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第955話

作者: 夜月 アヤメ
若子が生きていると確認して、修はようやく安堵の息を吐いた。

これまで幾度となく、彼女を探し続けるなかで何度も遺体を見つけ、そのたびに胸が潰れそうな絶望を味わった。

けれど、若子だけは見つからなかった。

代わりに、他の行方不明者ばかりが見つかった。

そして今ようやく、彼女を見つけた。

彼女は―生きていた。

だが彼女がどんな目に遭っていたのか、想像するだけで胸が痛んだ。

「修......なんであなたが......?」

若子は信じられないような目で彼を見つめた。

「どうしてここに?」

まさか来たのが修だったなんて、夢にも思わなかった。

ヴィンセントは目を細めて振り返った。

「この男......テレビに出てたやつじゃないのか?君の前夫だろ?」

若子はうなずいた。

「うん。彼は......私の前夫よ」

修が来たと分かって、若子は少しだけ安心した。

「若子、こっちに来い!」

修は焦った様子で手を伸ばした。

「修、どうしてここに......?」

「お前を助けに来たに決まってるだろ!お前がいなくなって、俺は気が狂いそうだった!」

「わざわざ......私のために......?」

若子は、てっきりヴィンセントの敵が来たのだと思っていた。

「若子、早く来い!そいつから離れて!」

「修、違うの!誤解してる!彼は......ヴィンセントって言って、彼は......」

若子が話し終える前に、修は彼女を後ろへ引っ張り、銃を構えてヴィンセントに発砲した。

ヴィンセントはまるで豹のような動きで避けたが、すぐに更なる銃弾が飛んできた。

すべての男たちが一斉にヴィンセントへ発砲を始めた。

彼はテーブルの陰に飛び込んで避けたが、ついに銃弾を受けてしまった。

「やめて!」

若子は絶叫した。

銃声が激しく響き、彼女の声はかき消されていった。

「修、やめて!」

彼女は必死に彼を掴んで叫んだ。

「撃たせないで、やめて!」

「若子、お前は何をしてるんだ!?あいつは犯罪者だぞ!お前を傷つけたんだ、正気か!?」

修には、なぜ若子がヴィンセントを庇うのか理解できなかった。

「彼は違う、彼はそんな人じゃない......!」

「違わない!」

修は彼女の言葉を遮った。

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コメント (3)
goodnovel comment avatar
patora
若子いつも中途半端な言葉でおわる。 「私を助けてくれた人なの!」って 大で叫び それから事情を話して誤解を解いていけば いいのに
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barairose88
この非常事態の段階でも、若子の思考回路がまだ非修モードになっているのが信じられないです。 飲んだくれて当たり散らしている西也とは違い、命を賭して探していた修… 若子の命を大切に思うその熱き思いと真摯な行動を、ちゃんと理解ってほしい…切実にそう思います。 
goodnovel comment avatar
シマエナガlove
助けにきてくれて あの場面みたら勘違いするし 相手は危険な犯罪者だよ 修が話聞かないのは仕方ないのでは 若子犯罪者庇うのもいい加減にしないと これで修が呆れて離れるのを願ってる
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