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第3話

Author: 涼木
ぼんやりする意識の中で、夢乃が私に向かって不気味な笑みを浮かべるのが見えた。

「白井さん。景翔さんの言ったこと、聞こえなかったの?」

夢乃がこちらへ歩いてくるのを見ても、私はどうすればいいのか分からなかった。

その瞬間、彼女は私の膝を思い切り蹴りつけた。

私はたちまち体勢を崩し、手にしていた酒は赤城と呼ばれるその男の顔へまともにかかった。

次の瞬間、私は砕け散ったガラス片の上へ倒れ込み、腕にはたちまち幾筋もの切り傷が走る。

視線の先には、床に倒れた女の青白く歪んだ顔が映った。

耳元では夢乃の甲高い声が響く。

「白井さん、お酒を注ぎたくないなら最初からそう言えばいいじゃない。わざとバカな真似をして赤城様を怒らせるなんて、景翔さんの奥さんとして恥ずかしくないの?」

赤城は一瞬あっけに取られたが、何かに気づいたように目を見開いて私を見た。

「お、お前が......唐木さんの奥さんなのか?」

私は何も答えなかった。

ただ床に座り込んだまま、体も心も痛みで息が詰まりそうだった。

赤城が私の腕をつかもうと手を伸ばした瞬間、その腕を景翔が力強くつかんだ。

血まみれの私を一瞥した彼の目には、陰のある冷たい光が宿る。

そして赤城を睨みつけ、低く言い放った。

「失せろ」

その迫力に赤城は気圧され、悔しそうに舌打ちしながら部屋を出ていく。

「このイカれ野郎!よりにもよってお前の嫁だったなんて......手ぇ出して損したぜ!」

赤城の姿が消えると、私は立ち上がって部屋を出ようとした。

だが、またしても大きな手に腕をつかまれる。

「何得意げになってる。島での2年間で、何も学ばなかったのか?

酒を一杯注ぐだけで終わる話だった。俺がお前に酒を注がせたのは、この件をそこで終わらせるためだったって、分からなかったのか!」

怒りを露わにする景翔を見つめ返したのは、真っ赤に充血した私の目だった。

そして私は、もう耐えなかった。

「なにそれ。私はあなたの妻よ。最初から私の身分を明かしていれば、それだけで終わった話でしょう?!」

私の言いたいことは明白だった。

夢乃の前で見栄を張り、自分の虚栄心を満たしたかったからこそ、彼は最後まで私の正体を明かさなかったのだ。

痛いところを突かれた景翔は、わずかに視線を逸らした。

夢乃は彼をかばおうと口を開いたが、景翔は珍しく眉をひそめ、鋭く制した。

「もういい。君は先に車で待っていてくれ」

足音が遠ざかると、彼は小さくため息をついた。

「......悪かった。でも、一つだけ説明させてくれ。あの『卵入れゲーム』、俺は本当に何も知らなかった。知っていたら、最初から了承なんてしなかった。

それから夢乃のことだけど......分かってやってほしい。帰国したばかりで、俺が結――」

そこで彼は急に言葉を切った。

けれど、その続きを聞かなくても分かる。

夢乃は、彼が結婚していたことを知って傷つき、その腹いせに私を苦しめた。

だから許してやってほしい――そう言いたかったのだ。

視線が交わる。

私の目に浮かぶ嘲りを読み取ったのか、彼はもう一度ため息をついた。

「この件はもういいだろう。怪我もしているし、運転手に病院まで送らせる。夢乃の様子がおかしいから、俺はあいつを見に行く。話は帰ってからにしよう」

私が返事をする間もなく、彼はさらに続けた。

「今回は最後までやり遂げなかったが、『許し券』1枚分として数えていい」

そう言い残し、彼は振り返ることなく去っていった。

その背中を見送りながら、私は今も血の流れる額にそっと触れ、大きく笑った。

もう、どうでもよかった。

あと2回。恩を返し終えたら、私はここを去る。

もう二度と、彼に傷つけられることはない。

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