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第176話

Auteur: 月下
文月にとって、プレジデンシャルスイートに泊まるのは初めての経験だった。

博之は、文月の疑うような視線を受け止め、肩をすくめてみせた。

「プレジデンシャルスイートといっても、キングサイズのベッドが一つの部屋と、ツインの部屋があるんだ。予約が遅かったせいで、もうこの部屋しか空いていなくてね。

本来なら僕がソファで寝るつもりだったんだが、よく考えてみてくれ。僕は社長だぞ?なんで社長がソファで寝なきゃならないんだ?」

文月は唇を噛んだ。「じゃあ、私がソファで寝る!」

彼女は勢いよく立ち上がったが、足の裏が濡れていたせいで、ツルッと滑ってしまった。

「あっ!」

博之が咄嗟に手を伸ばし、彼女を抱き留める。文月の柔らかな体が、男性の逞しい胸板に押し付けられた。

「どうしてそんなにそそっかしいんだ。転んだらどうするんだ?」

その声は、どこまでも優しかった。

文月は鼻をすすり、耳まで真っ赤になった。恥ずかしさのあまり、博之の胸に顔を埋めるしかなかった。

博之は彼女の背中を優しく叩いた。「大丈夫だよ。君のためなら、社長がソファで寝ても構わないさ」

その時、博之はふとテーブルの上のスマホに目をやった。

通話はまだ繋がったままだ。

画面には「深津蒼介」の文字が表示されている。

博之の口元に悪戯っぽい笑みが浮かぶ。彼は文月をなだめるような口調ながら、わざと声を張り上げた。

「もちろん、一つのベッドで寝るのもやぶさかではないよ」

文月は彼を睨みつけた。

「ソファで寝て」

「ソファは小さすぎるよ、文月。それに、僕たちが同じベッドで寝るのは初めてじゃないだろう?」

文月は低い声で拒絶した。「駄目」

博之はそこで通話を切ると、体を離した。「着替えを探してくるよ」

彼はスーツケースから黒いスウェットパンツとTシャツを取り出し、文月に渡した。そして、自分はソファの方へと歩いて行った。

着替えを終えた文月は、ソファに横たわる博之を見た。確かにソファは小さく、彼のような大柄な男性が寝るには窮屈そうで、見ていて気の毒になった。

だが、同じベッドで寝るとなると……文月は唇を噛んだ。

これでは、彼女の羞恥心をわざわざ焚きつけているようなものではないか。

記憶にある過去の二回は、どちらも酔っ払っていた時だ。

何もなかったとはいえ、文月にしてみれば、あれは全部事故
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