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第3話

Author: クレヨンブタちゃん
私は慌てて弁解した。翔太の目に、冷酷な光が宿るのが見えたからだ。

「おい、誰か来い」

屈強なボディガードがふたり入ってくる。翔太は歯を食いしばって言った。

「言ったはずだ。理乃には誰にも指一本触れさせないと。お前でもだ!

鍋の味噌汁を、全部こいつの手にぶちまけろ」

そう言い捨てると、泣きじゃくる悠実を抱き上げて出ていった。

「やめてッ!」

私は声を張り上げた。

「翔太、私が理乃なの!ちゃんと私を見て!」

けれど、翔太には届かない。足早に去っていく背中は、どんどん遠ざかっていく。

目の前のボディガードはすでに鍋を持ち上げ、こちらへ歩み寄ってくる。逃げようとしたが、もうひとりに両手を押さえ込まれた。

「いや、放して!私が小寺理乃なのよ、こんなことして許されると思ってるの!」

ボディガードの口元に、蔑むような笑みが浮かんだ。

「奥島さん、小寺社長のご命令ですので。我々にはどうしようもありません」

言い終わるや否や、煮えたぎる味噌汁が、私の両手に降り注いだ。

激痛が走る。数秒と経たないうちに、私は意識を失った。

目を覚ますと、翔太がベッドの脇に座っていた。顔色は優れない。私が目を開けたのを見て、彼は不機嫌そうに口を開く。

「面白くないのはわかってる。でも言っただろ、理乃は俺の命なんだ。あいつに手を出すな」

言い終えるや、彼は私の首に手をかけた。もがいて起き上がろうとしたはずみで、包帯を巻かれた両手に激痛が走る。

私の苦痛に歪んだ顔を見て胸が痛んだのか、翔太は不意に手の力を抜いた。私は荒く息をつく。

「悠実、おとなしくしてろ。お前が俺の女でいることは許してやる。だが、もう一度言うぞ。理乃の前で騒ぎを起こすな」

険しい顔のままだったが、その口調はいくぶん和らいでいた。

私は涙といっしょに、笑いをこぼす。

「翔太、もし私が理乃だって言ったら、あなたはどうする?」

目の前の男の瞳が、一瞬、はっきりと揺れた。けれどすぐに口の端を歪める。

「悠実、俺の気を引きたいなら、理乃のふりなんてしなくたっていいんだぞ」

心がひとつ、またひとつと砕けていく。わからない。どうして、ひとつの心でふたりの女を同時に愛せる男がいるのだろう。

「ほら、もう泣くな」

翔太が私の涙を拭った。

「今回の罰は、少しやりすぎたかもな。この前、理乃がしてるのと同じ結婚指輪が欲しいって言ってただろ。急ぎで特注したから、お前にやる」

翔太は背後から小さな箱を取り出し、蓋を開けた。中に収まっていたのは、私がデザインした結婚指輪とまったく同じものだった。涙が、とめどなくこぼれ落ちる。

「なんだよ、嬉しくて泣いてるのか」

そう言って、彼は私の布団を整えた。

「手が治ったら、俺がはめてやる。理乃は怪我したばかりで、睡眠薬を飲ませるのは体に障るからな。今日はゆっくり休め。無理はさせないよ」

そうだったのか。いつもの段取りとは、私に睡眠薬を飲ませ、ぐっすりと眠らせて、その隙にふたりで人目を忍んで会うためのものだったのだ。

さーっと血の気が引き、全身が凍りついたように冷たくなった。

部屋を出ていく翔太の背中を見送り、私は深く息を吸う。そして、こっそりと後を追い、主寝室の前まで行く。扉は、きちんと閉まっていなかった。

部屋の中から、「私」の声が聞こえてくる。

「悠実のところに行ってきたんでしょう?あの子、どうだった?」

翔太の声には、不満がにじんでいた。

「そんなに優しくしなくていいんだ。あいつのせいで怪我したんだぞ。たっぷり痛い目に遭わせてやったからな」

悠実がこちらをちらりと見やり、それから聞き分けのいい妻を装って言った。

「でも悠実は、あなたと小さい頃からずっと一緒に育ったのよ。私のために仲違いなんてしないで。ただの軽い火傷だし、医者も大丈夫だって言ってるもの」

翔太は彼女のベッドの縁に腰かけ、そっと腕の中に抱き寄せた。

「理乃、お前は俺が出会った中で、世界一の妻だ。永遠に愛してる!」

悠実の目に、一瞬だけ、嫉妬と憎しみがよぎる。だがすぐにそれを柔らかな色に塗り替え、優しい声で言った。

「……私も愛してるわ」

そして、唇を重ねた。

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