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第3話

Author: 柚木 苦実(ゆずき にがみ)
「明日、黒江家に話すわ。あんたの代わりに美夜を嫁がせるって伝えておく」

母の声は、深く落胆した響きを帯びていた。「どうしてあなた、こんなふうになっちゃったの?小さい頃は素直でかわいかったのに……もう、DNA鑑定を間違えたんじゃないかって思うわ。美夜のほうが、よっぽど私の本当の娘みたいよ」

心が胸がきゅっと締めつけられ、私は唇を噛みしめて、涙を必死にこらえた。

父は声を低くして言った。「お前は何度も責任を逃れようとして、妹がいじめてくるなんて言い張るが、家に戻ってきてからはお前が喧嘩をふっかけてばかりだ」

その言葉が引き金となり、彼らは私が美夜にしてきたという「数々の悪行」を並べ立て始めた。

けれど、話が進むたびに、私の心はズタズタになっていく。

私は、八歳のときに突然行方不明になり、半年前にようやく見つかった。

私が帰ってきたあの日、あの人たちは確かに目を輝かせて迎えてくれた。美夜も手を伸ばして、にこやかに私の手を取ろうとしてきた。

私はその瞬間、悲鳴を上げて彼女を振り払い、道端の側溝へ突き飛ばしてしまった。

そのときからだ。彼らの目に映る私は、変わってしまった。

私はその場に呆然と立ち尽くし、手のひらの傷をじっと見つめていた。美夜が私の手を取ったとき、彼女の手には針が隠されていたのだ。

あとから必死に説明しようとしても、母はただ曖昧に笑って取り合おうとしなかった。

この十数年の間に、彼らはすでに強い絆で結ばれた家族になっていた。そんな中で突然戻ってきた私は、まるで異物のように溶け込めなかった。

彼らに気に入られたくて、私は使用人のように家事をこなし、田舎で身につけた料理の腕を振るって毎日ご飯を作った。

でも、美夜はひと口食べた途端に嘔吐と下痢を繰り返し、それ以来ずっと「心臓の調子が悪い」と言い出した。

私は彼女の薬を取りに行ったとき、瓶の中がビタミンCだったことに気づいた。

それを両親に話したら、返ってきたのは冷たい叱責だった。

「美夜から全部聞いてる。あんたが薬をすり替えて、さらに悪者ぶってるって」

そのとき、私は心の底から絶望した。

子どものころからの幼なじみ――奏真が、花束を手に私を出迎えてくれた。

ひとりで泣いていた私に、彼はとても優しく声をかけてくれた。

その優しさに希望を見出した私は、彼の好みを調べて、こっそりプレゼントをオフィスに届け続けた。

けれど、ある日私は見てしまった。奏真が美夜を腕に抱いて、親しげにじゃれ合っている姿を。

彼は彼女に誓っていた。「たとえ彼女が戻ってきても、君の立場は揺るがないよ」

美夜は、私が一生懸命作ったお弁当を手にして言った。「うちの家政婦さんが作ったの。食べてみて?」

二人はその場で、私の作った料理を仲良く食べさせ合っていた。

そんな光景は何度も繰り返され、家族も彼も、次第に私への態度を冷たくしていった。

そして今――母がまた、あの言葉を口にする。

「あなたが戻ってきてから、美夜はずっと我慢してきたのよ。部屋も服も婚約者も、全部あなたに譲ったの。あなた、まだ足りないの?」

最初から、私はただ自分のものを取り戻したかっただけなのに。

胸がぎゅっと締め付けられ、口の中に血の味が広がる。我慢できずに口を開いた。

「これらはもともと私のものよ。あなたたちは私の両親でしょう!」

そう訴える私に、両親は冷たく言い放った。「ようやく本音を言ったわね。あんたは最初から美夜のことが気に食わなかったんでしょ?妹って呼んでおきながら、心では全然そう思ってなかった。

私たちはもう美夜を家族として迎えたの。あんたがどれだけ嫉妬しようと、あの子は私たちの大切な娘よ!」

言い返す言葉を失い、私は口を開けたまま、静かに黙り込んだ。

「だったら……いっそ帰ってこなければよかったのに」

その一言で、私の心は完全に砕け散った。

美夜をあやしていた奏真が、私の前に歩み寄ってきた。

彼は見下ろすように私を見つめたまま、彼らが先ほど話し合って決めたことを一方的に伝えてきた。

たとえ婚約を破棄してでも、美夜と奏真を一緒にさせる。

もともとこの縁談は、祖母同士が勝手に決めたものにすぎないのだから。
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