LOGIN真夜中が近づいていた。車はゆっくりと速度を落とし、大きな白い門の前で止まった。ロドリゲスは、その場所を見た瞬間に気づいた。二人が結婚した日の、あの門だった。彼はエンジンを切った。最後に一度だけエンジンが小さく咳き込むような音を立て、それから静かになった。誰もすぐには車から降りなかった。夜の静けさの中、虫の鳴き声だけが聞こえていた。後部座席では、レナがまだ眠っていた。エレナの肩に頭を預け、規則正しく呼吸している。その寝息は、他の者たちより少しだけ大きかった。ロドリゲスは屋敷を見つめた。月明かりに照らされたその家は、昔とは違って見えた。静かすぎる。綺麗すぎる。まるで何年も誰も住んでいなかったかのようだった。それでも、彼にはすべてが分かった。鎧戸。壁に沿って伸び続けているツタ。そして窓の向こうに見える大きな階段。胃の奥がきゅっと締めつけられた。最後にここへ来たとき、彼はまだ二十六歳だった。あの頃の彼は、結婚なんて、署名をしていくつかの義務を果たせば終わるものだと思っていた。「中で何が見つかるか分からない」クロードがそう呟きながら、銃を確認した。小さな金属音が、静まり返った夜の中ではやけに大きく響いた。ロドリゲスは黙ってうなずいた。そしてジュリアを見る。彼女はすでに屋敷を見つめていた。唇を固く結び、両手を膝の上に置いている。「ジュリア、ここに残ってくれ。こっちのほうが安全だ」彼女はゆっくりと彼へ顔を向けた。「嫌」「ジュリア……」「嫌よ、ロドリゲス」彼はため息をついた。「頼む」ジュリアは首を横に振った。「4年間ずっと、あなたは私にどこにいろ、いつ出ていけ、いつ黙っていろって言ってきたでしょう?」彼女はまっすぐ彼を見つめた。「だから今回は、私もあなたと一緒に行く」ロドリゲスが口を開こうとした。だが、その前にジュリアが続けた。「あなたたちが中で危険な目に遭っている間、私はこの車の中で待ってなんていられない」彼女は深く息を吸った。手は少し震えていた。それでも、それを悟られないようにしていた。「一緒に入る。それが嫌なら、私もここであなたと一緒に残る」ロドリゲスは数秒間、彼女を見つめた。言い合うこともできた。けれど、そんなことをしても意味がないと分かっていた。小さな笑みがこぼれた。「
車は、もう一時間近く走り続けていた。 車内には、誰の声もなかった。 聞こえるのは一定のリズムで響くエンジン音と、ときおりタイヤが道路を踏みしめる音だけだった。 後部座席では、ロドリゲスがジュリアとレナの間に座っていた。彼は小さな妹の手を、自分の手でそっと握っていた。 レナはぐっすり眠っていて、頭を彼の肩に預けている。 時々、ロドリゲスは視線を落として彼女を見つめた。 まだ、うまく現実として受け止められなかった。 この小さな女の子が、自分の妹。 血のつながった、妹なのだ。 これまでずっと、家族の一部を隠されていた。 自分自身の過去さえも。 ロドリゲスは、レナの指を握る手に少しだけ力を込めた。 まるで、彼女が本当にここにいるのだと確かめるように。 その隣では、ジュリアが窓の外を流れていく景色を眺めていた。 表情は硬く、視線は遠くに向けられている。 ロドリゲスは、そんな彼女の沈黙に気づいた。 「何を考えてる?」 ジュリアはすぐには答えなかった。 二人の手元に視線を落としてから、静かに息を吐く。 「私たちの結婚のこと」 ロドリゲスの体がわずかに強張った。 「どうして?」 ジュリアは彼のほうへ顔を向けた。 「もし、最初から誰かが私たちを監視していたのだとしたら……」 そこで言葉を止めた。 最後まで口にしていいのか迷っているようだった。 「その後に起きたことも、全部偶然じゃなかったのかもしれない」 ロドリゲスは黙っていた。 ジュリアの言葉が、頭の中を何度も駆け巡る。 彼女はさらに声を落とした。 「私たちが出会ったことさえも」 ロドリゲスは彼女の手を取った。 それは簡単な仕草だった。 けれど、不思議と安心できる温かさがあった。 「俺たちがどうやって出会ったのかなんて、もう関係ない」 ジュリアは彼を見つめた。 「私にとっては、大事なことよ」 「分かってる」 ロドリゲスは彼女の指に自分の指を絡めた。 そして、落ち着いた声で続けた。 「でも、誰にも俺たちの代わりに決められないものが一つある」 「何?」 ロドリゲスはまっすぐ彼女の目を見た。 「俺が君に抱いている気持ちだ」 ジュリアは何も言わなかった。 けれど、その言葉を聞いた瞬間、胸がきゅっと締めつけられた。 ロドリゲスは続けた。 「確かに
誰も動かなかった。数秒間、全員がその場に凍りついたように立ち尽くしていた。車のヘッドライトに照らされた道路の真ん中で、小さな女の子がじっと立っていた。十歳くらいだろう。髪は二つのおさげにきれいに結ばれていて、胸元には古い写真を大切そうに抱えていた。写真の端は擦り切れている。ロドリゲスはゆっくりとエレナへ顔を向けた。母親の顔は真っ青だった。何も言わない。一言も。ただ、その子を見つめていた。まるで目の前に幽霊が現れたかのように、大きく目を見開いている。— 母さん?ロドリゲスの声にも、エレナはほとんど反応しなかった。エレナは黙ったままだった。やがてガブリエルが数歩前へ進んだ。彼の視線が少女とエレナの間を行き来する。— そんな……ありえない。少女は胸に抱いていた写真へ目を落とした。— お母さんが言ってた。いつか、あなたたちが私を見つけるって。ロドリゲスは胸を激しく叩かれるような感覚に襲われた。もう何が何だか分からなかった。彼も少女へ近づいた。— 君のお母さんは誰だ?少女はゆっくりと顔を上げた。そして、その目がエレナを捉える。— エレナ。その瞬間、先ほどよりも重い沈黙が落ちた。ジュリアはロドリゲスを見つめた。彼の顔には、はっきりと混乱が浮かんでいる。ロドリゲスはエレナへ向き直った。— この子は、あなたの娘なのか?エレナはゆっくりと首を横に振った。— 違う。少女が眉をひそめる。— 私は、お母さんの娘だよ。エレナは口元を手で覆った。目には瞬く間に涙が溢れた。彼女は何かに引き寄せられるように、少女へ数歩近づいた。— あなた……声が震えた。エレナは震える手を伸ばし、少女の頬にそっと触れた。まるで、本当にそこにいるのか確かめるように。— 生きていたのね。少女の唇に、小さな笑みが浮かんだ。— お母さんが来てくれるって、分かってた。エレナはもう涙をこらえられなかった。少女を強く抱きしめる。そして、声を上げて泣き始めた。ただの涙ではなかった。二十五年間、心の奥に閉じ込めていた痛みを、すべて一気に吐き出しているようだった。ロドリゲスは、その光景を前に動けなかった。自分が何も知らなかった物語の一部を、目の前で見せられているような気がした。しばらくして、ようやく口を開く。— 母さん……この子
背後でドアが大きな音を立てて閉まった。ジュリアは激しく身を震わせた。心臓が一瞬止まったように感じる。ロドリゲスはすぐに彼女を自分のほうへ引き寄せ、本能的に腕を彼女の腰へ回した。— 動くな。彼の声は、ほとんど囁きに近かった。それでも、その口調には逆らう余地がなかった。クロードがランプを持ち上げ、廊下を素早く照らした。何もない。人影もない。動くものもない。ただ、光さえ飲み込んでしまいそうな長い暗闇だけが続いていた。— 誰だ? そこにいるのか!クロードの声が壁に反響する。返事はなかった。その直後、廊下のどこかから、くぐもった笑い声が聞こえてきた。エレナの顔から血の気が引いた。指が強くこわばる。— この声……ガブリエルが彼女を振り返った。— 知っているのか?エレナはすぐには答えなかった。彼女は瞬きさえせず、廊下を見つめていた。まるで、二度と会いたくなかった人物の顔を思い出したかのように。— エレナ?彼女の唇が震えた。— あの人よ。ロドリゲスが眉をひそめる。— 誰だ?エレナは苦しそうに唾を飲み込んだ。— 私を監禁していた男。そのとき、廊下に足音が響いた。一歩。そして、もう一歩。ゆっくりと。一定の間隔で。誰かがこちらへ近づいてきていた。クロードはすぐに銃を構えた。— 姿を見せろ!足音は止まらなかった。やがて、廊下の奥に人影が現れた。ロドリゲスの身体が強張った。息が止まる。この男を知っている。いや……そんなはずはない。ここにいる全員が知っている人物だった。アンリ。彼の父親。数秒間、ロドリゲスは言葉を失った。ジュリアが口元を手で覆う。— でも……エレナが一歩後ずさった。— そんな……男は彼らから数メートル離れたところで足を止めた。ロドリゲスの記憶にある姿よりも、顔には深い疲れが刻まれていた。顔立ちは歳を重ね、髪も以前とは違っている。それでも、その目だけは……見間違えるはずがなかった。間違いなくアンリだった。ロドリゲスは喉が締めつけられるような感覚を覚えた。— お前は死んだはずだ。アンリの唇に、悲しげな笑みが浮かんだ。— みんなには、そう思っていてもらう必要があった。ロドリゲスは彼に向かって一歩踏み出した。驚きは、すでに怒りへと変わり始めていた。— 知っ
ロドリゲスは、携帯電話を耳に当てたまま、数秒間その場に立ち尽くしていた。けれど、通話はすでに切れていた。「ロドリゲス?」ジュリアの声が、彼を現実へと引き戻した。ロドリゲスはゆっくりと携帯電話を顔から離した。「彼は、僕に選択を迫っている」エレナがすぐに彼の前へ歩み寄った。「ジュリアと私のどちらかを?」彼はうなずいた。「二人のうち、一人なら助けられると言った」ジュリアの腹部がぎゅっと締めつけられた。「ダメよ」ロドリゲスが彼女を振り返る。「何?」「どちらかを選んではダメ」ジュリアは大きく息を吸い、激しく鳴る心臓を落ち着かせようとした。「それこそ、あいつの狙いよ。私たちを動揺させたいの。パニックにさせて、判断を誤らせようとしている」クロードも同意するようにうなずいた。「ジュリアの言う通りだ」彼はテーブルに両手をつき、そこにいる全員を見渡した。「もし何年も俺たちを監視していたのなら、突然、正直な選択肢を与えてくれると思うか? 違う。罠を仕掛けているんだ」ガブリエルも近づいてきた。「そして今、なぜそんなことをするのか分かった」彼はテーブルの上に散らばった資料を指差した。「あいつは、二十五年前に本当は何が起きたのか、俺たちに知られることを恐れている」ロドリゲスの顎が強く引き締まった。「だったら、真実を突き止める」エレナがそっと彼の腕に手を置いた。「ロドリゲス……」彼は首を横に振った。「いや、母さん」そして、まっすぐに母親の目を見つめた。「僕はずっと、母さんが死んだと思って生きてきた。もう一度、母さんを失うなんて耐えられない」それから彼の視線がジュリアへ移った。ジュリアは何も言わず、彼を見つめていた。ロドリゲスは彼女に近づいた。「君も、絶対に見捨てない」ジュリアは小さく首を振った。「あなた一人で私たち二人を守ることなんてできないわ」「もう一人じゃない」彼はクロード、ガブリエル、エイドリアン、そしてエレナを順番に見た。「僕たちは一緒だ」エイドリアンの口元に、わずかな笑みが浮かんだ。「お前がそんなふうに言うのは初めてだな。いつもなら、俺を敵みたいな目で見るくせに」ロドリゲスが彼を見た。「お前が聞かされてきたことすべての責任が、お前にあるわけじゃないと分かったからだ」エイドリアンは視線を落とした
ロドリゲスの携帯電話には、まだあのメッセージが表示されたままだった。「それなら、ジュリアに聞けばいい。お前と結婚する前に、彼女が何を知っていたのかをな」その場にいた誰も、何も言わなかった。ジュリアはまっすぐロドリゲスを見つめていた。彼女には、彼のその表情が分かっていた。怒っているわけではない。まだ、怒りではない。ただ、心の中に疑いが生まれ始めた瞬間だった。そして不思議なことに、その疑いは責められることよりもずっと痛かった。ジュリアは苦しそうに唾を飲み込み、かすかな声で尋ねた。— 本当に、私があなたに嘘をついたと思っているの?ロドリゲスは彼女を見上げた。表情は固く閉ざされていたが、その目には動揺がはっきりと浮かんでいた。— もう、何を信じればいいのか分からない。ジュリアは胸を強く殴られたような気がした。彼女はゆっくりと後ろへ下がった。— 私だって、何も知らなかった。— ジュリア……— いいえ。彼女は首を横に振り、頬を伝い落ちた涙を急いで拭った。— あなたは今、私たちの家族が何年も前から、いろんなことを隠していたと知った。お母さんが生きていたことも、兄弟がいたことも知った。そして今度は、私たちの結婚まで、あなたが知らなかった何かの取り決めと関係していたかもしれないと分かった。声が震えた。— それなのに……私まで知っていたと思うの?ロドリゲスは答えなかった。本当は、すぐに「違う」と言いたかった。彼女を信じていると伝えたかった。だが、この数時間の間に明らかになった事実は、彼がこれまで信じていたものをすべて揺るがしていた。恐怖と混乱が、喉を締めつけていた。そのとき、マリー・ローズが口を開いた。— まさに、このメッセージはそれを狙っているのよ。あなたたちの間に疑いを生ませようとしている。ジュリアは彼女へ振り向いた。— だったら、どうして私の名前を使ったの?マリー・ローズは、テーブルの上に置かれた金属製の箱へ視線を向けた。— 誰かが、あなたたちを引き離そうとしているからよ。ロドリゲスは拳を強く握りしめた。その言葉が胸の奥に響いた。彼はジュリアを見る。彼女は、もう十分すぎるほど自分のせいで苦しんできた。四年間もの長い間、彼は彼女を遠ざけ続けた。自分の人生に彼女など必要ないかのように扱い、彼から本当に愛さ







