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第4話

Author: クレヨンブタちゃん
情欲に駆られながらも、翔太は悠実の手の怪我を案じていた。

「理乃、手が……」

悠実は彼のシャツのボタンを外していく。

「平気よ。あなたが楽しんでくれれば、それでいいの」

やがて、ふたつの影がもつれ合った。

突然、猛烈な吐き気がこみ上げた。私は扉の前で何度かえずき、よろめきながらゲストルームへ戻った。

テーブルの上に置かれたダイヤの指輪が目に入った。

私はそれを乱暴に払いのけ、そのままゴミ箱へ落とした。

もう、人も物も、何もいらなかった。

……

翌朝。部屋を出ると、翔太が悠実を支えながら階段を下りてくるところだった。彼は、私の顔をまともに見ようともしない。

悠実は翔太を軽く小突いて、柔らかな声で言った。

「悠実、昨日はわざとじゃなかったって、ちゃんとわかってるわ。翔太も、あんなに厳しく罰しなくてもよかったのにね。私からきつく言っておいたから、もう怒らないで」

相手にしたくなかった。けれど、翔太の剣呑な視線がこちらを射抜いた。ここで話を合わせなければ、また罰を受ける。そう悟って、私は仕方なく口を開く。

「……わかってる」

悠実は嬉しそうに笑った。

「じゃあ、みんなでオークションに行きましょう。翔太が、気晴らしに何かプレゼントしてくれるって。悠実も一緒に行こう?」

翔太はいつものように渋った。

「なんでわざわざ、こいつまで連れて行くんだ」

悠実が彼の手を揺すって甘える。

「いいじゃない、みんなで行こうよ」

翔太は彼女の鼻先を軽くつついた。

「わかったわかった。お前の言う通りにするよ」

悠実が、意味ありげな視線をこちらに向けてきた。私は黙っていた。

オークション会場では、悠実と翔太が当然のように最前列に腰を下ろした。私も並んで座ろうとしたそのとき、悠実が不意に言った。

「悠実、後ろの席にしたら?ここ、全部ペアシートだから」

私はじっと翔太を見つめた。彼は小さくうなずくだけだった。

「後ろに行け。目障りだ」

「……わかった」

騒ぎ立てはしなかった。ウェイターに案内されるまま、いちばん後ろの隅の席まで、おとなしく歩いていった。

休憩時間、お手洗いから出たところで、私は翔太に腕を引かれて、物陰に連れ込まれた。

「浮かない顔しやがって。ほら、お前にジュエリーを一式、競り落としてやったぞ。お前のはメインのネックレスで、あいつのはサブだ」

彼の手がいやらしく私の尻へ伸びてきたが、私はさりげなく身をかわした。

「これなら、お前のほうが上だろ?少しは機嫌が直ったか?」

私は無理に口の端を持ち上げた。

「……うん」

そして間髪入れず、バッグから1通の書類を取り出した。

「私ね、越山市にあるあの豪邸が欲しいの。プレゼントしてくれたら、もっと嬉しいんだけどな」

翔太が一瞬黙り、中身に目を通そうと書類をめくりかける。心臓が口から飛び出そうだった。そのとき、外から悠実が彼を呼ぶ声が響いた。翔太は即座にペンを受け取り、署名欄にサインした。

「お前が嬉しいなら、それでいい」

書類を私に返すと、翔太はすぐさま出ていって、悠実の肩を抱き寄せた。私は踵を返し、その足で役所へ向かった。

離婚届を提出し、必要な手続きを済ませ、私は離婚届受理証明書を、そっと胸に抱えた。

帰り道、スマホが「ピコン」と鳴る。翔太からのメッセージだった。

【どこに行ったんだ?理乃がウェディングフォトを撮りたいって言うから、お前も来い。あいつの撮影が終わったら、そのあとお前とも撮ってやる】

続けて、ブライダルショップの住所が送られてきた。

胸が詰まった。涙で画面の文字がにじんでいく。

私たちは、ここで終わりよ、翔太。

邸宅に戻り、必要なものだけをまとめた。それから1通の手紙を用意して、宅配業者に頼み、すぐ翔太のもとへ届けてもらうことにした。

スーツケースを提げて出ていくとき、私は3年間暮らした家を、最後にもう一度だけ振り返った。

さようなら。

一方そのころ、ウェディングフォトを撮っていた翔太は、胸の奥にうっすらと不安を覚えていた。そこへ、入口のほうから配達員の声が響く。

「小寺翔太さんにお荷物でーす!」

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