしてカメラの奥を射抜くような鋭いグレーの瞳。 ライリーはドラマチックに両手を胸の前で組んだ。「ああ、もし彼が目を覚ました時に隣にいたのが私だったら、そのまま病院のベッドの横で気絶していたでしょうね」 私は呆れて目を丸くし、彼女のスマホを押し返した。「ドラマの見すぎよ」 アリスティアが目を覚ました時、その隣にいることがどれほど恐ろしいことか、彼女が知っていたなら。私は心臓麻痺を起こしかけたというのに! ライリーはニヤリと笑った。「そうかもしれないけどさ。でもあのアリスティア・モンゴメリーよ? 一目見るためなら死んだっていいわ……」 彼女の声は、うっとりとした溜息へと消えていった。 思わずコーヒーを吹き出しそうになった。どうして誰も彼もが、大して優しくもないあの男を神様みたいに崇めるのだろう? もし選べるのなら、今世で彼に会うことなんて金輪際ごめんだった——ましてや、結婚なんて。 二人の間で弾んでいた軽やかな雑談は、扉が勢いよく開かれ、背の高い人影が足を踏み入れた瞬間、一瞬にして静まり返った。~ アイラ ~柔らかく温かな朝日が重厚なベルベットのカーテンをすり抜け、私を目覚めさせた。巨大な邸宅が刻む、聞き慣れない規則正しい低音の響きに耳を澄ませながら、私はしばらくの間、ベッドの上で微動だにせずに横たわっていた。ゆっくりと目を開け、凝り固まった手足を伸ばした時、昨夜は驚くほどぐっすりと眠れていたことに気づいて小さな衝撃を受けた。そして現実が押し寄せてくると同時に、急激な熱が私の頬を赤らめさせた。最後に覚えているのは、車のエンジンの低い唸り声、窓の外でぼやけていく夜のニューヨークのスカイライン、そして病院からの帰路で私を襲った圧倒的な疲労感だった。私はアリスティアの隣で眠りこけてしまったのだ。まさか、ここまでずっと彼が私を抱き運んでくれたの……?頬が勝手に熱を帯びる。あの冷酷な男が私をその胸に抱き締めている姿の妄想が頭をよぎり、心臓が奇妙で不規則な高鳴りを見せた。私はその奇妙な思考を振り払うように、急に上体を起こした。彼のそばにいるたびに、こんな風に妙に無防備で乱れた反応をしていては困る。これは取引なのだ。冷淡な契約。それ以上でも以下でもない。キングサイズのベッドの反対側を向くと、そこはもぬけの殻だった。マットレスに残るわずかな凹みと、高級コロンの爽やかな残り香が、彼が確かにそこで眠っていたことを証明していたが、それにしてもこんな朝早くから、彼はすでに起き出しているらしかった。ほっと胸を撫で下ろす自分がいる一方で、胸の奥にどこか奇妙で説明のつかない虚しさが広がるのを感じた。『だから何よ?』と私は心の中で自分を叱りつけた。『彼がどこに行こうと、私の知ったことじゃないわ』鋭く息を吐き出すと、病院のスケジュールを確認しようとナイトテーブルの上のスマートフォンに手を伸ばした。だがその時、すぐ隣に置かれていた重厚なクリーム色の便箋に視線が釘付けになった。優美で幾何学的な端正さで折り畳まれたその紙の表には、力強く正確な筆跡で私の名前が書かれており、一目でそれが誰のものか分かった。注意深く指先でそれを摘み上げ、広げる。「3日間の出張で国外に出る。 ――アリスティア」書かれていたのはそれだけだった。挨拶も、説明も、別れの言葉もない。いかにもアリスティアらしい、事務的で冷徹なスタイルだった。3日間。丸3日もの間、あの威圧的な黒い影に怯えることなく、この
~ アリスティア ~帰りの車中、彼女は私の肩にもたれかかるようにして眠っていた。その頭の重みが心地よく、規則正しい寝息を聞いていると、なぜか胸の奥がざわついた。こんなことは初めてだった——理由もなく鼓動が早鐘を打ち、胸が締め付けられる。まるで、恋を知ったばかりの少年のように。彼女と出会い、目覚めたその日から、私の中にはいくつもの疑問があった。自分自身についての疑問。なぜ、自分が「変わってしまった」のかについての。女性とこんなに近くで接したことがないわけではない。だが、戸惑う彼女の姿を見るたびに、私はそこに妙な楽しさを覚えていた。頬を赤らめ、声を微かに震わせ、恥ずかしさを隠しきれずにいるその様子は——本来なら、私の神経を逆撫でするはずのものだった。だが、そうはならなかった。むしろ引き寄せられた。彼女の無垢さは、あまりにも無防備で、どうしようもなく心を奪われた。気づけば私は、彼女がより楽に眠れるよう、そっと自分の膝の上へと頭を移動させていた。車の中でこうして眠りこけてしまうほど、彼女は疲労困憊していたに違いなかった。彼女はいつも、これほどまでに懸命に働いているのだろうか?飾り気のない、それでいて美しいその顔立ちをじっと見つめながら、私は思わず頬にかかった一筋の髪を耳へとかけてやった。彼女の寝顔はあまりにも穏やかで——どこか神々しいほどだった。だが、彼女から伝わってくる温もりが、私たちの間の空間を狭め、予期していなかったほどに親密なものに感じさせた。ふと、リアナのことを思い出した。5年という歳月をかけて築き上げた彼女との関係を。甘美だった——確かに、あの頃はそれなりに。私はすべてを捧げたが、彼女は最終的に「自分自身」を選んだ。あそこまで利己的だとは思っていなかった。今でもかすかに、けれど生々しくあの痛みが蘇る。——もっとも、最初から本当に彼女を愛していなかったのかもしれないと気づくまでは。古い記憶にしがみつき、自分は彼女を愛しているのだと無理やり思い込ませていただけなのだと。そして、私を最も傷つけたのは、恋心を砕かれたことではなく、私のプライドだった。愛とは……愚かなものだ。二度と足を踏み入れまいと誓った弱さに他ならない。なのに今、アイラを見つめていると、それとは全く違う感情が湧き上がってくる——言葉で説明のつかない何かが。彼女と過ご
~ アイラ ~「でさ……」ライリーは肩にバッグを引っ掛けながら、すべてを察したようなニヤニヤ笑いを浮かべて切り出した。「誕生日の夜は何処に行くの?お酒?ディナー?カラオケ?まさか、おばあちゃんみたいにまっすぐ帰って寝るなんて言わないでよね!」ちょうどシフトが終わったところだった。時刻はすでに夜の6時半——いつものように体は疲れ果てていたが、ライリーは相変わらず有り余るエネルギーを発散させていた。私は苦笑いを漏らす。「誕生日にこだわりがないのは知ってるでしょ」「だからこそ出掛けるのよ!今日はあなたのための日なんだから、アイラ。いつも仕事ばかりじゃない。たまには自分を甘やかしてあげてよ——もう25歳でしょ、まったく!」彼女はわざとらしく目を白黒させた。その言葉が胸の奥の古い傷に触れ、私の笑みがわずかに歪んだ。家族のほとんどが誕生日を何とも思っていなかった頃から、私にとってこの日は大した意味を持たなかった。唯一、おばあ様だけが小さなケーキを焼いてお祝いしてくれた——二人きりのささやかなものだったとしても。この日はいつも、冷ややかな空気と距離感、そして冷たさを運んできた。お祝いをすること自体が、自分が持っていないものをまざまざと思い出させるだけだったのだ。「ライリー……」バッグのストラップを持ち上げながら、私は小さく息を吐いた。「今日はそんな気分じゃないの。また今度ね」彼女は眉をひそめ、何か言い返そうとしたその時、私のスマートフォンが震えた。画面を一瞥した瞬間、私の動きがピタリと止まった。おばあ様だ。電話に出ると、唇に温かな笑みが自然と広がった。「もしもし、おばあ様」「お誕生日おめでとう、愛しい人」優しい声が耳朶を打つ。それだけの短い言葉なのに、心臓がふんわりと温かなものに包み込まれるようだった。急に喉の奥が詰まり、私はそれを飲み込んだ。「ありがとう、おばあ様。すぐ会いに行くわね。サプライズがあるの」おばあ様は軽やかに、嬉しそうに笑った。「まあ、楽しみにしてるわ」いくつかの言葉を交わしてから電話を切った。すぐにおばあ様へメッセージを送り、時間を必ず作ると約束する。スマホをポケットにしまい、ライリーとともに病院の出口へと向かいながら、私たちは他愛のないお喋りを続けた。だが次の瞬間、私はその場で足をとめ、大きく目を見開いた。病院の正面入口のす
~ アリスティア ~モンゴメリー・タワーの最上階にある役員会議室は、プロジェクターの低音と微かに書類が擦れる音を除いて、静寂に包まれていた。ガラス張りの壁の向こうには摩天楼のパノラマ——私が全権を握り、支配する鋼鉄とガラスの帝国が広がっている。私は片腕を肘掛けに置き、もう片方の指先でトントンと軽やかにテーブルを叩きながら、ゆったりと背もたれに体を預けた。「始めろ」短く命じる。私の向かいで、モンゴメリー・グループが誇る優秀なチーフデザイナー、ララ・クラインが立ち上がった。仕立ての良い黒のドレスに身を包んだ彼女は、無駄のない洗練された佇まいでその場の空気を統率していた。彼女こそが、この緊急会議を招集した張本人だ。モンゴメリー・グループが近々、傘下の最高級ラグジュアリーブランド『メゾン・ド・ヴィーヴル』の新作サマーコレクションをお披露目する大型ファッションショーを開催するからである。「皆様ご存じの通り」彼女はドイツ語訛りの混ざった鋭い口調で切り出した。「メゾン・ド・ヴィーヴルは2ヶ月後、サマーコレクションを発表いたします。開催地はここニューヨーク、ファッションウィーク期間中です。私たちはシーズン全体のトレンドを決定づける意気込みで臨んでおります」ララがリモコンをクリックすると、大型スライドにデッサンが映し出された——洗練されたシルエット、上質なファブリック、そしてミニマルなラインと対比をなす大胆な色彩。「今年のコレクションのテーマは『L’Été Éternel(永遠の夏)』です」とララは続けた。「溢れる生命感とラグジュアリーを表現しつつも、時代を超越したタイムレスなデザインを目指します。エネルギッシュでありながら、シーズンが過ぎても色褪せないエレガンスを兼ね備えた作品群です」彼女の視線が自信に満ち溢れた面持ちで室内を巡る。「これを実現すべく、クリエイティブチームを拡充いたしました。独自の感性と確かな実績を買われ、厳選された新進気鋭のデザイナーたちが新たに加わっています。彼らの力が合わさることで、メゾン・ド・ヴィーヴルは今後もオートクチュールの頂点に立ち続けることをお約束いたします」私は両手を組み、感情を一切表に出さずに言い放った。「続けろ」ミラノ、パリ、ニューヨークから呼び寄せられた著名なデザイナーたちが、次々と紹介されていった。スクリーンには
~ アイラ ~私は動きを止め、抱えていた毛布を握りしめた。視線を恐る恐るベッドへと向けると、彼はすでにシーツの中に潜り込み、片腕を頭の後ろに回してくつろいでいた。彼はいま……私をベッドに誘ったの?アリスティアが、私と同じベッドで寝ようとしている?これもまた、これまで私が彼から引き出してきた数々の「予期せぬ変化」の一つだった。ニューヨーク市を牛耳る、あの強大で絶大な知名度を誇る最高経営責任者(CEO)と同じベッドで寝ることになるなんて、一体誰が想像しただろう!?多くの女性にとって、それはまさに夢のようなシチュエーションかもしれない。けれど私にとっては、恐ろしい悪夢以外の何物でもなかった。彼の声のトーンはどこまでも威厳に満ちていたが、私の耳にはあまりにも気まずく響いたのだ。私は一歩も動けなかった。数千年間も氷漬けにされたかのように、全身が固まっていた。「いつまでそこに立ち尽くしているつもりだ?」私を捉えたまま、彼の低い声が響く。「私……あの……そ、ソファで寝ますから」手に持った毛布を落ち着きなく弄りながら、私は狼狽えて辞退した。何と言えばいいのか分からなかった!それに、この溢れ出る緊張感を押し殺すことなんて、到底できそうになかった。彼は不機嫌そうに眉をひそめた。明らかに忍耐が限界に達しつつある。「一晩中そこに立ち尽くすつもりか?」私は恥ずかしさで頬を焼きながら視線を逸らした。けれど、返すべき言葉が出てこない。「安心しろ」彼はだるそうに言葉を紡ぎ、衣服に包まれた私の体を上から下まで退屈そうになぞった。「修道女のような格好をしているな。これなら誘惑に負けずに生き延びられそうだ」胸の中で、怒りと恥ずかしさが複雑に絡み合う。だが正直なところ、彼の提案に惹かれている自分もいた。ベッドの心地よさは、ソファの比ではなかったからだ。彼の冷たく、揺るぎない眼光に射抜かれ、私はついに屈した。その視線だけで、「拒否」という選択肢が存在しないことを物語っていた。私は警戒しながら、不承不承足を進めてベッドの端に腰掛けた。彼はすでにスマホの画面に没頭しており、それ以上何も口にしなかった。その沈黙に乗じて、私は静かに掛け布団を持ち上げ、彼から物理的にできる限り離れた位置へと潜り込んだ。このベッドは呆れるほど広かった。5つの枕と、贅沢すぎるほど広い空間が二人を隔てて
~ アイラ ~電話の向こうで、わずかな沈黙があった。それから——低く、深く、気負いのない自信に満ちた声が響き渡り、私の心臓は許可もなく跳ね上がった。「勤務は終わったか?」息が詰まる。相手が偽りの夫だと、分かっていたはずなのに。「ア……アリスティア?」思考が追いつくよりも先に、どもりながら名前を呼ぶ。信じてほしい、彼の名前を口にすることは、どんな大手術を執刀するよりも緊張した。「どうやって——私の番号なんてどこで手に入れたの?」とっさにそう問い返す。「知る必要があることは、すべて把握しているまでだ」彼は私の質問など取るに足りないと言わんばかりに、滑らかに言い捨てる。「外で待っている」心臓が喉まで飛び上がりそうになる。「ちょっと——」返事をする間もなく、電話はプツリと切られた。彼は電話を切ったのだ。私は信じられない思いでスマートフォンを見つめ、激しく脈打つ胸を押さえた。なぜ彼がここに?おばあ様がすでに私専用の車を手配してくれていたはずなのに。思考を振り払い、私は荷物をまとめて執務室を出た。ちょうど隣の部屋からエリス先生も姿を現す。長いシフトのせいで彼の髪はわずかに乱れていたが、私を見つめるその表情には柔らかな光が宿っていた。ライリーがエリス先生の私に対する態度をよく誤解するのは、まさにこれが理由だった。普段、彼は厳格で冷徹に見える。だが、私たちがすれ違う時、彼はいつも例外的な優しさを見せてくれた。私だってもちろん変な意味で捉えてはいない——一緒に働く機会が多いのだから、他の同僚より親しいのは自然なことだ。先輩として深く尊敬している。だが、一部の同僚たちは悪意ある憶測を囁きたがるものだ。「お疲れ様、ベネット先生」いつものように丁寧でありながら、どこか静かな温もりのこもった声。「はい」私は小さく微笑んで返す。「ようやく解放されました」彼の視線が、必要以上に長く私に留まった気がしたが、当時の私は気づく余裕すらなかった。頭の中は、階下で待ち構えているあの息の詰まるような人物のことで一杯だったのだ。丁寧にお辞儀をして彼の前を通り過ぎ、私は足早に歩を進めた。病院の入口に、アリスティアの車がすぐに目に入った。胃の底がズシリと重くなる。患者、看護師、研修医——多くの人々が慌ただしく行き交う場所だ。何人かのスタッフが、その車に気づいてヒソヒソと







