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第21話

作者: 夕子
医師は額に汗をにじませたまま家族を呼び出し、紗季は栄養状態が悪く、貧血もかなり進んでいて、このままでは危ない。すぐに輸血が必要だと告げた。

けれど紗季の血液型は非常に珍しく、短時間で必要な量の適合血を見つけるのは到底不可能だった。

白石家の人々がなすすべもなく、焦りに追い詰められていたそのとき、颯真が前に出た。

「俺の血液型なら合う」

かつて紗季は、自分の命も顧みず、危篤を装っていた颯真のために1200ミリリットルもの血を差し出し、危うく自分を危険にさらした。

今、紗季は生死の境をさまよっている。

紗季が無事でいられるなら、颯真が迷う理由などなかった。

細い針が腕の血管に刺さり、真っ赤な血が採血バッグへ流れ込んでいく。

400ミリリットルを採り終えたころには、颯真の額には汗がびっしりと浮かんでいた。それでも看護師は慌ただしく行き来していた。

「足りません。産婦さんの出血量が多すぎます。もう少し採らないと……」

颯真は迷わず頷いた。

800ミリリットル。

意識が少しずつ散っていくようだった。骨まで力を失い、目の前の景色もかすみ始めた。

あのとき、紗季はこんな感覚
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  • 帰れない愛は、夕陽に沈む   第21話

    医師は額に汗をにじませたまま家族を呼び出し、紗季は栄養状態が悪く、貧血もかなり進んでいて、このままでは危ない。すぐに輸血が必要だと告げた。けれど紗季の血液型は非常に珍しく、短時間で必要な量の適合血を見つけるのは到底不可能だった。白石家の人々がなすすべもなく、焦りに追い詰められていたそのとき、颯真が前に出た。「俺の血液型なら合う」かつて紗季は、自分の命も顧みず、危篤を装っていた颯真のために1200ミリリットルもの血を差し出し、危うく自分を危険にさらした。今、紗季は生死の境をさまよっている。紗季が無事でいられるなら、颯真が迷う理由などなかった。細い針が腕の血管に刺さり、真っ赤な血が採血バッグへ流れ込んでいく。400ミリリットルを採り終えたころには、颯真の額には汗がびっしりと浮かんでいた。それでも看護師は慌ただしく行き来していた。「足りません。産婦さんの出血量が多すぎます。もう少し採らないと……」颯真は迷わず頷いた。800ミリリットル。意識が少しずつ散っていくようだった。骨まで力を失い、目の前の景色もかすみ始めた。あのとき、紗季はこんな感覚だったのか。颯真はようやく思い知った。紗季は本当に、自分の命と引き換えに彼を救うつもりだったのだ。愛が深まったころ、颯真は一度、命を差し出せるほど自分を愛しているのかと紗季に尋ねたことがあった。紗季の肯定は、いつだって百パーセント本気だった。けれど颯真の愛は嘘だった。四年ものあいだ、紗季を騙し続けた。看護師が颯真の腕を支えながら尋ねた。「まだ足りません。1200ミリリットルまで採ることになるかもしれません。耐えられますか?」颯真は最後の力を振り絞り、かろうじて頷いた。血がとめどなくバッグへ流れ込んでいく。颯真は全身の痺れと鈍い痛みに耐えながら、意識を失う直前、最後にひとつだけ思った。紗季、これは君に借りていた命だ。今、君に返す。颯真は、長い夢を見たような気がした。夢の中で、颯真と紗季は盛大な結婚式を挙げていた。親しい人たちは皆、二人の理想のような愛を祝福しに来てくれていた。颯真と紗季には、とても可愛い娘が生まれた。顔立ちは颯真に似て、性格は紗季に似ていて、見ているだけで胸がやわらかくなるほど愛らしかった。二人は手を取り合い

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    颯真が思っていたとおり、二か月後の誕生日パーティーには、怜司も毎年の決まりどおり出席した。紗季は本来、参加するつもりはなかった。けれど父の遠志に会いたくて、家族の顔を見るために一緒に帰国することにした。この二か月、颯真は以前のように遊び歩くことをやめ、家業を学びながら、自分の事業も始めていた。思った以上に真剣に取り組んでいるようで、成果も少しずつ出始めていた。再び颯真に会ったとき、紗季も心の底から、颯真はずいぶん大人になったと思った。雰囲気も少しずつ怜司に似てきている。ただし、怜司が家に戻ってきた途端、颯真がこう宣言しさえしなければ。「兄貴、俺は紗季をもう一度取り戻す。これまで兄貴には何もかも負けてきた。けれど今の俺だって、ちゃんと成長している。自分の力でやっていこうとしている。兄貴と紗季の結婚は、ただの政略結婚だ。感情なんてない。俺だって、頼れる男になれると証明してみせる」怜司と紗季は顔を見合わせた。二人とも、冗談を聞いた程度にしか受け止めなかった。けれど颯真は本気だった。颯真は紗季のためにわざわざスイーツ作りまで研究し、紗季の好みに合わせて、誕生日用のスイーツをテーブルいっぱいに用意していた。招待客が集まり、会場は満席になった。颯真は大勢が見守る中、マイクを手に取った。「俺、白石颯真は、この先の人生で青木紗季以外の女とは結婚しません」壇下にいた宗一郎と麗奈の顔は、怒りで青ざめた。この二か月のあいだ、颯真はこの件で何度も両親と揉めていた。両親は最初こそ穏やかに説得していたが、颯真は怜司との結婚を解消させると固く決めていた。宗一郎は怒鳴った。「馬鹿なことを言うな!この縁談は、うちと青木家で長い時間をかけて整えたものだ。両家とも、もう了承している。そもそも紗季さんを騙し、傷つけたのはお前のほうだろう。今になって惜しくなったからといって、人の結婚を壊そうなど、許されると思うな。世の中が何でもお前の思い通りになると思ったら大間違いだ!」その後も颯真は不満を抱えていたが、表向きはおとなしくなったため、宗一郎と麗奈は颯真がようやくわかったのだと思っていた。招待客たちは壇下でひそひそと囁き合っていた。怜司は沈んだ顔で、固い決意を浮かべる弟を見つめている。隣の紗季は、居たたまれないほど気まずかった。

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  • 帰れない愛は、夕陽に沈む   第16話

    それから数日、颯真は何かにつけてスタジオへ贈り物を届けてきた。あるときは、紗季の好きな飲み物や軽食、見た目にも凝った小さなケーキ。またあるときは、ジュエリーやアクセサリー、ダイヤや金製品、有名ブランドの新作バッグやコスメ。さらには高価な撮影機材まで送られてきた。スタッフたちは陰で、紗季がどこかの大物に囲われているみたいだと噂するようになった。以前の紗季なら、きっと胸を弾ませて喜んでいただろう。けれど今の紗季にとっては、ただ煩わしいだけだった。贈られてきたものはひとつも受け取らず、機会を見つけてはすべて送り返した。それでも颯真は懲りずに送り続けた。やむを得ず、紗季は怜司に頼ることにした。「颯真って、あなたのことがすごく怖いって聞いたんだけど?」怜司はネクタイを整え終えると、不思議そうに紗季を見て、頷いた。「ああ。俺に何かしてほしいのか?」紗季は困り果てたように額を押さえ、ため息をついた。「彼にひと言言ってくれない?私のスタジオに、ひっきりなしに贈り物を送りつけるのはやめてって。本当に迷惑なの」怜司が動いたあと、颯真はさすがにかなり大人しくなった。最近、スタジオの仕事は屋内撮影だけでなく、屋外ロケにも広がり始めていた。初めてのロケ撮影の日、公園で長椅子に座っている颯真に出くわした。紗季は何も言わず、そっと通り過ぎるつもりだった。ところが颯真は、まっすぐ紗季の名を呼んだ。「紗季!」仕方なく、紗季はぎこちなく首を向け、不機嫌そうに眉をひそめて颯真を見た。「何をしに来たの?」颯真の顔には、少しもめげた様子がなかった。図々しく笑いながら言った。「公園を散歩しに来ただけだよ。まさか偶然会えるとは思わなかった」服装も髪型も、偶然を装うにはきちんと整いすぎていた。紗季はそれを一目見ただけで、何も言わずに視線を外した。けれど目に何の揺れもなく、颯真と言い合う気にもなれなかった。颯真に仕事を邪魔されないよう警戒しながら、依頼人の要望にも応じているうちに、強い日差しで、紗季は頭がくらくらしていた。セットを組むために、スタッフも何人か同行していた。池のそばは光がきれいで、そこに背景を作れそうだと言われたとき、紗季は深く考えずに池の方へ向かった。そのとき、木陰から突然ひとりの人物が飛

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