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第112話

Penulis: 三佐咲美
私は慎一の腰の上にまたがり、彼を見下ろした。

彼の喉仏がごくりと動き、瞳の奥には隠しきれない熱が灯っている。それでも、彼は焦る様子もなく、ただ私を見つめている。

ぼんやりとした月明かりの下、彼は両手で私の腰をしっかり掴み、あらゆる角度から私を眺めていた。まるで、自分が一番自信を持っているおもちゃでも愛でるように。

その漆黒の瞳は、星屑を吸い込むブラックホールのようだった。私は彼と見つめ合いながら問いかける。「また、したいの?」

「ああ……」彼は低く鼻で笑い、「いつだって、したいさ」と、気だるげに呟いた。

次の瞬間、彼は片手で私の細い腰を抱き寄せ、強引に自分の胸に引き寄せてキスをした。私も彼も、欲望に火がついたみたいだった。

冷え切っていた四年の結婚生活に比べ、今の私たちはまるで若い恋人同士のように熱く、お互いの体を求め合っている。

ふたつの体はケシの花のように、触れ合えば一瞬で高揚し、狂おしいほどに夢中になった。

慎一のもとへ戻ってから、私は常に冷静でいようと自分に言い聞かせていた。しかし、いざ彼と向き合うと、その冷静さは一瞬で崩れてしまう。

彼は「お前に夢中なんだ」と言ってくれるけど、私だって、彼のちょっとした表情ひとつで心がかき乱されてしまう。

今もそう。慎一は気怠げな笑みを浮かべて、私に尋ねた。「お前、俺が欲しいか?」

彼は突然、動きを止め、両手も私の腰から離した。

私の喉はカラカラに渇き、声も詰まる。まるで三日三晩砂漠をさまよった小鹿のように、どうしていいかわからなくなった。

私は唇を噛みしめて、意地でも言葉にしないまま、彼をじっと睨みつける。すると、彼は私の太ももを指でつい、となぞり、「ほら、今夜の月、まんまるだぞ」と、空を指させた。

まんまる、まんまるね……でも、どんなに丸くても、彼の胸筋ほどじゃない……

私の目には月なんて映らない。ただ、彼のシャツが憎らしくて仕方なかった。私は彼が油断した隙に、思い切ってシャツをぐいっと引き裂いた。「ここ、月より丸くて白くて、ずっと綺麗だよ」

私は指先で彼の胸元をなぞり、爪を立てて肌を引っかいた。

慎一は深く息を吸い込み、男らしい仕草でシャツを直しながら、もう一度聞いてきた。「お前、俺が欲しいか?」

どうしても、私の口から言わせたいらしい。

私は目に涙が滲むほど悔しくて、背を向けよ
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