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第3話

Author: 美咲
涼太の背筋が凍りつき、顔からサッと血の気が引いた。

「俺の妻はお前だけだ。この子は……」

「この子が自分の娘じゃないなんて、よく言えるわね?涼太、私をずっと騙しておきながら、肝心な出生届の控えひとつ隠しきれないなんて!」

私がスマホの写真を突きつけると、涼太の息が乱れた。

【子の名前、加藤直美(かとう なおみ)。母、菅原恵。父、加藤涼太】

昨日の夜、涼太が寝てる間に、スマホもタブレットも全部くまなく探った。

この出生届の控えを見つけた時、思わず唇を強く噛みしめてた。そうでもしないと、衝動のままに涼太を刺してしまいそうだったから。

後ろで物音に気づいた恵が、涼太の両親に直美を部屋へ連れて行くよう頼んで、こちらへ歩いてきた。

恵はうつむいて、か細い声で言った。

「梓さん、涼太さんのことは怒らないでください……」

涼太はすぐさま恵の前に立ちはだかった。私が恵に何かすると思ったんだろう。

「先に中へ。俺が説明するから」

「だめよ。あなた一人に任せるわけにはいかないわ」

お互いをかばい合う二人を静かに見ていると、急に自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。

昨日の夜、あの管理費の通知が来るまでは、私たちは幸せな3人家族だと思ってた。

それなのに今日は、目の前で他人の夫婦が絆を確かめ合うところを見せつけられてる。

心の痛みはだんだん麻痺してきて、今はもう怒りしか残ってない。

「どこに帰るって?管理費だけで3万円もする、あなたたちの家に?

恵さん。あんないい家に住んでるくせに、わざわざうちに来て掃除して……『梓さん』なんて呼びながら、心の中では私のこと、見下してたんでしょね」

恵はさらに深々と頭を下げた。「そんなこと……」

涼太は眉をひそめた。

「梓、嫌味を言うのはやめろ。何かあるなら俺に言え。

とにかく家に帰ろう。二人になったらちゃんと説明するから」

怒りが一気に頭にきて、私は思わず涼太をひっぱたいていた。

「どの家に帰るの?100万の給料は全部こっちにつぎ込んでるんでしょ!ここがあなたの本当の家じゃないの?」

涼太は叩かれて呆然としていた。恵は悲鳴をあげ、心配そうに彼に駆け寄って頬に手を当てた。

でも、涼太は目を見開いて私を見ていた。

「知ってたのか……いや、違うんだ。俺は恵に申し訳なくて、あのお金は埋め合わせで……」

「じゃあ私には申し訳なくないわけ?」

涼太はゴクリと唾を飲み込んで言葉を失った。私は荒い息をつきながら尋ねる。

「あなたたち、いつから付き合ってるの?」

恵がもじもじと指をいじりながら涼太を見つめる。涼太はもうどうにでもなれ、とでも言うように話し始めた。

「お前と結婚する前だ。実家の親戚の紹介でお見合いして……」

「じゃあ、騙して結婚したってこと?」

「違う!結婚したときにはもう別れてたんだ。でも、そのあと恵がこっちに働きに出てきて……」

それからのことは、涼太は言いよどんだ。

あまりにみっともなくて、口にできないんだろう。

直美の誕生日から数ヶ月さかのぼると、ちょうど私のつわりがひどい時期だった。

あの頃、私はつわりで毎日トイレに駆け込んでは吐いてばかりいた。

なのに涼太は仕事が忙しいと言って、半年も長期出張に行った。

涼太が帰ってきた頃には、私はもう臨月だった。

出張じゃなかったんだ。

つわりで苦しむ私にうんざりして、お見合い相手とよりを戻すために逃げ出したんだ。

結婚して10年。夫は9年間、浮気していたことになる。

涼太が黙り込むと、今度は恵が勇気を振り絞って口を開いた。

「梓さん、涼太さんを責めないでください。私が無理に直美を産んだんです。涼太さんも、そんな私を哀れに思って、助けてくれてるだけで……」

呆れてものも言えない。

でも、笑えるはずもなかった。

「どこが可哀想なの?

私の夫の月収は100万。私に渡すのはたったの20万円。あなたには30万円。おまけにお母さんに20万円渡して化粧品や子供のおもちゃを買わせて、残りの30万円でブランド品まで買ってあげる。

それだけじゃない。あなたにこの家を買い与えて、娘さんを年間の学費が数百万もする私立に通わせてる。おまけに自分の両親まで呼び寄せて、あなたの子育てを手伝わせてるじゃない?

それにひきかえ私は?ワンオペで子育てして、たった20万円で家族3人の生活を切り盛りしてる。私の稼いだお金の大半だって、あなたの給料になってるのよ。充を公立の小学校に通わせるのがやっとなのに。そんなことも知らず、バカみたいに愛人を家政婦として雇い入れて。

それで、可哀想って?本当に可哀想なのは、あなたと私のどっちだと思う?」

恵は目に涙をいっぱいためて、私の手首を掴んだ。

「申し訳ございません、梓さん。全部、私が悪いのです……」

気持ち悪くて腕を振り払おうとしたら、恵はよろけて、数歩あとずさり倒れそうになった。

涼太は慌てた。

彼は慌てて恵を抱きとめて支えると、怒りのこもった目で私を睨みつけた。
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