تسجيل الدخول思い返せば、何年も前からずっとそうだった。尊は【後で連絡する】と返信しながら、会食の後は決まってそのまま放置してきた。数時間後、私がようやく【何かあったの?大丈夫?】と尋ねると、彼の答えはいつも同じだった。【別に】自分から【終わったよ】と知らせてくれることも、私がどんな夜を過ごしていたか気にかけてくれることも、彼にはただの一度としてなかった。「どうして一言くれないの」と問いただせば、彼は面倒くさそうにため息をついた。「お前は、俺からの返信を待つ以外にやることがないのか?」相手からの返信が数分遅れたくらいで一喜一憂するような年齢は、とっくに過ぎている。それなのに、玲央がわざわざ吹き込んでくれた音声メッセージを聞いただけで、胸の奥に温かいものが静かに降り積もっていくのを感じていた。私はすぐに返信を打った。【気にしないでください。まずは今やっているお仕事を片付けてください】すると即座に、画面上部に「入力中…」の提示が点滅し、ポンッという音と共に、長文のメッセージが届いた。【自分が大切に想っている相手に、何の連絡もできないほど忙しい人間なんていないよ。ほんの数秒あれば、『しばらく手が離せない』とか、『後で電話する』と伝えることはできる。大切な人には、その数秒を割くだけの価値が確実にある。いつか、俺が君にとっての『その数秒を割きたくなる相手』になれることを願っている】私は文面をじっと見つめたまま、何も返信できなかった。その日の午後、私は早退した。一番の理由は、あの甘いメッセージを読んだ後で、玲央と平然と顔を合わせる心の準備がまだできていなかったからだ。逃げるようにオフィスの外に出ると、エントランスの前に尊が立って待っていた。その腕には白いバラの花束が抱えられている。オレンジ色の街灯の下、雪がゆっくりと舞い落ちていた。「俺が変われることを証明したいんだ」凍てつく空気の中で、彼の吐く息が白く煙る。「今までお前が俺にしてきてくれたことを、今度は全部、俺にさせてほしい。気遣うのも、電話をかけるのも、真っ先にメッセージを送るのも、これからは全部俺からやる」私は彼を静かに見つめ返した。「同じ屋根の下で暮らしていた時でさえできなかったのに。これだけ離れて暮らしている今ならできるなんて、どうし
咲良が一体いつから病室の外に立って立ち聞きしていたのか、私には分からなかった。彼女は私たちの険悪な空気を窺うような、遠慮がちな笑みを浮かべて中に入ってきた。「行かない」その短い拒絶に、咲良は呆然とした顔をした。「でも、今までこういう時は、いつも助けてくれたじゃない……」尊の表情は氷のように冷ややかなままだった。「なら、そろそろ他人に頼らず自分でやり方を学ぶ時期だろう」咲良は瞬きをした。その顔から、ゆっくりと笑みが消えていく。彼女は気まずそうに私をちらりと見た。「お姉ちゃん、私のせいで尊さんと喧嘩しないでね」私は愛想よく微笑み返した。「心配しなくていいわ。私たち、もう別れたから」ほんの一瞬だけ、咲良の瞳に何かが閃いた――安堵。だがそれは、瞬きする間に見事に隠された。「よかった……私のせいで二人が喧嘩して別れるなんて、絶対に嫌だったから」尊は苛立ったように顔を上げた。「席次や挨拶の順序について分からないことがあるなら、秘書に聞け。俺の役目じゃない」咲良は彼をじっと見つめた。明らかに、そんな答えが返ってくるとは予想していなかったのだろう。「本来ならお前自身が学んで対処すべきことまで、俺は甘やかして、何でも俺に依存させてしまった」彼の声は淡々としていたが、その響きの奥には微かな、しかし確かな後悔の念が滲んでいた。「『これは俺の責任だ』と自分に言い聞かせてきた。家の事情があるから、俺が保護者代わりとして面倒を見ているだけなのだと。だが、いつの間にか、俺自身どこまでが『責任』でどこからが『過保護』なのか、境界線が分からなくなっていたんだ」咲良が抱きしめたファイルに、ぎゅっと指が食い込む。「前は、頼っても嫌な顔ひとつしなかったじゃない」「気にするべきだったんだ。ずっと前から」低く、静かな答えが返ってきた。今まで無条件で自分の味方をしてくれていた人が、もう何でも代わりにやってくれるわけではない。その事実に初めて直面した咲良は、ショックで一言も発することなく踵を返し、病室を出て行った。背後でドアが静かに閉まる。部屋には、再び重い沈黙が落ちた。長い間の後、尊が静かに口を開いた。「披露宴で、あの新郎が言っていた言葉が、ずっと頭から離れなかった。俺は何年もの間、誰に対して
新郎は彩乃に微笑みながら続けた。「そしてもう一つ。僕に迷惑をかけるんじゃないか、なんて二度と考えないでほしい。何か楽しいことがあって笑い転げたなら、その話を聞かせてほしい。何かが怖いなら、それも教えてほしい。どんな些細なことでも構わない。僕は、君が何でも真っ先に思い浮かべて共有したくなる存在になりたいんだ」会場は割れんばかりの拍手に包まれた。拍手に沸く人垣のずっと後ろ、会場の最後列に、一人立ち尽くす尊の姿があった。彼は何かを思い知らされたような顔で、壇上の新郎新婦をじっと見つめていた。そして、まるで私の視線に気づいたかのように、彼が振り返った。視線が交差する。かつてなら、こうして見つめ合うだけで私の胸は高鳴っていた。彼が私を見てくれたというだけで、すべてが報われた気がしていたのに。でも今は……心が凪いだように、もう何も感じなかった。式が終わった後、私はブライズメイドのドレスを着替え、食事の席へと向かった。どうやら直前になって座席の変更があったらしく、私のネームカードが元あったテーブルから消えていた。小さなフラワーガールの女の子が私の手を引いた。「お席、あっちだと思う」彼女が案内してくれたのは、会場の隅に追いやられたようなテーブルだった。座っているのはほとんどが子供たちで、その中に一人だけ、ひどく困惑した顔で肩身を狭くしている大人が混ざっていた。彼が顔を上げた。一目で高級と分かる仕立てのスーツに、細いフレームの眼鏡。アットホームな親族の結婚式というより、ハイブランドのファッション誌の撮影現場から抜け出してきたような完璧な出で立ちだ。私たちは、互いの顔を見て目を丸くした。「え?白石本部長が何で……?」彼は深々とため息をついた。「俺の母親のいとこの家族が、まさか君まで招待していたとはね」私は笑ってしまった。「世間って狭いですね」玲央は気まずそうに眼鏡の位置を直した。「母親が『いつ身を固めるのか』としつこく聞いてくるから、仕方なく来たんだ。延々と口論するより、一人で適当に顔を出してやり過ごす方が手っ取り早いからね」「驚くほど共感できます」私は少しおどけながら尋ねた。「それで、あの偽の恋人の特別手当をもらえるチャンスは、まだ残っていますか?」彼の口角がわずかに上
私は画面を見つめながら、頭の中で慎重に言い訳の文面を練っていた。入力し始める前に、また新たなメッセージが届く。【何か俺に言いたいことでも?】続いて、スマホが再び振動した。銀行アプリからのプッシュ通知だった。振込の知らせだ。私は目を見開いた。表示された桁違いの金額に、私は目を疑い、完全にフリーズしてしまった。またメッセージが送られてくる。【誤送金じゃない。今週の土曜、新京で開かれる結婚式に同行してくれないか。遠縁の親戚が結婚するんだが、一族の連中が1日中『なぜお前はまだ独身なんだ』と尋問してくるのが目に見えているんだ。あんなくだらない質問攻めに遭うくらいなら、ダミーの恋人を連れて行く方がマシだ。君、今はフリーだろう?その金は、身を呈して盾になってくれる『特別手当』だと思ってくれ】私は堪えきれずに吹き出してしまった。けれど残念なことに、彩乃の結婚式も、奇しくも同じ日なのだ。私たちの友情の歴史上初めて、目の前に積まれた莫大な「特別手当」と親友への忠誠心が、私の中で激しく天秤にかけられていた。画面に表示された金額を見つめる。これなら数ヶ月分の家賃が払える。いや、もっとかもしれない。私はため息をつき、こう返信した。【ありがたいお申し出ですが、白石本部長。今週の土曜日は、故郷で一番の親友が結婚式を挙げるんです。私にとって、この世界でそこ以上に優先すべきことはありません】送信ボタンを押した瞬間、私の指の間から大量の札束がさらさらとこぼれ落ちていく幻聴が聞こえた気がした。……結婚式の準備は朝9時から始まった。私は時間通りに花嫁の控室へ到着した。彩乃はすでに鏡の前に座り、メイクやヘアセットのスタッフに囲まれている。部屋中が、結婚式の朝特有の慌ただしくも幸せな空気に満ちていた。「凛!絶対あんたが一番に来るって分かってたわ」メイクを終えた彼女がこちらを振り返った時、私は美しさのあまり言葉を失った。数え切れないほどの平凡な日々を一緒に笑って泣いて過ごしてきた彼女が、純白のウェディングドレスに身を包み、今まさに人生の新しい章を開こうとしている。目頭が熱くなった。彩乃はすぐにそれに気づいた。「泣かないでよ」彼女は囁き、私の手にそっと触れた。「あんたが泣いたら、私まで泣いちゃうじゃない」彼女は化粧台に
私は静かに答えた。「今更それを聞いて、何かが変わるとでも言うの?」重い沈黙が落ちた。それが誰の受け売りか、尊はよく分かっていたはずだ。これまで彼自身が、私に向かって幾度となく吐き捨ててきた言葉なのだから。彼の声が微かに和らいだ。まるで、許しを請うかのように。「明後日、内輪の集まりがある。みんなパートナー同伴だ。お前も前から、彼らに会いたがっていただろう?」「行かないわ」私はためらいさえしなかった。数ヶ月前なら、彼の世界に入れてもらえるのがあんなに嬉しかったはずなのに。いつだって自分の領域を侵されることを嫌い、一人の時間が必要だと言って私を遠ざけていた彼が、私が離れていった今になって、突然その閉ざされた扉を開けようとしているから。彼は少し間を置いた。「最近、彩乃とばかりいるじゃないか。俺はお前の恋人だぞ。買い物に行きたいなら、映画でも、週末の旅行でも、俺が付き合ってやる」私は思わず吹き出しそうになった。まさにその言葉を言ってほしくて、私は何年もの間、彼にすがりついてきたというのに。いつだって「別の仕事」が入り、「急な出張」が入り、絶え間なく言い訳が用意されていた。そうして結局、行きたかったレストランは潰れ、観たかった舞台は千秋楽を迎え、一緒に行きたかった場所は一つ、また一つと私のリストから消えていった。だからもう、彼に何かをねだるのをやめたのだ。かさぶたになった古い傷口を、わざわざ自分で抉る必要なんてない。だから、彼にはきっぱりと現実を告げた。「私、もう引っ越したの。新京には戻らないわ」電話の向こうの沈黙は、しばらく続いた。「……は?いつ?凛、どうして一言も相談しなかったんだ?」「言うのを忘れてたの」彼は苛立ちを隠せないように深いため息をついた。「お前は一体、いつからそんなに冷たくなったんだ?」彼の声が次第に硬くなる。「昔は1日中メッセージを送ってきたじゃないか。写真を送ってきたり、その日あった些細な出来事を全部話してくれたり。それが今はどうだ?突然姿を消して、俺の連絡先をブロックして、新京を去るなんて。しかも、俺がそれを一番最後に知らされるなんて……」彼の声が微かに震えていた。「俺はお前の恋人だろう。こんな仕打ち、あんまりだと思わないのか?」私はふっと冷たく微
西都での新生活は、思い描いていたものとは程遠い滑り出しだった。入社手続きの書類はどこかへ紛失され、セキュリティパスも一向に発行されない。社内システムのアカウントを貰うだけで数日も待たされる始末。ようやくすべてが片付いた頃には、部署内で誰もやりたがらない厄介な案件が私のデスクに回されていた。無茶な納期に、どう考えても達成不可能なノルマ。その理由はすぐに察しがついた。このチームのトップは、建前上は創業者の御曹司ということになっている。若くて優秀だが、めったにオフィスに顔を出さない。そのため、実質的な決定権は現場を仕切るエリアディレクターが握っていた。そしてこの二人は、水と油のように反りが合わないのだ。どうやら私は、知らず知らずのうちに彼らの派閥争いの巻き添えを食っていたらしい。その日も、私が上げた稟議書は他部署で承認待ちのまま放置されていた。催促しても返信一つない。苛立ちを募らせた私は、メッセージアプリの一番上にピン留めされているトーク画面を開き、考えるより先に号泣しているスタンプを送りつけた。彩乃に思い切り愚痴をこぼすつもりだったのだ。だが、すぐに返ってきたメッセージを見て、私は息を呑んだ。【どうした?何かあったか】私は訝しげに眉を寄せた。彩乃がこんな堅苦しい話し方をするはずがない。画面に表示された名前を見た瞬間、心臓がヒュッと縮み上がった。誤送信だ。よりによって、新しい上司である白石玲央(しらいしれお)本部長に送ってしまったのだ。彼についての黒い噂は、入社してすぐに嫌というほど耳にしていた。映画スター顔負けの美貌の持ち主だが、その気の短さは導火線レベルだと。あるマネージャーが飲み会の席で、二人の女性と二股をかけていることを武勇伝のように語った時のことだ。玲央は彼を氷のような目で見下ろし、「女性を二人も騙していることが、そんなに誇らしいのか?」と言い放ったらしい。その場は水を打ったように静まり返ったという。また別の役員が「ありのままの自分を受け入れよう」などと長ったらしいスピーチを始めた時も、彼は容赦なく言葉を遮った。「まずは、まともな人間になる努力から始めたらどうだ」ほとんどの社員が彼に怯えているのも無理はない。私は絶望的な気分でスマホを握りしめた。今から送信取り消しを押しても、もう手遅れだ







