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第805話

Author: シガちゃん
「どうして私が、そんな話に乗ると思います?」

倫也は口元にわずかな笑みを浮かべた。「西村さんが海外に『彼女』がいること、ご家族はまだ知らないんですよね?」

その瞬間、愛莉の表情が変わった。鋭い視線が倫也を射抜く。「……私のことを調べたんですか?」

「結婚を前提に紹介された相手ですから。たくさん知りたいのは当然でしょう」

淡々と返され、愛莉はグラスを握る手に力を込めた。

倫也はそんな彼女を気にする様子もなく、静かな口調で続ける。「あなたの私生活や恋愛事情に興味があるわけではありません。ただ、ご家族がその事実を受け入れられるかは別問題です。私と協力することは、今のあなたにとって一番現実的な選択だと思います。

私はあなたの協力が必要。そしてあなたにとっても、私と組めば、少なくとも当面は家族から別の縁談を持ち込まれることはないはずです」

反論する余地はなかった。

その条件は、愛莉にとって決して悪いものではない。

彼女の秘密は、家族にだけ隠していればいいものではない。父が重要な役職に就いたばかりの今、もし自分のことが公になれば、父の立場にも影響が及ぶ可能性がある。

しばらく考
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    「どうして私が、そんな話に乗ると思います?」倫也は口元にわずかな笑みを浮かべた。「西村さんが海外に『彼女』がいること、ご家族はまだ知らないんですよね?」その瞬間、愛莉の表情が変わった。鋭い視線が倫也を射抜く。「……私のことを調べたんですか?」「結婚を前提に紹介された相手ですから。たくさん知りたいのは当然でしょう」淡々と返され、愛莉はグラスを握る手に力を込めた。倫也はそんな彼女を気にする様子もなく、静かな口調で続ける。「あなたの私生活や恋愛事情に興味があるわけではありません。ただ、ご家族がその事実を受け入れられるかは別問題です。私と協力することは、今のあなたにとって一番現実的な選択だと思います。私はあなたの協力が必要。そしてあなたにとっても、私と組めば、少なくとも当面は家族から別の縁談を持ち込まれることはないはずです」反論する余地はなかった。その条件は、愛莉にとって決して悪いものではない。彼女の秘密は、家族にだけ隠していればいいものではない。父が重要な役職に就いたばかりの今、もし自分のことが公になれば、父の立場にも影響が及ぶ可能性がある。しばらく考えた末、愛莉は倫也との協力を受け入れた。……紬がレストランへ駆けつけた時には、2人はすでに食事を終え、店を出ようとしていた。その姿をいち早く見つけたのは倫也だった。彼は足を止めると、隣にいた愛莉を自分の前へ引き寄せる。突然のことに、愛莉は反射的に抵抗しようとした。しかし、倫也は彼女の肩を軽く押さえる。「動かないでください」「……何?」愛莉は一瞬戸惑った。だが、倫也が意味もなくそんなことをする人間ではないことは分かっている。まさか――誰かに見られている?「しばらくの間、私に合わせてください」「……分かりました」愛莉はそれ以上何も言わず、倫也の動きに合わせた。2人の距離は近い。けれど、そこに恋人同士の甘い空気など微塵もなかった。しかし――紬には、その光景がまったく違って見えた。彼女の目に映った倫也の表情は、いつもの冷静なものとは違っていた。あの女性を見る目が、自分に向けられた時よりもずっと柔らかく見えた。胸の奥が、鋭く痛む。紬は無意識に、身体の横で手を強く握り締めた。……そんなはずはない。きっと、何か理由がある。倫也があの

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