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第85話

Author: 楽しくお金を稼ごう
二人はじっと見つめ合い、天音は驚きの表情のまま彼を見ていた。

こんなにも長い間、彼は彼女を待ち続けていたのか。

直樹の母親は五年前に亡くなったはずだ。

この五年間、二人は一度も顔を合わせていなかった。

龍一は、天音にとってずっと憧れの存在だった。

だが、龍一は何度も率直で大胆な言葉をぶつけてきて、天音の心を大きく揺さぶった。

「先輩……」天音は戸惑いを隠せず、「私、これからはもう恋愛に執着するつもりはないの」と苦しげに言った。

どうしたらいいか、天音にはもう分からなかった。

「恋愛に執着しないってことは、今他に好きな人がいないってことだろ?それなら俺のチャンスは十分あるな」龍一は淡々と分析してみせた。

天音は子どもの頃から美しく、優秀で、常に周囲の人気を集めてきた。

蓮司と出会う前にも、多くの男の子が天音を気になっていた。その中には熱烈にアプローチしてくる人も少なくなかった。

蓮司と付き合うようになってからは、他の男も天音に近づこうとしなくなった。

天音は、あまりに長い間誰かに情熱的に想いを伝えられていなかったせいで、龍一の言葉に少し心がざわついていた。

「先輩!私の言いたいことが分からないの?」天音は眉をひそめて、困った顔で龍一を見た。

龍一は天音の苦しげな様子に気づき、大きな手をそっと天音の頭に乗せた。「分かった。分かった。

じゃあ仕事の話だけしよう。明日から研究室に来て手伝ってくれ」

天音と蓮司が離婚するまで、龍一は絶対に彼女のそばを離れないつもりだ。誰にも天音を奪うことはさせない。

「君は六年も現場から離れていたから、ソフトウェアの世界もだいぶ進化している。桜子は隊長の下で今一番優秀なホワイトハッカーだ。彼女は君が必要な最新技術を全部持っている……」

「分かりました!明日、必ず研究室に行きます」

天音はすぐに答えた。六年離れてはいたが、最先端の技術はほとんど学び続けていた。ただ実際に使う機会がなく、桜子と交流できれば必ず自分も成長できると感じていた。

龍一は天音が嬉しそうに微笑むのを見て、大きな手でそっと彼女の髪を撫でた。その瞳には溢れんばかりの愛情が滲んでいた。

あらかじめ隊長に頼み込んで桜子を自分の下につけておいたのは、やはり正解だった。

会場では、二人の間に視線を送る人たちが増えていた。

誰かが携帯を取り出
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