Share

第709話

Author: 楽しくお金を稼ごう
天音は要をじっと見つめ、たちまち瞳を潤ませた。涙がぽろぽろと要の手の上にこぼれ落ち、涙声で言葉にならないまま口を開く。「アレックスに殺されたんだと思ってたよ!今、抱きしめてくれないの?」

要は静かに天音に近づき、温かい吐息が彼女の唇をかすめると、その小さな顔をじっと見つめた。「君をこの戦場から無事に逃がすためには、こうするしかなかったんだ。俺が生きて戻れたのは、ただの偶然だ」

あのスポーツカーはあまりにも目立ちすぎていた。外に広がる瓦礫の山とは不釣り合いだったのだ。

あの時、要自身も、何を確かめたいのか分かっていなかった。

天音はむっとした。お願いしているのに、要はまだ説教じみたことばかり言うから。構うものかと、要の唇に自分の唇を重ねた。

次の瞬間、要に主導権を奪われた。

要は天音を抱き寄せ、大地に背を向けるように体をずらすと、深く天音に口づけた。

要は確かに天音を抱きしめていたが、その心はまだ不安に苛まれ、激しく揺れ動いていた。

大地は携帯を取り出し、二人の写真を撮って、蛍に送った。

窓の外では、戦闘が絶え間なく続いていた。一筋のレーザーのようなミサイルが突然お城を直撃し、お城は一瞬にして完全に吹き飛ばされた。

……

一行はB国には戻らず、直接帰国した。

天音は3D心臓実験室で検査を受けることができなかった。

要は、天音が妊娠していることを知る由もなかった。

プライベートジェットの中で、天音は要にバスルームへと引きずりこまれた。

天音は慌てて要の胸を押し返し、「なにするの?」と聞いた。

要の眼差しは静かで、いつもと変わらないように見えた。しかしその視線は、天音の体を隅々まで探るようだった。

「服を着替えさせる」

要の声は、いつものように淡々としていた。

「いいの、帰ってからで」天音には無理だった。壁一枚隔てた向こうには、大地や特殊部隊の隊員、スタッフまでいるのだから。

天音の言葉を聞くと、要は眉間にしわを寄せ、彼女の両手を背中で押さえつけた。そして、もう片方の手で、その複雑なデザインのドレスを解こうとした。

「あなた?」

天音は要の目がだんだんと険しくなっていくのを感じ、焦って彼に言った。「怪我はしてないから」

しかし、要が止まる気配はなかった。彼はゆっくりとリボンに指をかけ、少しずつ解いていった。

天音は服を着替え
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 妊娠中に一緒にいた彼が、彼女を失って狂った話。   第709話

    天音は要をじっと見つめ、たちまち瞳を潤ませた。涙がぽろぽろと要の手の上にこぼれ落ち、涙声で言葉にならないまま口を開く。「アレックスに殺されたんだと思ってたよ!今、抱きしめてくれないの?」要は静かに天音に近づき、温かい吐息が彼女の唇をかすめると、その小さな顔をじっと見つめた。「君をこの戦場から無事に逃がすためには、こうするしかなかったんだ。俺が生きて戻れたのは、ただの偶然だ」あのスポーツカーはあまりにも目立ちすぎていた。外に広がる瓦礫の山とは不釣り合いだったのだ。あの時、要自身も、何を確かめたいのか分かっていなかった。天音はむっとした。お願いしているのに、要はまだ説教じみたことばかり言うから。構うものかと、要の唇に自分の唇を重ねた。次の瞬間、要に主導権を奪われた。要は天音を抱き寄せ、大地に背を向けるように体をずらすと、深く天音に口づけた。要は確かに天音を抱きしめていたが、その心はまだ不安に苛まれ、激しく揺れ動いていた。大地は携帯を取り出し、二人の写真を撮って、蛍に送った。窓の外では、戦闘が絶え間なく続いていた。一筋のレーザーのようなミサイルが突然お城を直撃し、お城は一瞬にして完全に吹き飛ばされた。……一行はB国には戻らず、直接帰国した。天音は3D心臓実験室で検査を受けることができなかった。要は、天音が妊娠していることを知る由もなかった。プライベートジェットの中で、天音は要にバスルームへと引きずりこまれた。天音は慌てて要の胸を押し返し、「なにするの?」と聞いた。要の眼差しは静かで、いつもと変わらないように見えた。しかしその視線は、天音の体を隅々まで探るようだった。「服を着替えさせる」要の声は、いつものように淡々としていた。「いいの、帰ってからで」天音には無理だった。壁一枚隔てた向こうには、大地や特殊部隊の隊員、スタッフまでいるのだから。天音の言葉を聞くと、要は眉間にしわを寄せ、彼女の両手を背中で押さえつけた。そして、もう片方の手で、その複雑なデザインのドレスを解こうとした。「あなた?」天音は要の目がだんだんと険しくなっていくのを感じ、焦って彼に言った。「怪我はしてないから」しかし、要が止まる気配はなかった。彼はゆっくりとリボンに指をかけ、少しずつ解いていった。天音は服を着替え

  • 妊娠中に一緒にいた彼が、彼女を失って狂った話。   第708話

    第二波のミサイル攻撃があると聞いて、遠くにいた人々は慌てて逃げ出したり、隠れる場所を探したりし始めた。天音は、混乱の中で逃げ惑う女性や子供たちを見ながら、そっと自分のお腹に手をやった。玲奈のことを思い出していた。要がもういない今、自分も何かを残さなければいけない。天音は人波に流されるまま、当てもなく歩いていた。突然、目の前でミサイルが爆発した。人々は四方八方に散っていく。前のほうにいた人たちは引き返し、後ろからは人がどんどん押し寄せてきて、身動きがとれなくなった。天音は仕方なく高台に登った。すると突然、耳元で強い風が吹き荒れた。見上げると、そこには赤い印のついたヘリコプターが何機も飛んでいた。強い風が吹き荒れ、要が着ている白いシャツを激しくはためかせた。大地には理解できなかった。「要、奥さんはきっと連れ去られてしまったんだ!要、もうすぐミサイルが来るぞ!行こう!」しかし、要はただヘリコプターの開いたドアに大きな手をかけ、下にいるパニック状態の人々を見下ろしていた。突然、二人の視線が交わった。「天音!」要の声は、絶望の中で見つけた希望の歌のように、天音の耳に届いた。華やかなドレスを身にまとった天音は、瓦礫の中にぽつんと立っていた。その姿は周りの光景とはまったく馴染んでいなかった。白い顔は喜びに満ち、目の縁はみるみる赤くなって、すぐに熱い涙がこぼれ落ちた。要はライフラインを伝って降りてくると、天音をその腕の中に抱きしめた。失ったはずの人との、再会。静まり返っていた要の心臓が、抑えきれないほど激しく高鳴り、天音をきつく、きつく抱きしめた。天音は要の首に腕を回すと、彼を見上げた。瞳を瞬かせるとキラキラした涙がこぼれ、視界がはっきりする。そして、つま先立ちになって、要の唇にキスをした。要は身をかがめて天音に二度キスを返したが、すぐ体を離してしまった。そして、天音の肩から手を滑らせて全身に怪我がないか確認すると、もう一度ぎゅっと抱きしめた。要の落ち着いた様子に、天音の心によぎったのは驚きだった。どうしていいのか分からない。「しっかり捕まってろ」その言葉を聞いて、まだ気持ちの整理はつかなかったけれど、天音は素直に要の首に腕を回した。すると、要はしっかりと天音の腰を抱き寄せる。

  • 妊娠中に一緒にいた彼が、彼女を失って狂った話。   第707話

    アレックスは死んでいなかった。死んでいないどころか、天音に抱きついていた。「ついてこい、俺と一緒に行くんだ!」天音はアレックスに腕を掴まれ、部屋から引きずり出された。アレックスにお城から引きずり出される途中、花瓶を一つ手に取った。外には、慌ただしく逃げ惑う人々と、出発準備の整った部隊がいた。アレックスは火傷で深手を負っていて、なんとか天音を車の助手席に押し込んだ。だが、彼が運転席に座った瞬間、天音は花瓶で彼の頭を殴りつけた。そしてアレックスが呆然としている隙に、天音は彼を車外へと突き飛ばした。天音は助手席から運転席に這うように移動すると、アクセルを力いっぱい踏み込んだ。そして、車をドリフトさせると、地面から起き上がったアレックスに向かって突っ込んでいった。それは、誰もが予想だにしなかった、ほんの一瞬の出来事だった。アレックスは、か弱いと思っていた天音が、車で自分に突っ込んでくるのを恐怖に怯えながら見つめていた。そして、そのまま撥ね飛ばされた。アレックスは虫の息で地面に倒れ、次の瞬間、静かに目を閉じた。そこへ、お城の中から慌てて駆けつけてきたアレックスの父親、ルークが飛び出してきた。ルークは息子を抱き上げると、天音を食い殺さんばかりの形相で睨みつけ、「この女を殺せ!」と部下たちに命じた。要はもう死んでしまったのだ。その思いが、天音にアクセルを思い切り踏み込ませた。ルークめがけて、まっすぐに突っ込んでいった。その瞬間、無数の銃口が天音に向けられた。銃弾が車体を撃ち抜き、タイヤが破裂した。車体は大きく傾き、甲高いブレーキ音が響き渡る。それでも勢いは止まらず、車は道路から飛び出して瓦礫の中に突っ込んだ。そして崩れた瓦礫が、車体の半分を飲み込んでしまった。突然、人々の中から悲鳴が上がった。「ミサイルだ!まだ来る!」その声を聞いて、人々は蜘蛛の子を散らすように車に乗り込み、猛スピードで現場を離れていった。……ヘリコプターが、もうもうと土煙を巻き上げていた。要がこの瓦礫の地に足を踏み入れた時、お城にはもう誰も残っていなかった。特殊部隊の隊員たちも要に続いてお城に入り、一部屋ずつ捜索を進めていく。要は一階から順に部屋を確認していった。そしてある部屋で、天音の物である真珠の指輪を見つけた。

  • 妊娠中に一緒にいた彼が、彼女を失って狂った話。   第706話

    アレックスはこの国の次期後継者でありながら、叢雲という、まるで幻のような存在を追いかけるのに十年以上も費やしてきた。それなのに、国民のために何ができるのか、本気で考えたこともなかったのだ。もし、この国が要の手にあったなら、きっとこんなことにはならなかっただろう。要……彼はいつも頼りになるし、国民のことを第一に考えてくれる。生まれながらの政治家なんだ。アレックスは知らないだろう。自分が二年後に死ぬのだ。だから、ここで一緒に死んだって、どうってことはない。一時間後。敵は猛烈な攻撃を仕掛けてきた。アレックスは天音にノートパソコンを一台渡した。「叢雲、我々を助けてくれ!」アレックスは天音に懇願した。自分は要の妻だ。たとえ、要がもうこの世にいなくても、自分の国の政府高官の未亡人として、もしアレックスの国に手を貸せば、必ずや国際問題を引き起こすだろう。そうなれば、自分の国は中立を保ちたくても、立場を表明せざるを得なくなる。耳には、人々の泣き叫ぶ声ばかりが響いていた。窓の外に広がるこの世の地獄のような光景が、初めて天音の心の奥深くまで突き刺さった。親に抱かれていたはずの子供が、瞬きする間に一人きりになり、次の瞬間には爆風で跡形もなく消え去るのを、天音は見てしまった。胸を締め付ける痛みを無理やり抑え込むと、天音は不意にその両手をノートパソコンに伸ばした。「こんな強力な攻撃は防ぎきれない!ミサイル防衛システムを起動して!」天音はすぐさまネットワークに接続し、ダークウェブに侵入すると、マインスイーパシステムを起動させた。アレックスはすぐさま部下に命じ、ミサイル防衛システムを起動させた。強力なマインスイーパシステムは、瞬時にミサイル防衛システムに侵入した。そして、システムの全データを精密に計算し直し、その能力を無限に拡張していく……肉眼では見えないが、その防御システムはすでに周囲へと広がり、空の下にいる罪なき人々をその腕で包み込もうとしていた。迎撃ミサイルが次々と攻撃ミサイルに命中し、空には鮮やかな花火が咲き乱れた。天音は『マインスイーパ』の画面に続き、別のハッキングシステムを起動させ、お城内部の監視カメラに侵入した。アレックスは驚きのあまり天音の背後に立ち尽くし、口を開けたまま、一言も発することができなかっ

  • 妊娠中に一緒にいた彼が、彼女を失って狂った話。   第705話

    窓の外で突然、ごう音が響いた。天音が住むお城に命中したミサイルは空中で砕け散り、その破片は、アレックスが守ると言っていた国民の頭上に降りそそいだ。このお城全体は、まるごとミサイル防衛システムで守られている。みんなはトランシーバーを使っているから、外部に連絡できるチャンスは一度きり。通信すればすぐにバレてしまう。天音はすぐに携帯の通話履歴を消した。システムの裏に回り、ダークウェブに侵入してマインスイーパシステムを起動させる。そして自分のいる場所の信号を基地に送り、二時間後にここをミサイルで爆撃するよう座標を送信したのだ。要の仇を討つ。このお城も、アレックスも、すべて更地にしてやるんだ。信号を送り終えた途端、バスルームのドアが激しく叩かれた。「叢雲、どうした?」声は穏やかだったが、その直後、ドアは外から力ずくでこじ開けられた。なんて乱暴なの。天音は、アレックスと、ドアをこじ開けて後ろに下がったメイドを見た。天音は、床に散らばる花瓶の破片と壊れて落ちた監視カメラを見て、口の端を上げた。「未来の妻にこの扱いなんて、本当に紳士的ね」皮肉をたっぷり込めて言った。「心配しただけだ。気に障ったのなら、すぐに片付けさせよう」天音はアレックスの横を通り抜けようとしたが、強く手首を掴まれた。「叢雲、携帯をよこせ」天音はアレックスの手を振りほどくと、携帯を便器に叩きつけ、窓際の椅子に腰かけた。アレックスはメイドに後始末を指示すると、振り返って天音の背後に立った。「誰に電話した?」「自分で調べればわかるでしょ?」「ダークウェブにアクセスしたのか?誰に何を伝えようとした?」「調べればいいじゃない?」アレックスは顔をしかめた。追跡できなかったのだ。だが、アレックスは身をかがめると言った。「あなたのそういう、一筋縄ではいかないところが好きだ」天音はソファの上に足を上げて体を縮め、ふっと冷たく笑った。「あなたを買いかぶっていたみたいね。昨日の夜、ずっと考えてたの。あなたは私のシステムのコードを分析できるのに、どうして全く同じものを作らないんだろうって……まあ、才能がないんじゃ仕方ないわね……あなたに、私と同じシステムをゼロから作る力はない。だから解析してたのは、私の『マインスイーパ』を破るためじゃない。奪

  • 妊娠中に一緒にいた彼が、彼女を失って狂った話。   第704話

    抵抗を諦めた天音の無力な様子に、アレックスはかがみこむと天音の額にキスをした。「遠藤なんかより、俺の方が一万倍もいい男さ。あなたはこれからずっと幸せになるんだ」そう言い残し、アレックスは部屋を出ていった。天音ははっと顔を上げてドアに目をやった。瞳の奥では怒りの炎が燃えている。ドアのそばではメイドらしき女が二人アレックスと話している。メイドたちの腰には、トランシーバーがついていた。天音は立ち上がって窓辺へ行き、外に広がる荒れ果てた景色を眺めた。それなのに、自分がいるこの場所は、まるでお姫様のお城と何ら変わりなかった。天音は鼻で笑った。「これが、『自分の国を守る』ってことなの?」天音がおとなしくしていたおかげで、多少の自由を得ることができた。夜になり、アレックスと共にレストランへ行くことを許された。天音はショーウィンドウの人形のように着飾られ、アレックスの隣に座らされた。アレックスは次々と自分の子供や愛人たちを紹介してくる。プーセンのように、アレックスにも大勢の女がいた。天音は女たちを見回してから、フンと笑った。「まさか私も、この女性たちと一緒にあなたを取り合うことになるのかしら?」アレックスは目を輝かせた。「まさか」その言葉を聞いた女たちの表情がさっと変わった。「アレックス様、私たちはアレックス様と奥様のお荷物にはなりません。どうか、追い出さないでください」天音はすっと立ち上がり、発言した女のそばへ歩み寄った。その女は背が高くスレンダーで、天音よりも頭半分ほど背丈があった。天音は彼女を見上げ、有無を言わせぬ迫力で言った。「服を脱ぎなさい。持ち物は一つ残らず置いていくのよ」「な、なんですって?」女たちは騒然となった。当の女は信じられないと叫び、天音とアレックスを交互に見た。「アレックス様、私はあなたの子供の母親なのですよ!」しかしアレックスは、感情のかけらもない冷たい声で「脱げ!」と命じるだけだった。アレックスの言葉が終わるやいなや、その女に真っ先に掴みかかったのは、アレックスの他の女たちだった。彼女たちは、天音の機嫌を損ねることを恐れていたのだ。「いつまでいい気でいられると思ってるんですか。私たちだって、みんなそうやってきたのですよ!そんなに偉そうにしてると、いつか痛い目に遭います

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status