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last update تاريخ النشر: 2025-10-22 06:51:38

 アレクは革命軍の同志を連れて、北の土地へと向かった。

 北は春が遅く、夜になれば未だ肌寒い。溶け残った雪が残る道を、彼らは進んだ。

 北の拠点となる町には、ガーランド王の手勢も多く配置されている。

 アレクは慎重に行動し、町の有力な商人と接触した。

 商人はガーランド王――正確には側妃とその一派――が制定した「王室穀物専売法」に苦しめられていた。

 この法律は国の主食である麦を、王家が指定した商人にのみ販売の許可を与えるというもの。

 北の商人は長年、穀物商を営んでいた。祖父の代から続く真面目な商売人で、周辺農家の信頼も厚い。

 それなのに悪法のせいで商売を取り上げられ、苦境にあえいでいた。

 新しく指定された穀物商はあくどい人物で、農家から麦を買い叩いて私服を肥やしている。

 北の商人は農家の窮状に心を痛めながらも、何もできない自分に落胆していた。

「あんな法律、間違っている! 重税で麦の大半を取られ、残り少ない麦をも買い叩かれる。農民の皆さんに飢え死にしろと言って

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  • 悠久の魔女は王子に恋して一夜を捧げ禁忌の子を宿す   133:大地の想い

    ※ここからは番外編です。 大地の魔女テラは、魔女として目覚めてから今年で千年を迎える。 大いなる還元の時を間近に控えて、テラは丘の上に立っていた。 ざあっ――と風が吹けば、長い黒髪が揺れる。 眼下に広がるのは、広大な草原。どこまでも続く大地の向こうは、地平線となっている。 肉体の目で見えずとも、彼女は知っている。この大地は海に至るまで続いて、海で隔てられながらも、この星を覆いながら別の大陸へと続いているのだと。(長い、長い年月だった) 彼女は思う。 テラの属性である大地は、数多くの生命を育むもの。 それだけに魔女の中でもとりわけ力が強く、多くの弟子を育ててきた。 テラに今さら未練はない。ただ、大地に還るその時を心待ちにしているだけだ。 たった一つの心残りを挙げるならば、二年前に自らの手で追放した若い弟子、深緑の魔女エリアーリアのことだった。 森と森の生命を司る魔女だったエリアーリアは、大地の属性を持つテラと関わりが深い。 魔女に目覚めてほどなく、テラが迎えに行った時のことはよく覚えている。 魔女の力を暴走させて、エリアーリアは困り果てていた。両親と別れたくないと言い、悲しみながら手紙を書いていた。(あの子は、心優しい子なのだ) 優しさは時に、魔女にとって致命的な毒となる。 テラの懸念は当たってしまった。 エリアーリアは人間の男に情をかけて、あろうことか子を宿した。 此岸の未練を断ち切って、彼岸へ至るのが魔女の掟。 その使命を忘れ、還元への道を捨てたエリアーリアは、追放以外の道は残されていなかった。 だが、とテラは思う。 魔女の古文書に記された、人と心身を重ねる禁術は、はるか昔から存在するもの。 魔女たちはこの魔法の存在を破棄せずに、ずっと守り続けていた。 テラ自身もそうだ。他ならぬ彼女が、弟子であるエリアーリアにこの魔法を伝えた。 であれば、罪の一端はテラにもある。そして、既に還って自然と化した先達の魔女全てにも。「そう考えれば、未練の毒も、そんなに悪いものではないのかもしれぬな……」 魔女は人として生まれ、ある時目覚めて人ならぬ身となる。 なぜ人なのか。なぜ他の生き物や自然の物ではなく、人という命なのか。 それは恐らく、人こそが自然から最も離れつつある命だからだと、テラは思っている。 魔術や技術を高めて

  • 悠久の魔女は王子に恋して一夜を捧げ禁忌の子を宿す   132

     その悠久の時の流れを、エリアーリアは静かに見つめていた。 彼女の心はもはや孤独ではない。エリアーリアの中ではアレクと過ごした輝かしい日々の記憶が、決して色褪せることなく生き続けている。彼の笑顔、声、温もり。その全てが、彼女の永遠を支える糧となっていた。◇ アレクの死から六百年後。 アストレア王国は遠い歴史のものとなり、今は覚えている者は少ない。 かつての王都はありふれた町の一つに変わって、今でも人々の生活の場となっていた。 その町の片隅に、苔むした遺跡がある。 そこはアレクの眠る墓所だった。 墓碑は朽ちて、緑の苔が全体を覆っている。 その遺跡が何であるか覚えている者はもういないけれど、一つの古い伝説だけが人々の心に根付いていた。 それは、「年に一度、初夏の季節に金色の髪の美しい女性が現れ、花を供える」というもの。 女性が誰なのか、何のために花を供えるのか、知る人は誰もいない。 ただ、その美しい光景に出くわした人が、心を打たれて語り継いでいる。◇「今年もまた会いに来たわ、アレク」 よく晴れた初夏の日、変わらぬ姿のエリアーリアはアレクの墓所を訪れていた。 彼女は苔むした墓石の前に跪くと、手に持っていた花をそっと捧げた。 捧げる花は、年によって違う。ある年は思い出の月光花。またある時は、名も無い森の野の花。 その時に最も美しいと思った花を、エリアーリアは供えてきた。「人々の記憶からあなたの名は消えても、私の心の中では、今も鮮やかに輝いている……。私の愛した、ただ一人の人。私の、陽炎の王」 千年を生きる魔女にとって、人の一生は陽炎(かげろう)のように儚い。 しかしアレクはその短い生涯の中で、圧政を打ち破って国を復興させ、民に愛された。エリアーリアという伴侶を得て双子たちの父となった。 まさに夏の日の陽炎のように眩しく輝いたのだ。 エリアーリアは空を見上げる。この季節はいつだって、愛

  • 悠久の魔女は王子に恋して一夜を捧げ禁忌の子を宿す   131

     アルトが弔辞を読み終えると、聖堂は大きな拍手に包まれた。偉大な王への感謝と、新しい王への期待が入り混じった、力強い音だった。(アルト。立派になったわ。あの南の辺境で暮らしていた頃の小さな姿が、嘘のよう……) エリアーリアは父の跡を継ぎ、王としての一歩を踏み出した息子の姿を、誇らしげに見つめていた。◇ そうして数日が経ち、葬儀の全てが終わった後で。 エリアーリアは彼女の私室に、アルトとシルフィを呼び出した。「アルト、シルフィ。葬儀、お疲れ様でした。二人とも立派になって、私もアレクも誇らしく思います」 エリアーリアの微笑みに、二人は何かを予感したらしい。 続けて言われた母の言葉に、驚く様子はなかった。「私は今夜、この国を去ります。私の役目は終わりました。これからは、あなたたちの時代です。遠くから見守っていますからね」 王妃としての数十年で、様々な知恵の種が撒かれていた。 王立薬草院は今や大きな施設となって、何十人もの職員が働き、毎年新しい薬草師を生み出している。 治水の知識は体系化され、書物にまとめられて、誰もが学ぶことができる。 アルトとシルフィが作った靴の事業は、今でも人々の足を支える重要な産業だ。「母上、本当に行ってしまわれるのですか……」「お母さまの教えは、忘れません。子どもたちにも教えて、受け継いでいきます」 それぞれに寂しさを隠せないアルトとシルフィに、エリアーリアは微笑みかける。「二人とも、ありがとう。あなたたちは、いつまでも私の大事な宝物よ」 悲しむ子どもたちを抱きしめて、それから彼女は部屋を出た。 見上げた空は、満月。いつかの遠い日に、アレクと見上げた月。 エリアーリアの姿は、人知れず夜の闇に溶けて消えていった。◇ その後のアストレア王国はアルト王の賢明な治世の下、黄金時代を迎えた。

  • 悠久の魔女は王子に恋して一夜を捧げ禁忌の子を宿す   130:悠久の愛

     王都の大聖堂は、静かな悲しみに包まれていた。 アストレア王国を偉大な繁栄へと導いた大王アレクの棺が、中央に安置されている。参列しているのは貴族、各国の使節、そして彼を慕う多くの民衆たち。 折しも初夏の空は晴れ渡って、その清冽な青色は、大王の瞳の色を思い起こさせた。 エリアーリアとシルフィが黒い喪服に身を包んで、静かにその様子を見守っている。 やがて父の跡を継ぎ新王となったアルトが、ゆっくりと前に進み出た。その青い瞳は、父と同じ夏空の色。 彼は父の棺に一度深く頭を下げると、手に持った弔辞を読み上げ始めた。明瞭ながらも威厳のある声が、聖堂の中に響いていく。「父上。偉大なるアストレアの大王、夏空の王アレク。今、あなたの息子として、そして、この国の新しい王として、最後の言葉を捧げます」「あなたが玉座に就く前、この国が深い闇と悲しみに覆われていたことを、私たちは忘れません。あなたは、圧政に苦しむ民の声を聞き、正義の旗を掲げた。土地を失った者に畑を返し、飢える者に食料を与えて、国の隅々にまであなたの慈愛は満ちていました。あなたが流した汗と、時に流した涙が、この国の礎を、もう一度築き上げてくれたのです」「だが私が何よりも敬愛するのは、王としてのアレクではなく、父としてのアレクです」「父は、私に剣の道を教えてくれました。ですがそれ以上に、剣を振るうことの重さと、剣を収めることの勇気を教えてくれました。彼は、最後まで兄の罪を憎みながらも、その命を奪うことはありませんでした。その慈悲の心が、この国の新しい時代の礎となったのです」「そして父は、生涯ただ一人の女性を愛し抜きました。その愛の深さが、彼の力の源泉であったことを、私は知っています」「父は、一度は全てを失い、絶望の闇に沈みました。しかし彼は立ち上がった。光なき水路の底から、彼は再び天を見上げたのです。父が私たちに遺してくれた最大の遺産は、豊かな国や城ではありません。どんな絶望の中にも必ず希望はあるという、その不屈の魂そのものです」「父上、安らかにお眠りください。あなたの愛した母上は、私がシルフィが、必ずお守りします。そしてあなたが築いたこの国を、

  • 悠久の魔女は王子に恋して一夜を捧げ禁忌の子を宿す   129:限りある時

     それから数十年の年月が流れた。 王宮の寝室には、年老いたアレクが横たわっている。彼の銀の髪は色が抜けて、既に白髪へと変わっていた。 アレクは長年の善政により、民に「大王」と称えられる身。 それでも老いには抗えず、最近はベッドから起き上がるのも難しくなり、眠る時間が増えた。 久方ぶりに意識を取り戻したアレクは、自らの死期を悟って家族を呼び寄せたのだった。 国王の寝室には、立派な壮年の男となった王太子アルトと、女公爵の務めを果たしているシルフィがいる。 彼らはもうずいぶん前に伴侶を得て、たくさんの子宝に恵まれていた。孫たちも祖父の寝台の周りを囲んで、悲しそうな視線を注いでいる。 彼らの傍らに立つエリアーリアだけが、昔と何一つ変わらない。金の髪は美しく輝き、肌は白磁のように滑らかだった。 深緑の目だけが深さを増して、愛する人を見つめている。 部屋は静かな悲しみに満ちているが、彼女の表情は穏やかだった。『ならば俺が君の記憶に残る、最高の人生を生きてみせる。君が千年経っても退屈しないくらい、幸せな記憶で君の心をいっぱいにしてみせる。君が愛した人間の王として、一人の男として、歴史に名を刻む。だから俺が生きる、陽炎のような――この短い時間だけでいい。俺の隣にいてほしい』 いつかの時に彼が言った言葉が、胸に蘇る。 だから彼女は、愛する人の命の灯火が静かに消えゆくのを、覚悟を持って見守っている。後悔はない。アレクは約束を守ってくれた。エリアーリアの心は幸せな記憶で満ちあふれていたのだから。 アレクは集まった家族一人一人に、老い衰えながらも確かな声で言葉をかける。孫たちの頭を撫で、シルフィの涙を拭い、アルトには最後の言葉を託した。「アルト……良き王になれ。民の声を、決して忘れるな……」「はい、父上」 次代の王として、アルトは悲しみをこらえて威厳を保とうとしている。 アレクは次にシルフィを見た。「シルフィ……。お前は、母様を頼む…&

  • 悠久の魔女は王子に恋して一夜を捧げ禁忌の子を宿す   128

    「歩きやすい。すごい」 早速履いてみたシルフィが、歩き心地に感動している。「これを履いたら、元の靴に戻れそうもないや」 アルトも笑顔だ。 職人たちも満足そうにしていた。「それじゃあ、靴の売出し計画を作ろう。本来ならば貴族を優先させるのだろうが、これは人々のための靴。身分にかかわらず売るものとする」「王子殿下。それでは平民と同列に並べられた貴族たちが、不満を抱きかねません」 職人の一人が不安そうに言うので、アルトは首を振った。「そうだろうな。だが俺は、貴族がこの靴を独占するのを望まない。父上だって同じ意見だろう。ただし貴族の面子を立てるため、仕様を変える」「というと?」「平民用にはシンプルに、この靴の利点を最大限に生かせるように、安価な路線を。貴族向けには趣向を凝らして、革に刻印を押したり着色をしたり、一人ひとりのサイズに合わせたりなど、高級路線とする。これならば貴族の不満を抑えながら、平民に流通もできるはずだ」「なるほど! それであれば、できそうです!」◇ 数カ月後、王都で売りに出された新しい靴は、爆発的な人気を博した。 長い距離を歩く旅人はもちろんのこと、町を行き交う町民もこぞってこの靴を買い求める。性能の割に安価で、しかも王子殿下のお墨付きなのだ。 貴族たちに向けては、豪華に飾り立てた靴を作った。華やかな見た目の靴は貴族たちの虚栄心を大いに満たし、それでいて靴の機能性は変わらないので、彼らもすっかり靴の虜になった。 作れば作るほど売れる有り様で、靴事業は大きな利益を上げる。 職人や魔法使いの雇用や弾力の木の収穫、植林や森の管理まで含めて、波及した経済効果も大きかった。 王都の景気は大いに賑わって、失業者の吸収もできた。 この国だけではなく外国への輸出も盛んになり、外貨獲得にも一役買ったのである。 その年の暮れになると、アルトとシルフィは事業で得た莫大な利益を金貨として積み上げて、父であるアレクの前に差し出した。「父上。これ

  • 悠久の魔女は王子に恋して一夜を捧げ禁忌の子を宿す   24:成就

     やがて彼らが大人になる頃、事件が起きた。 流行り病にかかり、王妃が亡くなったのだ。 愛する王妃を亡くした王は気落ちが激しく、同じ病にかかってあっさりと命を落としてしまった。予想外の早すぎる死だった。 王太子はアレクがなる予定だった。成人を間近に控えていたので、成人を迎えると同時に正式に立太子する予定だったのだ。 ところがガーランドは、アレクが正式な王太子になっていないことを指摘して、自分こそが王位を継ぐべきだと言い出した。『私は第一王子。年長の者こそが王位を継ぐべきである』 大臣以下、主だった重臣たちは

    last updateآخر تحديث : 2026-03-19
  • 悠久の魔女は王子に恋して一夜を捧げ禁忌の子を宿す   22:愛の儀式

     決意を固めたエリアーリアは、儀式の準備を始めた。 小屋の中央の空間を清めて、魔法陣を描く。触媒は銀のインク。月光花のエキスを集めたものだ。 貴重な浄化のハーブを暖炉にくべると、甘く物悲しい香りが立ち上った。 エリアーリアの迷いのない動きは、古代の巫女が踊る神聖な舞のよう。立ち込める甘い香りの中、ふわり、ふわりと一つの動作を終えるたび、部屋の中の魔力が濃くなっていく。 小さく歌われる儀式の歌は、古い魔女の言葉。灯されるのは、特別な薬草を練り込んだろうそく。 窓から差し込む月の光が、銀の魔法陣を淡く輝くように照らしていた。

    last updateآخر تحديث : 2026-03-19
  • 悠久の魔女は王子に恋して一夜を捧げ禁忌の子を宿す   25:成就2

     それからの記憶は曖昧になっている。 アレクは夜通し歩き、夜が明けても歩いて、魔女が住まう深緑の森までたどり着いた。 森に敷かれているはずの結界は、魂喰いの呪いが魔力を食うことで弱まり、彼を森の中へと通した。 そうして歩き続けたアレクは、ある樫の木の根本で力尽きて、意識を失った――。◇ アレクの魂が、声ならぬ声で叫んでいる。(信じていたのに。話し合って、手を取り合っていけると思っていたのに。……兄上! もう誰も信じられない!) エリアーリ

    last updateآخر تحديث : 2026-03-19
  • 悠久の魔女は王子に恋して一夜を捧げ禁忌の子を宿す   26:置き手紙

     深緑の森の小屋は、静かな朝の光に満たされていた。 穏やかな寝息を立てて眠るアレクを、エリアーリアはしばらくの間眺めていたが、やがて立ち上がった。(彼には帰るべき場所がある。民を、国を救うという果たすべき使命がある。禁忌を犯し、魔女の理から外れた私が隣にいれば、彼の未来を汚してしまう……) 愛しているからこそ、彼の道を妨げてはならない。人として生きる道に、エリアーリアは寄り添えない。 彼女は自らの心を殺して、彼のもとを去る決意を固めた。◇ エリアーリ

    last updateآخر تحديث : 2026-03-19
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