LOGIN女王アレーナを傀儡のように扱う宰相と言われる悪名高きグスタフ・エルグの息子、リオス・エルグ。彼は、妹シロノを溺愛している。妹の初恋は、王太子セシル。 はっきり言って、セシルは嫌いだ。無表情で人を見下しているように、周りとは何も話さない愛想のない奴。あんな奴は、嫌いだ。嫌いだが、妹が幸せになるならば、俺は、セシルの目をシロノに向けるために最大限の努力をしようじゃないか!! 誰だ!俺の可愛い、聡明で美しいシロノを悪役令嬢呼ばわりする奴は!! 妹溺愛お兄さんが、妹を正妃にするために、頑張るのに、どこかズレて何故かヒロインポジションに自分が入ってしまうお話です
View More興奮する群衆の熱気が俺たちを取り巻く。俺は、慣れないドレスを着て、群衆の前に囚われている。
妹シロノの身代わりになれるなら、本望だ。
誰かに頭を乱暴につかまれて、俺は、土下座するような姿勢を取らされる。
「我らが聖女、アスナ様。この魔女に正義の鉄槌を!」
冷たい剣先が俺の首筋に当たる。
会場は、アスナを指示する者の歓声と、思わぬ光景に怯える悲鳴で騒然となっている。これ、俺はもうだめかもしれない。俺は、最期を覚悟した。
◇ ◇ ◇
一年前。
王国には、美しい女王が君臨していた。
女王の名前は、アレーナ。 慈悲深く、人々の信望も厚いアレーナ女王。 その息子、王太子のセシルは十四歳になる。一年後の十五歳の誕生日には、正式に正妃となる人間を指名することが決まっている。
この俺、宰相グスタフ・エルグの息子リオスとしては、ぜひとも、可愛い双子の妹であるセシルを正妃につけたい。
決して、俺が将来出世するためではない。 できれば、政治なんて関わりたくない。俺自身の将来としては、適当に辺境の観光地で宿屋でもやりながら、のんびり暮らしたいというのが、本音だ。それに、どちらかと言えば、俺は、セシルは嫌いだ。 いつも済ました顔で、無愛想を絵に描いて、さらにそのまま立体化したようなあの男に、どうして可愛いシロノの結婚相手にしなければならないのか。本音を言えば、全く分からない。
だが、シロノは、セシルに十歳の頃からずっと恋をしている。
恋のきっかけなんて物は知らない。 だけれども、シロノがずっとセシルを目で追っているのを知っている。……妹の恋は叶えてやりたい。
……妹が幸せであってほしい。 妹が幸せになるならば、俺は、セシルの目をシロノに向けるために最大限の努力をしようじゃないか!! そう、心に決めた十三歳の俺は、聡明で美しい、優しくて完璧な妹シロノのために、出来得る限りあらゆる努力をすることを、ここに一人宣言した。 問題は、山積みだ。 まず、親父の宰相の評判が良くない。 人にも自分にも厳しい親父は、女王アレーナ様にも、遠慮なく意見する。 理路整然と自分の意見を言う親父を、「女王を傀儡としている」と、文句を言う奴も多い。 つまり、周りは敵だらけ。その息子と娘である俺達兄妹を、悪役令息と悪役令嬢と後ろ指さす奴も多い。見てろよ。このリオス・エルグが、絶対にそんなの覆してやる!
俺は、固い決意の元、セシルの通う寄宿制の学校に入学した。
それは、作戦の第一歩。俺がセシルと仲良くなって、妹シロノを知ってもらうため。さあ、ここからが、勝負だ!!
「そうか! 断ったか!」 嬉しそうなマキノ。 新学期が始まって寮室。俺達は、相変わらず雑魚で集まって話をしている。「いや、保留だって。一年、学園を卒業するまでじっくり考えたいって、お願いしたんだ」 だって、シロノの考えは、ぶっ飛びすぎて俺にはすぐに受け入れられなかった。「名前を入れ替えれば良いと思います」 シロノは、あの謁見でそう言った。アレーナ様や国民が『シロノ』が正妃だと納得して、セシルがリオスを妃に望むなら、リオスが『シロノ』になり、シロノが『リオス』となればいい……と。 本物のシロノは、父グスタフの後を継いで、『リオス』として政治の道を歩みたい、そして、俺とセシルを、見守りたいと。 アレーナ様もセシルも、名案だって喜んでいたけれど、そんなのすぐに受け入れられるわけがない。「ふうん。面白いじゃないですか。とりあえず、やってみたらとうですか?」 リンネが不穏なことを言う。「いいじゃん、何が問題なの?」 フランネが大笑いする。いや、問題だらけだろ?「だって、そんな嘘まみれな関係、良くないよ」「リオスとして一緒になれないなら嫌なんだ」 ツンツンとフランネが俺の頭をつつく。 だって、そうだろ? 父グスタフは、母を亡くなった後も一途に愛している。とてもシンプルだ。そういうシンプルな関係がいい。そういうのって、理想だろ? 結局断ったところで、この一年で育ってしまったセシルへの想いなんて物が、さめざめと俺の中でまだ泣いているが。そのうち癒えてくれるだろう「……そういえば、アスナがどうなったかは、ご存知ですか?」「どうなったの?」 俺は、アスナ達の命を救ってくれるように、セシルに頼んでおいた。行き過ぎた行為だったけれども、アスナも必死だったのだろう。 今後、シロノに危害を加えないことだけを約束してくれるなら、許してやってほしいと願いでた。「新学期も学園に通ってはきていますが……あれは、針のムシロでしょうね」「どうして?」「表向きは、正妃候補となったシロノさんに危害を加えたのですから、今度はアスナ達が悪役令嬢とその仲間として皆から噂され監視されて、白い目で見られます」 立場はすっかり逆転したということか。結局、学園に通うこと自体が、辛い刑罰となってしまっているのだろう。「同級生を魔女呼ばわりして、首まで刎ねようとしたんだぜ
「せっかく、二人まとめて来てくれたのに! 母上にいじめられて、辞退すると言い出したら、どうするんですか?」 は? セシル、今なんと? シロノと二人まとめてセシルに抱きしめられて、二人して目が点になる。「ですが、そんな欲張りな……」 おっとりしたアレーナ女王。息子セシルのぶっとんだ超理論にただただオロオロなされている。 それにしても……こんな間近でお話を許されるのは初めてだけど、ずいぶんおっとりした女王様だ。グスタフが、心配で放っておけない理由も分かる「リオス。幼い日の約束。思い出してくれたのだろう? やっと約束を果たせる! もちろん、受けてくれるのだろう?」 嬉しそうなセシル。だが、ちょっと待て、それでいいのか?「いやいやいや、そんな訳にはいかなでしょう? 正妃ですよ?」「そう。だから、残念ながら、リオスは、『正妃補』という立場になる」「正妃……ほ?」「そう。なんとか母上と話し合った得た妥協点だ」「ほ……」 目が点になる俺の横で「さすがはセシル様です!」と、シロノが拍手している。 いやいやいやいやいや、待て待て待て待て。 は? ほ? へ? え、どういうこと?「不満か? だったら、やっぱり母上を説得して正妃として正式に……」「いや、その前に、状況についていっていません」 セシル王太子は、俺が思っていたよりもさらに想像を超えて、実直に約束を守るタイプらしい。責任を取らねば! リオスを正妃にする方法を考えなければ! そう思い込んでいらっしゃったようだ。 側室を何人も持つこともある王室。愛人がいることも珍しくない。正妃補ってのも、アリなのか……な? いや、ちょっと、庶民と感覚がずれているのか、それとも、セシルが、温室育ちの世間知らずを少し引きずっているのか……。 てか、お花畑脳少年リオスが、お嫁さんにしてなんて、あんな異次元の発言をしたことが、全ての元凶か……。「シロノのことを、大切に思ってくださっているのでしょう?」 大事な事だ。ここが成立しなければ、なにも成らない。「もちろんだ。あの幼い日の以来ずっとシロノとリオスを気にかけていた」「だったら、普通にシロノを正妃に迎えるのが当たり前でしょう?」 それが全てがうまくいく最上の道なはずだ。 俺を無理に近似値正妃の座に据える意味が分からない。 そうだよ。俺が、最愛のシロ
あのとんでもない大騒ぎが起こったセシルの誕生日パーティーの後、エルグ家では悪宰相グスタフが、難問を前に頭を抱えていた。 頭を抱えるグスタフを挟んで、俺とシロノは終わりの見えない言い争いを続ける。 外には、正妃を女王アレーナ様に紹介するために、迎えの馬車が待っている。「ですから、わたくしが誓約をしたわけではございません!」「いやいやいや、俺の名前で登録したわけではないだろう? どう考えても、俺はシロノの代理。シロノの変装をしていたんだぞ? 周囲は少なくとも、シロノが正妃だと思っているだろう?」「しかし、セシル様は、お兄様とお分かりであのように誓約を結んだのでしょう?」「根本的に男が正妃ってありえないだろ!」 互いに譲らず、自分が選ばれたわけではないと主張する俺達。 ついにグスタフは、一つの結論に至った。「もういい! 分かった。お前ら二人とも行ってこい! そして要らない方を返品してもらってこい!」 ギャアギャア騒ぎ立てる俺達二人の首根っこをひっつかんで、二人とも迎えの馬車にグスタフが放り込む。御者に行けと宰相のグスタフが合図すれば、御者はそのまま王宮に俺達を連行していった。 馬車の中でも、俺達は言い争う。「でも、シロノはセシル様のことを好きなんだろう? 正妃になりたかったんだろう?」「セシル様を素晴らしい王太子だと言ったまでです! そもそも選ばれてもないものに、成れるわけがないでしょう? お兄様が選ばれたのですから、お兄様がおなりになればいいのです!」「俺は、名前を書いていない。立候補していないよ?」「わたくしだって、自分では名前は書いておりません」 シロノは全く譲らない。頑固だな。「あ……そうだよ。今からこの馬車から逃げれば良いんだよ」「ちょっと! お兄様! それはズルい!!」 俺は、入り口を開けようとするが、残念ながら扉はがっちり外から施錠されている。「大人しくお乗りになっていて下さい。グスタフ様から、『逃がすな。騒ぎの元凶をつくったのだから、きっちり落とし前をつけさせろ』と言われております」 御者がそう言って笑う。さすがは、一代で宰相にまで上り詰めた男、グスタフだ。俺程度のポンコツの考えくらいお見通しらしい。……打つ手なしだ。 王宮に着けば、シロノと二人、そのまま玉座の間へ、連行……案内される。 目の前には、この国
失った記憶を取り戻すには、ショック療法が効くとは、聞いたことある。 断罪、首を刎ねられる直前からの、セシルとの全国民公開キス。かなりの衝撃で、俺の記憶はすっかりつながった。 あの日のことだ。あの日、セシルを刺した時、うろたえる俺の頬を、メイド長が平手打ちして、その勢いで舟に俺は頭をぶつけたんだ。 気を失った俺は、その後で大きなベッドで目覚めた。セシルを刺してしまったショックで俺は呆然としていた。記憶は、もうその時には定かではなくて、何が起きたのかすら分かっていなかった。「大丈夫かな?」「目覚めているのに、お兄様返事してくれませんね?」 心配するシロノとセシルが俺の顔を覗き込む。「そうだ! 絵本で見た方法を試してみよう!」 セシルが、ベッドにのぼって俺に近づいてくる。 そう、俺が病弱すぎて世間知らずのお花畑少年だったのと同じように、セシルもまた王太子として究極に温室育ち。彼もまた、ちょっとお花畑脳だったようだ。 セシルの見た絵本。それは、『白雪姫』。王子様のキスは、目を覚ます効果があるものだと思い込んでいたのだろう。そして、セシルは王子。はい、何が起こったのかは、もう分かりますね。 いつまでも呆然としている俺にセシルがキスする。目の前で起きた事態にびっくりするシロノ。そりゃあ、自分で思い出せっていうよな。これは。「セシル様?」 あまりのことに驚く俺。さすがに、セシルの名前は覚えていたようだ。「良かった! 起きたんだな! 今、医官を呼んでいる」 俺が起きて喜ぶセシル。慌てて医官を呼ぼうと部屋を飛び出す、聡明なシロノ。「セシル様? 今キスして……。どうしましょう。俺、お嫁さんですか?」 そう、絵本では、キス=結婚なのだ。白雪姫も、シンデレラも、そうやって結婚していた。 病弱で一日のほぼ全てをベッドで過ごすことが多かった少年リオス君の世界は、絵本で完結していたのだ。「せ、責任は取る!」 セシル君? いいんだよ? そんなところで謎の責任感を発揮しないでも……。「わあ、じゃあシロノも一緒に!」 こらこら、リオス君? シロノをそんなのに巻き込んだら可哀想だろう? お花畑脳の少年二人は、自分たちが何を決めたのかすら正確に理解していなかった。 ただ、絵本の中の世界で完結していたセシルのリオスは、意気投合して国家の未来を揺るがす、謎の