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20年越しの復讐――父の仇も、裏切った夫も法で裁く

20年越しの復讐――父の仇も、裏切った夫も法で裁く

By:  六月の心Completed
Language: Japanese
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時効成立の最終日。 怜佳はついに、父が殺害された事件を覆す決定的な証拠を見つけ出した。 だが、その証拠を裁判所へ提出した直後、無罪判決が下ったというニュースが目に飛び込んできた。 SNSで拡散され、トレンド1位になった写真には、夫の柊が純玲の顔を手でかばい、眩しいフラッシュから守っている姿が映っていた。 次の瞬間、純玲がSNSを更新した。 【彼は「どんなことがあっても、必ず支えてみせる」って言ってた。その約束、彼は本当に守ってくれた】 怜佳は血が一気に頭へ上り、我を忘れて柊の執務室へ駆け込んだ。 「犯人を必ず裁かせるって約束したから、証拠をあなたに預けたというのに......どうして彼女が無罪になるの!?」 柊は顔も上げず、純玲にケーキを一口食べさせながら、静かに言った。 「怜佳、君のお父さんが亡くなってもう20年だ。そろそろその恨みも手放せ。それに、当時の純玲は故意じゃなかった。あの人が彼女を刺激しなかったら、正当防衛なんてことにも......」 「正当防衛ですって!?」 怜佳は涙を浮かべ、声を張り裂けんばかりに叫んだ。 「20か所......何度も、何度も心臓を刺したのよ!それのどこが正当防衛なの!」

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Chapter 1

第1話

時効成立の最終日。

岩上怜佳(いわかみ れいか)はついに、父が殺害された事件を覆す決定的な証拠を見つけ出した。

だが、その証拠を裁判所へ提出した直後、無罪判決が下ったというニュースが目に飛び込んできた。

SNSで拡散され、トレンド1位になった写真には、夫の久村柊(ひさむら しゅう)が米倉純玲(よねくら すみれ)の顔を手でかばい、眩しいフラッシュから守っている姿が映っていた。

次の瞬間、純玲がSNSを更新した。

【彼は「どんなことがあっても、必ず支えてみせる」って言ってた。その約束、彼は本当に守ってくれた】

怜佳は血が一気に頭へ上り、我を忘れて柊の執務室へ駆け込んだ。

「犯人を必ず裁かせるって約束したから、証拠をあなたに預けたというのに......どうして彼女が無罪になるの!?」

柊は顔も上げず、純玲にケーキを一口食べさせながら、静かに言った。

「怜佳、君のお父さんが亡くなってもう20年だ。そろそろその恨みも手放せ。それに、当時の純玲は故意じゃなかった。あの人が彼女を刺激しなかったら、正当防衛なんてことにも......」

「正当防衛ですって!?」

怜佳は涙を浮かべ、声を張り裂けんばかりに叫んだ。

「20か所......何度も、何度も心臓を刺したのよ!それのどこが正当防衛なの!」

彼女は彼の手をつかみ、懇願するように見つめた。

「証拠を返して。再審を求めるから!」

しかし柊は冷たく手を振り払い、目には苛立ちが浮かんでいた。

「もういい加減にしろ。今の君はまるでヒステリックな女だ。純玲はこの20年間ずっと罪悪感を抱えて生きてきた。それ以上、彼女に何を望むというんだ」

怜佳の唇が震えた。

「証拠を処分したのね......?」

柊は何も答えなかった。

その沈黙が、何より残酷だった。

怜佳は完全に崩れ落ち、思わず彼の頬を叩いた。

「......私は弁護士よ。この命を懸けても、父の無念は必ず晴らしてみせる!」

すると純玲が泣きながら窓辺へ駆け寄った。

「わかった。だったら今ここで死ぬわ。それで満足なんでしょう!?」

「純玲!」

柊は怜佳を突き飛ばして純玲のもとへ駆け寄ると、振り返ってボディーガードに鋭く命じた。

「怜佳を別荘へ連れ帰って部屋に閉じ込めろ。俺の許可があるまで、一歩たりとも外へ出すな!」

怜佳は胸をえぐり取られたような痛みに襲われた。

どうしても理解できなかった。

純玲の父親は、柊の父親を殺した相手でもあるのに、なぜ彼は何のわだかまりもなく、仇の娘を許せるのか。

20年前、怜佳の父と柊の父は同じ建設現場で働いていた。

そこで、米倉不動産の社長が粗悪な鉄筋を使ってマンションを建設している事実を知った。

柊の父親は穏便に説得しようとしたが、その場で口封じのため殺され、遺体はセメントに埋め込まれた。証拠は何一つ残らなかった。

一方、怜佳の父親は警察へ通報に向かう途中で純玲に連れ去られ、心臓を20回刺されて命を落とした。

二人の子どもは怜佳の父親の遺骨を抱えて抗議に行ったが、純玲はロールス・ロイスから降り立つと、赤い革靴のつま先で柊の胸を蹴りつけた。

「死んだのは運が悪いせいなのよ。うちをゆすりに来ないで」

柊は純玲を心の底から憎み、怜佳を抱き締めながら固く誓った。

「怜佳、安心してくれ。命を懸けてでも、お父さんたちの無念は必ず晴らす」

それから20年。

怜佳は懸命に勉強し、大学の法学部へ進学して優秀な弁護士となった。

父の無実を証明する一心で、証拠を探し続けた。

一方の柊は巨大な企業を築き、裏社会とも渡り合いながら汚れ仕事を一手に引き受け、表では決して得られない情報を数多く集めていた。

結婚式の日、彼は彼女を抱き締め、こう約束した。

「怜佳、俺は君のための盾になる。君は証拠を集めることだけ考えればいい。俺が、すべてから君を守ってみせるよ」

その言葉どおり、彼は米倉家を没落させ、純玲の父を刑務所へ送った。

だが、純玲による怜佳の父親殺害事件だけは、決定的な証拠が一つ足りなかった。

当時、米倉家はあらゆる人脈を使って事件をもみ消し、立件すらされなかったため、純玲は20年間ものあいだ法の裁きを逃れ続けてきたのだ。

柊はあらゆる手を尽くして純玲の居場所を突き止めた。

「米倉純玲は身を落として、クラブでキャバ嬢をやっている」

怜佳の心は少しも揺れなかった。

「柊、私は彼女を許さないわ」

柊は一瞬だけ目を見開き、それから冷たく言った。

「ああ、俺もだ。全部自業自得だ。あいつはもう逃げ場を失っている。必ず自分の口で罪を認めさせる」

――だが彼は、その純玲のために怜佳の法律事務所を閉鎖へ追い込み、怜佳の退路をすべて断ち切った。

絶望の果てに、怜佳は探偵へ連絡を入れた。

「調べてください。久村柊と米倉純玲の間に、いったい何があったのか。どうしてあの人はここまで変わってしまったのか」

3日後、探偵から報告が届いた。

【米倉純玲さんと久村柊さんは交際しています】

送られてきた写真には、彼が純玲を健康診断へ連れて行く姿、別荘のブランコで激しく愛し合う姿、そして観覧車の頂上で口づけを交わす姿が映っていた。

さらに監視カメラの映像には、時効成立の最終日、彼がライターで決定的な証拠を静かに燃やす様子まで記録されていた。

「大丈夫だ、純玲。俺が君を陽の当たる場所で生かしてやる」

怜佳は画面をじっと見つめ続けた。

目が乾き切り、涙さえ流れなくなるほど長い時間。

やがて彼女は一本の電話をかけた。

「喜多村さん、どうかこの事件の再審を引き受けてください。お礼として、私はA国にあるあなたの法律事務所へ移籍し、生涯あなたにお仕えします」

「10日ください」

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FU_mido
FU_mido
はじまりの柊のサイコパスさはとてもよかった。 ただ仇の娘と関係もったくだりがさらっと書かれていて理由が解らん。憎むべき相手を抱けたのほんとなんで?性欲のせいでしたくらい書いてくれてれば納得したがそれもなかったため...0.5 そんでこのサイコパスを最後まで保ってほしかったが偽善者に落ちちゃったのが残念で星...1 楽しかったです。
2026-08-20 22:17:05
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あすかルビー
あすかルビー
夫として人として、最低最悪の事をこれでもかとやりまくったクズオブクズ。父は善良な人だったのに、息子は何の因果かとんだゴミカスに育ってしまった。散々傷つけて裏切ったくせにヒロインに許して貰おうなんてアホですか。アホですね。 3年なんて当然待つわけない。末路も当然の報い。 ヒロインはちゃんと幸せ掴めて良かった。
2026-09-10 00:45:47
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ノンスケ
ノンスケ
ここまでのクズ男もなかなかいないでしょう。自分の父親と妻の父親を殺した殺人犯を庇い、証拠を隠滅するなんてあり得ない!しかもそれを見逃したせいで、殺人犯親子に妻を陵辱させたんだよ。自分がその愛人と浮気していた隣の部屋で。最低のクズ男!ガンになっても同情する気にならないわ。
2026-08-11 04:14:40
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松坂 美枝
松坂 美枝
主人公が酷い目に遭い過ぎ(泣) クズ男よく花なんか持って来られたな 悪魔の父娘も恐ろしかった 存在がホラー
2026-08-10 09:47:29
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第1話
時効成立の最終日。岩上怜佳(いわかみ れいか)はついに、父が殺害された事件を覆す決定的な証拠を見つけ出した。だが、その証拠を裁判所へ提出した直後、無罪判決が下ったというニュースが目に飛び込んできた。SNSで拡散され、トレンド1位になった写真には、夫の久村柊(ひさむら しゅう)が米倉純玲(よねくら すみれ)の顔を手でかばい、眩しいフラッシュから守っている姿が映っていた。次の瞬間、純玲がSNSを更新した。【彼は「どんなことがあっても、必ず支えてみせる」って言ってた。その約束、彼は本当に守ってくれた】怜佳は血が一気に頭へ上り、我を忘れて柊の執務室へ駆け込んだ。「犯人を必ず裁かせるって約束したから、証拠をあなたに預けたというのに......どうして彼女が無罪になるの!?」柊は顔も上げず、純玲にケーキを一口食べさせながら、静かに言った。「怜佳、君のお父さんが亡くなってもう20年だ。そろそろその恨みも手放せ。それに、当時の純玲は故意じゃなかった。あの人が彼女を刺激しなかったら、正当防衛なんてことにも......」「正当防衛ですって!?」怜佳は涙を浮かべ、声を張り裂けんばかりに叫んだ。「20か所......何度も、何度も心臓を刺したのよ!それのどこが正当防衛なの!」彼女は彼の手をつかみ、懇願するように見つめた。「証拠を返して。再審を求めるから!」しかし柊は冷たく手を振り払い、目には苛立ちが浮かんでいた。「もういい加減にしろ。今の君はまるでヒステリックな女だ。純玲はこの20年間ずっと罪悪感を抱えて生きてきた。それ以上、彼女に何を望むというんだ」怜佳の唇が震えた。「証拠を処分したのね......?」柊は何も答えなかった。その沈黙が、何より残酷だった。怜佳は完全に崩れ落ち、思わず彼の頬を叩いた。「......私は弁護士よ。この命を懸けても、父の無念は必ず晴らしてみせる!」すると純玲が泣きながら窓辺へ駆け寄った。「わかった。だったら今ここで死ぬわ。それで満足なんでしょう!?」「純玲!」柊は怜佳を突き飛ばして純玲のもとへ駆け寄ると、振り返ってボディーガードに鋭く命じた。「怜佳を別荘へ連れ帰って部屋に閉じ込めろ。俺の許可があるまで、一歩たりとも外へ出すな!」怜佳は胸をえぐり取られた
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第2話
「今、再審って?」怜佳が残っていた証拠の流れを喜多村律人(きたむら りつと)へ送り終えたそのとき、地下室の扉が開いた。彼女はすぐに通話履歴を削除し、スマホの電源を落とすと、部屋の隅へ身を縮めた。柊は長い脚で中へ入ってくる。目元には疲労の色が滲み、手には彼女の大好物だった料理を提げていた。「怜佳、もうやめよう。この事件はどうやったって覆せない。もう20年だ。お父さんだって、君が憎しみに縛られたまま生きることは望んでいないはずだ。前に進むんだ」怜佳はゆっくりと顔を上げた。かすれた声には、まるで目の前の男が誰なのかわからなくなったような響きがあった。「柊のお父さんがどうやって死んだのか忘れたの?」柊の目に複雑な感情がよぎり、一瞬だけ拳を強く握り締める。「忘れてない。でも、それは米倉隆雄(よねくら たかお)のやったことだ。純玲には関係ない」そう言うと彼は一歩近づき、怜佳をそっと抱き寄せ、耳元でため息をついた。「もういいだろう。今の俺には金も地位もある。君に最高の暮らしを与えられる。憎しみなんてもう忘れよう。弁護士も辞めて、専業主婦になればいい。俺との子どもを産んで――」パシンッ!怜佳は手を振り上げ、柊の頬を叩いた。震える声で叫ぶ。「忘れろって?20年前、雨の中で跪いて誓ったあなたは、そんなこと一言も言わなかった!あなたたちが寝ている映像は全部見たわ。父親の仇の娘を愛するなんて......最低!」柊は怒るどころか、舌で頬の内側を軽く押しただけだった。その目には、子どものわがままを見ているような色しかなかった。「ああ、確かに寝たさ。でも、親の世代の恨みが彼女と何の関係がある?君は毎日事件の調査ばかりで知らないだろうが、俺は君のために証拠を探している最中、命を落としかけたことがある。あのとき純玲が助けてくれなければ、今の俺はいなかった」「なにを――」言い終える前に、柊が遮った。「純玲は本当に優しい人だ。あれは事故で、君のお父さんを誤って死なせてしまっただけだ。どうして彼女を許せない?彼女はずっと君の代わりに妻としての務めを果たしてくれている。久村家の跡継ぎまで産もうとしているんだ。父さんだって、復讐なんかより、久村家に後継ぎができることを望むはずだ」怜佳は吐き気が込み上げ、彼を突き飛ばして外へ
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第3話
怜佳が反応するより早く、柊はすでに駆け寄り、彼女の腹部を思いきり蹴りつけた。床に落ちた血の付いたカッターナイフの刃を見た瞬間、自分が罠にはめられたのだと悟る。「違う!彼女はその刃を手のひらに隠して、自分を傷つけたのよ......!」「もういい!」柊は純玲を抱き起こした。その目には激しい憎悪と、かすかな殺意さえ宿っていた。彼がこんな目をしたのを見たのは、20年前――純玲が胸を蹴りつけた、あの日以来だった。怜佳は胸を見えない手で強く握り潰されたような痛みに襲われ、息さえできなくなった。「弁護士ともあろう人が、復讐のためにこんな卑劣な手を使うとは。君を見誤っていたよ」彼は純玲を横抱きにし、冷え切った声で命じた。「誰か!」駆けつけた数人のボディーガードが、すぐに怜佳を取り押さえた。「彼女は純玲の手のひらを傷つけた。怜佳には――二度とその手を使えないようにしてやれ」怜佳は思わず叫んだ。「何をするつもり?!」ボディーガードは洗面所へ向かい、間もなく真っ赤に熱したアイロンを持って戻ってきた。そして彼女の右手を無理やりつかむ。ジュッ――「ああっ!」肉が焼け焦げる臭いが一気に広がった。胸を裂かれるような激痛に、怜佳はその場に膝をつき、額から滝のように汗が流れ落ちる。手のひらの柔らかな皮膚は焼けただれ、無理やり剥がされたようになり、掌は血と肉がむき出しになっていた。「これでいい」柊の目に一瞬だけためらいがよぎり、ようやく制止の声をかけた。「悪いのは怜佳の方だ。俺を恨むな。純玲は名家の娘なのに、家政婦として君に仕えるとまで言った。それでも君は彼女を死に追いやろうとした。これは罰だ。自分の過ちを反省して、彼女と同じ屋根の下で暮らす気になったら、そのとき治療を受けさせてやる」そう言うと彼は純玲を抱き上げ、ゲストルームへ向かった。その声は、信じられないほど優しかった。「よしよし。痛いのが苦手なのはわかってる。薬は優しく塗ってあげるから」怜佳は力なく床へ崩れ落ち、その後ろ姿を見つめながら、数年前の出来事を思い出していた。あのとき彼女は工事現場へ潜り込み、隆雄が粗悪な建材を使っていた証拠を探していた。だが、隆雄の手下に見つかり襲われ、咄嗟に手で攻撃を防いだため、手のひらの皮が擦りむけ
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第4話
彼女はドレスを身にまとい、階下へ降りた。柊は彼女を見るなり目を見張り、そっと腰を抱き寄せる。「とてもきれいだよ。前から言っていただろう。君はドレス姿が一番似合うって。事務所へ行く君は、毎日スーツばかりだった。見ていてうんざりする」怜佳は言い返さず、口元をわずかに引き上げるだけだった。同じくドレス姿の純玲は、嫉妬を隠せない目で尋ねた。「ねえ、私は?」「君もきれいだ。行こう」「ちょっと待って」怜佳はわざと驚いたように言った。「彼女って家政婦じゃ?どうして私たちと一緒に?」案の定、その言葉を聞いた途端、純玲の目に憎悪が燃え上がった。「自分から家政婦になるって言ったのよね?家政婦なら高田さんみたいに家で働くべきでしょう。それなのに高価なドレスなんて、おかしいでしょ?」柊はわずかに眉をひそめ、なだめるように言う。「彼女に少し、華やかな場所を経験させてやりたいだけだ。心配するな。君たちを同じ席にはしない」怜佳は何も言わなかった。視界の端で、純玲が拳を強く握り締め、怨みに満ちた視線を向けているのを見て、満足そうに口元をわずかに緩めた。柊が二人を連れて行ったのは、オークション会場だった。席に着くと、純玲は案の定、二人とは別の列に座らされた。柊は優しく声をかける。「怜佳、欲しいものがあれば教えてくれ。何でも買ってあげる」怜佳はうなずき、状態の良い宝飾品がいくつか出品されると札を上げた。しかし彼女が札を上げるたび、後方の純玲がすぐに値をつり上げる。何度か競り合った末、怜佳は札を下ろし、寂しそうに呟いた。「本当によく奪う人ね。男を奪っただけじゃ足りなくて、今度は私の欲しいものまで奪うなんて」柊は警告するように純玲を振り返り、そのまま最高額での落札を宣言した。競売人が槌を打ち下ろすと、純玲は目を赤くし、ドレスの裾をつまんで会場を飛び出した。柊はたちまち慌てた様子で立ち上がる。「ちょっとトイレへ行ってくる。欲しいものがあれば好きに競り落としてくれ」怜佳はうなずき、彼が出て行くのを見届けると、ゆっくり立ち上がって後を追った。化粧室の外まで来ると、中から低く甘い喘ぎ声が聞こえてくる。「ひどいわ!あれは私が欲しかったのに、どうしてあの女にあげるの?」「彼女は俺の妻だからだ」
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第5話
まるで、すべての時間が止まったかのようだった。銃弾が彼女の胸を貫いた。「怜佳!」柊の瞳が大きく見開かれ、張り裂けるような叫び声が響く。耳鳴りが激しく鳴り響き、怜佳の頭は真っ白になった。右肩は完全に感覚を失い、そのまま意識は闇へ沈んでいった。30分に及ぶ緊急手術の末、怜佳はようやく手術室から運び出され、VIP病室へ移された。目を開けると、柊が彼女の手を握っていた。その目は血走り、赤い血管が蜘蛛の巣のように広がっている。「頭がおかしくなりそうだったよ......」彼はひどくかすれた声で言った。「弾は心臓まであと2センチだった。もう少しで君を失うことに......あいつらは絶対に殺してやる」怜佳は静かに手を引き抜き、かすれた声で尋ねた。「私のバッグは?」「ここにある。ちゃんと確認した、中身に盗まれた痕跡はない」彼女はバッグを開き、中を確認する。レコーダーがそのまま残っているのを見て、ようやく安堵の息をついた。「怜佳......ごめん」柊はわずかに後ろめたそうな表情を浮かべ、再び彼女の手を握る。「あのとき、本当は君を守るつもりだった。でも君が純玲の近くにいたから、俺は飛び込む勢いを止められず......結果的に先に彼女をかばってしまった......安心してくれ。君を傷つけた奴は絶対に許さない。あのろくでなし......そんなに死にたいなら、俺の手で八つ裂きにしてやる」怜佳は冷たく笑った。もう心はとっくに麻痺している。彼への失望すら、一瞬で消えてしまうほどに。「そういえば柊、あなたは言ったよね。私を傷つけた人間は誰一人許さないって。でも、一番私を傷つけたのは柊よ。あなたは、自分をどう裁くの?」柊は言葉を失った。「それは......」胸の奥から込み上げる嫌悪に、怜佳は思わず笑い声を漏らした。「私の父を殺した仇には、あなたはどう接した?衣食住を与えて、一緒に寝て、世間から守って......それが、あなたの言う裁きなの?」かつて柊は彼女を抱き締めながら言った。「違うんだ、怜佳。怜佳は、俺のすべてなんだ......」――けれど今になって思う。彼は最初から、自分を愛してなどいなかったのではないか。あの頃、一緒にいたのは、同じ孤児で、同じように恨みを背負った
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第6話
怜佳の顔色がさっと変わった。「違う。私じゃない」「嘘つけ!あいつらは全部白状したんだぞ!」柊は彼女の首をつかみ、その瞳には怒りが燃え盛っていた。「純玲を始末したい一心で、あの強盗どもを買収し、事件に見せかけて殺害しようとした。自分だけは完全に疑いの外に置くためにな!」彼は怜佳を乱暴に一室へ引きずっていく。床には見知らぬ男が3人跪いており、その背後には十数人のボディーガードが待機していた。怜佳には見覚えもない男たちだった。だが3人は彼女を見るなり、一斉に怒鳴り始めた。「岩上さん!国外へ逃がしてくれるって約束したじゃないか......!どうして俺たちを売った?!」純玲は柊の腕の中へ身を寄せ、涙声で言う。「怜佳......あなたが私を憎んでいるのはわかる。でもあの時、柊が私を守ろうと飛び込んできたのを見たでしょう?私が撃たれるだけならまだしも、もし柊が死んでいたら......」柊の眼差しは凍てつくように冷たかった。「怜佳、どういうことか、説明しろ」怜佳は深く息を吸い込み、拳を強く握る。「これはでっち上げよ!警察へ行くわ。立件して正式に捜査してもらうから。私を犯人だと言うなら、この人たちとの連絡記録も、金銭のやり取りも全部証拠を出して」柊は鼻で笑った。「さすが弁護士だな。いいだろう。完全に諦めさせてやる」彼は迷いなく、彼女が強盗と共謀したことを裏づける証拠をいくつも取り出した。怜佳の表情が冷え切る。ここまで用意されている以上、最初から仕組まれていたのだ。さらに純玲の目に一瞬浮かんだ挑発的な笑みを見て、すべてを悟った。「好きに言えばいいわ。とにかく通報を......」彼女がスマホを取り出した瞬間、ボディーガードが手首を押さえつけた。「柊!」「警察を呼ぶ必要はない」彼は冷たく言い放つ。「久村家の恥を外へさらすような真似は許さない」そしてボディーガードへ命じた。「奥様を5日間、反省室へ閉じ込めろ。毎日、おにぎりと水一本だけ与えろ。照明の配線も抜いて、灯りは一切つけるな」怜佳の身体が震えた。「え......!?私は閉所恐怖症があるのよ!そんなことしたら......!」「それがどうした」彼は冷笑しながら純玲を横抱きにした。「お前が純玲を殺そうとした時
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第7話
怜佳は唇をわずかに動かしたが、何も言わないうちに――柊が眉をひそめた。「断ることは許さない。久村家の妻が、最低限の礼儀もわきまえないようでは困る」そう言い残し、彼は振り返ることなく部屋を出て行った。怜佳は深く息を吸い込み、何度か呼吸を整える。そのとき、ちょうどスマホに律人からメッセージが届いた。【すべて準備は整いました。あとは岩上さんだけです】怜佳はスマホを強く握り締める。胸の奥に、揺るぎない決意が込み上げた。――誕生日会へ行く。純玲に最後の一撃を与え、自白を手に入れる。そしてそのままA国へ渡り、柊との縁を完全に断ち切る。翌朝早く。怜佳は身支度を整え、身体の線を美しく見せるロングドレスに着替えて柊の前へ立った。「パーティーには付き合ってもいいわ。でも、その代わりに埋め合わせをして。お店を一軒買ってほしいの。お花屋さんを開きたいから」柊は従順な彼女の様子を見て笑みを浮かべ、内容もろくに確認せず署名した。「最初からそうすればいいのに」彼は知らない。自分が署名したのは――離婚協議書だった。怜佳は何事もなかったように書類をしまい込み、彼とともに郊外の別荘へ向かった。「料理は全部できている。純玲が自分で作ったんだ。あとは俺たちだけだ。ああ、そうだ。今日はもう一人、大事な客がいる」玄関の扉が開いた瞬間。怜佳は食卓に座るもう一人の人物を見て、全身の血が一気に逆流した。純玲の隣に座っていたのは、本来なら刑務所で服役しているはずの――米倉隆雄だった。押し殺していた苦しみが、一瞬で胸に押し寄せる。怜佳は思わず後ずさったが、柊が腰を抱き寄せた。「落ち着け」彼は耳元で声を潜める。「今日は純玲の誕生日だ。彼女の唯一の願いは父親と一緒に食事をすることだった。だから俺が手を回して、彼を医療目的の一時外出という形で一日だけ出してもらった」――あまりにも理不尽だった。怜佳は柊を突き放し、震える声で言った。「彼は無期懲役の受刑者。あなたのお父さんを殺した仇でもあるなのよ。どうしてそんなことを......」柊は眉間にしわを寄せる。「やめろ。今日は純玲の誕生日だ。空気を悪くするな」純玲はすぐに柊の腕へ抱きつき、怜佳へ勝ち誇った視線を向けた。「柊、ありがとう。お父さ
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第8話
怜佳は柊の警告するような視線を受け止め、ふっと笑った。「結構です」彼女はグラスを受け取ったものの、一口も飲まなかった。代わりに三杯の酒を満たし、ゆっくりと地面へ注ぐ。「一杯目は、父と久村おじさんへ......生涯正義を貫き、その信念のために命を捧げたお二人へ。二杯目は、法へ。この世では必ず正義が悪に勝つと......悪事を働いた者は、いつか必ず法の裁きを受ける日が来ることを。そして三杯目は、自分自身へ」彼女は柊をまっすぐ見つめた。その瞳には、揺るぎない決意だけが宿っていた。「20年もの間、人を見る目がなかった私に。そしてようやく、隣にいたのが一体どんな人間なのかを、見抜けた私に。久村柊――今日をもって、私たちは終わりよ」その言葉に、柊の目に一瞬だけ動揺が走った。そのとき、轟音とともに雷が鳴り響く。直後に停電し、室内は一気に闇へ包まれた。「きゃっ!」純玲が悲鳴を上げる。暗闇の中、柊が立ち上がった。「落ち着いてください。俺がブレーカーを上げてくる」そう言うと、純玲もすぐ後を追った。怜佳は息を呑む。闇に包まれた瞬間、鼓動が一気に速くなった。だが次の瞬間――ごつごつした大きな手が彼女の口を塞ぎ、もう一方の手で強引に引き寄せられ、そのまま寝室へ引きずり込まれた。闇の中で見えたのは、隆雄の陰険で老獪な目だった。「岩上怜佳、お前は俺たち一家を地獄へ落とした。今日は天国にいるお前の父親に見せてやるよ。俺がお前をどう辱めるかをな......!」「放して!」怜佳は必死にもがき、足を振り回した。だが隆雄の力には到底敵わない。「柊!助けて!」絶望の中で、彼女が最後に頼ろうとしたのは、もうすぐ戻ってくるはずの柊だった。必死にその名を叫ぶ。しかし隆雄は冷たく笑った。「無駄だ。今ごろあいつは俺の娘と夢中でよろしくやってるさ。ほら、よく聞いてみろ」彼はビデオ通話を開いた。画面の向こうでは、別のゲストルームで柊が純玲を押し倒し、狂ったように口づけを交わしていた。「柊......奥さん、まだリビングにいるのよ?本当にいいの?」柊は荒い息を漏らし、欲望に満ちた声で答える。「大丈夫だ。怜佳は暗闇が苦手だから動き回れない。ブレーカーがまだ直ってないことにしておけばい
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第9話
ひとしきり情事を終えたあと、柊は満ち足りた表情を浮かべ、純玲とともにゲストルームから出てきた。ブレーカーが上げられ、リビングには再び明かりが戻る。食卓には隆雄だけが座っているのを見て、柊は眉をひそめた。「怜佳は?」隆雄は神妙な面持ちを作り、頭をかいた。「さっき酒を飲みすぎたようで......俺と同じ席にいるのが嫌で、暗いうちに帰ったんじゃないかな」「もう、放っておけばいいじゃない」純玲は柊の腕にしがみつき、唇を尖らせて甘える。「きっと退屈になって先に帰っただけよ。今日は私の誕生日なんだから、早く続きを楽しみましょう」結局、柊は純玲の誘惑に抗えず、胸に浮かんだわずかな違和感を押し込み、そのまま彼女の誕生日を祝った。一夜が明け、彼は純玲を連れて家へ戻る。家の中にいたのは、家政婦の高田だけだった。「怜佳は?」高田は一瞬驚いたような顔をする。「えっ、久村様が奥様をお連れになったのでは......?奥様はまだ戻っていらっしゃいません」柊は眉間に深いしわを寄せ、寝室へ向かう。クローゼットを開けると、怜佳の服は一着も減っていなかった。それを見て、彼はようやく少しだけ安堵した。純玲も部屋へ入ってくる。「ねえ、彼女......消えたりはしないよね?」「そんなはずない」柊は首を振る。「きっと拗ねているだけだ。そのうち機嫌を直して帰ってくる」彼はそう信じ切っていた。怜佳は昔から理性的で冷静な性格だ。感情に任せて家出するような女性ではない。今回は、本当に腹を立てているだけなのだろう。いつも冷静で堅物な彼女が嫉妬していた――その思いがけない発見に、柊の気分はむしろ悪くなかった。帰ってきたら、思いきり甘やかしてやろう。このところ純玲の件に追われ、怜佳と触れ合う時間もずいぶん減っていた。ようやくすべてが片付き、これからまた穏やかな日々に戻れる――そう思っていた。しかし、その夜になっても怜佳は帰ってこなかった。柊は彼女へメッセージを送る。【もう気が済んだなら、早く帰ってこい。ごちそうを作って待ってる】送信したが、なかなか「既読」にはならなかった。彼は一瞬で固まり、スマホを握る手に力が入り、指の関節が白くなる。こんなことは今まで一度もなかった。怜佳が
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第10話
それから3日間、柊はわざと純玲をこれ以上ないほど甘やかした。怜佳の寝室を純玲に明け渡し、彼女の望みどおりの豪華な部屋に改装した。さらに純玲と遊園地へ出かけ、親密そうな写真を何枚も撮ってSNSに投稿した。怜佳が何より気に入っていた車さえ、純玲名義へ変更した。そのうえ、市内でも一等地にある、かつて怜佳が最も欲しがっていた高級マンションまで純玲に買い与え、不動産の名義も純玲の単独名義にした。そして、その写真を9枚並べた投稿をわざわざ怜佳だけが見られる設定で公開した。これを見れば、怜佳は嫉妬し、怒り、泣きながら戻ってきて仲直りを求めるはずだ――そう思っていた。だが、怜佳はまるでこの世から姿を消したかのように、何の反応も見せなかった。彼女を捜しに出した者たちも、戻ってくるたびに「手がかりはありません」と報告するだけだった。彼女が連絡を取りそうな友人や大学時代の同級生にも尋ねてみた。しかし返ってきたのは、例外なく皮肉だった。「え?そんなこと、知るわけないじゃないですか。彼女との縁を切る書類へ署名させたのは、久村さんでしょう」柊は言葉を失う。怜佳の親族も友人も、とうの昔に彼自身が彼女から引き離してしまっていた。誰も彼女を匿うはずがない。一文無しで、手にも傷を負った彼女が、一人でどこへ行けるというのか。広いリビングに一人座る柊は、生まれて初めて恐怖を覚えた。家中のあらゆる場所に、怜佳の面影が残っている。ソファには彼女が手編みしたクッション。キッチンには二人で使っていた手作りのペアマグカップ。彼の服の一着一着にも、彼女が調合した手作りのお香の香りが染みついていた。以前は、この家はどこか寂しいと感じていた。怜佳は仕事が忙しく、家にいる時間も少なかったからだ。それでも彼女は、どんなに疲れて帰ってきても、毎日欠かさずハーブティーを淹れてくれた。こっそりマッサージまで習いに行き、彼の疲れを癒そうとしてくれた。彼女がいなくなって初めて気づく。この家は、ずっと彼女が温もりで満たしてくれていたのだ。彼女のいない家は、ただの冷たい抜け殻に過ぎない。一方で、怜佳がいなくなったことで純玲はますます調子に乗っていた。その夜、彼女はセクシーなレースのネグリジェを身にまとい、後ろから柊へ抱きつく
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