(速水誠 視点)
「速水、最初に言っておく。おまえは兄貴の囲い者ではなくなったが、自由にすることはできない。この屋敷からは出ていってもらうが、青山組の管理下に置くことになった」
次期組長・青山清二の言葉に僕は思わず唇をかみしめた。屋敷を追い出される事は覚悟していた。
僕は組の面汚しであり、亡き組長の汚点のような存在。清一が病気で倒れた時から、自室を掃除して荷物もまとめ出ていく用意は済んでいた。
なのに、組の管理下に置くとはどういう事だ?
「僕は長く性奴隷として組長に仕えてきました。今の僕の年齢は二十歳です。父が残した借金以上の労働をこの体で払ったつもりです。なのに、まだ組の管理下に置かれるなんて納得できません。ーー説明を求めます」
「速水、やめるんだ!」
竜一が僕の言葉を制したが、黙るつもりはなかった。組長になる人にこんな生意気な態度を取っては、何をされるか分からない。もしかしたら、山に埋められるかもしれない。
でも、清二はニヤリと笑うだけで言葉を継いだ。
「性奴隷ってのはギャーギャーと騒がしいな。まあ、兄貴に抱かれてる時のおまえはーーもっと騒がしかったが。なあ、速水……おまえは青山組でただ飯を食らって育ってきた。兄貴に寄生して生きてきた。……組にこれだけ世話になっておいて、お礼の一言もなしか?」
「……感謝はしています。清一さんに囲われなかったら、違法風俗店でいろいろな男に尻を掘られて……性病にかかって死んでいたと思います。でも、もう僕の囲いはなくなりました。清二さんは僕の事が嫌いでしょ?どうしてそんな僕を……管理下に置こうとするのですか?」
僕の質問に答えたのは、清二ではなく竜一だった。
「速水、落ち着いて聞いてくれ」
「……竜一さん」
「警察はおまえを青山組の関係者とみなしている。おまえを野放しにすれば、必ず警察が接近してくるはずだ。もっと厄介なのは……青山組の内情を知ろうと、他の組の連中がおまえを拉致すること」
「そんなこと……」
「十分にあり得ることなんだ、速水。それは、組にとってもおまえにとってもマイナスだ。分かるだろ……おまえには俺たちの保護が必要だと」
僕は悔しくて唇を噛みしめる。
結局、僕は囲いを外されても、自分では飛び立てない弱い存在らしい。これからどう生きるか考え直さないといけない。
「……僕は青山組の内情なんて知らない」
「ああ、知らねえだろうな。だだの性奴隷に過ぎねぇんだからよ」
「清二叔父さん!」
「そう怒るな、竜一。まあ、俺の兄貴も悪い。男狂いなんてみっともねえマネしやがって。病床でも速水の名前を呼び続けていた……『誠、誠』って。どんなに呼んでも、薄情な性奴隷は一度も見舞いには行かなかったがな」
「……行けるわけないでしょ?正妻さんや竜一さん、竜二さんと、家族が勢揃いの中に僕が病室に入っていけると思います?まあ、最初から見舞いに行く気もなかったですけど」
僕がそう言うと青山清二は笑い出した。
「兄貴も報われねえな。清一のおまえへの執着ぶりが、異常だったことは認める。だが、何年も囲われていれば、愛情の一かけらぐらい湧いてもよさそうなものだがな……。まあいい。おい、竜一。ちょっと席を外せ。速水と二人きりにしろ」
「清二叔父さん、あとの説明は俺がします。もうこいつを連れて行ってもいいでしょ?」
「ーーいいからおまえは部屋を出ろ、竜一」
清二の言葉にも竜一はひかなかった。僕の肩を抱き寄せた竜一は、厳しい顔つきをする。その姿に清二は眉を寄せ口を開いた。
「青山組には、速水を毛嫌いしている組員がいる。そいつに欲望を抱くものも多い。囲いがなくなった性奴隷の使い道は、公衆便所ぐらいだろ。こいつが輪姦されねえように、俺が一肌脱いでやろうとしてるのにーー邪魔するのか、竜一」
「……っ!」
「速水、こっちに来て早く服を脱げ。俺が抱いてやる」
清二の言葉に僕は目を見開いた。
清二にとって僕はどうでもよい存在のはず。例え僕が輪姦されても彼にとってどうでもよいこと。なのにどうして、清二自ら僕を抱く必要がある?
意味が分からない。
「待ってください、叔父さん!こいつはもう性奴隷じゃありません。女の様な扱いはしないでください」
「うるせぇぞ、竜一。俺はな……男になんぞ興味はない。だが、病床の兄貴に『速水を守ってくれ』と頼まれたんだよ。くそ兄貴の遺言を俺にほごにしろって言うのか?相手は性奴隷だ。結局は、抱いて囲ってやるのが一番安全だろうが?」
「そんな必要はありません。もう速水は性奴隷じゃない!男に肌を晒す必要はない。叔父さんーー速水の処遇は俺に一任してくれる約束でしょ?」
清二は鼻で笑って応じた。
「おまえでは速水を守れねぇから……俺が抱くんだろうが。何も本気で囲う訳じゃない。速水がたまに俺の相手をすれば事は済む。たとえ性奴隷でも、次期組長のお気に入りなら、組員もこいつを輪姦しようとは思わねぇだろ」
「だからって速水を抱くなんて……そんな事は」
清二は竜一を無視して言葉を継ぐ。
「どうだ、速水?これからこの町で生活していくのはおまえだ。ーー身を守る武器は自分で手に入れろ」
清二は僕を本気で囲うつもりでない……その事が分かってほっとする。ならば、武器を手に入れるために、この身を削るのは当然の選択だろう。この土地でこれからも生きていくのならばーー武器は多い方がいい。
「ーー速水!?」
竜一の当惑の声が僕の心を揺らす。
でも、その声を無視して僕は青山清二に抱きついた。
清二は笑って僕を抱き寄せる。
「……速水はやはり性奴隷だな。矜持も誇りも何もない……ただの空っぽの人形だ。で、竜一は何時までこの部屋に居座るつもりだ?それとも、そこで俺たちが抱き合うのを見てるつもりか?俺はいいが速水はどうだ?」
ーーさすがにそれは勘弁してほしい。
僕は竜一の顔を見ないようにして口を開いた。
「僕は清二さんと楽しむから……竜一さんは出てってよ」
声が少し震えてしまった。
「速水、やめろ!ーーこんな事をする必要はない。俺が守るから。戻ってこい、速水!」
「僕はこの行為が必要だと判断しただけだよ。僕はもう自由に行動する。竜一さんの命令は要らない」
竜一に背を向けたまま、青山清二の牡に布の上から触れた。少しも勃起していない。清二がノンケだという話は本当らしい。
こんな状態で……僕を抱けるのだろうか?
僕を抱くと宣言した以上は、ちゃんと抱いてこの身を守ってもらう。僕は清二の耳元でささやいていた。
「ベッドに連れて行って、清二さん。……竜一さん、また後でね」
僕の言葉に竜一が力なくその場に座り込む。清二は軽々と僕を抱き上げると、寝室に向かって歩き出した。
やっぱり僕は……性奴隷からは抜け出せないらしい。
(速水 視点)まずい、まずい、まずい――。竜二が、ものすごく凶悪な顔をしている。もう“やくざ”どころじゃない……殺人鬼の顔だ。ま、まさか拳銃なんて持ってないよな?ここで警察と揉めて体検査されて、もし拳銃が出てきたら――竜二が銃刀法違反で捕まるなんて洒落にならない。ついこの前も「ムカデ男」の件で竜二を巻き込んだことを清二さんに怒られたばかりなのに……。ああ、本当にいつか清二さんに殺されるかもしれない。もしも目の前で「死ね」と命じられたら……泣くかもしれない。そんなことを考えた瞬間、涙がにじんでいた。「どうしました、速水さん?泣くことなどありません。もう襲われることはない。私があなたを守ります……大丈夫ですよ、速水さん。怖くない」「……署長さん。僕は怖くて泣いているわけじゃありません。子供じゃないんですから」「ですが、泣いている」「泣いているのは……自分の行為を恥じているからです。助けを求めた少年に、何も考えずレジカウンターの下に隠れるよう指示してしまった。そのせいで秋山はけがをしました。もし、彼が店を辞めることになったら……僕は耐えられない。だって……僕は秋山のことが大好きだから……」その言葉に、その場の全員が固まった。……いや、秋山。おまえまで固まるなよ。僕に「好き」と言われるのは、そんなに嫌か?まあ、そうだろう。だって彼女ができたらしいもんな。くそ……秋山。同じ“尻掘られ組”なのに、なぜ彼女ができる?そのコツを教えてくれ。
(竜二 視点)――まただ。“ムカデ男”の時と同じように、俺は躊躇して速水を危険に晒している。唇を強く噛みしめ、俺は花屋“かさぶらんか”へと全力で駆け出していた。刑事どもの動きは思った以上に鈍い。……指揮官不在ってとこか。俺はその脇をすり抜けるようにして、花屋“かさぶらんか”の店内に踏み込んだ。視線を素早く隅々へ走らせる。床には、茶髪のガキが倒れ込んでいる。そのガキを刑事二人が押さえ込み、手には剪定ばさみと万札が握られていた。レジカウンターの傍には秋山。手の甲から血を流しているが、傷は浅いようだ。そして――速水。壁に押し付けられるようにして、男に抱きしめられていた。その男は速水を胸に抱いたまま、床に転がるガキと刑事たちを“見守っている”ように見えた。だが違う。視線の奥にある関心は、ガキでも刑事でもない。あくまで――その腕に抱き込んだ速水ただ一人だと、俺は本能で理解した。速水の肩には男の右腕が絡みつき、震える腰には左腕が回されている。……こいつを俺は知っている。街をふらつき、独り歩きする変人署長。ノルマ以上に風俗店へガサ入れを仕掛け、未成年を扱う店を徹底的に潰そうとする男。――後藤一成警視。この街を管轄する西成東警察署の署長だ。だがな。おまえに速水を守る資格はねぇ。速水はひどく震えている。後藤署長に抱きしめられることに、恐怖を感じているんだ。
(竜二 視点)俺は、夕方から突然始まったガサ入れへの対応に追われていた。調べの結果、青山組が管理する風俗店が対象ではないことは分かったが、事態が落ち着くまでは事務所で待機するよう命じられていた。「竜二さん。やっぱり今回のガサ入れは、未成年のガキを扱ってる店でしたね。青山組とは関係のない、しょぼい組織が運営してましたけど……売上はなかなか良かったようですよ。未成年の男女を舞台に裸で立たせて、そのあと客が指名して生セックス、って形式の店みたいです」俺の生まれ育ったこの街は、西成東警察署の管轄にある。前署長の頃は、警察上層部からガサ入れのノルマが示されると、その情報が青山組に流されていた。青山組もまた、管轄署がノルマを達成できるように、都合のいい店を差し出して“協力”してきた。――つまりは、持ちつ持たれつの関係だったわけだ。だが、新しく後藤一成警視が署長に就任してからは、状況が一変した。ガサ入れ情報がまったく入らなくなり、事前の連絡すらない。蜜月の関係は唐突に断ち切られ、この街全体がぎくしゃくしはじめている――そんな不穏な空気を、肌で感じていた。「やっぱ、ガキを扱うと売り上げが跳ねるよな」俺がぼやくように呟くと、部下が渋い顔をしてこちらを見てきた。「竜二さん、今はマジで時期が悪いですよ。新しい署長が就任してから、警察はノルマ以上に風俗店のガサ入れしてるじゃないですか。特にガキを扱ってるところは集中砲火ですよ。……だから、手は出さないでくださいよ?」「本気で言ってるわけじゃねえ。叔父にも止められてるしな。……でも、管理してる店の店長が内緒でガキを扱うケースだってあるだろ? それをチェックするのがめんどくせぇんだよ」
(速水 視点)警察には、僕も青山組関係者の一人として名前が上がっている。清二さんが前にそう言っていたけど……本当なのだろうか。外扉は開いていたが、誰一人中に入ろうとしない。僕は思い切って扉の外へ出て、にっこり笑った。いつの間にか、五人の男が店先に集まっている。「花屋『かさぶらんか』へようこそ。オーナーの速水誠です。ご来店ありがとうございます。どのようなお花をご希望でしょうか?」「……速水誠さん?」「はい、そうです」僕の名を確認した男は表情を引き締め、真面目な声でゆっくりと口を開いた。「速水さん、営業中に申し訳ありません。私は西成東警察署の刑事・小林と申します。実は近くで風俗店のガサ入れをしておりまして……もちろん、“ガサ入れ”の意味はご存じですよね? その店で働いていた少年が逃げ出したんです。現在捜索中でして、店内に入り確認させていただきたいのですが……ご協力いただけますか?」――所轄がガサ入れを行う時は、いつも竜二から事前に警告があるはずなのに。今回に限って、何の情報もなかった。突然のガサ入れなのだろうか? ……うーん。さて、どうする……。この店自体がターゲットじゃないのは確かだが――。「うーん、“ガサ入れ”って言葉は刑事ドラマで聞いたことがあるので理解できます。確かに、店舗内に茶髪の少年が突然やってきて、『やくざに追われてる』と言うので、僕がレジカウンターの下に隠れるよう指示しました。&hell
(速水 視点)三原は“かさぶらんか”の店先で花に水をやりながら、突然僕に話しかけてきた。「なぁ速水。俺、思ったんだけどさ……そろそろ新規顧客の開拓してみねー?」「……三原、突然だな」「だってさぁ、今の“かさぶらんか”の顧客って青山組関係ばっかだろ? もしおまえが青山組と縁を切られたら、一気に客を失うことになるぜ?」「……確かに」返事に窮して、僕は言葉を濁した。三原の母親は清一の愛人だった。だが僕に剃刀入りの花束を送りつけたことで清一の怒りを買い、援助をすべて打ち切られた。そのうえ人身売買の斡旋業者にも見限られ、店の経営は一気に傾いた。そして母は借金だけを息子に残して世を去った。「まあ、そうだよね。青山組との縁が切れた時点で店の維持は難しい。……その時は、僕も三原も秋山も、三人そろって終わりかも」「……まじか」「だったら三人で夜逃げしようか?」「俺は速水と一緒に逃げてもいいけど……秋山は無理だろ。最近、彼女ができたらしいからな」「まじかっ!!」僕は思わず目を見開いて三原を凝視した。その視線に耐えきれなかったのか、三原はジョウロを置いてこちらに歩いてきた。「考えてみろよ。あいつの容姿と体格、女が放っとくわけないだろ?」「そんなぁ……秋山と僕は同じ&l
(清二 視点)速水の目から涙がぼとぼとと溢れる。その体は薄紅に染まり、甘い吐息を俺の首元で吐きだした。それだけで、俺はぞくぞくしてイキそうになる。「厄介だ……。お前は、全く厄介な奴だ。このままでは、兄弟で血みどろの争いになりかねん……くッ」「んんッ、はァ……もういって、清二さん。精液……頂戴」「はは、都合が悪くなれば"性奴隷"のふりか?」俺は再び速水をうつ伏せにしてその耳元で囁いた。「俺は、何時までお前を守れるか……わからん。組長の座を奪われたら……お前も奪われる」「清二さん……きて……ッ!」腰を一突きするだけで、速水はシーツに埋もれた。乱れた速水の髪が色っぽくて、俺のペニスが限界に達する。俺は一気に速水の最奥を貫いて精液を吐き出していた。とろとろと流れ出す白濁が速水を卑猥に穢す。「はぁ……はぁ……はぁ」「なか……いっぱい……。んんァ……」速水には秘密だがーー女の尻に突っ込むことに成功した後、確認のため男を抱いた。男の前でも勃起することに満足した。だが、実際に男を抱いてみると、速水とはまるで違っていた。緩いアナルに嵌められ喜ぶ男や、男を咥え泣いてよがってみせる男もいた。だが、どの男を抱いても――速水を抱いた時に覚える、あのぞくりとした“恐怖にも似た興奮”を味わう