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第45話

Auteur: Kester
last update Date de publication: 2026-09-11 00:14:46

翌朝、午前七時頃、レイはアルタイル・ロジスティクスのオペレーションオフィスへ足を踏み入れた。手には、ボスのためにわざわざ買ってきた温かい朝食の入った紙袋を提げていた。しかし、プライベートラウンジの扉が開いた瞬間、レイの足はぴたりと止まった。信じられないというように目を見開く。

長いテーブルの上には、大きな木製の船の模型が堂々と、そしてどっしりと置かれていた。

その船は、あまりにも完璧だった。深い海のようなネイビーブルーと漆黒のアクセントが、室内の照明を受けて見事に調和している。複雑に編み込まれた帆のロープ、舵の彫刻、そして波の模様に囲まれた「L.V.」のイニシャルの彫り込みに至るまで、あらゆる装飾の細部が一切省かれていなかった。完成したそれは、チャーリーが最初に作った小さな木製の船とは比べものにならないほど美しく、そして生き生きとしていた。

「ヴェインさん、また一晩中寝ずに作っていたんだな……」

レイは小さくつぶやきながら、朝食の入った紙袋をその傑作のすぐ隣に置いた。

レイは長く息を吐いた。その船を見つめていると、胸の奥に重苦しい感情がじわじわと広がっていく。ボスの執念には、本当に呆
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    エレナは大きなガラス張りの壁のそばに立ち、冷めかけたブラックコーヒーのカップを握りしめていた。目の下には薄っすらと隈が浮かび、昨日の激しい対峙のあとに残った心の疲労が滲んでいる。チャーリーが去ってからというもの、彼女の思考は止まることなく巡り続け、なかなか消えてくれない息苦しさだけが胸に残っていた。部屋のドアが二度ノックされた。アリアが、深い戸惑いを隠しきれない表情で入ってきた。「マダム……」アリアは静かに呼びかけ、数枚のスクリーンショット写真と、チューリッヒにいる彼女の協力者から届いた書面による報告書が入ったフォルダーを差し出した。「チューリッヒでヴェイン様の動向を監視するために配置した者から、先ほど報告が届きました」エレナはゆっくりと振り返り、フォルダーをひったくるように受け取った。そこに収められた連続写真を見た瞬間、彼女の目が鋭く細められた。写真には、ヴェイン様が高級なプライベートカフェでステヴァニ・ヴァンガードと二人きりで座っている姿が写っていた。写真の中で、ステヴァニは温かな笑みを浮かべ、好意に満ちた眼差しでチャーリーを見つめていた。――最低な男……。エレナは心の中で呟き、写真の紙の端を握りつぶした。昨日、チャーリーの告白を思い出したときに胸へ忍び込んできたばかりの温もりが、一瞬にして消え去り、代わりに燃え上がる怒りへと変わっていく。――自分の死を偽装したのは、私とレオを守るためだと言ったくせに? それなのに今は、ウィリアムの従妹とあんなにも親密そうにしている! あなたはずっと私を弄んでいたのね、チャーリー・ヴェイン!エレナはフォルダーを執務机の上へ乱暴に投げつけた。「アリア! 今すぐアルタイル・ロジスティクスに連絡を取り直して!」アリアは小さく身を震わせた。「ま、マダム? いったい何が……?」「今朝、彼らが送金してきた金額は、Aethel Corpの焼失した生産設備と商品の運営・製造コストを補填するだけで精一杯よ!」エレナは冷たく、毅然とした、絶対的な威圧感を帯びた声で命じた。「彼らに伝えて。私は名誉毀損に対する賠償金と非財産的損害への補償として、当初の損害賠償額の二倍を要求する!」アリアは驚きのあまり飛び上がり、信じられないというように目を見開いた。「マダム……二倍ですか? ですが、最初の賠償金だけでも彼らの運営資金をすべて

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    シティBの朝は、株式市場を騒がせるニュースの喧騒とともに幕を開けた。しかし、エセル・コーポレーションの壮麗な執務室には、張り詰めたような静寂が漂っていた。エレナは大きなガラス窓のそばに立ち、冷めかけたブラックコーヒーのカップを握りしめていた。目の下には薄っすらと隈が浮かび、昨日の激しい対峙のあとに残った心の疲労が滲んでいる。チャーリーが去ってからというもの、彼女の思考は止まることなく巡り続け、なかなか消えてくれない息苦しさだけが胸に残っていた。部屋のドアが二度ノックされた。アリアが、隠しきれない驚きの表情を浮かべながら入ってきた。「マダム……」アリアは静かに呼びかけ、一台のタブレット端末を差し出した。「アルタイル・ロジスティクスが、先ほど損害賠償金の送金手続きを完了しました」エレナはゆっくりと振り返り、タブレットの画面を見つめた。そこには一千万ドルという途方もない金額が表示されていた。税金も交渉による減額も、一セントたりとも差し引かれることなく、全額が支払われている。エレナの心臓が大きく鼓動した。チューリッヒでの火災後、アルタイル・ロジスティクスが置かれている財務状況を、彼女はよく知っていた。わずか数時間のうちにこれほどの現金を流出させるなど、事業拡大を破綻させかねない、あまりにも無謀で危険な行為だった。「彼は……本当に全額を支払ったの?」エレナは、わずかに震える声で呟いた。「はい、マダム。ヴェイン様は一切異議を申し立てませんでした。それどころか、彼のアシスタントであるレイが、エセル・コーポレーションが被った損害について正式な謝罪文まで添えております」とアリアが説明した。エレナは固く目を閉じ、コーヒーカップを強く握りしめた。――あなたは今も変わらないのね、チャーリー……。いつだって責任を果たそうとして、私には何ひとつ借りを残したくないのね。彼女は胸の内で、苦々しく思った。その頃、チューリッヒ中心部にある、会員制のプライベート空間をコンセプトにした高級カフェでは、チャーリーが静かにエスプレッソのカップを見つめていた。象牙色のマスクは今もきちんと顔に着けられており、その下に隠された冷たい表情は、完全に危機対応時のものへと戻っていた。テーブルの向かいでは、ステヴァニ・ヴァンガードがクロワッサンを一切れ楽しみながら、温かな笑みを浮かべてチャーリーを見つ

  • 彼が一番後悔したのは、私だった   第70話。

    チャーリーはまだ黒いセダンの車内に座っていた。指はハンドルを固く握りしめている。アクセルを踏み込もうとしたその時、マスクの奥にある黒い瞳が、ヴァンガード一族の紋章を掲げた高級車がゆっくりとアセル・コーポレーションの敷地内へ入ってくるのを捉えた。車のドアが開いた。ウィリアムが高級スーツ姿で降りてくる。シャツのボタンを整えながら、吐き気を催すほどの傲慢さを漂わせていた。男は顔を上げて最上階を見つめ、世界のすべてをすでにその手中に収めたかのように、満足げな笑みを浮かべた。暗い車窓の向こうから、チャーリーの顎が強く引き締まった。その視線は刃物のように鋭くなり、レイによってアルタイル・ロジスティクスの倉庫襲撃を仕組んだ黒幕だと特定されたばかりの男を、真っ直ぐ射抜いていた。つまり、汚い手を使っていたのはお前だったのか、ウィリアム……チャーリーは胸を焼き尽くす怒りを押し殺しながら、心の中で呟いた。俺の投資を焼き払い、エレナとの接点を断ち切ってまで、お前自身のくだらない自尊心を満たしたかったのか?ウィリアムは、自分が今まさに破滅させようとしていた「捕食者」が数メートル先から自分を監視していることにも気づかず、アセル・コーポレーションのロビーへと入っていった。チャーリーは深く息を吸い、胸の中で渦巻く感情を抑え込むと、ハンドルを切り、空港へ向かって勢いよく車を走らせた。夜の帳がチューリッヒの街を包む頃、チャーリーは再び自宅へ戻ってきた。ミニマルな建築様式の邸宅は、ひどく静まり返っていた。まだ終わっていない仕事に取りかかる前に、チャーリーはまずシャワーを浴びた。アセル・コーポレーションの社長室で見た、怒りに満ちたエレナの顔を冷たい水で頭から追い払おうとしたのだ。しかし、何ひとつ忘れることはできなかった。エレナが口にした言葉のすべてが、今も耳の奥に鮮明に残っている。三十分後、チャーリーはラフな服装に着替え、身なりを整えていた。リビングでは、チャーリーとレイが向かい合って座り、金融関連の書類で埋め尽くされたガラステーブルを挟んでいた。テーブルランプが淡い黄色の光を放ち、火災による損失をまとめた報告書の紙面を照らしている。「アセル・コーポレーションの全商品と、いくつかの小規模な取引先の損害賠償額をすべて算出しました、ボス」レイは最終計算書を差し出しながら報告した。「かなりの

  • 彼が一番後悔したのは、私だった   第69話。

    エレナの言葉がその部屋の中に硬く響き渡り、二人の周囲に残っていた空気さえも断ち切るように、その場を凍りつかせた。チャーリーは黙って立ち尽くしていた。仮面を外した端正な顔には、もはやアルタイル・ロジスティクスの最高経営責任者としての傲慢さは微塵も残っていなかった。そこに浮かんでいたのは、かつて自分が刻みつけたすべての傷が、今になって容赦なく自分へと返ってきたのだと悟った男の、諦めにも似た表情だけだった。「今日中に契約解除の手続きと、アセル・コーポレーションの全商品の損害賠償の支払いを進める、エレナ」チャーリーは低い声で告げた。その声は掠れ、胸に重くのしかかる苦痛が滲んでいた。「君の望みどおり……もう君の人生を邪魔することも、レオに近づくこともしない」エレナは答えなかった。ただチャーリーに背を向けたまま、大きなガラス張りの壁の向こうを真っ直ぐ見つめていた。荒い呼吸を繰り返しながら、ボルドー色のドレスの両脇で固く握りしめた手が激しく震えている。それは憎しみだけによるものではなかった。心の防壁を今にも崩れ落とさんばかりの、激しい感情の渦によるものでもあった。もう言うべきことはないと悟ったチャーリーは、ゆっくりと僅かに頭を下げた。先ほど机の上に外して置いたアイボリー色のマスクを拾い上げ、再び顔につける。後悔に打ちのめされた顔を覆い隠すようにしてから、身を翻し、両開きの扉へ向かって歩き出した。カチャッ。扉が開き、そしてチャーリーの背後で再び閉まると、その足取りはひどく重くなった。アセル・コーポレーション最上階の廊下が、果てしなく長く、苦痛に満ちたものに感じられた。秘書デスクのそばに立っていたアリアは、すぐに背筋を伸ばした。ビジネス界の女王の専属秘書である彼女は、再びマスクを着けて出てきたチャーリーを見て目を見開いた。しかし、その瞳には先ほどまでの光がなく、ただ虚ろな色だけが浮かんでいた。「ヴェイン様……」アリアは罪悪感の滲んだ声で呼びかけながら、彼に歩み寄った。チャーリーは足を止めたものの、振り返らなかった。「中にいるエレナが無事か、ちゃんと確認してくれ、アリア。それと……この損害賠償請求書類を保管しておいてくれ」チャーリーは手にしていた分厚いファイルをアリアに渡すと、二度と振り返ることなく、VIP専用エレベーターへ向かって歩き続けた。執務室の中では、チ

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    アエテル・コープのロビー、その大理石の床を打つチャーリーの革靴の音が、一歩一歩、処刑へと近づく時計の針のように響き渡っていた。毅然とした立ち姿と端正な黒いスーツの下で、チャーリーの胸は激しく鳴り響いていた。諦めの境地にありながらも、神経の一本一本が張り詰めていた。最上階にあるVIP専用エレベーターの扉が、軽やかな音を立てて開いた。足を踏み出した瞬間、社長室へ続く廊下は、ひどく冷たく、虚ろに感じられた。アリアは両開きの扉の前で、すでに待っていた。エレナの専属アシスタントである彼女の顔には緊張が浮かび、その瞳は深い罪悪感を湛えながらチャーリーを見つめていた。「どうぞお入りください、ヴェイン様」とアリアは小さく囁き、アイボリー色のマスクに覆われた男の目を直視することもできないまま、扉を開けた。「マダムがお待ちです」チャーリーはわずかに頷いた。深く息を吸い込み、残されたすべての勇気をかき集めると、扉の向こうへ足を踏み入れた。背後で扉が固く閉じられた。二十平方メートルほどある白を基調とした執務室は、息が詰まるほどの静寂に包まれていた。昼の日差しが大きなガラス張りの壁を通り抜け、高所から街並みを見下ろす一人の女性の姿を照らしていた。エレナ・ヴィクトリア。深いワインレッドのクレープドレスが優雅な身体のラインを包み込み、ビジネス界の女王たる絶対的な威圧感を放っていた。「アルテア・ロジスティクスのCEOを、ただ話をするために呼ぶだけでも随分と難しいようね」と、エレナの声が静寂を切り裂いた。声を荒らげているわけではない。それでも、その声は凍えるほど冷たく、鋭く、骨の髄まで突き刺さる侮蔑に満ちていた。エレナはゆっくりと振り返った。鋼のように冷たい眼差しが、三メートル先に立つチャーリーを射抜いた。チャーリーは毅然と立ち続けた。心臓が激しく鼓動し、胸が痛むほどだった。「昨日は約束をキャンセルしてしまい、申し訳ありませんでした、エレナ夫人。チューリッヒで発生した火災は、我々の手ではどうすることもできませんでした」「どうすることもできなかった?」エレナは冷笑した。それはユーモアの欠片もない、乾いた笑いだった。彼女は広々とした執務机へと歩み寄った。「私から逃げるために自分の倉庫に火をつけたの? それとも、あんたはあの忌々しいマスクの陰に隠れてばかりいる臆病者なの?」エレナは

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    エレナとの電話が切れたことを告げる無機質な音が、冷たい夜の空気の中に硬く響き続けていた。チャーリーはアルテア・ロジスティクスの敷地内で、呆然と立ち尽くしていた。彼の視線は、もはや黒く焼け焦げた建物の残骸には向けられていなかった。その目は、救い出されたレオの木製ミニチュア船が収められた透明なアクリルケースへと注がれていた。一言も発することなく、チャーリーは歩み寄った。両手で木製の船が入ったケースを持ち上げると、胸元へしっかりと抱え込み、そのまま駐車してあった黒いセダンへと運んでいった。レイが後ろから早足で追いかけてきた。二人が車内に乗り込むと、レイは身体を後部座席へ向けた。「ボス……これから、どう動くおつもりですか?」とレイが尋ねた。その顔には、抑えきれない不安が滲んでいた。「考えているところだ」とチャーリーは短く答えた。声はひどく平坦だった。それから、チャーリーは固く口を閉ざした。マスクを着けた屈強な男は窓の外へ視線を向け、淡く滲むチューリッヒの街灯を眺めていた。その表情には、深い困惑と重苦しい心の負担が滲んでいる。息が詰まるような静寂が、道中ずっと車内を包み込んでいた。それからおよそ三十分が経ち、黒いセダンはチューリッヒにあるチャーリーの私邸へ到着した。チャーリーは家の中へ入り、リビングへ向かうと、木製ミニチュア船が入ったアクリルケースをガラスのテーブルの上へそっと置いた。男はその隣にあったティッシュ箱へ手を伸ばし、数枚取り出すと、アクリルケースの表面に付着した煤の残りを細心の注意を払いながら拭き始めた。その頃、レイは身体を洗うため、客室へ向かっていた。レイはもともとボスの家に泊まることが多かった。特に、今のように事業上の状況が緊迫した非常事態に陥っている時はなおさらだった。静まり返ったリビングで、チャーリーの指が一瞬、ガラスの上で止まった。彼は中に収められた木製ミニチュア船の細部をじっと見つめた。「レオ……お前の母親、怒ると結構怖いんだな」と、チャーリーはミニチュア船に向かって小さく呟いた。まるで目の前にいる幼い息子へ直接話しかけているかのようだった。先ほど電話越しに聞いた、脅すようなエレナの口調が再び耳の奥に蘇った。ほどなくして、レイがより楽な服装に着替えて浴室から出てきた。彼はリビングへ近づき、チャーリーが座っているテーブルの横に立

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