(青山清二 視点)
寝室に入ると俺はベッドに速水に横たえ馬乗りになった。そして、気がかりだったことを速水に尋ねる。
「速水……竜一と寝たのか?」
「……はい??」
「寝たのかと聞いている。答えろ、速水!」
「それがセックスを意味するなら……寝ていません。僕は竜一さんとも、竜二さんとも、寝ていません。清い関係です」
「ーーはっ!性奴隷のくせに『清い関係』なんて言葉をよく口にできるな?……竜一はおまえに肩入れしすぎだ。竜二がおまえの体に興味を持っている事は把握していた。だが、竜一があれほどおまえに執着しているとは思わなかった」
俺の腕の中で居心地悪そうに身じろぎした速水はしばらく考える素振りを見せる。俺が答えを促すと渋々口を開いた。
「竜二さんが僕の体に興味があるかは分かりません。でも、二人が僕に親切なのは確かです。多分、彼らは僕に対して罪悪感を感じているのだと思う」
「罪悪感?」
「分かるでしょ、清二さん?あなたのお兄さんが僕を囲った時、僕はまだ子供だった。父親が息子より幼い子供を寝室に連れ込んで……あれこれしていたわけです。竜一さんや竜二さんにとって、僕は父親の囲われ者というより、犠牲者に見えたんじゃないかな……」
「……なるほど」
俺は妙に納得して言葉を漏らす。速水は気にする風もなく言葉を続けた。
「それに、あの当時の僕は清一さんにやられるたびに泣き喚いていたから……彼らは、いたたまれない気分だったんじゃないかな。ーーいっそ、僕のことなんて無視してくれたら良かったのに。性奴隷の仕事だと割り切ってくれたら良かった。でも、彼らは優しすぎた。特に、竜一さんは。彼は"やくざ"には向いていませんね」
俺は多弁に語る速水を見つめながら言葉を返す。
「確かに竜一はやくざには向いていないな。だが、金儲けの才がある。今の時代、金儲けができるやくざがいる組だけが生き残れる。その点、竜一は貴重だ」
「……竜二さんはどうですか?」
「あいつか?あいつはおやじに似て女好きだが、ここらの風俗店はあいつがほぼ仕切ってる。あいつは、なんでも器用にこなす上に、残虐な事にもためらいがない。あいつこそ、やくざ向きだろうな」
不意に速水が俺の下半身に触れてきた。
やはり性奴隷にはこんな話は退屈だったか。そう思っていると、速水が眉を潜めて口を尖らせる。
ーーなんだ、その表情は??
「清二さん、全く勃起していませんが男を抱けます?」
「そんなに抱かれたいのか?男の体が恋しいか?」
そんな俺の揶揄を、速水は表情を変えず受け止める。
「僕は囲いがなくなれば、この地を去るつもりでした。……性奴隷としての二十歳はもう年増だけど、一般的にはまだ若者の部類でしょ?僕はどこかの街で、清一さんに貢いでもらった貴金属を売って、そのお金で自分の店を開くつもりだったんです」
「自分の店だと?」
「そうです……自分の店です。それなのに、この街から出られなくなってしまった。この街での僕の評価はーーどこまでいっても性奴隷です。一度、性奴隷にされた人間は……男の体を欲しがる淫乱としての評価しかつかない」
俺は速水に馬乗りになるのをやめて、横にごろりと転がった。ベッドに転がると、ついあくびが出そうになる。
「まあ、そうだろうな。この街にとどまる限りーーおまえは男を欲しがる淫乱だ。だが、おまえはもうこの街で生きていくしかない。それは分かっているだろ?」
「理解はしましたが……心が納得しないだけです。ところで、清二さんが僕を抱くと言い出したのは、お兄さんの遺言うんぬんではなく、竜一さんや竜二さんに対するけん制でしょ?」
ーーこの男は思いの外鋭い。
「……意外と鋭いな、速水。おやじが男狂いで、息子まで男狂いになっては……兄貴の正妻が可哀想だろ?」
「ああ、なるほど。彼女のためですか。清一さんの正妻は、清二さんの初恋の人ですものね」
俺はぎょっとして速水の腕を掴んだ。
腕を掴んだ途端に、速水はぎくりと体を震わせる。そして、なんとも奇妙な表情を浮かべた。ーーまるで子供の様な怯えた表情でこちらを見てくる。
ただ腕を掴んだだけだというのに。
「……?」
「あ……その、清一さんから聞きました。清二さんの初恋の人が自分の妻だって。その、怒ってます?」
「驚いただけだ。怒ってはいないが……おまえ、俺が怖いのか?」
「そりゃ、怖いでしょ。青山組の次期組長ですから」
「そうじゃない。男が怖いのかと聞いている、速水」
そう聞いた途端、速水の表情が崩れた。速水はベッドのシーツに顔をうずめると小さな声で呟く。
「そりゃ、怖いに決まっているでしょ」
「なぜだ?」
「……痛いし、苦しいからですよ。あれを好きになれるのは、本当の男好きか……ただのマゾです」
どうやら演技ではなく、本当に男が怖いらしい。
兄貴が速水にひどい扱いをしていた事は知っている。だが、もう速水は二十歳だ。男の体にもとっくになれたと思っていた。ーーだが、そうでもないらしい。
それならば、どうして俺の提案に積極的にのった?
それほど、武器が欲しいのか……この街で生きていく為に。俺はため息をついて速水に提案した。
「俺は男に興味はない。おまえを抱く気もない。しばらくここで過ごして俺に抱かれたふりをしろ、速水」
その言葉を聞いた速水はベッドから顔を上げて、必死の形相で俺にしがみ付いてきた。
「それは駄目です、清二さん!ただの『ふり』では見破られる!色ごとに目鼻が聞く人間が存在します。『ふり』だとばれたら、僕はまた性奴隷として餌食になるだけだ。そんなのいやだ!」
「落ち着け、速水」
「清二さん、僕の事をたまに抱く……本物の愛人の一人に加えてくれませんか?僕に武器を与えてください。この街に縛ると決めたのがあなたなら……それくらいしてくれてもいいでしょ?」
速水の必死の言葉に目を細める。
兄貴の気まぐれで屋敷に連れてこられたガキは、二十歳になり大人になった。だが、その目はひどく不安定で幼い子供の様に彷徨っている。
強い意志と弱い意志が交互に現れ、彷徨い、一本の柱にはなれずに、今にも折れてしまいそうな状態だ。ーー調教の末にこんな人間を作り出した兄貴は、相当のサドだったようだ。
「分かった。抱いてやる……速水来い」
兄貴のお荷物を俺はまた背負い込む羽目になるのか。あんないい加減な兄貴を持った俺の不幸を、誰が慰めてくれるんだろうか……。
(速水 視点)まずい、まずい、まずい――。竜二が、ものすごく凶悪な顔をしている。もう“やくざ”どころじゃない……殺人鬼の顔だ。ま、まさか拳銃なんて持ってないよな?ここで警察と揉めて体検査されて、もし拳銃が出てきたら――竜二が銃刀法違反で捕まるなんて洒落にならない。ついこの前も「ムカデ男」の件で竜二を巻き込んだことを清二さんに怒られたばかりなのに……。ああ、本当にいつか清二さんに殺されるかもしれない。もしも目の前で「死ね」と命じられたら……泣くかもしれない。そんなことを考えた瞬間、涙がにじんでいた。「どうしました、速水さん?泣くことなどありません。もう襲われることはない。私があなたを守ります……大丈夫ですよ、速水さん。怖くない」「……署長さん。僕は怖くて泣いているわけじゃありません。子供じゃないんですから」「ですが、泣いている」「泣いているのは……自分の行為を恥じているからです。助けを求めた少年に、何も考えずレジカウンターの下に隠れるよう指示してしまった。そのせいで秋山はけがをしました。もし、彼が店を辞めることになったら……僕は耐えられない。だって……僕は秋山のことが大好きだから……」その言葉に、その場の全員が固まった。……いや、秋山。おまえまで固まるなよ。僕に「好き」と言われるのは、そんなに嫌か?まあ、そうだろう。だって彼女ができたらしいもんな。くそ……秋山。同じ“尻掘られ組”なのに、なぜ彼女ができる?そのコツを教えてくれ。
(竜二 視点)――まただ。“ムカデ男”の時と同じように、俺は躊躇して速水を危険に晒している。唇を強く噛みしめ、俺は花屋“かさぶらんか”へと全力で駆け出していた。刑事どもの動きは思った以上に鈍い。……指揮官不在ってとこか。俺はその脇をすり抜けるようにして、花屋“かさぶらんか”の店内に踏み込んだ。視線を素早く隅々へ走らせる。床には、茶髪のガキが倒れ込んでいる。そのガキを刑事二人が押さえ込み、手には剪定ばさみと万札が握られていた。レジカウンターの傍には秋山。手の甲から血を流しているが、傷は浅いようだ。そして――速水。壁に押し付けられるようにして、男に抱きしめられていた。その男は速水を胸に抱いたまま、床に転がるガキと刑事たちを“見守っている”ように見えた。だが違う。視線の奥にある関心は、ガキでも刑事でもない。あくまで――その腕に抱き込んだ速水ただ一人だと、俺は本能で理解した。速水の肩には男の右腕が絡みつき、震える腰には左腕が回されている。……こいつを俺は知っている。街をふらつき、独り歩きする変人署長。ノルマ以上に風俗店へガサ入れを仕掛け、未成年を扱う店を徹底的に潰そうとする男。――後藤一成警視。この街を管轄する西成東警察署の署長だ。だがな。おまえに速水を守る資格はねぇ。速水はひどく震えている。後藤署長に抱きしめられることに、恐怖を感じているんだ。
(竜二 視点)俺は、夕方から突然始まったガサ入れへの対応に追われていた。調べの結果、青山組が管理する風俗店が対象ではないことは分かったが、事態が落ち着くまでは事務所で待機するよう命じられていた。「竜二さん。やっぱり今回のガサ入れは、未成年のガキを扱ってる店でしたね。青山組とは関係のない、しょぼい組織が運営してましたけど……売上はなかなか良かったようですよ。未成年の男女を舞台に裸で立たせて、そのあと客が指名して生セックス、って形式の店みたいです」俺の生まれ育ったこの街は、西成東警察署の管轄にある。前署長の頃は、警察上層部からガサ入れのノルマが示されると、その情報が青山組に流されていた。青山組もまた、管轄署がノルマを達成できるように、都合のいい店を差し出して“協力”してきた。――つまりは、持ちつ持たれつの関係だったわけだ。だが、新しく後藤一成警視が署長に就任してからは、状況が一変した。ガサ入れ情報がまったく入らなくなり、事前の連絡すらない。蜜月の関係は唐突に断ち切られ、この街全体がぎくしゃくしはじめている――そんな不穏な空気を、肌で感じていた。「やっぱ、ガキを扱うと売り上げが跳ねるよな」俺がぼやくように呟くと、部下が渋い顔をしてこちらを見てきた。「竜二さん、今はマジで時期が悪いですよ。新しい署長が就任してから、警察はノルマ以上に風俗店のガサ入れしてるじゃないですか。特にガキを扱ってるところは集中砲火ですよ。……だから、手は出さないでくださいよ?」「本気で言ってるわけじゃねえ。叔父にも止められてるしな。……でも、管理してる店の店長が内緒でガキを扱うケースだってあるだろ? それをチェックするのがめんどくせぇんだよ」
(速水 視点)警察には、僕も青山組関係者の一人として名前が上がっている。清二さんが前にそう言っていたけど……本当なのだろうか。外扉は開いていたが、誰一人中に入ろうとしない。僕は思い切って扉の外へ出て、にっこり笑った。いつの間にか、五人の男が店先に集まっている。「花屋『かさぶらんか』へようこそ。オーナーの速水誠です。ご来店ありがとうございます。どのようなお花をご希望でしょうか?」「……速水誠さん?」「はい、そうです」僕の名を確認した男は表情を引き締め、真面目な声でゆっくりと口を開いた。「速水さん、営業中に申し訳ありません。私は西成東警察署の刑事・小林と申します。実は近くで風俗店のガサ入れをしておりまして……もちろん、“ガサ入れ”の意味はご存じですよね? その店で働いていた少年が逃げ出したんです。現在捜索中でして、店内に入り確認させていただきたいのですが……ご協力いただけますか?」――所轄がガサ入れを行う時は、いつも竜二から事前に警告があるはずなのに。今回に限って、何の情報もなかった。突然のガサ入れなのだろうか? ……うーん。さて、どうする……。この店自体がターゲットじゃないのは確かだが――。「うーん、“ガサ入れ”って言葉は刑事ドラマで聞いたことがあるので理解できます。確かに、店舗内に茶髪の少年が突然やってきて、『やくざに追われてる』と言うので、僕がレジカウンターの下に隠れるよう指示しました。&hell
(速水 視点)三原は“かさぶらんか”の店先で花に水をやりながら、突然僕に話しかけてきた。「なぁ速水。俺、思ったんだけどさ……そろそろ新規顧客の開拓してみねー?」「……三原、突然だな」「だってさぁ、今の“かさぶらんか”の顧客って青山組関係ばっかだろ? もしおまえが青山組と縁を切られたら、一気に客を失うことになるぜ?」「……確かに」返事に窮して、僕は言葉を濁した。三原の母親は清一の愛人だった。だが僕に剃刀入りの花束を送りつけたことで清一の怒りを買い、援助をすべて打ち切られた。そのうえ人身売買の斡旋業者にも見限られ、店の経営は一気に傾いた。そして母は借金だけを息子に残して世を去った。「まあ、そうだよね。青山組との縁が切れた時点で店の維持は難しい。……その時は、僕も三原も秋山も、三人そろって終わりかも」「……まじか」「だったら三人で夜逃げしようか?」「俺は速水と一緒に逃げてもいいけど……秋山は無理だろ。最近、彼女ができたらしいからな」「まじかっ!!」僕は思わず目を見開いて三原を凝視した。その視線に耐えきれなかったのか、三原はジョウロを置いてこちらに歩いてきた。「考えてみろよ。あいつの容姿と体格、女が放っとくわけないだろ?」「そんなぁ……秋山と僕は同じ&l
(清二 視点)速水の目から涙がぼとぼとと溢れる。その体は薄紅に染まり、甘い吐息を俺の首元で吐きだした。それだけで、俺はぞくぞくしてイキそうになる。「厄介だ……。お前は、全く厄介な奴だ。このままでは、兄弟で血みどろの争いになりかねん……くッ」「んんッ、はァ……もういって、清二さん。精液……頂戴」「はは、都合が悪くなれば"性奴隷"のふりか?」俺は再び速水をうつ伏せにしてその耳元で囁いた。「俺は、何時までお前を守れるか……わからん。組長の座を奪われたら……お前も奪われる」「清二さん……きて……ッ!」腰を一突きするだけで、速水はシーツに埋もれた。乱れた速水の髪が色っぽくて、俺のペニスが限界に達する。俺は一気に速水の最奥を貫いて精液を吐き出していた。とろとろと流れ出す白濁が速水を卑猥に穢す。「はぁ……はぁ……はぁ」「なか……いっぱい……。んんァ……」速水には秘密だがーー女の尻に突っ込むことに成功した後、確認のため男を抱いた。男の前でも勃起することに満足した。だが、実際に男を抱いてみると、速水とはまるで違っていた。緩いアナルに嵌められ喜ぶ男や、男を咥え泣いてよがってみせる男もいた。だが、どの男を抱いても――速水を抱いた時に覚える、あのぞくりとした“恐怖にも似た興奮”を味わう