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第 610 話

Author: 水原信
「まずい!夫人がこっちに来る!」

海咲がこちらに向かってくるのを見た二人は、急いで厨房の方へ逃げた。

「どういうことだ?」もう一人の男、一峰(かずたか)が言った。「夫人がこっちに来るなんて、まさか俺たちがバレた?」

「あり得ない!」竜二は即座に否定した。「俺たちは軍人だぞ。夫人に気付かれるなんてことがあるはずがない」

「じゃあ、夫人は何しにこっちに来たんだ?」

二人は姿勢を低くして歩きながら話した。

「とりあえず隠れよう」

二人は隠れるのに適した場所を探し、暗い隅に身を潜めた。

「彼女に見つからないようにしろ。夫人が立ち去ったらまた動けばいい」

一方で、海咲は防火装置を確認しに来ていた。

そこ
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