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第10話

Auteur: 嶺月時彦
友香は暗くなるまで泣き続け、全ての力を使い果たしたように、呆然と警察署を出た。

数歩進んだところで、江口に呼び止められた。

江口の様子も友香と大して変わらなかったが、それでも理性を保ち、俺の頼みを覚えていた。

江口は言った。「友香さん、真一が君に残したものがある」

カフェの中で、江口は一枚のキャッシュカードを取り出し、友香の前に差し出した。

「叔父さんや叔母さんの家や老後のためのお金を除いて、真一は残りのお金を全部君に残した」

友香はわずかに眉をひそめ、顔を上げて彼を見た。

江口は少し笑い、ゆっくりと説明した。「驚くことはない。真一に未来を予知する力があるわけじゃない。彼は元々このお金を君のために用意していたんだ」

「君は知らないだろうけど、真一は目が見えなくなってメスを握れなくなっても、君が思うように無為に過ごしていたわけじゃない」

「君に無用だと嫌われるのが怖くて、家で一人で資産運用の勉強をしていたんだ。稼げなければ君を失望させると思い、そのプレッシャーや苦しみを、俺にだけこっそり打ち明けていた」

「君が真一を無視していたことは、彼も全部わかっていた。それでも彼は一度も君を責めなかったんだ。彼の目が君を守ったせいで見えなくなったとしてもな」

「真一は言ってたよ。君のことを理解しているって。盲目の彼と結婚するのは君だって辛いだろうから、自分が君の足手まといになっていることに罪悪感を感じていたって」

「だから彼は俺に離婚届を用意させた。そして自分で稼いだお金を整理して、君に渡そうとしていた。それが君と長年過ごしたことへの償いだと」

「もうやめて……」友香は唇を噛み締めながらそう言ったが、涙で顔はぐしゃぐしゃになっていた。

彼女はきっと知らなかっただろう。俺が彼女の知らないところで、こんなにも多くのことをしていたなんて。

彼女が戸村のことで夜も昼も心配していたあの頃、俺は十分に失望し、彼女を自由にしようと決めたんだ。

江口は黙ってうなずき、それ以上は何も言わずにカードを友香の方へ押し出した。「暗証番号は君の誕生日だ」

友香はそのカードを受け取ると、口を開きかけたが何も言えず、目を閉じて涙を流し続けた。

それは罪悪感にも、後悔にも見えた。
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