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第2話

Author: ヴェスパー・ショウ
土曜日、私たちは実家の集まりへと向かった。

ダイニングに足を踏み入れた瞬間、真っ先に目に入ったのは、母が奈穂美に駆け寄る姿だった。

「まあ、奈穂美!私の自慢の娘」

母は奈穂美の頬を両手で包み、愛おしそうに何度も撫でる。傍らでは父が、目を細めてそれを見守っていた。

私は戸口に立ち尽くしたまま、和真の手を背中に感じながら、誰かが私の到着に気づくのを待った。けれど両親の視線が、こちらへ向けられることはなかった。和真が、小さく咳払いをした。

「和真、愛奈」

ようやく父が、気のない調子で声をかけてきた。

「来たのか」

夕食の時間になり、皆が席についた。並ぶ料理は、どれも奈穂美の好物ばかり。トリュフのリゾット、帆立のソテー、繊細なアスパラガスのタルト、そしてチョコレートスフレ。

私はテーブルを見渡し、自分の好きなものをひとつでも探そうとしたが、何ひとつ見つからなかった。

前菜が下げられるより早く、母が話を切り出した。

「早く伝えたくてたまらなかったの。奈穂美のジュエリーコレクションがガレリア賞を受賞したのよ。信じられる?もう、誇らしいわ」

奈穂美は殊勝な顔で俯いてみせた。

「お母さん、恥ずかしいからやめて」

「何言ってるの。これは快挙よ」

父がグラスを奈穂美に向けて掲げた。その瞳には、私がどれだけ努力しても手に入れられなかった光が滲んでいた。

「我が娘に。受賞デザイナーに乾杯」

母の視線が、ようやく私に向いた。

「それであなたは?まだあのちっぽけなアトリエで、細々とやってるの?」

「あれはちっぽけなものなんかじゃない」私は静かに言った。「私の事業よ」

「2年も利益が出ていない事業でしょう」

母は手を払うように振った。

「奈穂美にはちゃんとしたクライアントがいる。ちゃんとした賞もね。少しはお姉さんに教わったら?」

私が言葉を返す前に、和真が静かに、けれどはっきりとフォークを置いた。

「愛奈の仕事には、市場のほうがまだ追いついていないほどの独創性があります。彼女のデザインには、確かなビジョンがある。あれほどの才能が、いつまでも埋もれたままでいるはずはありません」

父は鼻で笑うと、スマホを取り出した。

「ビジョンといえば、奈穂美の受賞作、見たか?見せてやろう」

写真をスワイプし、画面を和真へ突きつける。

「見てくれ。素晴らしいだろう」

私も何気なく目をやり、心臓が跳ねた。

画面に映っていたのは、一対の指輪。3か月前、私が和真に贈ろうと描いたデザインだった。

指先の感覚が消えていく。あのスケッチは、一度もアトリエの外に出したことがない。

誰にも見せたことのないデザインだった。

「見事だな」

和真がそう言った瞬間、殴られたかのように体が竦んだ。

「おめでとう、奈穂美」

「ありがとう、和真」

奈穂美の声は、甘く弾んでいた。

私は口を開いた。言葉が喉元まで上がってくる。

――それ、私のデザインよ。どうやって手に入れたの。

次の瞬間、奈穂美が椅子から立ち上がった。

手に持ったグラスをそっと置くと、澄んだ音が響き、全員の視線が集まった。

「みんなに報告があるの」

頬を紅潮させ、彼女は言った。

「素敵な報告よ」

母が胸の前で両手を組んだ。

「あら、何?教えてちょうだい」

奈穂美の視線が、私を捉えた。ゆっくりと、意図的に。そして唇を緩めると、彼女は言った。

「私、妊娠したの」

ダイニングが沸き立った。母は椅子から崩れるように立ち上がり、震える腕で奈穂美を抱きしめた。父は声を上げて笑った。

「お相手は誰なの?」母が問い詰める。「私たちの知ってる人?」

奈穂美はお腹を庇うように手を添えた。

「お相手のことは……ちょっと複雑なの。この子は、私ひとりで育てるつもり」

その言葉を口にしている間も、彼女の視線は私から離れなかった。

母の表情が一瞬揺らいだものの、すぐに笑顔を取り戻す。

「それがあなたの望みなら、私たちは全力で支えるわ。この子は、たっぷり愛されて育つはずよ」

その先は、耳に入らなかった。激しい耳鳴りが響き、祝福の言葉も歓声も、すべてを呑み込んでいく。指から力が抜け、ワイングラスが手から滑り落ちた。

グラスは皿の縁に当たって砕け散った。白いテーブルクロスの上に、破片が飛び散る。

全員の視線が、一斉に私へと向いた。

「愛奈!」

母の声が苛立ちに尖る。

「もう少し気をつけられないの?せっかくの雰囲気を台無しにして」

私は手を伸ばし、破片を掌に集め始めた。

鋭い痛みが、霞んだ意識を切り裂く。見下ろすと、人差し指に一筋の赤い線が滲んでいた。血が玉のように膨らみ、破片の上へと滴り落ちる。

「愛奈、やめろ」

和真は一瞬で私の傍らに来ていた。両手が私の手首を掴む。

「離すんだ。家政婦に任せればいい。血が出てる」

彼は胸ポケットからハンカチを抜き取り、私の指にしっかりと押し当てた。

「割れたガラスには絶対に触るな。二度とするな。わかったか」

まもなく家政婦がちり取りと濡れ布巾を手に現れ、割れたガラスは片付けられていった。

「……ごめんなさい」私は消え入りそうな声で言った。「少しお手洗いに」

客用の洗面所は静まり返っていた。私はハンカチを外し、傷ついた指を冷たい水にさらした。

外に出ると、奈穂美が待っていた。

壁に寄りかかり、腕を組んだその姿は、まるで勝利を誇示するかのようだった。

「おめでとう」私は平坦な声で言った。「さぞ嬉しいでしょうね」

「ええ」

奈穂美は首を傾げ、私を観察するように見つめた。幼い頃、私のお気に入りの人形を奪った時と同じ目だった。

「顔色が悪いわよ、愛奈。具合でも悪いの?」

「あの指輪」

抑えきれず、私の言葉が零れ落ちた。

「あれ、私のデザインよ。どうやって手に入れたの?」

奈穂美は微笑んだ。

「何のことかしら。あれは私自身のデザインよ。特別な人が、着想をくれたの。あの作品の線の一本一本が、彼のものなの」

足元が崩れるような感覚に襲われた。彼女は告げていたのだ。私が魂を注いだあのデザインを和真が渡し、自分はそれを自らの手柄として世に出した、と。

私の胸が張り裂けそうだった。

奈穂美は、私が物心つく前から、両親の愛情を独り占めしていた。高校時代に家へ連れてきた彼氏はみんな、1か月もしないうちに奈穂美へ電話をかけるようになった。

そして今、誰にも見せたことのないデザインを奪い、私が結婚した男までも奪った。彼女は、私から何もかもを奪い取っていった。

「あなたはいつも、私の持っているものが欲しかったのね」私は呟いた。「満たされたことなんて、一度もないの?」

奈穂美は壁から体を離し、私の横を通り過ぎていった。

「ないわ。一度も」

そのまま、彼女は姿を消した。私は廊下に立ち尽くし、和真のハンカチを巻き直した手の疼きを覚えながら、自分の中に残っていた最後の希望の灯が、静かに消えていくのを感じていた。

私は食卓に戻らなかった。玄関を見つけ、外の冷たい夜気の中へと足を踏み出す。数分後、和真が追ってきた。

「具合が悪いと伝えておいた」

彼は私を車へと導きながら言った。

「帰ろう」

長い間、私たちは無言のまま車を走らせた。私は額を冷たい窓ガラスに押し付け、呼吸を整えようとした。

和真の声が、沈黙を破った。

「愛奈。辛かっただろう。お前の両親は……いつもああだ。それに、奈穂美のあの報告。あんな場に付き合わせて、悪かった」

私は彼の横顔を見つめた。力強い顎の輪郭。あまりにも誠実そうに聞こえる。それなのに実際には、私を裏切っているのだ。

「大丈夫」私は嘘をついた。「ちょっと色々あって疲れただけ」

彼はしばらく黙っていた。それから手を伸ばし、私の指に自分の指を絡めた。

「いい考えがある。少しここを離れよう。ふたりきりで」

「離れるって、どこに?」

私は眉をひそめた。

「祖父が残してくれた小さな島があるんだ。海沿いに家がある。そこから見る朝日は、俺がこれまで見た中で一番美しい」

彼は手を握りしめた。

「ふたりで朝日を見ながら、しばらく他の連中のことは全部忘れよう。どうだ?」

断りたかった。けれど心のどこかで、愚かしいほど頑なな部分が、彼ともう一度、朝日を見たいと願っていた。

「うん」私は言った。「朝日、見に行こう」

あともう一度だけ。それが最後の朝日になる。

そうしたら、私は彼の世界から、永遠に消える。

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