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第2話

Author: アオハニー
「誰に似てるって?」

「彼の元妻に、です」

私の爪は掌に深く食い込んでいた。かなり強く刺さっていたはずなのに、痛みはまったく感じなかった。

「彼が言うには、元妻は二年以上前に事故で亡くなったそうなんです。その人のことをずっと忘れられなくて、私に出会うまでは立ち直れなかったって」

彼女は一瞬だけしんみりした顔をして、涙でメイクが崩れないようにするみたいに、指先で目尻をちょんと押さえた。

けれど次の瞬間には、また笑っていた。

「私、彼女に六、七割くらい似てるんですって。でも、彼女より若いし、彼女より言うことを聞くって」

彼女より若い。

彼女より言うことを聞く。

私は自分の心臓の音を聞いた。

どくん、どくん、どくん。

一つ鳴るたびに、重く沈んでいった。

撮影が終わるころ、思穂が駆け寄ってきて、私の手をつかんだ。

彼女の手は柔らかく、薬指には鳩の卵みたいに大きなダイヤの指輪がはまっていた。

「寒川さん、撮るのすごく上手ですね。明後日、新商品の発表会があるんですけど、同行撮影してもらえませんか?

そのとき、うちにも連れて行ってあげます。生活風景の素材も少し撮れたら、絶対に視聴率がすごいことになりますよ」

彼女は声をひそめ、少し自慢げな秘密を打ち明けるように私の耳元へ顔を寄せた。

「うちには二歳半の息子もいるんです。すっごく可愛いんですよ」

私は笑顔をほとんど保てなくなっていた。

それでも、うなずいた。

「ええ」

……

自分の席に戻ると、私は暗闇の中に座ったまま、スマホを開いた。

アルバムをいちばん下までめくると、暗号化したフォルダが一つある。

中に入っているのは三枚だけだった。

一枚はエコー写真。ぼんやりしているけれど、赤ん坊が身を丸めている輪郭だけは分かった。

一枚は妊婦健診の報告書で、日付は三年前の五月になっていた。

最後の一枚は、お腹に手を当てて笑っている私の自撮りだった。

あのころ、私は妊娠六か月だった。

お腹はもうかなり大きくなっていた。

私はその子のために、薄いベージュ色の小さな帽子を編んだ。ひどく不格好で、目も当てられない出来だった。

隆之は、捨てればいい、産まれたらちゃんとしたものを買えばいいと言った。

でも私は手放せなかった。

こっそり枕の下に隠していた。

そのあと、その帽子もなくなった。

子供と一緒に、消えてしまった。

三年前、隆之は私のために精密な妊婦健診を手配したと言った。

連れて行かれたのは、彼の友人が経営している私立病院だった。設備がもっといいから、と。

健診のあと、医者は彼を長いこと外に呼び出して話していた。

戻ってきたとき、彼の表情はひどく複雑だった。

子供の発育に異常があって、このまま妊娠を続けると私の体に大きな危険がある、だから医者はできるだけ早く手術で妊娠を中断するよう勧めている、と彼は言った。

私は信じなかった。

報告書を見せてほしいと言った。

彼は報告書を私に渡した。専門用語がぎっしり並んでいて、私には読めなかった。

でも、一行だけ分かる言葉があった――「直ちに中絶を行うことを推奨」

私は泣きながら、どうにか他の方法はないのかと彼にすがった。

彼はしゃがみ込んで私の手を握り、初めて私の前で目を赤くした。

「沙希ちゃん、子供はまたできる。いちばん大事なのは君の命なんだ」

麻酔が打たれるときも、私はまだ泣いていた。

意識がぼんやりしていく中で、何かの声が聞こえた気がした。

とてもかすかな、まるで子猫の鳴き声みたいな音だった。

目が覚めたときには、すべて終わっていた。

隆之はベッドのそばに座っていて、目を真っ赤に腫らしていた。

「子供は助からなかった」と彼は言った。

私はまる一か月、泣き続けた。

ベビー用品店を見ることもできず、子供の笑い声を聞くこともできず、産婦人科の前を通ることさえできなかった。

彼は、もう子供はやめよう、体に負担が大きすぎると言った。

私はそれを信じた。

あの不格好な小さな帽子と一緒に、私が子供を産めるかもしれないという可能性も、全部消えてしまった。

もしあの子がまだ生きていたら――

今ごろ二歳半のはずだった。

私はスマホの画面を消した。真っ黒になった画面の反射に、自分の顔が映る。

ひどく見知らぬ顔だった。

記者を八年やってきた。殺人犯に取材したこともあるし、ねずみ講の巣に潜入したことだってある。どんな修羅場だって見てきた。

なのに今、私は自分の席に座っているだけなのに、四方八方が深海に囲まれているような気がした。

私は十回以上も深呼吸してから、隆之のLINEを開いた。

彼のSNSアカウントは、いつ見ても空っぽだった。

アイコンは初期設定のままの灰色で、プロフィールにはただ一言、「多忙」とだけ記されていた。

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