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第2話

Author: 美咲
涼太の両親は都会暮らしが嫌いだと言うし、私の親が来たいと言っても、涼太は家が狭くて無理だって言った。

そのあと涼太が、昼間だけでも家政婦を頼んだらって。でも生活はこんなにカツカツなのに、雇うお金なんてあるわけないじゃない。

すると涼太は肩をすくめて、「じゃあお前が働きに出るのをやめて、専業主婦を続ければいい」って言った。

私は観念して、恵にお願いすることにした。

でも、お給料をあまり払えないので、充のお世話と昼ご飯と晩ご飯だけお願いして、朝ご飯と家事は私がやることにした。

今では、私の月収16万円のうち8万円は恵の給料、4万円は充の教育費。涼太がくれる20万円で家族の生活費をまかなっていて、裕福じゃないけど、なんとかやっていけてた……

給料、100万円。

一瞬、なんだか頭がくらくらした。

涼太は毎月100万円も稼いでいるのに、私に渡すのはたったの20万円なんだ。

画面に通知がポップアップして、たった今、20万円の振り込みがあったことがわかった。

送り先は涼太の母親・加藤睦月(かとう むつき)。これも毎月のことで、もう9年も続けていた。

じゃあ涼太は毎月睦月に20万、恵に30万を渡して、自分は30万円のお小遣い。私にはたった20万円で、家族3人の生活をさせてたってこと?

この家で、涼太にとって私と充は一番後回しだったっていうこと?

唇を噛みしめ、ほかの記録を探そうと画面を戻したとき、いくつかの最新チャットが目に入った。

【母さん、いつも通りお金は貯めといて。お正月に恵母娘にアクセサリーを買ってあげるから】

手が震え、タブレットをベッドの上に落としてしまった。

水の音がする洗面所に目をやると、すりガラスのドア越しに、涼太がうつむいてメッセージを送っているのが見えた。

心にあった最後の希望も、これで消え去った。

私は服のすそを、きつく、きつく握りしめた。

どうやら、あの夕凪の丘には行ってみなくちゃいけないみたい。

翌日、涼太はいつも通り、朝6時に仕事へ出かけていった。

涼太が出かけた後、私は充を友人にお願いして、一人で夕凪の丘へ向かった。

そこはお城のような豪邸だった。1階にはお庭、2階にテラス、3階にはサンルーム。おまけに地下室まであった。

夢にも見られないような、本当に素敵なおうちだった。

しばらくすると、ドアが開いた。

恵がおしゃれな服を着て、私立の小学校の制服を着た小さな女の子の手を引いている。

そして女の子のもう片方の手は涼太が握っていて、後ろにいる人たちに向かって手を振っていた。

「おじいちゃん、おばあちゃん、いってきまーす!」

涼太の両親がそばに駆け寄り、優しい顔で女の子の腕にお菓子を抱えさせていた。

とつぜん、息が詰まった。

充は今年9歳。でも、祖父母に会ったのは、たったの2回だけ。

「畑仕事が忙しいから」と言って、子育てを手伝いに来てくれることもなく、私たちが田舎に帰るのも断られた。

私は毎日ヘトヘトで、涼太に訴えたこともあった。でも、彼はこう言って私を説得するんだ。

「俺、親と仲が悪いんだ。もしこっちに来たら、絶対ケンカになるからさ」

でも、その仲が悪いと言っていた田舎のご両親は、こんな豪邸に住んで、よその子の祖父母をしていたなんて。

みんな、私をだましていたんだ。

少し向こうで、涼太が女の子に優しくシートベルトを着けさせ、車を発進させた。

私は、その場で身動きもせずに立っていた。やがて涼太が急ブレーキを踏み、怯えた目で私を見た。

「あ……梓、どうしてここに……」

涼太の両親と恵も固まって、どうすればいいか分からないという顔で涼太を見ていた。

涼太は車から降りると、焦ったように私のもとへ駆け寄ってきた。

「これがあなたの言う、仕事が忙しくて充の世話もできないって状況?」

「違うんだ、話を聞いてくれ!女手一つで大変だから、手伝ってくれって頼まれたんだ……」

「あなたのご両親もいるじゃない?どこが大変だっていうの?」

涼太は言葉に詰まった。

助手席から、女の子が叫んだ。

「パパ、学校に遅刻しちゃうよ!」

その場の空気が、しんと凍りついた。

恵が慌てて女の子の口をふさぎ、涼太の両親も悔しそうに足を踏みならした。

涼太の顔が、さっと青ざめた。

私は拳を握りしめた。手のひらがじっとりと汗ばんでいる。

「涼太、あなたは朝6時に出勤して夜8時に帰るって言ったわよね。だから充の世話は、ずっと私の役目だった。

それは、あなたの仕事が大変だと思って、私が気を遣っていたからよ。

まさかその大変さが、赤の他人のために向けられていたなんてね」

涼太は、慌てて首を横に振った。

「違う、誤解だ」

「誤解って?あなたの気持ちは、全部こっちの奥さんと娘さんにあるくせに」

私の声の温度が、すうっと下がっていった。

「私、自分の立ち位置を間違えてたみたい。私と充のほうが、他人だったのね」
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