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第8話

Author: 匿名
ベッドで静かに眠る若葉の寝顔を見て、祐介はさっきまでの強い不安からやっと我に返った。

若葉が喘息持ちだということをすっかり忘れていた。

幸い、リュックの中から喘息の薬が見つかった。もし、若葉に本当に何かあったら……そう思うと、背筋に冷たい汗が流れた。

冷静になった祐介は、さっき壊してしまった形見の品を思い出し、少し罪悪感を覚えた。

だから、若葉が目を覚ますと、祐介は真っ先に自分の仕事場を見に来ないかと誘った。

「この間は、君のものを壊してしまって……悪かった。

ヒスイは、俺が弁償する」

「もういいの」

若葉は自嘲するような笑みを浮かべ、何も言わなかった。

「前は、俺の撮影現場にずっとついて来たいって言ってたじゃないか?」

祐介は優しく言った。「今回は、一緒に連れて行ってやるよ」

若葉はうつむいたままで、祐介が想像していたような、飛び上がって喜ぶような反応はなかった。

しばらくして、祐介がもう断られるだろうと思ったその時、若葉が口を開いた。

「うん」

祐介は少し不思議に思ったが、深くは考えなかった。

数日後、祐介は若葉を撮影現場へと連れて行った。しかし、そこに着くやいなや、若葉はカメラを背負って出発の準備をしている愛奈の姿を目にした。

愛奈も若葉に気づき、複雑な表情で言った。

「なんで若葉を連れてきたの?」

「見たいって言うから、連れてきたんだ」

今日の撮影内容は、ハイエナがエゾシカを狩る瞬間だ。一行は車のそばに身を隠し、機材を調整しながらその時を待っていた。

愛奈は度胸があって、カメラを担いで前へ出ようとしたが、祐介にぐいっと腕を掴まれた。

「だめだ。先生から、君の安全には気をつけるように言われているんだ」

「祐介、あなたに指図される筋合いはないわ。

自分の可愛い婚約者さんのお守りでもしてなさいよ。私が撮影するのに、あなたに関係ないでしょ?」

祐介はどうすることもできず、根気よく愛奈をなだめるしかなかった。

若葉は二人のいざこざには関心なく、ただ目の前に広がる大平原をぼんやりと眺めていた。

どおりで、もっと外に出て自然を見たほうがいいなんて、「あの人」が言っていたわけだ。

そんなことを考えていると、不意に手がカメラの三脚に当たってしまった。レンズが少しずれ、すぐに祐介の氷のように冷たい叱責が飛んできた。

「俺の仕事道具に勝手に触るなと、言わなかったか?」

祐介は若葉のもとに歩み寄ると、乱暴に突き飛ばした。若葉はよろけて地面に倒れ込み、手のひらをざらざらした砂で擦りむいて血が滲んだ。

若葉はぐっと唇を噛みしめた。胸は苦しいが、前のような鋭い痛みはもう感じなかった。

「きゃっ!」

声のした方へ皆が目をやると、愛奈がカメラの前で呆然と立ち尽くしていた。

「祐介、ごめん……あなたが前に編集してくれた素材のマスターデータを、間違えて全部消しちゃった……

怒らない……よね?」

周りの皆は息をのんだ。誰もが、祐介が仕事を命のように大切にしていることを知っている。こんなに重大なミスを犯したら、誰だってこっぴどく怒鳴られるはずだ。

しかし祐介は愛奈の前に立つと、軽くその鼻を指で弾いただけだった。

「怒るわけないだろ。データが消えたなら、また編集し直せばいいだけだ。

おっちょこちょいだな。次からは気をつけろよ」

若葉は、自分の擦りむけた手のひらを見つめた。さっきは痛くなかったはずの傷が、今はひどくズキズキと痛んだ。

何日も待ち続けたが、祐介が狙っていた映像はまだ撮れていなかった。そんな中、リュックに入れてきた喘息の薬がなくなりそうになったので、若葉は祐介に、先に帰らせてもらえないかと頼んだ。

すると、祐介は眉をひそめて言った。

「来たいと言ったのも君だし、帰りたいと言い出したのも君だ。

最初から連れてくるんじゃなかった」

「まあまあ、女の子がわがまま言うのは普通でしょ?ねえ、若葉?」

「ふん、あんな女、甘やかすつもりはない」

若葉は悔しかった。でも、心の中の失望はとっくに限界を超えていたから、もう祐介の言葉で傷つくことはなかった。

「今すぐ帰るわ」

祐介が何か言いかけたその時、ファインダーの中に、何日も待ち続けた獲物の姿が突然現れた。

ハイエナの群れが、逃げ惑う一頭のエゾシカを追い詰めていた。

祐介は大喜びした。カメラを担いでゆっくりと近づこうとしたが、愛奈はとっくに彼を追い越し、もっと良い撮影ポジションを探しに行っていた。

「祐介、今回こそあなたより良い映像を撮ってやるんだから!」

愛奈がほくそ笑んでいたその時、一頭のハイエナが彼女の匂いを嗅ぎつけた。

次の瞬間、ハイエナは愛奈めがけて一直線に突進してきた。
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