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第2話

Author: キヒロ
死亡届の手続きを終えた帰り道、ついでに遼の写真を一枚現像し、祭壇用に白黒の遺影を作った。

神谷家に戻ると、偶然にも遼が美琴を連れて帰ってくるところに出くわした。

その後ろには、頬を赤らめた二人の子どもが続いており、まるで本物の家族のように見えた。

私を見るなり、美琴は恥じらったように微笑みながら言った。

「義明がどうしても私と離れたくないって言うから、病院にはもう戻らず、家で静養することにしたの」

二人の視線が絡み合い、空気が甘く粘りつく。私は吐き気をこらえながら笑顔を作り、彼女はようやく声を絞り出し、「美月は、どこへ行っていたんだ?」と尋ねた。

私は手にした白黒写真を掲げ、明るく笑った。

「遼の遺影を現像してきたのよ」

その場の空気が凍りついた。彼らの顔色が見る間に変わっていく。

特に遼の顔は真っ黒に染まり、恐ろしいほどだった。

「美月!一体何をしている!この前は医者を呼んだかと思えば、今度は霊媒師。挙句の果てには遺影まで用意したのか!」

「義明さん、遼はもう死んだのよ。お葬式を出しちゃいけないの?

そうだ、葬儀はいつ?遺骨はいつ受け取るの?」

私は一言ずつ、静かに突きつけた。

彼は言葉を詰まらせた。

その瞬間、後ろにいた息子が突然飛び出してきて、全力で私を突き飛ばした。

彼は床に倒れた私の手から写真を奪い取ると、泣きながらそれを引き裂いた。

「パパの写真なんて見たくない!見たくない!」

遼は息子を抱き寄せ、冷たく言い放った。

「美月、これが最後だ。次にまたそんな真似をしたら、この家から出て行け」

息子は父の腕の中で得意げに私を見上げ、遼はその目に優しく応える。

その一瞬の視線のやりとりが、私の位置からははっきり見えた。

やっぱり親子だ。息もぴったり、見事な共演だった。

けれど、私ももうこの家に未練はなかった。

手のひらの擦り傷も構わず、よろめきながら部屋へ駆け戻った。

タンスを開け、スーツケースの隙間に隠していた古いSIMカードを見つける。

差し替えて電源を入れると、携帯の画面には数百、数千もの未読メッセージが溢れ出した。

私は唯一登録されている連絡先を押した。

「源さん、家に帰りたい」

スピーカーの向こうで、かすれた声が震えた。

「美月……か?

まさか、本当に……?何も言わずに消えて……この七年、ずっと君を探していたんだ。心配で、怖くて……」

私は彼の言葉を遮った。

「源さん、今、上江市にいる。迎えに来て」

「わかった。三日後、迎えに行く」

電話を切ったあと、私は長い間ベッドの端に座り込んでいた。

壁に掛かっているのは、私と遼のただ一枚の結婚写真。

七年の間、ずっとわからなかった。

どうして、あの川辺で私が助け、一緒に笑って酒を飲んだあの少年が、こんなにも冷たい人間になってしまったのか。

額縁を外すと、ふいに一枚の写真が滑り落ちた。

拾い上げると、それは美琴のウェディングドレス姿の写真の破れた半分だった。

満面の笑みが写るその写真を、震える手でを結婚写真の上に重ねる。

ぴたりと合った。

なるほど、これが現像された理由か。私の写真ではなく、彼女のための一枚だったのだ。

写真の裏には、見覚えのある字でこう書かれていた。

【この人生で、君以外に俺の隣に立つ資格のある者はいない】

涙がこぼれ落ち、止まらなかった。

写真を握りしめ、私は衝動的に遼のもとへ行こうとした。

気づけば足は仏堂へ向かっていた。

だが、そこは静まり返り、空虚な空気が漂っていた。

そうだ、もう彼は「仏子」である必要もなくなったのだ。

私は狂ったように仏堂の中を荒らし回り、ついに蒲団を持ち上げたとき、暗がりの中には美琴の写真がぎっしり詰っていることに気づいた。

「……っ!見つけちゃったのね」

背後から聞こえた声に振り向くと、美琴が立っていた。

その顔には嘲るような笑みが浮かんでいた。

「全部、知ってたのね」

私は震える声で言った。

「どっちのこと?遼が義明のふりをしてたこと?それとも、この写真のこと?」

彼女は私の言葉に酔うように笑い続けた。

「これ全部、彼が苦労して集めた写真よ。どれも、私が彼のために撮ってあげたの。

一枚一枚に、彼の精液がかかってるの」

美琴が笑って言った。

私を見下ろすその目は、まるで見世物を眺める観客のようだった。

そうか。七年間、どんなに着飾っても拒絶された理由はこれだったのか。私はただの、滑稽な道化だったのだ。

「あなたが去ったあと、彼はいつもそれらの写真を見て『慰めて』たのよ」

吐き気がこみ上げた。

彼女は笑いながら、私が殴りかかるより早く、私の体を押し倒した。

そして、手に持ったライターをくるくると弄びながら言った。

「ねえ、この仏堂が燃えたら、遼はあなたを助けるかしら。それとも……

それらの写真を守るかしら?」

彼女はそう言って、ライターに火をつけ、手にした布を燃やすと、それを私の目の前に放り投げ、ゆっくりと扉を閉めた。
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