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この人生、昔の恋にはもう囚われない

この人生、昔の恋にはもう囚われない

Oleh:  菜々子08Tamat
Bahasa: Japanese
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私、鷲尾朱音(わしお あかね)は、交通事故で重傷を負った。夫と親友は、私が思い詰めないようにと、片時も離れずに看病してくれた。 二人の献身に胸を打たれ、私は懸命にリハビリに励んでいた。 そんなある日、開設したばかりのネットショップに、こんなメッセージが届いた。 【厄除けのお守りブレス、もう少し早く発送してもらえませんか?悪いことをしてしまって……罪滅ぼしに贈りたいんです】 不思議に思った私は、尋ねた。 【何の罪を償うんですか?】 すると、すぐに返事が届いた。 【親友の夫を二人も奪ってしまったんです……】 【でも、本当にわざとじゃなかったんです……彼女の最初の夫は、禁欲的なタイプの医師で、私の好みど真ん中だったんです。どうしても我慢できず、彼女が妊娠中なのに、その医師と寝てしまいました。やがて彼女は夫の浮気に気づき、離婚して中絶したのに、私が相手だとは疑いもしませんでした。私も、もう二度と彼女を裏切らないと誓ったんです】 【ところが、彼女の二人目の夫はもっと格好よくて、しかも金持ちの社長。私はまた惹かれてしまいました。一度きりで終わらせるつもりだったのに、関係を重ねるうちに、どんどんのめり込んでしまったんです】 【先月、スリルを味わいたくて、彼女に睡眠薬を盛り、車の後部座席で眠らせて、私たちは前の席で体を重ねました。ところが、突然交通事故に遭い、私たちはその場から逃げ出したんです。彼女は右脚を切断され、流産したうえ、大量出血の末に子宮まで摘出することになったんです。罪悪感でいっぱいなのに、真実を打ち明ける勇気もなくて、せめて何かで償おうと思ったんです】 そのあまりにも身に覚えのある話に、胸の奥がかすかに震えた。 次の瞬間、発送通知が届いた。宛先を目にした瞬間、私は一瞬にして凍りついた。 そこに記されていたのは、私の一番の親友、片瀬亜莉紗(かたせ ありさ)の名前だった。

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Bab 1

第1話

画面に映し出された内容を、私は食い入るように見つめていた。

指先が震え、マウスを握ることさえできなかった。

右脚の断端に残った骨がずきずきと痛んだ。けれど、その痛みなど、胸の痛みの万分の一にも満たなかった。

どうして……?

この1か月、亜莉紗は昼も夜もそばにいて、水を飲ませ、食事まで口元に運んでくれた。

夫の鷲尾晴臣(わしお はるおみ)も仕事を断り、つきっきりで看病してくれた。体を拭くのも、身の回りの世話も、すべて彼がしてくれた。

この二人の存在だけが、暗い日々に残された光だった。

それなのに、どうして二人がこんなことを?

信じていた二人に裏切られた現実が、受け止めきれないほどの衝撃となって全身を襲った。

息が詰まり、うまく呼吸ができない。

震える手でスマホを取り出し、元夫の西園寺和真(さいおんじ かずま)に電話をかけた。

すぐにつながり、受話口から少し嬉しそうな声が聞こえてきた。

「もしもし、朱音……」

「和真。あのとき、あなたが浮気してた相手って、亜莉紗だったの?」

挨拶もそこそこに問い詰めると、和真は黙り込んだ。

その沈黙が、何よりはっきりした答えだった。

胸が張り裂けそうに痛み、心の奥まで震えた。

長い沈黙のあと、和真はようやく口を開いた。

「そうだよ、朱音。あの頃の俺はどうかしてた。本当に後悔してる。

ずっと本当のことを話そうと思ってたんだ。でも、亜莉紗が言ったんだ。

自分を裏切ったのが一番の親友だったって知ったら、朱音はきっと耐えられない。ショックで立ち直れなくなるって。

それで、ずっと言えずにいたんだ……」

もう聞いていられなかった。

私は通話を切った。

こらえきれずにあふれた涙が机に落ち、冷たい染みを広げていった。

その瞬間、4年前の出来事が鮮明によみがえった。

妊娠5か月でお腹も大きくなっていた私は、和真の服を洗っていて、ポケットからレースのショーツを見つけた。

あのときも、今と同じだった。

涙で顔を濡らし、胸元をぎゅっと握りしめながら、和真に問い詰めた。

「誰なの?」

和真は悔恨に顔を歪め、髪をかきむしるばかりで、最後まで相手の名前を明かさなかった。

その後、私は離婚した。

知らせを聞いた晴臣は、海外から急いで帰ってきた。

鷲尾家の跡取りである彼は、私の幼なじみでもあった。子どもの頃から、ずっと私に片思いしていた。

中絶で私の体に負担がかかることを心配した晴臣は、私の前に膝をつき、必死に頼み込んだ。

「頼むから産んでくれ。中絶は体に負担がかかるだろ。生まれてくる子は俺が育てるから」

それでも、私は首を縦に振れなかった。

結局、亜莉紗に付き添われ、中期中絶を受けた。

術後、体調を崩した私は、毎日ぐったりしていた。

亜莉紗は私を抱きしめ、声を上げて泣きながら、心配そうな目で私を見つめた。

晴臣も嫌な顔ひとつせず、洗濯や料理をこなし、何から何まで世話してくれた。水を一口飲ませるにも、わざわざ息を吹きかけて冷ましてから、口元まで運んでくれた。

あの頃は、この二人こそ誰よりも信頼できる、私の支えなのだと思っていた。

それなのに今、私は信じていた人たちに二度も続けて裏切られた。

世界が崩れ去ったようだった。胸の奥には、凍えるような冷たさだけが残った。

ふいに、2年前のことを思い出した。

ようやく晴臣のプロポーズを受け入れた、あの日。

彼は子どものようにはしゃぎ、私を抱き上げてくるくると回りながら、嬉しそうに誓ってくれた。

「朱音、一生かけてお前を守る。誰よりも大切にして、ずっと愛し続ける」

亜莉紗も、まっすぐな目で言った。

「私もだよ、朱音。親友として、一生朱音を守るから。誰にも絶対、傷つけさせない」

二人が誓った「一生」は、たった2年で跡形もなく崩れ去った。

私は涙で濡れた目元を両手で覆い、喉の奥から絶望的な笑い声を絞り出した。

震える手で引き出しを開け、幻肢痛を抑えるための薬瓶を取り出した。

錠剤をひとつかみ、口に放り込む。

また、ひとつかみ。

さらに、もうひとつ。

瓶を逆さにしても、もう一錠も出てこなくなるまで、私は薬を飲み続けた。

それでも、右脚の断端も胸の痛みも、少しも和らがなかった。痛みに呑み込まれそうだった。

喉の奥に、鉄の味が込み上げた。

次の瞬間、私は血を何度も吐き出した。

廊下から慌ただしい足音が迫ってきた。

続いて、悲鳴が響いた。

「朱音!」

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第1話
画面に映し出された内容を、私は食い入るように見つめていた。指先が震え、マウスを握ることさえできなかった。右脚の断端に残った骨がずきずきと痛んだ。けれど、その痛みなど、胸の痛みの万分の一にも満たなかった。どうして……?この1か月、亜莉紗は昼も夜もそばにいて、水を飲ませ、食事まで口元に運んでくれた。夫の鷲尾晴臣(わしお はるおみ)も仕事を断り、つきっきりで看病してくれた。体を拭くのも、身の回りの世話も、すべて彼がしてくれた。この二人の存在だけが、暗い日々に残された光だった。それなのに、どうして二人がこんなことを?信じていた二人に裏切られた現実が、受け止めきれないほどの衝撃となって全身を襲った。息が詰まり、うまく呼吸ができない。震える手でスマホを取り出し、元夫の西園寺和真(さいおんじ かずま)に電話をかけた。すぐにつながり、受話口から少し嬉しそうな声が聞こえてきた。「もしもし、朱音……」「和真。あのとき、あなたが浮気してた相手って、亜莉紗だったの?」挨拶もそこそこに問い詰めると、和真は黙り込んだ。その沈黙が、何よりはっきりした答えだった。胸が張り裂けそうに痛み、心の奥まで震えた。長い沈黙のあと、和真はようやく口を開いた。「そうだよ、朱音。あの頃の俺はどうかしてた。本当に後悔してる。ずっと本当のことを話そうと思ってたんだ。でも、亜莉紗が言ったんだ。自分を裏切ったのが一番の親友だったって知ったら、朱音はきっと耐えられない。ショックで立ち直れなくなるって。それで、ずっと言えずにいたんだ……」もう聞いていられなかった。私は通話を切った。こらえきれずにあふれた涙が机に落ち、冷たい染みを広げていった。その瞬間、4年前の出来事が鮮明によみがえった。妊娠5か月でお腹も大きくなっていた私は、和真の服を洗っていて、ポケットからレースのショーツを見つけた。あのときも、今と同じだった。涙で顔を濡らし、胸元をぎゅっと握りしめながら、和真に問い詰めた。「誰なの?」和真は悔恨に顔を歪め、髪をかきむしるばかりで、最後まで相手の名前を明かさなかった。その後、私は離婚した。知らせを聞いた晴臣は、海外から急いで帰ってきた。鷲尾家の跡取りである彼は、私の幼なじみでもあった。子どもの
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第2話
再び目を開けると、病院のベッドに横たわっていた。すぐそばには、疲れ切った晴臣の顔があった。目を覚ました私に、晴臣は優しい言葉ひとつかけなかった。世話を焼くどころか、うんざりした顔で眉をひそめ、かすれた声で言った。「朱音、いい加減にしてくれないか?お前が自殺しようとしたのを見て、亜莉紗はショックで倒れたんだぞ。今も隣の病室で点滴を受けてる。お前の命は大事で、亜莉紗の命はどうでもいいっていうのか?もう1か月だぞ。いつまで死ぬだの何だの騒ぐつもりなんだよ」言い返そうと口を開いた、そのときだった。ドアが勢いよく開き、亜莉紗が飛び込んできた。晴臣を指さし、睨みつけて怒りをあらわにした。「晴臣、誰に向かってそんな口きいてるのよ!朱音にそんなこと言うなんて、ぶっ飛ばされたいの?」さっきまで険しい顔をしていた晴臣は、亜莉紗の前ではすぐに怒りを収め、目を伏せた。表情まで驚くほど柔らかくなり、声もおそるおそる優しくなった。「体はもう大丈夫なのか?もう少し休んだほうがいいんじゃないか。朱音のことは俺が見てるから」「晴臣に何ができるっていうの?」亜莉紗は容赦なく言い返し、私のそばまで歩み寄った。私の青白い顔を見るなり、目に涙を浮かべた。「もう、朱音ったら。なんでそんなことしちゃったの?私がいるって言ったでしょ。朱音までいなくなったら、私、どうしたらいいのよ」私は鼻で笑った。けれど、亜莉紗は私の様子に気づかず、話を続けた。「朱音、今まで本当につらいことばっかりだったもんね。少しでも気分が晴れればと思って、厄除けになるっていうお守りブレスを買ってきたの」「出てって」最後まで言わせず、私は遮った。ブレスレットという言葉に、二人に裏切られた記憶が一気によみがえった。怒りで理性を失い、私は亜莉紗を乱暴に突き飛ばした。手近にあった物を次々とつかみ、二人に投げつけた。「出てって!二人とも、私の前から消えて!もう顔も見たくない!」突き飛ばされた亜莉紗はよろめきながらも、私をなだめようと近づいてきた。投げつけた物が顔に当たると、亜莉紗は顔を押さえ、痛みにうずくまった。晴臣はついに我慢できなくなった。私の手首を乱暴につかみ、力任せに横へ突き飛ばした。体勢を崩した私は、腰をベッド脇のテーブルの角に強く打ちつけた。あま
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第3話
二人が出ていくと、私はスマホを取り出し、自宅の防犯カメラの映像を開いた。晴臣が出張で家を空けていた頃、一人でいるのが不安で設置したカメラだった。ほどなく、晴臣と亜莉紗が画面に映った。音声も鮮明に記録されていた。晴臣は待ちきれないとばかりに、亜莉紗を腕の中に引き寄せた。亜莉紗は嫌がる素振りを見せながらも押しのけもせず、ただ身をくねらせて逃れようとした。晴臣は身をかがめて彼女に覆いかぶさり、大きな手で腰を強くつかんだ。「亜莉紗、逃げるなよ。もう1か月も我慢してるんだ」かすれた声でそう囁く晴臣に、亜莉紗は彼の肩に顔をうずめた。「でも、朱音はまだ入院してるのに……こんなことしていいの?」晴臣は答えなかった。ただ、いっそう激しく彼女の体を求めた。やがて亜莉紗は言葉も出なくなり、顔を赤らめながら彼の引き締まった腰にまたがると、何度も腰を揺らした。画面越しに聞こえる喘ぎ声に、胸が締めつけられた。涙で画面が滲んだ。それでも、幸せだった頃の記憶が次々によみがえった。晴臣が私と結婚するために必死だった頃のことを、今でも覚えている。あるとき、晴臣は酒に強い薬を盛られたことがあった。薬が効き始めても、晴臣は自分の拳で何度も体を殴り、どうにか理性を保とうとしていた。一晩中、冷水につかって耐え抜き、自分から近づいてきた相手にも、誰一人として手を出さなかった。あのあと、彼は私を抱きしめ、真剣な顔で誓ってくれた。「朱音、お前以外の女には絶対に手を出さない。一生、お前だけを愛していく」私はその言葉を信じた。亜莉紗もまた、私にとって救いのような存在だった。大学1年のとき、ラフティング中に私が川へ落ちると、亜莉紗は迷わず飛び込んで助けてくれた。大学3年のときには、両親が飛行機事故で亡くなった。たった一晩で、裕福な家の娘だった私も身寄りを失った。そんな私を、何も言わずに自分の家へ迎え入れ、昼も夜もそばで支えてくれたのが亜莉紗だった。私も、自分にできる限りのことをして彼女を大切にしてきた。なのに、私の何がいけなかったのだろう。どうして私の夫を二人とも奪わなければ気が済まないの?何より理解できなかったのは、あれほど私を愛してくれた晴臣まで、和真と同じように変わってしまったことだった。
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第4話
翌日、晴臣が迎えに来て、私は退院した。私が何も言わずにいると、晴臣は先に私の手を握り、謝ってきた。「朱音、昨日はあんな言い方をして悪かった。わざと怒ったわけじゃないんだ。お前がありちゃんにあんな態度を取ったら、あいつだって傷ついて、お前の前からいなくなるかもしれないだろ。大事な友達を失いたくないだろ?」私は冷たく手を引いた。ふと、ベッドサイドテーブルに目が留まった。そこには、以前私が一番好きだった味のケーキが置かれていた。思わず手を伸ばして箱を開けようとした瞬間、晴臣に手の甲を押さえられた。「触るな。ありちゃんに買ったんだ」少し間を置いてから、彼はなだめるように続けた。「食べたいなら、明日また買ってくるよ」私は何も言わず、手を引っ込めた。もう、ケーキ一つさえ私のためのものじゃないんだ。帰宅すると、私は何気ないふりをして洗面所へ向かった。ドアを開けた途端、目につく場所に妊娠検査薬が置かれていた。赤い二本線が、目に刺さるほど鮮明に浮かんでいた。私はスマホで自宅の防犯カメラの映像を開いた。画面から、亜莉紗の震える声が聞こえてきた。「晴臣、どうしよう……妊娠しちゃった。私、なんてひどい女なんだろう。朱音は子どもを失ったばかりで、もう子どもを産めない体になったのに……どうして私、あなたの子を妊娠なんかしちゃったんだろう」晴臣は亜莉紗をぎゅっと抱きしめた。「ありちゃん、君のせいじゃない。俺たちの子だ。これも運命なんだ。俺はもう子どもを一人失ってる。もう一人も失いたくない。頼むから、この子を産んでくれないか?」亜莉紗は泣きながら尋ねた。「じゃあ、私と結婚してくれる?結婚もせずに、この子を産むわけにはいかないよ。朱音には申し訳ないけど、別の形で償えばいいから」長い沈黙のあと、晴臣は低い声で答えた。「ありちゃん、俺には……わからない」胸の奥は、何も感じないほど麻痺していた。痛みが限界に達したせいか、かえって頭の中は静かだった。夕食の席で、私は亜莉紗を見つめて尋ねた。「洗面所にあった妊娠検査薬、見たんだけど。妊娠したの?相手は誰?」亜莉紗の顔から血の気が引いた。しばらく口ごもったあと、ようやく言葉を絞り出した。「それは、その……外で知り合った人で……」私はふっと笑った。声
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第5話
その後、家の中は不気味なほど静まり返っていた。そんな日々が続いたある日、亜莉紗は自分から、右脚の断端の診察に付き添うと言い出した。少し考えた末、私はその申し出を受け入れた。離婚協議書は、すでに作成を依頼してあった。亜莉紗との友情にも、そろそろ決着をつけるべきだと思っていた。けれど、診察を終えた直後、地下駐車場で私と亜莉紗は二人組の男に突然人質に取られた。晴臣が知らせを受けて駆けつけたとき、男たちは私たちを階段の踊り場まで追い詰め、逃げられないように押さえつけていた。二人の首筋には刃物が押し当てられていた。少し動くだけでも切られそうだった。晴臣の顔がこわばった。彼の視線は亜莉紗に釘づけになり、声は動揺でかすれていた。「亜莉紗に傷ひとつでもつけてみろ。お前を殺してやる!」亜莉紗は恐怖に震え、涙をぽろぽろとこぼしていた。晴臣に脅された男たちは、ますます逆上した。私たちを階段の端へ乱暴に押しやり、怒鳴った。もみ合ううちに、男たちは誤って私たちを階段の下へ突き落とした。「やめろ!」晴臣は目を血走らせて怒鳴ると、迷わず亜莉紗のほうへ飛び出した。ちょうどそのとき、私は倒れ込んだ。晴臣は私の右脚の断端を勢いよく踏みつけ、そのまま亜莉紗のもとへ駆けていった。鋭い痛みが全身を駆け抜け、もともと傷ついていた断端から血がにじんだ。私は階段を転げ落ち、痛みで全身を痙攣させながら、床に丸まって身動きもできなかった。晴臣は私には目もくれず、亜莉紗をしっかりと抱きしめ、声を震わせて呼びかけた。「ありちゃん!頼むから、俺を心配させないでくれ!」亜莉紗を抱きしめる手は震えていた。晴臣は彼女の頬を何度も撫で、青ざめた顔で無事を確かめていた。私は痛みに耐えながら、必死に手を伸ばした。指先を少し動かすだけでも、右脚の断端に激痛が走った。それでも、かすれる声で彼を呼んだ。「晴臣……」今度こそ、私を置いていかないで……けれど、晴臣は私に目を向けようともしなかった。意識を失った亜莉紗を抱きかかえ、晴臣はよろめきながら階段を駆け下りていった。「ありちゃん、頼むから無事でいてくれ!君が無事なら、俺は君と結婚する。これからは君だけを選ぶ。愛するのも君だけだ!」私は床に倒れたまま、遠ざかっていく彼の背中を見
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第6話
晴臣の表情は、動揺から驚きへ、そして恐怖へと変わった。しばらく呆然としたあと、晴臣はようやく無理に笑みを浮かべた。「朱音、何を言ってるんだ?俺と亜莉紗はただの友達だよ。変な勘違いをするな。俺たちがそんなことするわけ……」パシンッ!言い終わる前に、私の平手打ちが晴臣の頬を打った。晴臣の顔が横を向き、頬には赤い手形が浮かんだ。晴臣は頬を押さえ、呆然と私を見つめた。私はじんじんとしびれる手を軽く振り、晴臣を冷ややかに見た。「まだ私を騙せると思ってるの?私に隠れて一番の親友と関係を持ち、こそこそと好き放題していたんでしょ?そんなにスリルがあって楽しかった?私には優しい言葉をかけて、愛情深い夫のふりをする。そのくせ、裏では亜莉紗と抱き合い、私に囁いた甘い言葉をそのまま彼女にも使って、機嫌を取っていた。二股をかけて、そんな生活がよっぽど楽しかったんでしょうね?」晴臣は口を開きかけたものの、しばらくまともに言葉が出てこなかった。「ち、違う……俺と亜莉紗は……ただの友達なんだ」私は自嘲気味に笑った。「私を騙すのは勝手だけど、自分まで騙すのはやめたら?友達?友達同士で、私の車の中で私に薬を盛り、意識を失わせてまであんなことをするの?事故が起きたときだって、二人そろって逃げて、妻の私を車に置き去りにした。おかげで右脚を失い、子どもも失い、子宮まで摘出することになったのよ!私たちの新居のソファで、裸になって抱き合っていたのも友達だから?まさか、ゲームでもしてたって言い訳するつもり?」私はスマホを取り出し、監視カメラの映像を晴臣の目の前に突きつけた。画面を見た瞬間、晴臣は目を見開いた。顔からみるみる血の気が引いていった。「朱音、頼むから話を聞いてくれ。ちゃんと説明させてくれ」私は努めて平静な声で答えた。「いいわ。聞いてあげる。話してみて」晴臣はその場に立ち尽くし、体をこわばらせていた。映像にあれだけはっきり映っていては、二人の関係を否定することもできなかった。もうこれ以上傷つくことはないと思っていた。それでも、青ざめて動揺する晴臣と、隣で血の気を失った亜莉紗を見ていると、胸の奥の鈍い痛みがまた広がり、骨まで凍るような冷たさを伴って私をのみ込んだ。右脚の断端はまだじくじくと痛んでいた。
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第7話
私は再び亜莉紗に目を向けた。彼女は晴臣の後ろに隠れ、ぽろぽろと涙をこぼし続けていた。以前なら、泣いている亜莉紗を見れば、すぐにかわいそうに思い、抱きしめて許していたはずだ。今はもう、何もかも白々しく見えた。「まだその芝居を続けるの?亜莉紗。私を大切に思う親友のふりも、何も悪くないのに傷つけられた被害者のふりも、自分が一番不幸だって顔も。好きなだけ続ければいいわ」亜莉紗は必死に首を横に振った。「違うの、朱音。私は本当に朱音のことを大切に思ってるの」「本当に大切に思ってる人が、私の夫を二人も奪ったっていうの?」その言葉に、亜莉紗だけでなく晴臣まで呆然とした。二人の反応が、かえって滑稽に思えた。晴臣は亜莉紗の手首をつかみ、問い詰めた。「どういうことだ?俺以外にも、朱音の夫を奪ったっていうのか?お前、いったい何をしたんだ?」私は冷ややかに笑った。「晴臣、まさか亜莉紗があなたのことを好きだと思ってるの?あの子は、ただ私から奪うのが好きなだけよ。私の最初の夫だった和真も、亜莉紗が誘惑して浮気させたの。わざとレースのショーツを彼のポケットに入れて、私に見つけさせるようなことまでしたのよ」その言葉を聞いた晴臣は、よろめきながら後ずさった。晴臣の目には、亜莉紗は清純で世間知らずな女に映っていたのだろう。そんなふうに見せられれば、男は誰だって心を奪われる。晴臣も例外ではなかった。亜莉紗はなおも言い逃れようとした。「朱音、どうしてそんなこと言うの?証拠はあるの?」「証拠?ふふっ……」私は笑った。「私が二人を信じすぎていたのよ。あのことだって、本当なら一生隠し通せたはず。でも、全部あなた自身が教えてくれたのよ。忘れたの?この前、ネットで厄除けのお守りブレスを買ったでしょ。罪滅ぼしのつもりだったんでしょうけど、あれを売っていたのは私の店よ」亜莉紗はその場に崩れ落ち、床にうずくまったまま何も言い返せなかった。
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第8話
私は亜莉紗の腹部に目を向け、冷ややかに言った。「4年前のこと、今でもはっきり覚えてるわ。私が和真の子どもを妊娠していた頃、あなたを心から信じて、一番の親友だと思ってた。悩みも打ち明けたし、つらいことがあれば何でも相談してきた。それなのに、あなたは和真を誘惑し、私が妊娠している間に関係を持った。私の最初の結婚を壊し、離婚と中絶に追い込み、体まで傷つけた。あのとき、私たちの友情なんて、少しも考えなかったの?中絶手術のあと、私は心も体もボロボロだった。そんな私を抱きしめて、あなたは声が枯れるほど泣きながら『一生そばにいる。もう誰にも傷つけさせない』って言ったわよね。あの頃の私は、本当にそう信じてた。結婚が終わっても、私にはあなたがいる。そう思えたから、何とかやってこられたのよ。何もかも打ち明け、あなたの頼みなら何でも聞いて、実の姉妹のように大切にしてきた。それなのに、あなたは私に何を返してくれたの?晴臣にプロポーズされたとき、私は心から嬉しかった。やっと、私を大切にしてくれる人に出会えたんだって思ったの。あなたも笑顔で祝福してくれた。それなのに、その裏でまた彼に近づき、私の結婚を壊した。私の気持ちを踏みにじったのよ!私があなたに何をしたっていうの?私のどこがあなたに劣っているっていうの?どうして何度も何度も私の人生を壊すの?どうして、そこまで私を追い詰めなきゃ気が済まないのよ!」話すうちに感情を抑えられなくなり、息が上がった。亜莉紗はその場に崩れ落ち、泣きながら必死に首を横に振った。「違うの、朱音!そんなつもりじゃなかったの。本当に、わざとじゃないの。自分でもどうにもできなかったのよ。私だって苦しかったし、ずっと罪悪感を抱えてた……」「罪悪感?」私は鼻で笑い、亜莉紗を見下ろした。「私が子どもを失い、子宮まで摘出することになったというのに、あなたは私の夫の子を妊娠した。それがあなたの言う罪滅ぼしなの?私の体をこんなふうにした男と関係を続け、私が苦しんでいるのを知りながら、何も知らないふりで世話を焼く。それがあなたの罪滅ぼし?亜莉紗、あなたの罪悪感なんて薄っぺらい。反吐が出るほど気持ち悪い!私から二人の男を奪い、私の人生を二度もめちゃくちゃにして、私の体までこんなふうにした。これから一生、子どもを失っ
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第9話
晴臣は逃げるように病院を出た。病院の外で壁にもたれ、タバコに火をつけた。煙の向こうに、涙に濡れた亜莉紗の顔が見えた。だが、それを見た途端、晴臣はひどくうんざりした。「晴臣、タバコはやめてくれない?私、妊娠してるのよ。これからどうしたらいいの……?」「どうしたらいい、だって?」晴臣は亜莉紗を見下ろし、鼻で笑った。声には隠しようもない皮肉がこもっていた。「亜莉紗、お前、他人の夫を奪ったときはずいぶん手際がよかったじゃないか。朱音が妊娠してる間に和真を誘惑して、そのあと今度は俺まで誘惑した。全部バレた途端、怖くなったのか?いったい何がしたかったんだよ」亜莉紗は涙を拭い、ふいに冷笑を浮かべた。「わからないわ。たぶん、嫉妬してたんでしょうね」かつて、亜莉紗は本気で朱音を友達だと思っていた。けれど、朱音の家はあまりにも裕福だった。命がけで朱音を助け、朱音の交友関係にも入り込んだ。それでも、朱音にとって自分はいてもいなくても変わらない存在なのではないか。そんな不安が消えなかった。やがて朱音の家が破産し、裕福な暮らしを失ったとき、亜莉紗は心の底から喜んだ。ようやく朱音と対等になれたと思ったのだ。けれど、就職してみると、現実は違った。学歴も似たようなもので、二人とも裕福ではなかった。それでも朱音は大手企業に就職し、将来有望で容姿も整った医師と結婚した。一方の亜莉紗は、何をやってもうまくいかなかった。嫉妬に駆られ、亜莉紗は和真と関係を持った。朱音は離婚し、中絶も経験した。ようやく自分と同じくらい惨めになった朱音を見て、亜莉紗は満足した。ところが、朱音はその不幸のあと、以前よりも自分を大切にしてくれる裕福な男と結婚した。亜莉紗は、朱音を憎むようになった。やがて、晴臣が自分に惹かれ始めたと気づいた亜莉紗は、付け入る隙を見つけたとほくそ笑んだ。もう友情なのか嫉妬なのか、自分でもわからなかった。ただ、朱音の持つものをすべて奪いたい。それだけだった。朱音より幸せになり、今度は自分が救う側に立って、彼女に自分を見上げさせたかった。二度と自分を見下せないように。そう考えながら、亜莉紗は晴臣の腕にすがり、声を和らげた。「晴臣、今まで私が間違ったことをしたのは認める。でも、あなたと一緒にいたいのは、本当にあな
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第10話
その言葉に、晴臣ははっと我に返り、首を絞めていた手をゆっくり緩めた。晴臣は幼い頃から朱音に片思いしていた。ポニーテールを揺らして元気いっぱいに走り回る姿も、眉を寄せながら自分の口元についたご飯粒を拭ってくれる仕草も、ずっとこの目で見てきた。ようやく勇気を出して告白したのに、返ってきたのは「好きじゃない」という言葉だった。そのショックに耐えられず、晴臣は逃げるように海外へ渡り、何年も帰国しなかった。とりわけ、朱音が結婚したと知ったときは耐えられなかった。酒に溺れ、入院するほど体を壊したこともあった。だが、朱音が離婚したと知ると、すべてを投げ出して帰国した。今度こそ彼女のそばにいて、一生かけて幸せにできる。そう信じていた。けれど、亜莉紗が現れた。亜莉紗は思わせぶりな目で晴臣を誘い、朱音の目の前でテーブルの下からそっと彼の足首に触れた。弱々しい態度を見せ、晴臣の同情を引いた。晴臣はその誘惑に負けた。長い間抑え込んできた欲望も、亜莉紗の積極的な誘惑も、そしてバツイチの朱音なら自分から離れていくはずがないという思い上がりも、晴臣の判断を狂わせたのかもしれない。そうして晴臣は、引き返せないところまで関係を深めてしまった。朱音の隣の部屋で亜莉紗と体を重ねていた夜も、彼女の甘えた声を聞くたびに朱音の顔が浮かび、罪悪感に襲われて後悔した。それでも、亜莉紗の甘い言葉にまた惑わされてしまった。朱音が交通事故に遭ったあと、晴臣はようやく自分のしたことを悔い、亜莉紗との関係を終わらせようと決め、朱音だけを大切にしようと思った。だが亜莉紗は、「元気だった頃の朱音ですら私たちの関係に気づかなかったんだから、体に障害を負った今の彼女が気づくはずもない。これからも一緒に世話をしていけば、知られずに3人でずっと暮らせる」と何度も囁いた。あの日の「君が無事なら結婚する」という言葉も、亜莉紗と結婚したいからではなく、お腹の子を失いたくなかったから口にしただけだった。朱音に真実を知られるとは思っていなかった。まして、こんなに早く見抜かれ、ためらいもなく離婚を突きつけられるとは思いもしなかった。今さら何を悔やんでも、もう遅かった。
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