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第5話

Author: スウちゃん
正樹が突然現れるとは思っていなかった。玲奈も一瞬、言葉を失ったが、すぐに平静を取り戻した。

「……友達が最近離婚したって話だよ」

玲奈の表情があまりにも淡々としていたからだろう。正樹も、それ以上深く考えなかった。

「そうか。それより、今日退院だよね?最近、新しいプロジェクトが動いてて、残業続きだったんだ。あまり顔を出せなくて、ごめん……」

平気で嘘をつく正樹を見つめ、玲奈は目を細めた。

「忙しいなら、無理して来なくていいよ。自分の面倒くらいできるから」

それは本心だった。けれど正樹には、玲奈が怒っているように聞こえたらしい。「本当にごめん。でも、仕事もだいぶ片付いたから、これからは一緒にいてあげられるよ」

そう言って、正樹は退院の手続きを済ませると、玲奈を連れて家へ帰った。

その後、正樹は「退院祝いだ」と言って、秘書にいくつものブランドバッグを用意させた。

「好きなものを選んでいいよ」

目の前に並べられた高価なバッグを見ても、玲奈の表情は変わらなかった。

「……いらない」

淡々と断る玲奈に、正樹は少し困ったような顔をした。

「なら、別のものを用意させるよ。何が欲しい?アクセサリー?洋服?……いや、どれも用意しよう。きっと、気に入るものがあるから」

そこまで言われても、玲奈の心には何の波も立たなかった。

3年間。正樹は記念日や誕生日、クリスマスになるたび、大量のプレゼントを贈ってきた。

同じようなロゴ。似たようなデザイン。気づけばクローゼットはそれらで埋め尽くされ、まるで高級ブランド品の倉庫のようになっていた。

あの頃の玲奈は、それも正樹の愛情だと思っていた。自分の好みとは少し違っていても、正樹が選んでくれたものなら喜んで受け取った。

けれど――

今日になって、ようやく分かった。

正樹は、自分が何を好きなのかすら知らない。知ろうとしたこともない。ただ、値段の張るものを選んでおけば、間違いはないと思っていただけなのだ。

だから玲奈は、今度こそはっきりと言った。

「何もいらない。これからは、こういうものを送ってくれなくていいし、正樹も、気を遣わなくていいから」

こう言われたのは初めてだ。正樹の胸の奥に、得体の知れない不安が広がっていく。

「いや、でも……玲奈は俺の家族だ。家族にプレゼントを贈るくらい、当たり前じゃないか。何をそんなに遠慮してるんだ?」

もし、もう家族じゃなかったら?

玲奈は、心の中で静かに呟いた。

――正樹、あなたは気づかないうちに、離婚届には署名したんだよ。

……

それから数日間、正樹はほとんど出かけることなく、ずっと家にいた。

玲奈もまた、少しずつ荷物を整理し始めた。

もう使うことのない化粧品や服。正樹のために買ったスーツや髭剃り。お揃いのマグカップ、一緒に撮った写真……

気づけば、処分したいものは思っていた以上に多かった。

玲奈が突然、荷物を片づけ始めたことに、正樹も驚いたようだった。理由を聞こうとしたそのとき、スマホが鳴った。

花織からの電話だと気づいた瞬間、正樹の意識はそちらへ向いた。

「……もしもし?」

電話を取るなり、正樹はそのまま部屋を出ていく。

玲奈も、画面に表示された名前は見えていた。

――花織のところへ行くのだろう。

そう思って正樹の背中を見送ると、処分したいものを全部、ゴミ袋へ放り込んだ。

片づけを終えた直後、スマホが鳴った。

正樹の秘書からだった。

「奥さん、すぐにナイトラッシュというクラブへ来てください!社長が……大変なことになっています!」

いつも冷静な秘書が、珍しく取り乱していた。

玲奈は眉を寄せたが、やはりバッグを手に取って出かけた。

タクシーを拾い、車内でナイトラッシュについて調べた。

どうやらそこは、会員制のドライビングクラブらしい。

――正樹は花織のところへ行ったはずだ。どうしてこんな場所に……

疑問を抱えたまま、玲奈は現場へ急いだ。

クラブに到着して、目の前に立つもう一人の男を見た瞬間、玲奈はすべてを理解した。

――宮川駿(みやかわ しゅん)。

花織が大学時代に付き合っていた男だ。酒と煙草を好み、喧嘩も、無茶な運転も平気でするような人物。

2人が別れたあとも、駿が何かと花織につきまとっている――そんな噂を玲奈も聞いたことがある。

おそらく、今は何かの事情で落ちぶれて、また花織に付きまとっているのだろう。

そう思った。

そして、実際のところも、それほど外れてはいなかった。

駿は正樹に、レーシングスーツを放り投げた。

「花織は、お前みたいな真面目ぶった御曹司なんか好きじゃねえんだよ。刺激のない毎日より、危険なことやスリルのあることを楽しみたい女なんだ。

お前、花織を守るとか偉そうなこと言ってたよな?だったら、俺と一勝負しろ。負けたほうは――二度と花織に近づくな」

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