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第1035話

Author: 心温まるお言葉
向かう途中で和泉夕子は、霜村冷司が穂果ちゃんを既に連れ帰ったと聞き、ほっと胸を撫で下ろした。同時に、相川泰にUターンするよう指示した。

家に帰って穂果ちゃんに事情を聞くと、柴田琳が彼女を連れ去ろうとしたのは、裁判で穂果ちゃんに自分を選ぶように仕向けるためだと分かった。

唐沢白夜が言っていた通り、国際裁判では裁判官が子供の意思を確認し、子供がどちらと一緒に暮らしたいかを答えれば、親権はそちらに渡る。

幸い穂果ちゃんは賢く、裁判の意味も、柴田琳の言葉の真意も理解していたので、騙されずに済んだ。

和泉夕子は裁判が始まるまで、穂果ちゃんの登下校が心配だったので、しばらくの間、自分で送り迎えをすることにした。

霜村冷司は部下にやらせるつもりだったが、彼女の心配そうな様子を見て、「私も一緒に行こう」と彼は言った。

彼女が一人で出歩くのは、霜村冷司にとって気がかりだった。幸い最近は霜村涼平のサポートもあり、グループの仕事も落ち着いてきたので、彼女に付き添う時間を作ることができた。

和泉夕子は霜村冷司に抱きついた。いつからか、彼がそばにいてくれれば、何が起きても怖くないと思えるようになっていた。

しばらく甘えた後、彼女は白石沙耶香に会いに行くために立ち上がった。

穂果ちゃんが家で安全に過ごしているからこそ、彼女は安心して外出することができた。

霜村冷司は彼女と一緒に病院まで行ったが、女同士の話に男が同席するのは良くないと思い、車の中で待機することにした。

和泉夕子が病室の前に辿り着くと、柴田夏彦が白石沙耶香の手を握りしめ、必死に懇願しているのが見えた。「沙耶香、別れないでくれ。頼む!」

それを聞いて和泉夕子は、白石沙耶香が自分で決断し、柴田夏彦に別れを切り出したのだと理解した。ただ、どのように切り出したのかは分からなかった。

柴田夏彦の未練がましい様子に、やっとの思いで勇気を振り絞った白石沙耶香は、少し困ったように言った。「先輩、おばさんがこんなに反対してるんだから、そんな無理しなくていいのよ」

柴田夏彦は白石沙耶香の手を強く握りしめ、目に涙を浮かべて懇願した。「沙耶香、母は母、私は私だ。彼女が反対しても、それは私の気持ちではない。彼女があんな騒ぎを起こしたからって、俺と別れるなんて。そんなの嫌だ」

白石沙耶香は困ったように病室の中の人をちらりと見て、
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