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幾千の波を越えて、私の人生はまだ遅くない

幾千の波を越えて、私の人生はまだ遅くない

By:  灯りCompleted
Language: Japanese
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親友の吉田真央(よしだ まお)が出産を終え、私、藤原咲希(ふじわら さき)は赤ちゃんを抱いてあやしていた。 「いい子ね。私は第二のママ、この人は第二のパパよ」 傍らに立っていた瀧川侑斗(たきがわ ゆうと)が、ふいに口を開いた。 「第二のパパじゃない。実の父親だ」 聞き間違いかと思った。 まさかと思ったが、彼は気だるげに口元をわずかにゆがめ、もう一度言った。 「その子は俺の子だ。 お前の親父さんが死んだあの日、俺は真央と一晩中やった。コンドームも一箱まるごと使った」 私はその場で凍りついた。喉の奥が詰まったようで、どうしても声が出なかった。 どれほど経ってからか、ようやく一言を絞り出した。 「でも……私たち、昨日やっと入籍したばかりでしょう」 侑斗は笑って私を抱き寄せ、優しくあやすように言った。 「安心しろよ。俺とあいつは、せいぜいセフレみたいなもんだ。結婚する気があるなら、とっくにしてる」 そう言って、彼は少し間を置いた。 意地の悪い調子で続けた。 「真央、まだお前に隠してたのか?俺たち、付き合ってたんだ。俺はあいつの初めての男だった」

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Chapter 1

第1話

親友の吉田真央(よしだ まお)が出産を終え、私、藤原咲希(ふじわら さき)は赤ちゃんを抱いてあやしていた。

「いい子ね。私は第二のママ、この人は第二のパパよ」

傍らに立っていた瀧川侑斗(たきがわ ゆうと)が、ふいに口を開いた。

「第二のパパじゃない。実の父親だ」

聞き間違いかと思った。

まさかと思ったが、彼は気だるげに口元をわずかにゆがめ、もう一度言った。

「その子は俺の子だ。

お前の親父さんが死んだあの日、俺は真央と一晩中やった。コンドームも一箱まるごと使った」

私はその場で凍りついた。喉の奥が詰まったようで、どうしても声が出なかった。

どれほど経ってからか、ようやく一言を絞り出した。

「でも……私たち、昨日やっと入籍したばかりでしょう」

侑斗は笑って私を抱き寄せ、優しくあやすように言った。

「安心しろよ。俺とあいつは、せいぜいセフレみたいなもんだ。結婚する気があるなら、とっくにしてる」

そう言って、彼は少し間を置いた。

意地の悪い調子で続けた。

「真央、まだお前に隠してたのか?俺たち、付き合ってたんだ。俺はあいつの初めての男だった」

自分がどうやって病院を出て家まで帰ったのか、まったく覚えていない。

侑斗が戻ってきたとき、家の中はすでにめちゃくちゃだった。

ウェディングフォトは床に叩きつけられ、砕けたガラスが一面に飛び散っていた。

部屋に飾っていた結婚祝いの飾りはすべて引き裂かれ、新しく揃えた寝室の家具まで滅茶苦茶に壊されていた。

侑斗は玄関に立ったまま、黙って一本の煙草を吸い終えた。

それから近づいてきて、私の手を確かめた。

「怪我してないか?」

私は勢いよく彼の手を振り払った。胸の奥に溜め込んでいた怒りは、もう抑えきれなかった。

目を真っ赤にして問い詰めた。

「どうして?」

侑斗は眉をわずかに上げた。

「お前と結婚した理由か?」

彼は本気で考えるようなそぶりを見せ、それからふっと笑った。

「お前は細かいところまで気がつくし、性格も穏やかだ。俺のためなら仕事も捨てて、芸能界も引退して家に入れる。妻に向いてる。

真央みたいに、何も考えてないお嬢様とは違う。家事なんて、あいつには何ひとつ期待できない」

彼が正直であればあるほど、私の心は深く抉られていった。

私の目に涙がにじんでいるのを見て、侑斗は前に出てきて私を抱きしめた。

「もういいだろ。言ったじゃないか、俺とあいつに未来はないって。

これから先も、せいぜい一緒に子どもを育てる関係ってだけだ」

私は勢いよく彼を突き放し、叫んだ。

「どうして私にこんなことするの?どうして真央との間に子どもまでいて、それでも私と結婚したのよ!」

一人は、長年愛し続けてきた男。もう一人は、いちばん大切な親友だった。

二人して、私を徹底的に騙していた。

胸を押さえた。真実の重さに押し潰され、息ができなかった。

荒い息を何度も吐いた。

侑斗は答えなかった。ただ、気が狂った者でも見るような目で私を見ていた。

長い沈黙のあと、彼は苛立ったように言った。

「もう騒ぐな。真央が俺のスープを待ってる」

私はその場に立ち尽くしたまま、キッチンで動き回る男を見つめていた。

慣れた手つきで火をつけ、野菜を切り、アクをすくっていく姿を。

三年一緒にいて、彼が私のために料理をしてくれたことは一度もなかった。私はただ、彼は料理ができないんだと思っていた。

キッチンに近づこうともしなかった彼は、料理ができたのだ。

ふと、真央が昔言っていたことを思い出した。

元彼は彼女の偏食を直してやるために、一度も台所に立ったことのない御曹司だったのに、彼女のために毎日キッチンにこもって料理を研究していたと。

一度など、家のキッチンを爆発させたことさえあった。

私はそんな光景を想像したことがあった。

そして今、目の前にあるすべてが、記憶の中で真央が語っていた細部とひとつ残らず重なっていった。

普段なら意識して見ないふりをしていた数々の瞬間が、このとき一気に押し寄せてきた。

車に乗るとき、真央はいつも私より一歩早く、サングラスを侑斗に差し出していた。

一緒に食事をしていると、真央は何気なくこう言った。

「彼、ネギ食べないの」

真央が転びそうになると、侑斗はいつも私より先に手を伸ばした。

真央が病気になれば、侑斗は会議室の人間を放り出して病院へ駆けつけた。

……

いつの間にか、涙で視界がにじんでいた。

私はかすれた声で言った。

「侑斗、離婚しましょう」
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