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第5話

Author: 星もち
お姉ちゃんの顔が一瞬、真っ白になった。

けれどすぐにドレスの裾を強く握り締めた。声は震えているのに、それでも頑なだった。

「そんなはずない。さっきまで扉を叩いて、助けを呼んでたくらいなんだから。どうして、そこまでひどい状態だっていうのよ?」

お母さんも、すがるように同調した。

「そうよ。さっきは顔だって赤くなっていなかったわ。アレルギーなら、顔中が真っ赤になるはずでしょ?喉がかゆいくらいで、そんな大ごとになるわけないじゃない!」

真翔は、まるで理解不能な人間を2人も目の前にしたような目で、お母さんとお姉ちゃんを見た。

「重度の喉頭浮腫は窒息を引き起こします。全員が必ず顔が赤くなるわけではありません。手はすでに冷たく、爪は紫色に変色しています。しかも、中からは自発的な反応が一切ありません」

真翔は扉の隙間を指さした。

「これは拗ねているのではありません。瀕死の状態なんです。すでに亡くなっている可能性さえあります」

「亡くなっている」という言葉が響いた瞬間、周囲の全員が凍りついた。

私もだ。

ようやく、誰かが私の本当の状況を代弁してくれた。

でも、生きた私がその言葉を聞くことは、もうできなかった。

お姉ちゃんは半歩よろめいて後ずさった。ティアラについた細かなビーズチェーンが、かすかに揺れた。

「な、なに馬鹿なこと言ってるの……!」

お姉ちゃんは景真を見た。自分の側に立ってほしいと懇願するような目だった。

「景真、あなたもさっき聞いたでしょ?夕花は扉を叩いていた。死んだ人間が、扉なんか叩けるわけないじゃない!」

景真は険しい顔でスマホを取り出した。

「警察に通報する。救急車も呼ぶ」

お姉ちゃんは景真の手首をつかんだ。

「今日は私たちのリハーサルなのよ!」

景真はその手を振り払い、初めて冷たい声を出した。

「中で本当に何か起きているなら、リハーサルなんか気にしてる場合か?」

お母さんも慌て始めていた。それでも、まだ認めようとしなかった。

「あの子は昔から演技が上手なの。今日が鈴にとって大切な日だって分かっているから、わざと騒ぎを大きくしているのよ。今ここで警察なんて呼んだら、明日の結婚式はどうなるの?」

真翔は怒りのあまり、目の縁を赤くしていた。

「結婚式はやり直せます。でも、人の命はやり直せません」

真翔は伊織からインカムを奪い取り、式場スタッフに工具を持ってくるよう指示した。

けれど扉の前には大型の備品ケースが押しつけられ、予備の鍵はお姉ちゃんが握りしめたままだ。現場はたちまち混乱に陥った。

ケースを動かそうとする者、電話をかける者、恐怖でようやく泣き始める者までいた。

ついさっきまで私の演技を疑っていたブライズメイドの真帆は、口元を押さえ、まともに声を出せないほど震えていた。

「私……さっき、もっと強く扉を開けるよう言うべきだったんでしょうか?」

誰も答えなかった。

お母さんはその場に立ち尽くし、扉を見つめていた。唇がひっきりなしに小刻みに震えている。

ようやく何かを思い出したようだった。

私が扉を叩きながら、かすれた声で「お母さん、薬はバッグの中にある」と必死に叫んでいたこと。

私の声が次第に弱々しくなり、最後には爪で扉を引っかく耳障りな音しか残らなかったこと。

扉の隙間から私を見たとき、私はすでに床にひざまずき、頬が異様なほど腫れ上がっていたこと。

それなのに、お母さんは冷笑しただけだった。

――「もう演技はやめなさい」と。

私はお母さんの前へ漂っていき、そっと呼びかけた。

お母さん。

今になって怖くなったことを、責めてはいないよ。

ただ、少しだけ悲しいの。

もう少し早く私を信じてくれていたら――ほんの1秒でも早かったら、私は生きたまま、お姉ちゃんの結婚式を見届けられたのかな。

救急車のサイレンが遠くから近づき、式場に流れる華やかな音楽を鋭く切り裂いた。

救急隊員たちが器材を手に駆け込んできた。その先頭にいたのは、救急救命士の大森直人(おおもり なおと)だった。

真翔は早口で状況を引き継いだ。「女性、重度の花粉アレルギー。喉頭浮腫による窒息の疑いがあります。扉は外から施錠され、緊急用のエピペンは未使用です」

直人の顔色が変わった。すぐに扉の破壊準備へ移ろうとしたが、お母さんが突然、扉の前に立ちはだかった。

「壊さないで!ホテルの扉なのよ。壊したら、誰が弁償するっていうの?」

お姉ちゃんも両腕を広げ、救急隊員たちを遮った。

「中の妹は、さっきまで扉を叩けていました。みなさんが言うほど重症じゃありません。今日は私の結婚式のリハーサルなんです。これ以上、大ごとにしないでくれませんか?」

直人は、こんな理不尽な人間を初めて見たとでもいうように、2人を鋭く見据えた。

「どいてください!あと1秒遅れるだけでも、命を失う危険があるんです!」

それでもお母さんは、鍵の辺りを必死にかばった。

「私はあの子の実の母親です。みなさんより、ずっとあの子の性格を分かっています。わざと倒れて気絶したふりをして、リハーサルを中止させようとしているだけなんですから!」

言い争うさなか、直人が突然しゃがみ込んだ。

狭い扉の隙間から、私の青紫色の指、腫れ上がって変形した顔、そして倒れた体の周囲に散らばるカスミソウが見えたのだ。

直人の表情が一瞬で険しくなった。すぐさま立ち上がり、背後の隊員へ鋭く命じた。

「破壊救助器具を持て!患者はすでに瀕死状態だ。直ちに扉を破壊して救命処置を開始する!」

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