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第954話

Author: 夜月 アヤメ
彼女に違いない、絶対に若子だ!

あの男は誰だ?一体若子に何をした?

修の目には、あの男が若子をここに連れてきたようにしか見えなかった。

若子がどれほどの苦しみを受けたのかも分からない。

修は考えれば考えるほど、動揺と焦りで頭がいっぱいになった。

部下が周囲を確認していた。

この家は簡単に入れない。どこも厳重に警備されていて、爆破しないと入れない状態だった。

突然、監視カメラの映像に映った。

男が女をソファに押し倒したのだ。

その瞬間、修の怒りが爆発した。

若子が襲われていると誤解し、理性を失った彼は即座に命令を出した。

「扉を爆破しろ、早く!」

......

ソファの上で、ヴィンセントは若子の上から身体を起こした。

「悪い」

「大丈夫、気をつけて」

さっきはヴィンセントがバランスを崩してソファに倒れ、その勢いで若子も倒れたのだった。

ヴィンセントが姿勢を整えると、若子は言った。

「傷、見せて。確認させて」

彼女はそっと彼の服をめくり、包帯を外そうとした。

―そのとき。

ヴィンセントの眉がぴくりと動いた。

鋭い危機感が背中を駆け抜けた次の瞬間、彼は若子を抱き寄せ、ソファに倒れ込ませた。

「きゃっ!」

若子は驚き、思わず声を上げた。

何が起きたのか分からず、反射的に彼を押し返そうとしたが―

その瞬間、「ドンッ!」という轟音が響き、爆発が扉を吹き飛ばした。

煙と埃が宙に舞い、破片が飛び散る。

ヴィンセントは若子をしっかりと抱きかかえ、その身体で彼女を庇った。

その眼差しは鋭く、まるで刃のようだった。

若子は呆然としながら言った。

「何が起きたの?あなたの敵?」

もし本当にそうだったら―

この状況は最悪だった。

ヴィンセントはまだ傷が癒えていない、今の彼に戦える力があるか分からない。

「怖がらなくていい。俺が守る」

その声は強く、闇を貫くように響いた。

彼はもうマツを守れなかった。

今度こそ、若子だけは―何があっても守り抜く。

扉が吹き飛んだあと、黒服の男たちが銃を持って突入してきた。

「動くな!両手を挙げろ!」

ヴィンセントはそっとソファの上にあった車のキーを手に取り、若子の手に握らせた。

そして、彼女の耳
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