「はぁ~、ココが開いててよかったぜ~。俺達の心のオアシス・アンジーちゃんがいる」
「私はいいのかい?」
「女将さんも素敵です」
実際に女将さん素敵だと思うんだけどなぁ。凛としてるし、スタイルだっていいし。試食が多いのかな?ちょっと太り気味かな?とは思うけど、仕事が厳しいからあのくらいの体格じゃなきゃやってられないわよ。
「聞いてくれるか?夜間担当のやつに聞いたと思うけど、今回の式は両家が侯爵家。ただの見栄で俺らがこき使われたんだぜ?俺らは昼間の担当だから、花嫁とかバッチリ見た。そんなに美人か?って思った。それに比べたらアンジーちゃ~ん!」
「でな、花弁を無駄に撒くもんだから、その後片付けを俺らがしなきゃなんなくて、正直面倒だった。警備するほどの重要人物じゃないと思うんだけどなぁ?」
ヘレナの見栄でしょ?
「ほら、ご苦労さん。今日は朝までお飲み。ここを掃除するアンジーとかを見るといい」
「そりゃいい」
「夜間のやつらも不憫だよなぁ。周りにはご馳走があるのに食べることもできず、ひたすら立ってるだけ。招待客はアハハウフフと面白おかしく食べたり飲んだりしてるんだろう。で、とうの本人は捌けて部屋でよろしくやってるんだろ?」
「あ、そうそう。花嫁だけど、見た目もアンジーちゃんの方が俺らは好きだけど。あのウェディングドレスは破廉恥だったな。パレードするのは勝手だけど、大人が子供に「見てはいけません」ってしてたぜ?膝上30センチくらい?のスカートかな。それとセパレートで胸もギリッギリまでのカップしかないような感じ。背中は勿論出てるし。『どこの娼婦ですか?』って感じだったよ」
「そうそう、夜間もあんなドレス着てるんだろうか?着替えた方がいい。あれはちょっとどうかと思う。品性を疑うね」
家の恥じゃない。勝手に家を継ぐのはいいけど名前を貶めるのはどうかと思うわ。
「あんたたちも苦労してるんだねぇ」
「ただのアンジーちゃん大好き人間集団じゃないですよ!」
騎士団ですよね?アンジーちゃん大好き集団って……。
彼らは本当に朝までいた。んだと思う。
私は仕事が終わったら眠らせてもらったけど、私が掃除している様子を酒の肴にしていた。
途中からは夜間の警備担当の騎士様達も合流してなんだかどんちゃん騒ぎになった。
「夜間の警備はどうだった?」
「もう、予想通りで大変だったな。花嫁の衣装はアレでいいのか?ウェディングドレスから着替えたみたいだけど、娼婦みたいだった…」
「貴族全員に招待状出したのか?分らんが招待に応じたのは下位貴族と空気が読めない高位貴族じゃないかなぁ?騎士団員の実家からは誰一人いなかったぜ?」
「まぁ、騎士様は皆様貴族様?」
「でもまあ、ほら。嫡男じゃないし。家を継ぐわけじゃないから、騎士をしているだけ」
「そうそう、稼ぐ手立てがないんだよ。貴族の次男以降は…」
「そうなのかい?貴族も大変なんだねぇ。まあ飲みなよ」
ウェディングドレスがヤバかったからか?先を読むのが貴族は得意だってのに、シアースミス家は高位貴族に見限られているのか…。この状況分かってるのかなぁ?
皆に守られるように私は出産をすることが出来ました。 性別は…女児です。名前はアニエス。「アンジェリカ様のように美しく聡明な方に育っていただきたいものです」 と、ザラは言っていたのですが数年後のアニエスはグレイ様を見て育ったためでしょうか?「おんなきしになるの!」 と、やる気いっぱいです。 グレイ様としては、淑女的にしてほしいのと、騎士団に憧れてくれて嬉しいのとなんだか複雑な気分みたいです。「アンジェリカ」「はいなんでしょう?」 久しぶりにじーっと見つめられたので照れます。「あのな?俺、男の子も欲しい……」 確かに、オールディントン家を継ぐ子は必要ですね。この家名、思いっきり王家ですから跡継ぎに遠縁から養子とか安易なことはできませんもんね。 とはいえ、神のみぞというやつでは?と思うのですが? その後私はまたもや懐妊し、礼状を書くことになり、グレイ様念願の男児を出産致しました。 この子の名前はベリルス。 ベリルスは幼いながらもチェスの名手で、わずか3才だというのに私では相手になりません。 そんな時にザラ様がベリルスの相手をしてくれて、とっても助かります。「ザラー、なんでそんなにチェスがつよいんだ?」「年の功ですか?長生きしてますからね、うふふ」 本当に長生きしてるんだよなぁ。チェスの必勝法みたいなものも知ってそう。「あ、でも実はチェスはカールの方が強いんですよ?」「ほんとう?」 ベリルス、喜び過ぎだよ~。カールは今はグレイ様の従者として騎士団に行ってるかな? 団長も書類仕事が多いみたいでその補佐みたいな仕事をしているってグレイ様から聞きました。「ははうえ!カールはどこ?」「カールは父上の仕事場に一緒に行きましたよ。一緒に帰ってくるから、夕飯くらいかなぁ?」 夕飯後の時間にじっくりチェスをするような時間はないでしょう。「カールとのチェスは父上が仕事がお休みの時にしなさい。あと、カールにチェスの相手をして下さいってお願いしないとダメよ」 うちの子は良い子に育っているようで、夕飯の後にカールにお願いをしていました。 アニエスは史上初の女性皇宮騎士団長となりました。ベリルスは幼い頃からザラ様とチェスをしていただけの事はあって、領地経営が凄く上手。先の見通しもできるので、領民からの信頼も篤いのです。 そんなオール
こうして私とグレイ様はシアースミスの邸で生活をすることが出来るようになった。 グレイ様がいることで、他の貴族からの‘シアースミス’という名前への信頼回復もかなり早くできたと思う。 社交をしていて、ちょっぴり笑ってしまうのは『シアースミスの邸の庭には夜になると二つの山が…』という噂が存在する事だろう。 カールとザラが「夜寝る時に寝ぼけて人の姿からドラゴンの姿に戻ることがないように、予めドラゴンの姿で庭で寝ることにします」と、宣言した結果のウワサが二つの山。 朝になるとキッチリとした執事姿のカールと侍女の格好をしたザラになっているのは凄いと思う。寝坊とかないのか。「結構年を取ったのでそんなことないですよ~」 と、笑われてしまった。そんなもんなのかなぁ? 使用人が戻ってきたことですご~く助かっているのは、シェフのトムが戻て来てくれた事! 全くどうしてヘレナはこのトムを解雇するのを見守ってもかしら?私なら、「待ってよ、私は貴方が作る料理が好きなのよ!」って留めるけどなぁ。不思議。「ヘレナお嬢様はプライドが高くていらっしゃいましたから、そのように縋りつくような行動は自分の矜持に反していたのでは?」 矜持で腹は膨れない!「そうだよな。俺もトムの料理は好きだ」「賄いの料理も美味しいんですよ?」「そうなのか?」 グレイ様……そんなにカール肩をガクガクしなくても、「そうなんですよ」 ザラ様は所作がキレイだなぁ。私よりもキレイだったりするのかしら?「ザラ様、その所作はどこで学ばれたのですか?」「いやですわ。名前は呼び捨てでお願いします。そこはきちんとした主従関係」 でも、年齢が100倍くらい違う気がするのですが、ザラ様の方が年上だし。「私の所作はアンジェリカ様を模倣した物ですよ?手本なんて他にありませんもの」 確かに。教本があるわけでもないし、ザラ様が個人的に所作を学ぶようなマナー講師を雇う機会なんてありませんし、思えばそうですね。「なんだか、恐縮です」 新・シアースミス家となったわけですが、めでたくも私が懐妊しました! グレイ様は騎士団長様ですが、このゴールリード帝国の第2皇子ですからねー、一部屋と言わずに二部屋分かと思われるくらい沢山のお祝いをいただきました。 貴族の嗜みとして、お礼状を書くものです。 懐妊を発表したのが早すぎ
そしてシアースミスの邸まで行くのは夜も遅くになった。従者としてカールがいたから安全でしたが。 シアースミスの邸で驚いた。 お父様はいた。まぁ、当主だし? 他の使用人は?「なんでも、ヘレナのワガママとか癇癪に耐えかねて辞職していった……」 お父様はどうしてその時にヘレナを責めなかったの? 仕方がないので、生活が出来るように最小限の使用人を皇城から派遣していただき(貴族として恥ずかしい)、そのあと後日面接をすることになった。「まさか実家がこんな事になってるとは思わないわよ!恥ずかしいわ!」 グレイ様が騎士団団長として働いている間にサクサクと新しく使用人を雇ってしまいましょう。 面接当日。 私はカールと二人で面接に当たった。 世の中にはいろいろな人がいるもので…。 働いているうちにグレイ様のお手つきになるかも?なんて考えている人とか、オールディントン家の金庫破りに挑戦しようとしている者とか。 まぁ、悪だくみをしている者は悉くカールに言いくるめられて、退散していったけど。 身分の貴賤に関わりなく面接を受けることが出来ることにするとかなりの人数が集まった。「いやぁねぇ、平民が身分も弁えないでこんなところにいるわよ」 とか言ったどこかの令嬢さんは退場していただいた。 カール曰く、グレイ様のお手つきを期待しているようだ。という事も聞いた。 どこの令嬢さんだろう?家門までハッキリさせて、陛下に奏上しましょうか?グレイ様に言ったら怒るだろうなぁ。「あの…私のような者でも雇っていただけるのでしょうか?」 私にはみすぼらしい姿の平民にしか見えなかったが、カールにはドラゴンの長がわざとしている姿だと分かったようで、カールは跪いて「貴女が望むのならば!」と言った。 私は驚いたので、カールが説明をしてくれた。 彼女はドラゴンの中でも高位の王族と言うべき地位に入る方らしい。「そのような方なら安心で雇うわよ。というか、敬語を使うべきなのかしら?」「私に敬語を使わないで下さい。私の名前はザラと申します」 グレイ様とも相談の上、彼女はカールの婚約者ということにしました。「ザラ様の方が私の10倍は年上なのですがね…」 と、カールは乾いた笑いをしていました。 ザラ以外ですが、どこからかヘレナは罪人としてこの邸からいなくなり、アンジェリカが次期
シアースミスの邸へ行く前に、結婚式の警備をしてくれた騎士の皆様たちにお礼を言いたい!だから今日は女将さんのところで働きます。『一日アンジー』みたいな? 明日からはシアースミスの邸で、次期当主としての領主経営のノウハウとか勉強しなきゃね。「これは珍しい!アンジーじゃないかい?結婚おめでとう!遠くから見たけどキレイだったよ~」 女将さんに抱きしめられた。苦しい。力が強いです。「今日は、結婚式の時に警備をして下さった騎士の皆様にお礼を直接言いたくて働きに来ました。前みたいに働かせてください!」 いいかなぁ?「最近は結構忙しくてねぇ。猫の手も借りたいところだったから有難いよ」 早速ランチタイムに続々と騎士様達がいらっしゃった。「うおぅ!団長が言ってた事はマジだったんだな。俺達のアンジーちゃんがここにいる!」「女神降臨!」 なんか凄いことになってる…。「昼間だけど、飲むぞ―‼」「やめておけ」 グレイ様の低い声が店内に響いた。「いつものエールの代わりに炭酸が入っていて、アルコールが入っていない飲み物をこいつらに出してやってくれ」「はいよ!1番から5番テーブルまで炭酸果実酒を。グレイ様、今日は連中の食べた分を驕りかい?」「まさか!騎士は際限なく食べますから、今は侯爵家当主の配偶者という身分です。無駄遣いはできませんよ。もちろん、騎士団長としての給料でも無理です。破産してしまう!」「はははっ、冗談ですよ。普段から来てるから連中の食べっぷりはわかってますって」「あの…結婚式の際には警備をしていただきありがとうございました!ヘレナの結婚式の時にスゴク嫌そうだったから、今回もなんか気に障ることがあったんじゃないかと…」 ヘレナと比べてしまうのは癖みたいなものかなぁ?「今回のは我らが団長と俺達のアンジーちゃんの結婚式。比べるまでもなく、今回の結婚式の方が重要だよ!」「そうそう、重要人物が主役にいるんだぜ?」「アンジーちゃんは超キレーだったしさぁ」 その言葉にグレイ様は反応した。「お前はちゃんと警備の仕事をしてたのか?アンジェリカに見惚れてたんじゃないだろうな?」「団長―、俺達が警備中に一瞬でもアンジーちゃんに見惚れたらダメなんですか?」「警備が仕事だからな!そして…重要なのはここだ!アンジェリカは俺のものだ!」 そこら
「父上、このままではアンジェリカが混乱します。真実を彼女にも伝えるべきでは?と私は思います」 真実?カールの?「そーだなぁー」「のんきにしている場合ではありません!」「うむ。わかった。カールはなぁ?家名がラドンだろう?つまり、カールはドラゴンなんだよ!」 ‘つまり’の意味がわかりません!「だから不用意に皇宮から外部に出すことには抵抗があるのだが……」「カールはグレイ様の従者です!それ以上でもそれ以下でもありません。もしドラゴンの姿になりたいのであっても、シアースミスの邸の庭ならば十分にスペースがあります!」「う…うむ」「カールを連れて行っても構いませんね?」「あいわかった。グレイよ。アンジェリカ嬢はなかなか強(こわ)い女子みたいだな」「俺が選んだ女性ですからね」 あれ?でも私が皇城に招待された時に迎えに来たりと結構皇城の外に出てるんじゃないかな? グレイ様は人差し指を唇に当てて「シーっ」って言うようなアクションをなさった。グレイ様の独断でしたことなのかな? 陛下は過保護にしてるけど、カールは結構大丈夫っぽい。 当のカールに陛下との討論を話すと、「そうですか。陛下は過保護なんですよね。少し、いやかなり?私の方が年上かと思うんですけどね」 どっから見ても、20代の青年に見えるカールの実年齢を聞いて驚いた。569才。「やだなぁ。これでもドラゴンの中ではヒヨッコの方なんですよ。それでも悪戯にドラゴンの姿になるようなガキではありません。知性は持ち合わせています」 私が出会った人(?)の中で最高齢。でも見た目は完全に青年なんだよなぁ。「アンジェリカ様には私の事を高く評価していただき有難く思います」「本当の事よ。貴方がシアースミスの邸に来てくれたら助かるわ」 カールが照れているようだった。「おい、カール!アンジェリカは俺のアンジェリカだからな!」「重々承知いたしておりますよ。アンジェリカ様のように美しい方に褒められれば、誰だってあのようになるでしょう?」「…全く口の減らない従者だなぁ」「シアースミスの邸へ行った後には、従者兼執事見習いの仕事をしたいと思っております」 それって…グレイ様の従者もするし、執事の見習いもするってこと?かなりハードじゃない?「体力的に大丈夫なの?睡眠時間は足りるの?」「安心してください。そこは、
そういえば、結婚式の警備にはいつも食事に来てくれていた騎士様達がしてくれていたことを思いだした。いつかお礼を言いたいなぁ。 などと思っていると、寝起きで半裸のグレイ様が察したようで「伝えておこうか?」と言ってくれた。「直接言いたいけど、そういう機会ってないのかな?」「アンジェリカは一応王子妃だからなぁ。一日職業体験みたいに女将さんのところで働く…とか?」「そんなことができるんですか?」 私は思わず前のめりになってしまった。「おいおい、そんなんじゃ俺を誘ってるようにしか思えないけど?」 そうだった。ここはベッドの上で、昨日から新婚ホヤホヤだった。「あ、ち…違うんですけど…」 赤面してしまう。昨晩の事を思い出しても顔が紅潮していくのがわかる。「まぁ、楽しみは今夜にとっておくとして、俺は今日も騎士団長として働きに行くことにしますか!」「私はどうしましょう…?」「昨日の疲れが残っているだろうしゆっくりしているといい。お義父様には俺がシアースミス家に婿入りすることを許可してもらわなくちゃなぁ。今はとりあえず皇城にいるけど、これからは二人ともシアースミスの邸で暮らす予定だし」 そうよね。グレイ様は名前に変わりがないけど、私はアンジェリカ=オールディントンになったのよ!それでかつ、シアースミス家の次期当主なのよ! さっさと体調を整えたら次期当主としてシアースミスの邸で生活が出来るようにしたいわね。「あ、そうだ!グレイ様の従者のカールもシアースミスの方に連れて行きたいわ。彼はなかなか有能ね」 グレイ様がなんだか不貞腐れる。「初夜の翌朝に俺以外の男を褒められるのは何だかイライラする」 なんだか可愛らしくて、私は思わず頭を撫でてしまった。髪の毛もしっかりしていて、グレイ様の為人を感じる。「‼‼」「ごめんなさい、嫌かなぁ?なんだかグレイ様が可愛らしいなと思って」 グレイ様に頭を撫でていた手をつかまれて結局組み敷かれてしまった。「全く…。アンジェリカは可愛くて仕方ないなぁ。俺、今日は仕事休もうかな?団員も理解してくれるだろうし」 それはそうでしょうけど、お礼の件とか、女将さんのところで働くことが出来るのかとかはどうしたのよ~~!! 結局解放されたのは三日後でした。 なんでも新婚というのは三日間は部屋に籠るという風習があるとか?ないとか?