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第 231 話

Author: 水原信
海咲は唇を引き結び、静かに言った。

「……木村くん、私が退職したこと知ってるはずでしょ?」

すると清は、あくまで柔らかい口調で答えた。

「退職は、社長の許可がないと正式には認められません。それに、まだ後任が決まっていませんので、それまでは出勤を続けてもらわないと……温井秘書、今からでも役所を離れて会社に戻ってください」

――離婚は成立せず、仕事は辞められず。

海咲は思わず言葉を失った。

……何この状況。

だが、冷静に考えてみれば、確かに自分にも落ち度があった。

きちんと引き継ぎもせず辞めようとしたら、周囲に迷惑がかかるのも当然だ。

誰も文句を言えない形で辞めるには、後任が必要だ。

「じゃあ、新
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Comments (1)
goodnovel comment avatar
ぶたさん
なかなかタイトル回収しないなー
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