登入月仁の笑顔は眩し過ぎて、時々目を覆いたくなる。超強力な光のシャワー。加えて真顔で甘い台詞を言うもんだから、こっちも感覚が麻痺してきた。「じゃ、じゃあ……今日も一緒にいる」「ああ。てか、嫌がっても俺が居座るけど」月仁は不思議そうに肩を竦める。俺にとって「ずっと」、っていうのは相当なバカップルだと思うんだけど、彼にとっては違うらしい。「俺は月仁といるだけで幸せだし……幸せ過ぎて罰があたるんじゃないか、って思うんだ」「相変わらず殊勝だな。せっかく脱優等生したんだから、中身ももっとはっちゃけろよ」はっちゃける……。彼の言葉に少し考えて、確かにそれもそうか、と頷いた。優等生を演じていたときと同様、中身も見た目に合わせていくべきだ。ただ、俺はまだ怖がってる。本当の自分を見せて、周りに失望されることに。他人の評価を気にしてることが分かったのか、月仁は俺の前に屈み、小さな声で囁いた。「ちなみに俺は、取り繕ってないお前を好きになったんだからな」「あ……」そういえば……物心ついた時から一緒にいたから、月仁は俺の全部を知ってる。弱いところも恥ずかしいところも、分かった上で俺のことを好きになってくれたんだ。そう思ったら、やっぱり有り難いし……嬉しくてたまらない。素の自分を受け入れてくれた彼は、唯一にして最大の誇り。そして、愛しい存在だ。「月仁! ……好きだ!」「唐突な告白だな。でも、ありがとう」一応周りに人がいないことを確認した上で、彼に好きをぶつけた。恥ずかしいし怖いけど、尋常じゃなく心が躍る。胸の辺りが温かくなる。好きな人に想いを伝えるって、こんなにも大事なことだったんだな。─────川音君と貴島君って、もう学校公認のカップルだよね。「って女子達に言われてるぞ。もう隠しても意味ないから、堂々とイチャつけば?」「いやいや……」昼休み。月仁と中庭のベンチで昼ご飯を食べてると、都波がニヤニヤしながらやってきた。俺はできれば卒業まで目立たず、大人しく過ごしたい。月仁とは一緒にいたいけど、俺らのことで周りが盛り上がるのは避けたかった。ところが月仁は違うようで。「それはいいかもな。周りに気を遣わずに、深白を可愛がれるってことだし」「つ……月仁君? 何言ってるのかな?」彼は表情こそ変えないものの、腑に落ちた様子で腕を組んだ。目立つのが
「あれって貴島君?」「誰抱えてんのかな?」「えっ……川音君じゃん!」やっっっばい。それはもう、史上最高に。この学校の伝説になりそうなほど、今の俺は注目されている。体育館に繋がる外廊下を歩いて、校舎に移動する。月仁は俺を抱え、平然と真ん中を歩いた。放課後なのは不幸中の幸いだけど……誇張ではなく、俺も月仁も学校では知られた存在。だから俺達を見つけた生徒は、皆興味津々で寄ってきた。「お。貴島、川音のこと捕獲できた?」現れるやいなや、都波も呆れた様子で腕を組んだ。隣にはクラスの女子達もいる。「できたみたいだな。でも今度は展開進み過ぎな気が」「まあまあ、都波君。無事くっついて良かったじゃん」「最近の二人、ほんと見ててムズムズしてたから良かった〜。スッキリした!」えっっ。どう反応するのが正解だろう。男が男を抱っこして現れたんだから、気持ち悪がるのが自然だろうに。彼らは落ち着き払い、むしろホッとしている。……っていうか、俺と月仁がひっついてんのが当然みたいな空気だ。よく分からないけど、とにかく誤魔化さないと。「いやいや……! 俺、外で転んで足挫いちゃってさ。立てなくて困ってたら月仁が運んでくれたん」「抱っこしようか。って俺が訊いたら、してくれって言ったんだよ」何て!!?フリーズした。聞き間違いかと思って見上げたけど、月仁は「な?」と笑顔で覗いていた。いやいや。な? じゃない!「えーっ! 川音君、貴島君に甘えてたの?」「わ〜! かわいい〜!」「ち、違うよ!」あらぬ誤解を受け、慌てて手を振る。しかし彼女達の熱は高まる一方で、全く落ち着く気配がない。あぁ、もう!「月仁、下ろせっ」「ん? ……今は大人しくしといた方がいいと思うけど」月仁はなにか言いつつも屈み、俺を下に下ろした。散々恥ずかしい姿を見られてしまったが、これでよし。自分の席に足早に向かい、鞄を取りに行った。すると都波が不思議そうに首を傾げて。「川音、足挫いてないじゃん」「あれ。じゃホントに貴島君に甘えてたんだ!」「ほあっ! ちっ違……っ!!」しまった。ここから逃げ出したい一心で墓穴を掘った。これじゃ何を言っても苦し紛れの言い訳に聞こえてしまう。月仁は別次元を見てるけど、絶対笑いを堪えてるし。く……っ。「もっもう帰る!! また明日!」「バイバーイ、川音君
ひそかに懸想した。胸の高鳴りを掻き消すように、月仁は告げる。「好きだ、深白。友達としてとか、幼馴染としてじゃなく。恋人として、お前の傍にいたい」触れ合ってる部分が熱い。とけそうだ。深白は月仁の告白に耳を傾けながら、止まらない涙を拭った。こんな月仁、初めて見た……。俺と同じ。今にも泣きそうだ。でも力強くて、優しい声をしている。月仁もずっと苦しくて、ひとりで堪えてたんだ。「俺も……俺も、月仁が好き。大好きだよ。もう、絶対離れたくない……!」何年も想い続けたひと。愛しくて大切なひと。やっと言えた。越えちゃいけない壁なのかもしれない。でも、俺達は同じタイミングで乗り越えた。薄暗い倉庫室で、わずかに射し込む光を頼りに。膝を立てて、月仁と唇を重ねた。必死だったせいか、恥ずかしい気持ちはあまりない。嬉しくて、背中に添えられた掌が温かかった。学校でなんてことしてんだ……とか。月仁も同性愛者だったんだ……とか。色んな考えが頭の中でぐるぐる回ったけど、大した力にはならなかった。想いが通じた。全てはそこに辿り着き、集約される。子どもみたいに泣きじゃくる俺を、月仁は何も言わずに抱き締めた。「大丈夫」と、おまじないのように。そういえば昔も泣く度に月仁に抱き締められ、襟をぬらしていた気がした。彼はもう忘れてそうだけど、今頃思い出して恥ずかしくなる。何度か深呼吸し、ゆっくりと月仁から離れた(何故か彼の膝に乗せられてるけど)。「ごめん。一回落ち着くわ」「別にいいって。つうか俺も……」「ん?」「過去最高に荒ぶってる」また息が当たりそうな距離。秘密を打ち明けるように、月仁は囁いた。「お前のこと、めちゃくちゃに甘やかしたい」「おま……っ」思わず顔を手で隠す。両想いになれたのは嬉しいけど、月仁はいきなり甘い台詞を吐き過ぎだ。それともこれが普通なんだろうか。俺はまだ、そういう台詞は言えないのに。彼は慣れきってるみたいだ。落ち着いてるのはいつものことだとしても、俺に拒絶されるかも、なんて不安は少しもなさそう。自信がある、とは違うか。やっぱり、俺を信頼してくれてるんだ。「深白。したいこと全部言って」「えっ?」「いっぱいあるんじゃないのか? 一緒に遊びに行ったり、お揃いのもの買ったり」頬に手が添えられる。それは温もりを確かめるように、俺
「何があったか言いなって。俺が力になるけど?」彼は地面に膝をつき、息が当たりそうなほど顔を近付けてきた。匂いのことも気になるけど、それ以上にこの空気はまずい、と思った。腰に手を当てられ、顎を掴まれている。まさか、同性愛者か。力が抜けて立てないものの、後ろに身を引いた。「ほ、本当に何でもないって」「強がんなって。そんな顔して言われても、むしろ逆効果だし」彼の手が、さらに下へと伸びる。こんな外で何かするわけない。そう思ってはいるけど、────どうしよう。「いやだ……っ」助けて。……月仁。瞼を伏せ、心の中で叫んだとき……彼の手が離れた。「……何してんだ?」「月仁……っ!」彼の腕を押さえ、俺から引き離したのは月仁だった。いつもと同じ無表情だけど、息を切らしている。走って来てくれたことはすぐに分かった。「いってえな! いきなり何すんだよ、ぶっ飛ばすぞ!」「かまわないけど、そしたら先生に来てもらうよ。殴ったことより、ヤニ臭い方を問い詰められると思うけど」月仁も気付いたようだ。バツが悪くなったのか、慌てて手を振り払い、少年は校舎の中へ去って行った。怖かったけど解放されて、また力が抜けてしまった。両手を地面について俯くと、目の前に月仁の靴が見えた。「深白」「月仁。さっきはマジでごめ……わっ!?」謝ろうとしたものの、突然視界が急上昇してパニックになる。有り得ないことに、月仁にお姫様だっこされていた。「ちょっとちょっと! 何だよ急に!」「暴れんなって。大人しくしてろ」月仁は静かに言うと、そのまま倉庫室に入っていった。一番奥まで向かい、棚の影に隠れる。ようやく下ろしてもらえたけど、大きな声を出してはいけない気がした。壁に背を預けながら、目の前に屈む月仁を見つめる。「大丈夫か? さっきの奴に何された」「あ……ううん、大丈夫。何かされる前に月仁が来てくれたから」少しはだけた襟元を押さえると、月仁は明らかに苦しそうな表情を浮かべた。「この学校は危険だらけだな」「あはは……たまたまだよ。何も心配ないって」「泣いてるのにか?」目元に月仁の指が触れる。教室にいた時はともかく、今はもう大丈夫だと思ったのに。……月仁の指と膝には、俺の頬を伝う雫が零れていた。嘘。そんな怖かったのか。っていうか……。月仁が助けに来てくれたことが、本
「何があったか言いなって。俺が力になる」彼は地面に膝をつき、息が当たりそうなほど顔を近付けてきた。匂いのことも気になるけど、それ以上にこの空気はまずい、と思った。腰に手を当てられ、顎を掴まれている。まさか、同性愛者か。力が抜けて立てないものの、後ろに身を引いた。「ほ、本当に何でもないって」「強がんなって。そんな顔して言われても、むしろ逆効果だし」彼の手が、さらに下へと伸びる。こんな外で何かするわけない。そう思ってはいるけど、────どうしよう。「いやだ……っ」助けて。……月仁。瞼を伏せ、心の中で叫んだとき……彼の手が離れた。「……何してんだ?」「月仁……っ!」彼の腕を押さえ、俺から引き離したのは月仁だった。いつもと同じ無表情だけど、息を切らしている。走って来てくれたことはすぐに分かった。「いってえな! いきなり何すんだよ、ぶっ飛ばすぞ!」「かまわないけど、そしたら先生に来てもらうよ。殴ったことより、ヤニ臭い方を問い詰められると思うけど」月仁も気付いたようだ。バツが悪くなったのか、慌てて手を振り払い、少年は校舎の中へ去って行った。怖かったけど解放されて、また力が抜けてしまった。両手を地面について俯くと、目の前に月仁の靴が見えた。「深白」「月仁。さっきはマジでごめ……わっ!?」謝ろうとしたものの、突然視界が急上昇してパニックになる。有り得ないことに、月仁にお姫様だっこされていた。「ちょっとちょっと! 何だよ急に!」「暴れんなって。大人しくしてろ」月仁は静かに言うと、そのまま倉庫室に入っていった。一番奥まで向かい、棚の影に隠れる。ようやく下ろしてもらえたけど、大きな声を出してはいけない気がした。壁に背を預けながら、目の前に屈む月仁を見つめる。「大丈夫か? さっきの奴に何された」「あ……ううん、大丈夫。何かされる前に月仁が来てくれたから」少しはだけた襟元を押さえると、月仁は明らかに苦しそうな表情を浮かべた。「この学校は危険だらけだな」「あはは……たまたまだよ。何も心配ないって」「泣いてるのにか?」目元に月仁の指が触れる。教室にいた時はともかく、今はもう大丈夫だと思ったのに。……月仁の指と膝には、俺の頬を伝う雫が零れていた。嘘。そんな怖かったのか。っていうか……。月仁が助けに来てくれたことが、本当に嬉
「そうなの?」「そう。つうかそろそろ自分が可愛いこと自覚しろ」か……っ!?不意討ちの台詞に顔が熱くなる。「可愛くはない! 強いて言うならかっこいい、だ」「じゃあそういうことにしとくか。とにかく、今のお前はただ立ってるだけで狙われやすい。かわ……かっこいいから」何か言い直された気がするけど。月仁は変わらず、真剣な表情をしていた。「でも今度は絶対、俺が守る。だから俺の傍から離れな」「自分のことは自分で守る! もうガキじゃないんだから、大丈夫だよ」だけど、どうしても我慢できずに月仁の言葉を遮ってしまった。俺は自分どころか、月仁のことを守りたいんだ。なのに彼に守られるなんてこと、あってはいけない。使命感のようなものに支配されて言い放ったけど、月仁の表情も険しくなる。さっきより確実に強い語調で返してきた。「お前の気持ちは尊重する。でも今は意地張ってるようにしか見えない。……いや、初めからずっと……お前は何かを怖がってる」「……!」月仁の鋭い眼差しを受け、言葉を失った。きっと、図星だからだ。そして、それを否定する言い訳すら浮かばない自分に落胆している。月仁はどんな時も俺の本心を見抜いている。それに気付いたらいたたまれなくて、息が苦しくなった。「怖がらなくて大丈夫だ。もう離れることなんてない。ずっと傍にいるから」そっと指が伸び、俺の前髪を撫でた。でも俺は臆病で、それすらビクッとしてしまった。月仁の驚いた顔が見えた時……彼を傷つけてしまったんだと分かり、さらに頭が真っ白になった。「ごめん……!」「おい、深白!」考えるより先に、足が動いていた。廊下へ出て走り去る深白を追いかける為、月仁も扉へ向かう。そこには都波が佇み、腕を組んでいた。「取り込み中ごめん。貴島って、意外と熱いんだな」「……」月仁は足を止め、一旦呼吸を整える。彼の言うとおり過去最高頭に血が上っていたが、努めて冷静に答えた。「別に。親友だから」「親友? 嘘だろ?」都波は目を丸くし、今度は前に身を乗り出した。しかしそれは彼だけでなく、教室にいた数人も同じ反応で。「嘘じゃないよ。……でも色々熱くなってたから白状する。親友っていうか、深白とは幼馴染」「幼馴染? 嘘だろ?」都波含め、全員が先ほどと全く同じリアクションをした。隠していたことは申し訳ないけど、やや