LOGINテレビ局で働いて八年、私はついにこの街で最も成功した自立した女性に単独インタビューできる機会を手にした。 取材相手はまだ若い女の子なのに、すでに上場企業二社を率いる女性社長だった。 カメラの前で、二十歳そこそこの若き女性実業家は頬を赤らめ、はにかんだ笑みを浮かべていた。 「実は、私が成功できたのって別に大した秘訣があるわけじゃないんです。全部、旦那が支えてくれたおかげで」 「この二社、私もう何百回も潰しかけたんですけど、そのたびに彼が立て直して、また私の名義に戻してくれるんです」 「いちばんいい愛って、相手を持ち上げてくれることだと思うんですけど、うちの旦那はまさにその言葉そのものです」 私は羨ましさで胸がいっぱいになり、彼女の夫が誰なのか尋ねた。 女の子は顎を上げ、誇らしげな顔をした。 「そちらのテレビ局の最大の出資者、伊藤隆之です」 そう言うと、彼女は洗いすぎて色褪せた私の仕事着に目をやった。 「あなた、仕事はできそうだし、あとで旦那に一言言っておきますね。部長にでも昇進させてもらえばいいじゃないですか」 その瞬間、私の手から力が抜け、握っていたマイクが床に落ちた。 女の子は口元を押さえてくすりと笑った。 「どうしたんです?昇進って聞いて、そんなに興奮しちゃった?」 私はきつく唇を噛みしめた。喉がひりついて、声が出なかった。 なぜなら、私と婚姻届を出した夫の名前も伊藤隆之(いとう たかゆき)で、しかも、このテレビ局の最大の出資者でもあったからだ。
View More小さな手が私の首に回される。ぎゅっと、強く抱きついてきた。「ママ、今日はどうしてこんなに早いの?」「会いたかったからよ」「ぼくもママに会いたかった!」私は彼を抱いたまま、車へ向かった。泣かなかった。もう、泣かなかった。……一年後。隆之に対し、一審で懲役十二年の判決が言い渡された。併合罪で、減刑なし。伊藤家は残っている資産を少しでも守るため、自ら私に財産分与の話し合いを持ちかけてきた。私が求めたのは三つだけだった。あの部屋。思希の親権。そして「Sakié」ブランドの完全な所有権。どれも、もともと私のものだ。取り戻す。ただそれだけだった。私は半年かけて、「Sakié」をあの滅茶苦茶な状態から立て直した。隆之にも頼らず、どんな投資家にも頼らずに。三年前に作ったあの企画書を引き出しの奥から引っ張り出し、商品ラインアップと価格戦略を一から組み直した。ゼロから一緒にやってくれる小さなチームも見つけた。最初の一か月で、売上は一億六千万円を突破した。三か月目には、最初の独立した資金調達にも成功した。何社かの記者が取材に来た。見出し案はこうだった――【下積み記者からブランド創業者へ。彼女こそ本当の自立した女性】私はその取材を断った。自立に、肩書きなんて要らない。誰かのお墨付きも、必要ない。あの部屋は、私は一度すべて改装した。私のものでないものは、何一つ残さず処分した。写真の壁だけは残した。でも写真は全部入れ替えた。私と思希の写真ばかりに。公園で撮ったもの、キッチンで撮ったもの、彼を肩車した私が、木の葉に手を伸ばさせているもの。どの写真も、笑っている。本当の笑顔で。思希は三歳半になった。鎖骨の下の赤いほくろも、まだそこにある。小さいけれど、はっきり分かる。あのほくろにどんな意味があるのか、彼はまだ知らない。大きくなったら話すかもしれないし、話さないかもしれない。ある夜、彼がふいに私の腕の中にもぐり込んできて、こう聞いた。「ママ、前のママはどこへ行ったの?」思穂のことだった。二歳半までは、彼女のことをママと呼んでいたのだ。私は一瞬、言葉に詰まった。「とても遠いところへ行ったのよ」彼はこくんと
併合罪だった。思穂もまた、上場企業二社の法定代表者として財務不正の疑いをかけられ、同じく立件されて捜査対象になった。彼女は警察署の前で記者のカメラに向かって泣き崩れた――「私、本当に何も分からなかったんです!全部、彼に言われるまま署名しただけで!」けれど、彼女に同情する者はいなかった。……隆之が拘置所に入って三か月目、私は一度だけ面会に行った。情が湧いたからじゃない。この耳で、彼の口からたった一つでも本当のことを聞くためだった。三年ものあいだ、私は彼の口から一度だって真実を聞いていない。本当に、一度も。ガラス越しに見た彼は、ひと回りもふた回りも痩せていた。拘置所の青いベストはぶかぶかで、顎には青黒い無精ひげがびっしり生えていた。目のくぼみは深く、白目には血の筋が広がっていた。私を見た瞬間、彼の唇がかすかに動いた。「沙希ちゃん」私の愛称だった。三年前まで、彼はそう呼んでいた。「その呼び方はやめて。用件だけ話して」彼は一度目を閉じた。開き直したその目には、薄く水の膜が張っていた。「あの日の手術で……子どもが取り上げられたとき、一度だけ泣いた。すごく小さな声だった。子猫みたいな声で」私の指先に力がこもった。あの日、麻酔が半分ほど切れかけたとき、私も何かを聞いた気がしていた。ひどく曖昧で、幻聴みたいな声だった。でも、あれは幻じゃなかった。私の子が、私を呼んでいたのだ。「俺は手術室の外に立っていて、その泣き声を聞いた瞬間、膝から崩れ落ちた。自分が許されないことをしているって分かってた。でも、もう止まれなかった。両親に言われたんだ。伊藤家は三代続けて一人息子しかいない、この代で絶やすわけにはいかないって。君の体では、この先もう子どもは望みにくいって。医者を手配したのは俺だ。手術内容を決めたのも俺だ。取り上げたあと、そのまま新生児科へ送らせた。君が目を覚ましたときには、あの子はもうその病院にはいなかった」彼はそういう話を、まるで書類でも読み上げるみたいに平坦な声で言った。なのに、手だけはずっと震えていた。「それで?」と私は聞いた。「それで、君には子どもは助からなかったと伝えた。中絶に失敗して、胎児死亡後の処置になったって。赤ん坊の物は全部
「やってみればいい」彼はそこで足を止めた。拳はきしむほど強く握り締められ、まるで鎖でつながれた獣みたいだった。けれど、動けなかった。私が言ったことは本当にやると、彼には分かっていたからだ。記者を八年やってきて、私にいちばん欠けていないものがあるとすれば、それは情報の流し先だった。彼の手元には金がある。でも、私の手元には証拠がある。この勝負は、彼の負けだった。……警察はすぐに来た。パトカーが二台、マンションの下に止まり、回転灯の赤と青が窓ガラスに交互に映り込んでいた。隆之は、これをただの家庭内トラブルとして処理させようとした。しかも一度、薄く笑ってさえみせ、現場を仕切る警部補に向かって、元妻は精神状態が不安定で、よく幻覚を見るのだと言った。そう口にするときの彼は、声も穏やかで、態度も落ち着き払っていた。まるで家族をなだめる、できた夫そのものだった。私は何も言わなかった。ただスマホを差し出した。取材動画。権利証の写真。三年前の妊婦健診のエコー報告書。手術同意書。白い紙に黒い文字、映像と音声、そのどれもを、一つずつ順序立ててきちんと揃えてある。調査記者を八年やってきた職業病だった――証拠の連なりは、口先よりずっと強い。「この子について、DNA親子鑑定を求めます」現場責任者の警部補は、その一連の資料を見てから、顔色を失っている隆之を見た。「ご協力をお願いします。事情を確認します」隆之は三本、電話をかけた。弁護士を呼んだのだ。弁護士は四十分ほど滞在し、その顔色は時間が経つほど悪くなっていった。最後には隆之を脇へ連れていき、低い声で何かを言った。はっきりとは聞こえなかったが、おおよその意味は分かった。あの取材動画が表に出たら、もう刑事責任だけでは済まない、ということだ。上場企業二社の実質的支配者の偽装、関連当事者取引、虚偽開示――金融当局が必ず動く。弁護士は帰っていった。隆之はリビングの真ん中に立ち尽くし、初めてどうしていいか分からない人間の顔を見せていた。警察は供述を取っていた。思穂はソファに座り込み、化粧はすっかり崩れていた。彼女は警察に向かって、何度も同じことを繰り返していた――「知らなかったんです……体外受精だって言われていて……戸
「だって、何度も取り寄せたはずなのに……そのたびに、あなたが人に頼んで手配したって……」彼女ははっとしたように顔を上げた。「どうして毎回、私を役所に行かせなかったの?」隆之の口元がぴくりと引きつった。答えはもう、その顔に出ていた。私は一本、電話をかけた。スピーカーに切り替える。二回コールしただけで、相手は出た。「沙希さん?どうしたんですか?」調査報道の仕事で知り合った、役所勤めの知人だった。「ちょっと確認してほしいの。伊藤隆之と小林思穂、この二人に婚姻登録の記録があるかどうか」思穂の目がかっと見開かれた。隆之の腕にすがりつくようにしがみつく。隆之はスマホを奪おうと一歩踏み出したが、私は身をひるがえして二歩下がった。電話の向こうでキーボードを叩く音がして、それから数秒の沈黙。「ありません。小林思穂さん名義では、婚姻登録の記録は一件もなしです」「伊藤隆之さん名義には一件あります――登録相手は寒川沙希さん」「沙希さんのことですね。現在の状態は、婚姻継続中です」スマホ越しのその声が、静まり返ったリビングに響いた。まるで判決の言い渡しだった。思穂の膝から力が抜けた。立っていられず、ローテーブルの縁に手をついたまま、ずるずるとその場にしゃがみ込んでいく。まるで中身の抜けた服みたいだった。「そんな……」唇が震え、声はばらばらに砕けていた。「だって、ちゃんと戸籍謄本も見せてもらってたのに……何度も破ったから、そのたびに取り寄せたって言ってたし……」「あなたが見せられていたその書類は」私は彼女を見下ろして言った。「全部、偽物よ」「戸籍謄本の取得には本人確認がいるし、そんなものを毎回代わりに用意したなんて話、おかしいと思わなかったの?一度でも自分で役所に行って確認しようとしなかったの?」彼女は口を開けたまま、浅瀬に打ち上げられた魚みたいに息をしていた。「彼に破れと言われれば、あなたは破った。破ればまた、偽物を一冊作って穴埋めする。それを何度も、何度も繰り返した。あなたが破っていたのはただの紙で、彼が演じていたのは芝居だったのよ。あなたは最初から最後まで、一度だって伊藤夫人になんかなれていなかった。住んでいたのは私の家。使っていたのは私のブランドのデザイン。育てていたの
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