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第16話

Auteur: 帰雁
彼らが予想だにしなかったのは、乙音が姿を消したこの一ヶ月が、病院ではなく婚礼の準備に費やされていたことだ。

兄である善次よりも、乙音と幼馴染みとして育った青野の動揺は甚だしかった。

これまで、彼女が他人と結婚する可能性など微塵も考えたことがなかった。

彼の中では、過去も現在も、そして未来さえも、彼女は自分だけのものだと信じていた。

だからこそ、この現実を受け入れられず、必死に否定していた。

「叔父さん、叔母さん、そんな冗談を……乙音は羽生瀬人に会ったこともないはずです。どうして結婚なんて承諾するんですか?」

「私たちにもわからないのよ。あなたが美穂のことを好きだから、二人を成就させようと思ったのかもしれませんね」

「成就」という言葉を聞いた瞬間、青野の顔が真っ青になった。傍らにいた善次の視線も、彼を探るような深みを帯びていた。

二人がそれぞれ複雑な思いを抱えている最中、一切を知らずに帰宅した美穂が玄関を開けた。居並ぶ家族の険しい表情に、挨拶の声はかすれた。

「……どうしたんですか?」

彼女を見るなり、善次は救いを求めるように手を握り、焦りを滲ませた声で問う。

「美
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