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第979話

Author: かおる
怜央は、余裕たっぷりに言った。

「我々司馬家は、雲井家のパートナーだ。

こういう場に、当主の俺が来ないわけないだろ?」

そう言って、彼は、端正に腰掛けている仁志へと、一瞥を投げた。

あの日、病院に潜り込んだ男が、彼であることは、怜央もすでに確信している。

ただし――

仁志が、どんな理由で星を助けたのか。

そこまでは分からなかった。

そして、星の様子を見る限り、彼女は、仁志の本当の素性を、まだ知らないようだった。

怜央は、わざわざそれを教えるほど、愚かではない。

もし、仁志の正体が、星に知られたらどうなるか。

この女が、利益になる後ろ盾を、黙って見逃すはずがない。

怜央は、それを、よく分かっていた。

星の表情は、次第に静まり返っていく。

彼女は何も言わず、ただ、怜央を見つめていた。

怜央は、彼女のそばまで歩み寄り、軽く身を屈める。

二人にしか聞こえない声で、囁いた。

「星。

俺がお前の手を潰したところで、何か変わると思うか?

雲井家の連中は、俺を責めるどころか、上客として扱うだろう。

誰も、お前のために、正義を求めたりはしない。

この件を、問題にすらしない。

たとえ、俺がどれだけ酷いことをしても、誰も俺に手を出さない」

怜央は、薄く笑う。

「彼らの心の中では、きっと......

お前が悪い、そう思っているはずだ」

その声は低く、静かだった。

だが、一言一言が、鋭い刃となり、正確に、星の胸を貫いていく。

怜央は、ふいに笑みを深めた。

「それにしても、まさか、俺の前に、また姿を現すとはな。

前回の教育が、足りなかったか?

さて、次は、何をして遊ぼうか」

その視線は、星の顔に注がれ、声は、異様なほど、優しかった。

「――顔を潰す遊び、どうだ?」

次の瞬間。

乾いた音が、空気を裂いた。

「パンッ!」

小さくはない音に、周囲で談笑していた人々が、一斉にこちらを振り向く。

澄んで冷たい声が、響いた。

「司馬さん。

命拾いしたばかりなのに、まだ懲りていないようですね。

本当に、死にたいとしか思えません」

怜央は、信じられないものを見るように、目を見開いた。

自分を見て、怯え震えるどころか。

泣き崩れるどころか。

――平手打ち、だと?

周囲の人々も、騒然となる。

相手は、司馬家の当主だ。

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