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第281話

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巨大な失望と悲しみが再び静奈を飲み込んだ。

雪玉じゃない……

雪玉であるはずがない。

雪玉は、もう美咲たちに……

きっと謙が自分を慰めるために、わざわざそっくりなウサギを探してきてくれたんだ。

でも、どんな代わりを用意しても、失った傷は埋まらない。

彼女はゆっくりと手を引っ込め、うつむき、嗄れた声で言った。

「浅野先生……お気持ちは嬉しいです。でも……結構です。この子は雪玉じゃありません」

謙は彼女が悲しみを堪える姿を見て、胸が締め付けられた。

彼はウサギを遠ざけず、逆にもっと彼女の手元に近づけ、確信を持って言った。

「朝霧さん、よく見てくれ。本当に雪玉だ」

静奈はバッと顔を上げ、信じられないという目で彼を見た。

恐る恐るウサギを受け取り、仔細に観察する。

その懐かしい目つき、耳の先にある目立たない小さな斑点、掌に頭をこすりつける癖……

細部の全てが、これが本当に雪玉であることを告げていた!

「どうして……」

信じられない。

謙が説明した。

「一昨夜お前を送った後、どうも胸騒ぎがしてな。

朝霧家の連中が何か仕掛けてくるんじゃないかと心配になり、動物
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Comments (1)
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rocinante
謙兄さんの危機察知能力は凄いけど 入れ替えるんじゃなく避難させて置くだけで よかったんじゃない? 静奈のうさぎ以外は犠牲になってもいいって いうことを実証したね 犠牲にならなければ誰かに可愛がられたかも しれないと思うと謙兄さんも残酷だなと感じる
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