Masuk私、鷲尾朱音(わしお あかね)は、交通事故で重傷を負った。夫と親友は、私が思い詰めないようにと、片時も離れずに看病してくれた。 二人の献身に胸を打たれ、私は懸命にリハビリに励んでいた。 そんなある日、開設したばかりのネットショップに、こんなメッセージが届いた。 【厄除けのお守りブレス、もう少し早く発送してもらえませんか?悪いことをしてしまって……罪滅ぼしに贈りたいんです】 不思議に思った私は、尋ねた。 【何の罪を償うんですか?】 すると、すぐに返事が届いた。 【親友の夫を二人も奪ってしまったんです……】 【でも、本当にわざとじゃなかったんです……彼女の最初の夫は、禁欲的なタイプの医師で、私の好みど真ん中だったんです。どうしても我慢できず、彼女が妊娠中なのに、その医師と寝てしまいました。やがて彼女は夫の浮気に気づき、離婚して中絶したのに、私が相手だとは疑いもしませんでした。私も、もう二度と彼女を裏切らないと誓ったんです】 【ところが、彼女の二人目の夫はもっと格好よくて、しかも金持ちの社長。私はまた惹かれてしまいました。一度きりで終わらせるつもりだったのに、関係を重ねるうちに、どんどんのめり込んでしまったんです】 【先月、スリルを味わいたくて、彼女に睡眠薬を盛り、車の後部座席で眠らせて、私たちは前の席で体を重ねました。ところが、突然交通事故に遭い、私たちはその場から逃げ出したんです。彼女は右脚を切断され、流産したうえ、大量出血の末に子宮まで摘出することになったんです。罪悪感でいっぱいなのに、真実を打ち明ける勇気もなくて、せめて何かで償おうと思ったんです】 そのあまりにも身に覚えのある話に、胸の奥がかすかに震えた。 次の瞬間、発送通知が届いた。宛先を目にした瞬間、私は一瞬にして凍りついた。 そこに記されていたのは、私の一番の親友、片瀬亜莉紗(かたせ ありさ)の名前だった。
Lihat lebih banyak数日後、晴臣から連絡があった。ようやく離婚に応じる気になったらしい。「離婚には同意する。財産は全部お前に渡す。ただし、一つだけ条件がある。あの日の事件について、警察に届け出たり、責任を追及したりしないでほしい」スマホを握ったまま、私は思わず鼻で笑った。「追及しないで、ですって?晴臣、今になってもまだ亜莉紗をかばうのね。あの男たちを手配したのは亜莉紗だったんでしょう?」電話の向こうが急に静まり返った。続いて、晴臣の荒い息が聞こえてきた。「お前……どうして、それを知ってるんだ?」私は義足に目を落とした。心はすっかり冷えきっていた。「あの日、襲われたときの亜莉紗の反応が、あまりにも不自然だったもの。あんな小細工、私には通用しないわ」私は悲しみをにじませた声で、静かにつぶやいた。「私がいったい何をしたっていうの?どうしてあんなに憎まれなきゃいけないの?どうして何度も何度も、私の人生を壊そうとするのよ……」晴臣は長い間、何も答えなかった。彼が認めようが認めまいが、もうどうでもよかった。結局、すべては亜莉紗の底なしの欲と嫉妬が原因だった。2日後、晴臣と離婚について合意し、離婚届は1か月後に提出することにした。その1か月、私は晴臣と一度も会わず、彼と亜莉紗のことも何も耳にすることなく、自分のことに専念し、この街を離れる準備を進めた。1か月後、晴臣と市役所で待ち合わせ、離婚届を提出した。受理され、私たちの婚姻関係は正式に終わった。手続きが済んでも、心は不思議なくらい静かだった。ようやく解放されたという安堵だけが残った。市役所を出たところで、晴臣に呼び止められた。「朱音、これから何か困ったことがあったら、いつでも俺を頼ってくれ。俺は……」最後まで聞くつもりはなかった。私は下腹部に手をやり、それから義足をつけた右脚を指した。「失った子どもも、損なわれた健康も、これまでの人生で味わった苦しみも、全部あなたたちのせいよ」晴臣の顔に、恥と後悔が浮かんだ。彼は深くうつむき、何も言い返せなかった。私は小さく手を振り、静かに告げた。「もう二度と会わずに済むといいわね」そう言い残し、私は空港へ向かい、そのままこの街を離れた。人の心は変わる。愛だっていつか壊れる。誰かを頼りにしたところで、最後に
その言葉に、晴臣ははっと我に返り、首を絞めていた手をゆっくり緩めた。晴臣は幼い頃から朱音に片思いしていた。ポニーテールを揺らして元気いっぱいに走り回る姿も、眉を寄せながら自分の口元についたご飯粒を拭ってくれる仕草も、ずっとこの目で見てきた。ようやく勇気を出して告白したのに、返ってきたのは「好きじゃない」という言葉だった。そのショックに耐えられず、晴臣は逃げるように海外へ渡り、何年も帰国しなかった。とりわけ、朱音が結婚したと知ったときは耐えられなかった。酒に溺れ、入院するほど体を壊したこともあった。だが、朱音が離婚したと知ると、すべてを投げ出して帰国した。今度こそ彼女のそばにいて、一生かけて幸せにできる。そう信じていた。けれど、亜莉紗が現れた。亜莉紗は思わせぶりな目で晴臣を誘い、朱音の目の前でテーブルの下からそっと彼の足首に触れた。弱々しい態度を見せ、晴臣の同情を引いた。晴臣はその誘惑に負けた。長い間抑え込んできた欲望も、亜莉紗の積極的な誘惑も、そしてバツイチの朱音なら自分から離れていくはずがないという思い上がりも、晴臣の判断を狂わせたのかもしれない。そうして晴臣は、引き返せないところまで関係を深めてしまった。朱音の隣の部屋で亜莉紗と体を重ねていた夜も、彼女の甘えた声を聞くたびに朱音の顔が浮かび、罪悪感に襲われて後悔した。それでも、亜莉紗の甘い言葉にまた惑わされてしまった。朱音が交通事故に遭ったあと、晴臣はようやく自分のしたことを悔い、亜莉紗との関係を終わらせようと決め、朱音だけを大切にしようと思った。だが亜莉紗は、「元気だった頃の朱音ですら私たちの関係に気づかなかったんだから、体に障害を負った今の彼女が気づくはずもない。これからも一緒に世話をしていけば、知られずに3人でずっと暮らせる」と何度も囁いた。あの日の「君が無事なら結婚する」という言葉も、亜莉紗と結婚したいからではなく、お腹の子を失いたくなかったから口にしただけだった。朱音に真実を知られるとは思っていなかった。まして、こんなに早く見抜かれ、ためらいもなく離婚を突きつけられるとは思いもしなかった。今さら何を悔やんでも、もう遅かった。
晴臣は逃げるように病院を出た。病院の外で壁にもたれ、タバコに火をつけた。煙の向こうに、涙に濡れた亜莉紗の顔が見えた。だが、それを見た途端、晴臣はひどくうんざりした。「晴臣、タバコはやめてくれない?私、妊娠してるのよ。これからどうしたらいいの……?」「どうしたらいい、だって?」晴臣は亜莉紗を見下ろし、鼻で笑った。声には隠しようもない皮肉がこもっていた。「亜莉紗、お前、他人の夫を奪ったときはずいぶん手際がよかったじゃないか。朱音が妊娠してる間に和真を誘惑して、そのあと今度は俺まで誘惑した。全部バレた途端、怖くなったのか?いったい何がしたかったんだよ」亜莉紗は涙を拭い、ふいに冷笑を浮かべた。「わからないわ。たぶん、嫉妬してたんでしょうね」かつて、亜莉紗は本気で朱音を友達だと思っていた。けれど、朱音の家はあまりにも裕福だった。命がけで朱音を助け、朱音の交友関係にも入り込んだ。それでも、朱音にとって自分はいてもいなくても変わらない存在なのではないか。そんな不安が消えなかった。やがて朱音の家が破産し、裕福な暮らしを失ったとき、亜莉紗は心の底から喜んだ。ようやく朱音と対等になれたと思ったのだ。けれど、就職してみると、現実は違った。学歴も似たようなもので、二人とも裕福ではなかった。それでも朱音は大手企業に就職し、将来有望で容姿も整った医師と結婚した。一方の亜莉紗は、何をやってもうまくいかなかった。嫉妬に駆られ、亜莉紗は和真と関係を持った。朱音は離婚し、中絶も経験した。ようやく自分と同じくらい惨めになった朱音を見て、亜莉紗は満足した。ところが、朱音はその不幸のあと、以前よりも自分を大切にしてくれる裕福な男と結婚した。亜莉紗は、朱音を憎むようになった。やがて、晴臣が自分に惹かれ始めたと気づいた亜莉紗は、付け入る隙を見つけたとほくそ笑んだ。もう友情なのか嫉妬なのか、自分でもわからなかった。ただ、朱音の持つものをすべて奪いたい。それだけだった。朱音より幸せになり、今度は自分が救う側に立って、彼女に自分を見上げさせたかった。二度と自分を見下せないように。そう考えながら、亜莉紗は晴臣の腕にすがり、声を和らげた。「晴臣、今まで私が間違ったことをしたのは認める。でも、あなたと一緒にいたいのは、本当にあな
私は亜莉紗の腹部に目を向け、冷ややかに言った。「4年前のこと、今でもはっきり覚えてるわ。私が和真の子どもを妊娠していた頃、あなたを心から信じて、一番の親友だと思ってた。悩みも打ち明けたし、つらいことがあれば何でも相談してきた。それなのに、あなたは和真を誘惑し、私が妊娠している間に関係を持った。私の最初の結婚を壊し、離婚と中絶に追い込み、体まで傷つけた。あのとき、私たちの友情なんて、少しも考えなかったの?中絶手術のあと、私は心も体もボロボロだった。そんな私を抱きしめて、あなたは声が枯れるほど泣きながら『一生そばにいる。もう誰にも傷つけさせない』って言ったわよね。あの頃の私は、本当にそう信じてた。結婚が終わっても、私にはあなたがいる。そう思えたから、何とかやってこられたのよ。何もかも打ち明け、あなたの頼みなら何でも聞いて、実の姉妹のように大切にしてきた。それなのに、あなたは私に何を返してくれたの?晴臣にプロポーズされたとき、私は心から嬉しかった。やっと、私を大切にしてくれる人に出会えたんだって思ったの。あなたも笑顔で祝福してくれた。それなのに、その裏でまた彼に近づき、私の結婚を壊した。私の気持ちを踏みにじったのよ!私があなたに何をしたっていうの?私のどこがあなたに劣っているっていうの?どうして何度も何度も私の人生を壊すの?どうして、そこまで私を追い詰めなきゃ気が済まないのよ!」話すうちに感情を抑えられなくなり、息が上がった。亜莉紗はその場に崩れ落ち、泣きながら必死に首を横に振った。「違うの、朱音!そんなつもりじゃなかったの。本当に、わざとじゃないの。自分でもどうにもできなかったのよ。私だって苦しかったし、ずっと罪悪感を抱えてた……」「罪悪感?」私は鼻で笑い、亜莉紗を見下ろした。「私が子どもを失い、子宮まで摘出することになったというのに、あなたは私の夫の子を妊娠した。それがあなたの言う罪滅ぼしなの?私の体をこんなふうにした男と関係を続け、私が苦しんでいるのを知りながら、何も知らないふりで世話を焼く。それがあなたの罪滅ぼし?亜莉紗、あなたの罪悪感なんて薄っぺらい。反吐が出るほど気持ち悪い!私から二人の男を奪い、私の人生を二度もめちゃくちゃにして、私の体までこんなふうにした。これから一生、子どもを失っ