LOGIN病院を出る道すがら、梨花は警察に通報を入れた。彩夏のしてきた数々の「善行」――そろそろ、まとめて清算する時だった。そのとき、目の前に一台の車がスッと停まり、窓が開いた。運転席には清。相変わらず整った顔立ちには、心配と不安の色が浮かんでいた。「……さっき、母さんに何か嫌なこと言われなかった?」「もちろん、そんなことはないよ。後悔してたみたいで、許してほしいって言ってきた。でも……やっぱり、私は心の整理がつかない」そう言いながら、梨花は助手席のドアを開けて乗り込んだ。そして、病室で起きた出来事を清に話して聞かせた。彼は黙ってすべてを聞いたあと、そっと彼女の手を握りしめた。「これから
彩夏は一歩後ずさりしながら、スマートフォンを頭の上に高く掲げ、口を動かした――「金を出して」。次の瞬間――清の母の肘がベッドの脇に置かれていた電気ポットにぶつかり、ガシャッという大きな音とともに床に落下した。中の熱湯が勢いよく飛び散り、彼女と彩夏の両方にかかった。「キャーッ!……わざとでしょ!?」彩夏は怒りで歯を食いしばり、全身を震わせた。どうせ病室には他に誰もいない。少しぐらい八つ当たりしてやろうと思ったそのとき――ガチャリと病室のドアが開いた。入ってきたのは、梨花と担当医だった。彩夏の姿を見ると、梨花はぴたりと足を止めた。そして視線を移し、ベッドに横たわる清の母の姿を見て
「本当に、目が節穴だったわよ!」清の母は怒りで顔を真っ赤にして、声を荒げた。「あんたなんかを息子の嫁にしたいなんて思ってたなんて……今となっては、うちの子があんたに興味を持たなくて本当に良かった!もし結婚なんてしてたら、木村家は今頃めちゃくちゃになってたわ!」「でも最初に私を引き込んだのはあんたでしょ?」彩夏は一歩も引かず、にじり寄った。「愛人になれって言ったのも、変な薬を入れたお茶を飲ませたのも、全部あんたよね?あの茶、体にどんな影響あるかも分からないのよ?!」もう、ここまで来たら遠慮なんて必要なかった。「だから私は、あんたに二つしか選択肢をあげない。ひとつは、清と結婚させてく
けれど、清には一切通じなかった。優しく出ても、強く出ても、彼の態度は変わらなかった。そんな中、病室のドアが開き、梨花が入ってきた。その瞬間、清の母は「彼女は怒鳴り込んできたのか」と一瞬身構えた。だが、梨花の態度は意外にも落ち着いていた。「おばさん、入院費はすでに全部支払い済みです。ここでゆっくり療養してください。もしご希望があれば、退院後に良いリハビリ施設を手配します」その口調はとても他人行儀で、淡々としていた。これだけのことがあって、「お義母さん」と呼ぶ気にはなれなかった。これからはおばさんで十分――梨花の中で、そう決まった。清の母は呆然とした。――梨花は見舞いに来てくれたの
「父さん、そんなに怒らないでよ」清は顔を真っ赤にしている父の様子を見て、苦笑しながら言った。「年を取ると、怒りで倒れたりするんだよ。母さんだって、そうだったじゃない?」もう少し余計なことを考えずにいれば、今日みたいに手術室に運ばれることもなかったのに。清の父は喉に何かが詰まったようにむせ返った。「お前な……父親に向かって、よくそんな口がきけるな!もういい、梨花を出せ!」「梨花は今、手が離せない。話があるなら俺にどうぞ。特に用がないならもう切るよ」清は淡々と遮った。馬鹿じゃない。父が梨花に直接プレッシャーをかけようとしているのは、見れば分かる。でも、彼女をそんな目に合わせるなんて、絶
華奈は自分自身が本当に情けなかった。そもそも、どうしてあのとき叔母のちょっとした見返りに釣られて、一緒になって馬鹿な真似をしたのか。今となっては、事態は取り返しのつかないほど拗れてしまった。「分かった、すぐに向かう」清は電話を切り、梨花に向き直って尋ねた。「一緒に行くか?それとも先にタクシーで帰る?」「一緒に行くわ。今はどうこう言ってる場合じゃないでしょ。運転、気をつけてね」梨花はすぐにシートベルトを締めた。彼女は病気で倒れた人にまで怒りを向けるような人間じゃない。病院に到着すると、二人は急いで手術室の前まで駆けつけた。廊下では華奈が待っていて、彼らの姿を見るなり駆け寄ってき







