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心臓奪う気?クズ男を捨て、最強の盲目夫を選ぶ
心臓奪う気?クズ男を捨て、最強の盲目夫を選ぶ
Author: 南波

第1話

Author: 南波
月城凛音(つきしろ りんね)が結城善紀(ゆうき よしのり)と付き合って3年、一度も肌を重ねたことはなかった。

凛音は友人と集まった際、話題の流れで善紀に冗談めいたメッセージを送った。

【善紀さん、凛音ちゃんみたいな美女が隣にいるのに放っておくなんて損じゃない?俺に譲ってくれない?彼女が纏ってる雰囲気も匂いも、正直ド真ん中でさ】

それからすぐに、善紀からの着信があった。

「凛音、今どこにいるんだ?

最近、君の足のために海外の専門家とやり取りをしていて、なかなか構えなかった。場所を送れ。迎えに行く」

電話の向こうから、宥めるような声が聞こえた。

凛音は口角を上げると、向かい側にいる二人の友人に勝ち誇ったように言った。「今は梨花と一緒にいるから大丈夫。後で自分で帰るわ」

通話を終えて、凛音は言った。「ほら、何か言い残すことはある?」

「話を聞く限り、問題はなさそうだけど……」

村上梨花(むらかみ りか)は腕を組んで首をかしげた。「でも解せないわね。普通の男が3年も凛音を放っておくなんてありえる?」

梨花は隣にいた碓氷拓也(うすい たくや)を突いた。「拓也なら、3年も我慢できる?」

拓也は何か考え込んでいたが、ふと我に返ったように言った。「そんなの、我慢できるわけないだろ!」

「でしょ?」

梨花は断言した。「善紀さんはどこかおかしいわ」

善紀に問題があるかはさておき、3年間、この男が全身全霊で自分を愛してくれていることだけは、凛音には痛いほど分かっていた。

3年前の事故で、凛音は足を失いかけた。事実を受け入れられず自暴自棄になっていた時、ずっと傍で支えてくれたのが善紀だった。

たとえ凛音が精神的に追い詰められ、「出て行け!」と叫びながら彼を追い返しても、善紀はただドアの外で深呼吸を一つ挟むだけで、すぐにまた、「ただいま。戻ってきたぞ」と笑顔で入ってきた。

善紀は自分にとっての主治医であり、何よりもかけがえのない存在だった。

そのことを思い出すと、凛音が無性に会いたくなった。

「今日はここでお開きね。帰らなきゃ」

凛音はカバンを手に取って立ち上がった。黒いキャミソールワンピに包まれたボディラインは美しいが、左足だけがうまく力が入らず、歩き方でそれと知れた。

帰宅の途中で、凛音は花束を買った。

今日の彼の態度は百点満点だったし、何かご褒美をあげなくちゃねと、彼女は心の中で思った。

凛音は足音を立てずにドアに近づき、善紀を驚かせたかったからだ。

その時、ドアの中から途切れ途切れに話し声が漏れ聞こえてきた。

凛音は足が止まった。

来客?

「ただ、どうしても腑に落ちないのです。愛しているのは結衣だと言いながら、なぜ彼女に想いを告げもせず、凛音の周りをうろついて時間を無駄にしているのですか?」

室内では、凛音の父親・月城宗厳(つきしろ むねよし)が気まずそうに善紀を見ていた。

「気に障ったらすみません。ただ気になったもので……」

善紀はティーカップを指でなぞりながら、落ち着いた声で返した。

「ご存知の通り、結衣はずっと母親と貧しい暮らしをしてきました。彼女は繊細で強がりな性格です。俺の立場で直接告白すれば怖がらせてしまうのでしょう。だから少しずつ距離を縮めていたんです。それについては口外しないでください」

善紀は冷ややかな瞳で言った。「それに、この3年間で凛音の面倒もしっかり見ましたよね?」

「もちろんです」宗厳はすぐに答えた。「善紀さんは結城家の跡取りです。凛音の主治医として付き添ってやっているなんて、あの子にはもったいないくらい、ありがたいお話ですよ」

善紀は鼻で笑い、否定はしなかった。

「それから、移植の専門医は手配しました」

宗厳の顔色がパッと明るくなった。「本当ですか?」

「ああ」善紀の目は海のように淀んだ。「凛音とは約束しました。2週間後に海外に行って、足の修復手術を受けさせると。そのついでに、凛音の心臓弁を結衣に移植するつもりです」

「ありがとうございます!」

宗厳は喜んだが、すぐに凛音も自分の娘であることを思い出し、不安げに聞いた。「しかし、そうなると凛音の方は……」

「ご安心を。凛音を死なせたりはしません」

善紀の言葉には揺るぎない自信がこもっていた。

「今の研究なら、機械弁で十分すぎるほど補えるので、それに、凛音の体調管理も完璧です。しかし、結衣はもう……時間がありません」

宗厳は数秒沈黙した後、ため息をついた。「俺は結衣に苦労をかけすぎたんです。彼女が治るのなら、他に何を捨ててもいいです」

善紀はふーんと流し、気怠げに言った。「九条家と月城家の縁談はどうなっているんですか?向こうから急かされているはずですよね?いっそ凛音を嫁がせればいいでしょう?足が不自由な女と、目が見えない男、お似合いのカップルだと思いません?」

「……」

その先の話は、もう凛音の耳に入ってこなかった。

ドアノブからそっと手を離した瞬間、全身の震えが止まらなくなった。

父親だと思っていた存在と、一番愛してくれていたと信じていた恋人……二人で示し合わせて、月城結衣(つきしろ ゆい)のために自分の心臓弁を奪おうとしているのだ。

結衣のその名が耳に飛び込んできた瞬間、凛音は手のひらに爪が食い込むほど、きつく拳を握りしめた。

愛人の子供に、なぜそこまで愛を注ぐのか?

そして善紀……

凛音は深呼吸して自分を落ち着かせ、スマホでその名を検索した。

ネット上には情報が少なかったが、結城グループの跡取りであることは確かだった。

結衣のためとはいえ、こんな大物が主治医にまで身をやつして私のそばにいたなんて、さぞかしご苦労なことだわ。

凛音は怒りで真っ赤になった目を閉じ、ドアを背にした。

ここには、1秒たりともいられない。

ホテルに逃げ込み、浴槽に身を浸して、なんとか自分を正気に戻した。

凛音はこの界隈でも誰もが認める華やかな美人だ。そしてその美貌に引けを取らないのが、わずかな恨みも決して忘れない容赦のない性格だった。

宗厳と善紀の二人が結衣を救い、あまつさえ自分を九条家へ嫁がせようと企んでいるというのなら――

思う存分叶えてあげる。

ただ、そう簡単にいくと思ったら大間違いよ。

凛音はベッドの端に座り、心に誓ってから一つの番号をダイヤルした。「史哉お爺様。以前おっしゃっていた孫さんとの結婚の件、お受けします。ですが、一つ条件があります」

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