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第614話
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契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1446話
その後、新井昴は自分の心と夢のお告げに従い、自ら進んで替え玉になった。そしてその後の人生でも、大野佑欣に改めて「昴」と呼ばせるよう強要することはなかった。大野佑欣と出会い、沢田として沢田の好きなものを好きになり、完全に沢田になった彼だが、何度も寝返りを打ちながら、大野佑欣の顔を通して、自分は沢田なのか、それとも新井昴なのか自問自答していた。何年も経ち、彼との間に二人の子供をもうけた大野佑欣が、突然彼が沢田ではないことに気づき、まるで恐ろしい猛獣に出会ったかのように、彼から逃げて二度と会おうとはしなかった。新井昴はそこで初めて、自分は沢田なのか新井昴なのか自問自答するのをやめ、大野佑欣の前にひざまずいて、自分は沢田だと、記憶喪失になった沢田だと何度も訴え、去らないでくれと懇願した。この時、大野佑欣は目の前の人物が誰なのかはっきりと分かっていた。なぜ分かったのかというと、実はいつの間にか、新井昴を、沢田以外の男を好きになっていたからだった。これはどれほど恐ろしいことだっただろう。彼女は沢田に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。一生一人だけを愛すると誓ったのに、どうして何年もの間、一緒に過ごしているうちに、簡単に他の男を好きになり、子供まで産んでしまったのか。沢田にどうやって顔向けしたらいいんだろう？大野佑欣は苦しみに苛まれ、生き地獄のような日々を送っていた。新井昴もまた同じだった。二人はこの不思議な縁によって、半生にわたって縺れにもつれ、最終的には大野佑欣が自分自身を解放したことで、ようやく結ばれることができた。ただ、結ばれたとはいえ、新井昴が沢田ではないという事実を受け入れた大野佑欣だったが、それでも沢田のことを忘れてはいなかった。毎年命日には子供を連れて沢田のお墓参りに行っていた。なぜ子供を連れて行くのかというと、おそらく沢田にもあの生まれてこれなかった子供を見せてあげたかったのだろう。大野佑欣は生涯、沢田と、そして失った子供への負い目から逃れられず、幸せとは言えない日々を送っていた。しかし、沢田が別の形でそばにいてくれることに、温かさを感じていた。誰の人生にも複雑な悩みはある。どんな人生であれ、生きていかなければならないのだ。ただ、大野佑欣は仏に祈り続けていた。来世では必ず沢田に再会させて、と。今度はもう、彼を傷つけたりしない、と
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1445話
もし新井昴が現れなかったら、大野佑欣は一年間という時間を使い、沢田への想いを抑えられたかもしれない。しかし、新井昴が現れたことで、波一つ立っていなかった水面に雨粒が落ちたように、彼女の心は激しく揺さぶられたのだ。皆がどんなに「あの人は沢田じゃない。沢田の目にはホクロがないし、パクチーも食べないし、カジュアルな服も着ないし、お経も読まない。二人は全く違う」と説得しても、彼女は聞き入れなかった。大野佑欣は、新井昴こそが沢田だと信じ込んでいた。ただ、記憶を失っているから別人に見えるのだと。彼女は、沢田が別の姿で自分の前に戻ってきたのだと確信し、新井昴に執着し、出家寸前の彼を無理やり俗世に引き戻した。新井昴が還俗した日、彼は大野佑欣の前に歩み寄った。その時の大野佑欣は、まだ蒲団の上に跪き、沢田を返してくれた仏に感謝していた。しかし、願いが叶った喜びに浸っている間もなく、彼女の顎はすらりとした指に掴まれ、ぐいと持ち上げられた。大野佑欣は顔を上げ、新井昴の目を見つめた。確かに、彼の目にはホクロがあった。しかし彼女はそれを無視し、新井昴の瞳に宿る、拭いきれない優しさにも気づかず、ただ沢田と同じ顔に釘付けになっていた。新井昴は彼女にこう尋ねた。「俺を好きになったと言うのに、いつも他の男のことを想っている。俺は替え玉にはなりたくない。もし俺に少しでも気持ちがあるのなら、俺はここに残る。そうでないなら、出ていく」大野佑欣は答えた。「沢田、あなたは私の婚約者で、亡くなった子供の父親なんだよ。そんなあなたがなんで替え玉になれるの？」大野佑欣の言葉と共に、新井昴の瞳の輝きが少しずつ失われていく。新井昴は何も言わず、しばらくの間姿を消した。大野佑欣は彼を探し回ったが見つからず、泣きながら大野皐月に助けを求めるしかなかった。大野皐月は、妹の狂乱ぶりを見るに堪えなかった。新井昴は沢田ではないのだから、出家という彼の人生を壊すべきではないと思っていた。しかし、新井昴が現れたことで、大野佑欣は生きる力を取り戻したのも事実。大野皐月は、複雑な思いを抱えながらも、妹のために動くことにした。大野皐月は新井昴について調べ、彼が東南アジアの有力者の息子であることを突き止めた。そして沢田の墓を開けてDNA鑑定を行い、新井昴と沢田に血縁関係があることを確認した。顔の作りからして、
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1444話
春日琉生は唇を尖らせて反論した。「調子乗ってないし、綺麗なもんは綺麗だろ！」大野皐月は、怒りで顔を真っ赤にした。「いいからとっとと降りろ！」春日琉生はシートベルトを握りしめ、反抗的な顔で言った。「嫌だね！」大野皐月が怒りで足を上げて蹴ろうとした時、後部座席に座っていた霜村冷司が、人々を魅了する瞳で前列をちらりと見た。「二人の従兄弟たち。夕子は妊娠中なんだ。運転に集中して、喧嘩はやめてくれ」「......」淡々とした一言で、喧嘩寸前だった二人の子供みたいな男たちは、急にしょんぼりとした。春日琉生は年下として、大野皐月は従兄弟の奥さんのことで、それぞれ思うところがあったのだ。和泉夕子が妊婦であることを気にかけ、大野皐月はスピードを落とした。春日琉生を蹴り殺したい衝動を抑え、黙って車を寺へと走らせた。大野佑欣は仏前に手を合わせていた。毎日午後10時になると、彼女は和尚の読経を聞きに来る。経を聞き、沢田のことを思い、寺の香りを嗅ぎながら、徐々に沈痛な気持ちを落ち着けていくのだ。しかし、毎晩夢の中で沢田に呼び覚まされ、愛する人を失った悲しみは簡単に忘れられない。大野佑欣は窓辺に座って夜空の月を見つめ、一晩中じっと過ごすことも多かった。彼女は星を見つめ、人が死んだら星になり、この世で照らしたい人を照らすのだと信じ始めた。肉眼で見える星は、きっと沢田が変化したものなのだと。そうでなければ、なぜいつも自分の目に留まり、自分についてくるのだろうか、と。彼女はそんな風に自分を騙して生き続け、沢田を待った。そして時が経つと、沢田は約束通り現れた。今度は俗家の弟子の姿で、彼女の前に現れたのだ。大野佑欣は、仏前に手を合わせ目を閉じ、沢田のためにお経を唱えていた時のことを覚えている。清らかで透き通った、俗世に染まらない声が耳元で響いた。その人は和尚に尋ねた。「仏は、俗世を離れれば俗世の煩悩を受けないと説いています。しかし、なぜ私は仏門に入ったのに、最近、昼も夜も安らげないのでしょうか？」大師は答えた。「きっと何か俗世の縁がまだ残っているのでしょう。だから俗世を離れようとしても、離れられないのです」男は再び尋ねた。「では、和尚、解決策はありますか？」大師は言った。「すべては自身の機縁次第です」「機縁？それはどんな機縁なんです
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1443話
春日琉生は真実を知った時、一晩中驚き、狂ったように過ごした。春日家と霜村家は代々敵同士なのに、今や霜村冷司のせいで親戚になってしまった。一体誰がそんなこと受け入れられるっていうんだ？春日琉生はまだ復讐を考えていたが、春日時は親戚なのだから、この件はもういい加減にしろと警告した。霜村家の誰か空気を読めない奴が、陰で春日家を刺し続けるようなことがあれば別だが、そうでなければ霜村冷司に復讐するな、と。もちろん、春日時がそう釘を刺したのは、春日琉生の頭では霜村冷司に勝てるわけがないと思っていたからでもある。春日家の最後の血筋を守るため、なんとか「やさしく言い聞かせて」で相手を説得したのだ。説得の理由は、この関係を一番受け入れ難いのは春日家の人間ではなく霜村冷司だということ。なにしろ、霜村冷司はどうしても春日時を「叔父さん」と呼ばなければならず、そのことだけで霜村家より立場が上に立たれる。それを聞いた春日琉生は、ぱっと目が輝き、太ももを叩いて、ものすごく興奮した様子で春日時の腕を揺さぶった。「お父さん、それはすごいな！霜村家より立場が上だなんて、めちゃくちゃ俺の面目も立つってもんじゃん！」間抜けな春日琉生の様子を見て、春日時は掌を上げ、すぐさま強烈なビンタをお見舞いし、さらに足で蹴って家の外に追い出した。興奮冷めやらぬ春日琉生は荷物をまとめてチェンライへ。この朗報をいとこたちに伝えようとやってきたが、なんと空港の出口を出たところで本人たちに遭遇。すごい偶然だと思わないか？その時の春日琉生は嬉しさのあまり、あることを忘れていた。興奮を抑えきれずにこう言った。「兄さん、霜村さんは俺のお父さんを『叔父さん』と呼ばなきゃいけないんだぞ。それに、兄さんのお母さんも『叔母さん』って呼ばれるんだ。さらにさらに......」春日琉生は白い指を、後部座席で黙っている和泉夕子に向けた。「夕子は春日家の人間じゃないけど、望おばさんは春日家で育ったんだから、俺の叔母みたいなもんだろ？だから、霜村さんも望おばさんを『叔母さん』と呼ばなきゃいけない。これって笑えると思わないか......」そう言って春日琉生は自分で口を覆い、体を折り曲げるほど大笑いした。車内にいた人たちは、その耳障りな笑い声を聞きながら顔を見合わせた。理屈はそうだが、春日琉生は明らかに自分が霜村冷司を
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1442話
霜村冷司はそれ以上反論せず、彼女に促すと、和泉夕子は口を開いた。「以前、志越が立ち上がることができたら、盛大な贈り物をすると約束したの......」霜村冷司に誤解されたくなかった和泉夕子は、言葉を付け加えた。「大野さんに対しても命を救ってくれた贈り物もしなきゃいけないし、穂果ちゃんの面倒を見てくれた柴田さんとジョージにも贈り物をするつもりだから......」説明を終える前に、霜村冷司の優しい声に遮られた。「夕子、贈りたいなら贈ればいい。許可を求める必要はない」和泉夕子は霜村冷司の完璧な顔を抱きしめ、強くキスをした。「あなた、本当に優しいのね」褒めた後、和泉夕子は続けた。「じゃあ、今から贈り物を選んで、新井さんに人を手配してもらう」立ち上がろうとした彼女を、霜村冷司は引き止めた。「何を贈りたいか教えてくれ。手配する」彼は少しも自分を苦労させたくないのだ。こんな素敵な夫のおかげで、和泉夕子は心が甘く満たされた。彼女は微笑みながら、贈りたいものをそれぞれ霜村冷司に伝えると、彼は手配をしに行った。手配を終えた霜村冷司は、和泉夕子を支えながら部屋へ戻った。彼女が一人で入浴するのが心配だったので、手伝ってあげた。入浴後、バスローブを着せて、ベッドに運んだ。すべてを終えた後、霜村冷司は浴室に行き、冷水で頭を冷やし、欲望を鎮めた。男は欲が深い。こんなに長い間禁欲して、見ているだけで触れられないのは、本当に辛い。彼は顎を少し上げ、冷たい水を浴びた。その姿、少し開いた唇は、欲情を漂わせていた。彼はその欲情を帯びたまま、和泉夕子の隣に戻った。温かい彼女を抱きしめ、霜村冷司は何度も喉仏を動かしたが、最終的にはすべてを我慢し、目を閉じた。翌朝、穂果ちゃんが学校へ行き、新井が贈り物を届けに行くと、霜村冷司と和泉夕子は再び専用機に乗り込んだ。二人がチェンライに到着したのは、ちょうど昼時で、空は青く、太陽は輝き、気温もちょうど良かった。大野皐月への贈り物は、霜村冷司が持参しており、会うなり和泉夕子は両手でそれを大野皐月に手渡した。「受け取らないって言うのはあなたの自由だけど、命を助けてもらったことには、ちゃんとお礼したいから」大野皐月は和泉夕子と贈り物に視線を向け、あまり乗り気ではない様子だった。まるで、受け取
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1441話
彼女も覚えていたんだ。あの最後の晩餐を。霜村冷司は、意志の固い和泉夕子を見つめ、それ以上拒むことはなかった。「分かった、一緒に行こうか」和泉夕子はそこで手を伸ばし、男の逞しい腕に抱きついた。「あなた、帰ろう」霜村冷司は片腕で彼女の腰を抱き、もう片方の手で彼女のお腹を支えながら、二人でブルーベイの中へと入っていった。二人が無事に帰って来たのを見て、新井は喉まで出かかっていた心臓をようやく下ろすことができた。彼は喜び勇んで、シェフに豪華な食事の用意をさせ、学校へ穂果ちゃんを迎えに行くように指示を出す。和泉夕子は穂果ちゃんに長い間会っていなかったので、とても恋しかった。同時に、申し訳ない気持ちもあった。まだあんなに小さい子供なのに、手紙一枚だけ残して出て行ってしまった。本当に申し訳ないことをした。新井によると、穂果ちゃんはとても聞き分けがよく、二人に用事があることを知っていて、時々名前を呼ぶくらいで、騒いだりしなかったそうだ。和泉夕子は、穂果ちゃんが泣かなかったかどうか尋ねた。新井は、柴田南とジョージが一緒にいて、あやしてくれたので、穂果ちゃんは泣く暇もなかったが、夜寝ている時に何度か泣きながら目を覚ましたそうだ。新井があれこれとあやして、なんとか眠りにつくらしい。穂果ちゃんが何度か泣いたと聞いて、和泉夕子はさらに胸を痛めた。新井は慌てて彼女を慰め、穂果ちゃんは霜村冷司にだけ腹を立てているのだと言った。和泉夕子が理由を尋ねると、新井はこう説明した。霜村冷司が先日帰って来た時、穂果ちゃんが学校から帰る前に出て行ってしまったので、穂果ちゃんがひどく怒って、「叔父さんが帰って来たら無視する」と誓ったらしい。話を聞き終えた和泉夕子は、霜村冷司の顔が真っ赤になっているのを見て、思わず笑ってしまった。穂果ちゃんは子供だから、言ったことをすぐに忘れる、気にしないで、と慰めた。ところが、学校から帰って来た穂果ちゃんは、本当に霜村冷司を無視した。霜村冷司はたくさんのプレゼントを買って、機嫌を取ろうとしたが、無駄だった。少し大きくなった穂果ちゃんは、頑固な性格で、霜村冷司も手を焼いて、もう相手にするのも面倒になっている。霜村冷司が構わないので、逆に穂果ちゃんは落ち着かなくなり、食事中、くりくりとした大きな目で彼を何度も盗み見ていた。
