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第1394話

Author: 心温まるお言葉
その時、霜村郁斗の鼓動は急激に速まり、顔色も真っ青になった。まるで、この知らせが彼にとってとてつもなく大きな打撃だったかのようだった。だが、落胆したのも束の間、すぐに冷静さを取り戻した。

霜村郁斗は、たとえ治ったとしても、半身不随の状態になり、藤原優子に苦労をかけることになるだろうと言った。だから、弟が好きなら、応援する、これで自分も楽になれる、と。

霜村郁斗もまた、生きることを諦めていたのだろう。藤原優子がすり替えた薬を、自ら飲み込んだのだ。その間、ずっと藤原優子を見つめ、まるで止めてくれるのを待っているかのようだった。だが、彼女は止めなかった。

霜村郁斗はついに全ての薬を飲み干した。その行動を見て、藤原優子は悟った、自分が薬をすり替え続けていること、そして、それで容態が悪化していることに気づいていたに違いない。だから、一気に飲み干したのだ。

目の前で霜村郁斗が発作を起こし、泡を吹く姿を思い出すと、藤原優子は心臓がドキドキするのを感じずにはいられなかった。あれが初めての殺人だった。しかも、あんなに良くしてくれた人を殺したのだ。どんなことがあっても、心に影を落とすのも当然だった。

しかし、藤原優子は霜村郁斗を自分が殺したとは認めなかった。ただ、薬をすり替え続け、増量していたことだけを認めた。だから、少しも後悔している様子はなく、吟味するように見つめる和泉夕子に向かって、唇を歪めて冷笑した。

「薬をすり替えたのは私。けど、彼は気づいた後、飲まないと言う選択もできたのよ?でも、彼は自ら私を助ける道を選んだの」

既に事情を察していた和泉夕子は、少しも反省の色がない藤原優子を見て、ただただ憎らしく、そして哀れに思った。

「あなたは世界で最も誠実で、最も貴重な愛を手に入れることができたのに、自らそれを壊し、冷司の兄を殺してしまった。きっとこれが、冷司があなたを永遠に愛せない理由なのよ」

永遠に愛せない......

藤原優子の胸は締め付けられ、何かで突き刺されたかのように、怒りで急に床から立ち上がった。

「じゃあ、あなたは?あなたがなんだって言うの?私の方が先に冷司と知り合った。私の方が彼のためにもっとたくさんのことをしてきた。なのに、どうして私の冷司を奪うのよ!どうしてなのよ?!」

何度も飛びかかってこようとするものの、鎖につながれている藤原優子を見て
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